トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第70話 戦車とナイトとお姫様

「チクショウ、探していたお姫様が戦車三台相手に肝の据わった爆走かよ。ってこの間も見たなこの景色?」

 

 水曜日の神技が行われた森で、ガーネットが出航した宝船を目指して数多のクランのひしめく戦場を駆けて横断したことをナイトは思い出す。

 思えばその時も彼女はまだ慣れない恐れや悲哀をどこか胸の奥に抱えながらも、反面、己の中で一度固く意を決した時には大きな推進力を得たように、危険な渦中へと向かいその鉄車を走らせて突き進んでいく──そんな向こう見ずなタイプでもあった。

 

「よーしなら昨日のようにもう一度、腹を括って出るしかないぞナイト」

 

 彼女が必死に戦い走る姿を見ていると、自称古参のナイトの心にも突き動かされるものがある。様子を窺っていたそこから、彼が前へと動き出す決断を固めることは容易であった。

 ナイトは近くに横転していた豆腐屋の自転車を起こす。そして前カゴに騎士の盾を置き、ジオラマの市街地を猛スピードで自転車を漕ぎ走り出した。

 

「おーいこっちだ、そこのクソダサノースリーブの戦車オタク! この誉れある騎士様の盾を未だにまったく抜けねぇってことは、この俺、古参ナイトの方がテメェのママが投げ売り価格で買ってくれたワゴンセールの戦車部隊よりずっと強いってことだなァ? ほら見ろこの俺様の盾は砲弾の雨のなか傷ひとつ付いてねぇぞぉー!」

 

 市街地を抜けた小高い丘の頂上付近で自転車を止めたナイトが饒舌に叫び語るのは、敵の司令官が乗り込む一等大きな戦車への挑発の言葉。

 

「なんだアイツどこから出てきた新型かッ! ええいっ、ちょこまかと的が小さくて当たらないッ! チィっ……。──ア、なんだと!? なにが古参ナイトだ、このなろう野郎! そんなちんけな豆腐屋の自転車に乗って現れる誉れ高いナイトがいてたまるか! ……いいだろう腐った豆腐の如き軟派なナイトがッ、私の愛機【メル・ザ・メル】の魔導カノン砲で今すぐそんな時代遅れの鉄板ごと破壊し尽くしてくれるわ!」

 

 林の中へと走り紛れた素速い謎の鉄車を見失ったムゥー大佐は、遠くの丘から好き勝手にでたらめを叫んでいたナイトの挑発を買い、そう言った。

 

 キャタピラの駆動音が走る地を均していく。やがて目標に対しての直進をやめた機体から、折りたたんでいた大佐ご自慢のカノン砲が、その長い砲身を斜め上に突き上げるように伸ばした。

 そしてメル・ザ・メルの砲口から火を吹き、よく狙い澄ました魔弾が、緑の丘に構え立つ場違いで時代遅れな一人の騎士を目指して今発射された。

 

「よーく狙って来い……ってやっぱ無理ぃーー!」

 

 盾を構えていたナイトは命が惜しくなったのか、空を削るように近づく砲弾の音に情けなく慌てふためき、やがて着弾した爆風に背を押され丘を無様に転げ落ちていく。

 

「ははは、口ほどにもない雑兵め!」

 

 やはり騎士ごっこの小心者の男如きが、大佐の乗りこなす魔導戦車に敵うはずがない。ナイトの掲げるトタン屋根のように薄い騎士道精神など、この傑作機メル・ザ・メルの前では虚しくも紙屑のように蹂躙されるのが必然の運命であった。

 

 しかしナイトの行ったその挑発行為は、驕るその戦車マニアのプライドを刺激し満たし心酔させ、三台の戦車の隊列を乱すには十分であった。

 

 ムゥー大佐の乗る派手な金色の戦車が突出し離れた今が好機。敵が隙を見せたその時を見計らい、林の中からガーネットはその姿を威勢よく現した。

 

 疾走する小さな鉄車は、二台の銀色の戦車から遅れて放たれた砲弾の雨を置き去りにするスピードでくぐりぬけていく。

 

 そして向けてくる煙をあげる戦車の長鼻を左右に翻弄し──

 

「そこっ!」

 

 【03】という数字のデカールが貼られた銀色の戦車の横腹へと撃ち込んだ柘榴色の弾丸。そのたった一粒の煌めきの種が、途中──まるで散弾銃のように花開き分かれた。そして赤い足のような巨大な形を成し、奇怪にも銀色の装甲の側面へと強烈な横蹴りを叩き込んだ。

 直撃をもらった戦車【03】がまるで指で弾き出されたおはじきのように、プラスチックの平地を空回りするキャタピラで白く削りとり、遠くへ大きくスピンしていく。

 

「分かったわ……やっぱりこのギフトを的に命中させるほどに、導線がなくても視える魔力の繋がりは強くなる……。この威力ならっ……こっちよ! 私のことを捕まえてみなさい!」

 

「調子に乗るなよッ、すばしっこいだけの祭りの金魚が! 捕まえて穴だらけにしてくれるっ!」

 

 戦車【02】の放った機銃の乱射を華麗に車椅子をターンさせ躱す。戦車の硬い装甲への攻略の糸口を見つけたガーネットはもう一度態勢を立て直し、挫けずに再度のアタックを試みていく。

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