トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
横滑りに激しくスピンしていた銀色の戦車が、野球場の近くの電信柱に衝突し、今ようやく止まった。
「被弾ッ、なんだ今のは!? まさか蹴られたぁ!? 一体どこにそんな質量の兵装が……」
「やられたッ、あの車椅子女なんなんだ一体! タンク相手に仕掛けて来るなんて敵ながらアッパ……どうかしてるぞ! ──ん?」
「なんだこのラッパ音……?」
戦車03の被弾状況を確認する三人の兵士たち。すると、どこか懐かしいシンプルなラッパ音が近くで鳴っていることに彼らは気づいた。
情けなく敗走したふりをしていたナイトが、なんと再びあの豆腐屋の自転車に乗って現れていた。そして吹き飛ばされて止まっていた戦車03にこっそりと近づいたナイトは、既に車体へと向かい小型の何かを仕掛け撒いていた。
「おいしいおいしい豆腐じゃないよ、食らえ俺の【騎士道精神】! ──へへっ。今仕掛けたそいつは時限式の爆弾だぜぇ、騎士様からのギフトとお情けだ、外すならお早めにぃー!」
片手にバット、前カゴに謎の球。そんな自転車に跨ったナイトは口から間抜けなラッパ音を吹かし、挑発するように乗組員の彼らにお知らせをする。
「ってきたねぇ!? 何が騎士道精神だ! おい、変な魔力が車体の側面と裏に幾つか張り付いている、間違いない……。大佐の大事な戦車をここで失うわけにはいかねぇ、よし解除しに行くぞ」
戦車のレーダー役の魔力を分担し扱っていた兵士の一人が、たしかに何かが車体の外側に吸着し仕掛けられていることを確認する。そして迷いなく、仕掛けられた吸着爆弾の解除に向かう指示を皆に出した。
「おい待てっ、正気かよ爆弾だぞ? 爆発するんだぞ? 普通に解除じゃなくて退避じゃ……」
「馬鹿野郎、ここまで俺たちの代わりに頑張ってくれた愛機を早々に見捨てる主人公がいるか!」
「いいから工具を持てって、にわかさん」
「おっ、おう……? 主人公?」
どうやら玄人の二人とにわかの男の間には、機体に取り付けられた爆弾に対する意識と熱意に違いがあるようだ。すぐさま上部のハッチを開き、プラスチックモデルの制作工具を手にした彼らは戦車の外へと繰り出していく。
そして急ぎ仕掛けられた爆弾の解除に、真剣な眼差しをして向かった三人の男たちだったが──。
「なんだこれ、ただの金平糖じゃねぇか! 畜生よくも騙してくれたな」
兵士の一人が恐る恐るゴム手袋で手に取った小さな爆弾は、ただの溶けてひっついていた金平糖の粒であった。
「よし、あの騎士の風上にも置けない薄汚い愉快犯を追いかけて、ケツに砲弾を喰らわせてやれ!」
嘲笑うように手を振りまた自転車を漕ぎながら、野球場のグラウンドの方へと逃げていく珍妙な騎士の姿が、欺かれた三人の目に映る。
「おうっ、──痛てっ?」
爆弾のギフトなど大嘘、そんな物はありはしない。
急ぎ戦車の中へと戻り、最後にハッチを閉めた兵の頭を何かが打った。戦車の内部へと白黒の謎の球体が転がっていく。
『おいこらー、高性能ヤマーダになにするー。そこの新入りの二等兵も肩をぶつけたのなら、まずはあやまれー、パロパロー』
謎の球体は格納していた小さな耳をぱたぱたと動かし、床の上を蠢いて何か不遜な物言いの機械音声を発している。
「なんだこのポンコツ! 喋ったぞ!? しかも肩なんてねぇだろうがよ、黙れ生首!」
『痛いイタイっ、こらっ女子をぞんざいに叩きつけるなー、一生モテなくなる呪いをかけてやるーパロパロー』
「あぁ!? んだとッこいつ調子にッ」
マイペースに口答えしては、怒った兵士に床に投げ叩きつけられて、戦車内を跳ね回る球体。
「何ってそれはただの玩具のパロじゃねぇか。迷い込んできたのか? おい、かわいそうだろそれ以上叩きつけてやるな」
『おぉー、女心を分かるやつもいたもんだー、よぉおとこまえ歯は磨いたかー、パロッ』
「ははは、なんだこいつよく喋るな。かわい、ん? なんかこのパロ……妙に光って……」
投げて虐めていたにわかの兵士には、その白黒のマスコットが一体なんだか分からなかったようだ。見かねた別の兵士が、跳ね回っていた可哀想な球体玩具のパロを胸の中に捕まえて受け止めた。
随分と馴れ馴れしくもよく喋るパロだったが、その様子がなんだかおかしいことに玄人の兵士たちは気づいた。
『これからお前ら全員、PON!菓子だぜぇー?』
電光表示の愛らしいパロの表情が、突如、悪魔のような笑みに変わり不穏に明滅を繰り返す。真っ直ぐに立てた小さな機械の耳の裏側からこぼれてきたのは耳くそではない。色鮮やかに発光する金平糖がじゃらじゃらと、パロの腹の隙間から音を立てて流れ落ちていく。
ただの金平糖ではない。魔力を含んだ金平糖がじわりじわりと、その独特な角の形状を溶かし光量を熱く増していく。
「た、退避ぃわーっ!? ────」
内部から幾多の衝撃が弾けた。上蓋は天へと吹き飛び、銀色の塗装を塗りつぶす勢いでカラフルな魔光が戦車を呑み込み包んでいく。パロと共に送られた甘い悪戯の爆弾が、戦車03の内部で容赦なく起爆した。
「戦車の一台や二台、コインを弾くより簡単だぜ? ひゅー!」
手元に不思議と現れた銀色のコインを指で弾き、急停止させた自転車のカゴへと放り込む。
グラウンドに吹き抜ける心地よい風を浴びながら、沈黙の煙を上げる鉄の棺桶を眺める。蒸し暑い鉄兜のバイザーを上げたナイトが、不敵に歯を見せて笑った。
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ナイト(34)
ギフト【
守るべき対象が近くにいる時に発動する報酬タイプのギフト?
誰かを守る行動を取る度に、〝
そして身の回りのあらゆる小物が、魔力と手に入れた〝忠誠メダル〟を消費することで、身を守るための不思議なお役立ちアイテムと化す。
彼が信頼を置く「金平糖手榴弾(忠誠メダル5枚分)」もその一つだ。そのお手軽な甘い爆弾はナイトの振るう剣よりも威力は数段高いらしい、ひゅー!
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