トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
「鉄の馬車がひとつ止まったの……? いや、あれは……ナイトの魔力だわ! でも、どうしてここに?」
遠方で起こった戦車を呑み込む色鮮やかな爆発花火。それがナイトの仕業であると、ガーネットは冴えた己の直感と戦場に派手に爆ぜ流れてきた魔力の波動から悟った。
硬い装甲の二台の戦車を相手にヒット&アウェイの戦法を駆使し挑んでいたガーネット。彼女は疾走していた平地からやがて市街地の中へと突入した。そしてアスファルトの路の上を移動しながら見つけた八百屋の模型の前で、一旦身を隠し、息を整えた。──ちょうどその時だった。
疲れた色の息をつく彼女の膝の上に、丸くて軽い何かが突然『ぽすん』と音を立てて落ちてきた。
「──!? な、なにっ?」
一瞬自分の元へと砲弾が飛んできたものだと、ひやりと体をびくつかせて驚いたガーネットだったが、今彼女が目を落とすと──その膝の上に収まっていたのは、煤に汚れた玩具のパロだった。
『どうもー、しゃくれのナイトに人間爆弾にして捨てられた高性能ヤマーダだー。この高貴な膝枕は時給いくらだー? ちょっくら魔力補給のお休み二時間コースでたのむー、がんばったから耳掃除してくれてもいいぞー』
ガーネットはおそるおそるも取り出したハンカチで、その球体についた痛々しい汚れをさっと拭った。輝きを取り戻した電光表示の表情が、涙目ながらに点滅しながらウインクをする。
「……何を言っているのこの子? 悪いけど今は集中させて!」
『ありゃごめん、空気を読むから捨てるなー。──おっ、右の路地に敵のタンクが来るぞー、もうすぐ鼻をだすー』
「タンク? 分かるの?」
『見た目はパロ、頭脳はパロダだから今は分かるー』
「ならタイミングは? おしえてっ!」
『3秒後だー、にー、いちー……ひゅー!』
「今っ!」
パロダの演算通りのタイミングで、路地からぬっと姿を現した戦車02。その砲身が火を噴く0.5秒前──ガーネットが伸ばしたしなやかな指先から、煌めき、撃ち放たれた一発の赤い宝石の弾丸。ジャイロ回転しながら直進した赤い弾丸は、吸い込まれるように向けられていた長鼻の先へと飛び込んだ。
砲身内部で炸裂した弾丸が、戦車の主砲を撃つタイミングと完璧に重なり合った。砕けた赤い宝石の宿した妖しい魔力と、砲弾に仕込まれていた魔力は反発し合い──プラスチックの筒の中で一気に爆ぜた。
針の穴を通すようなギフトによる精密射撃。出会い頭の一撃で沈黙した戦車02は、プラスチックの砲身を花のように無惨に咲かせて、天に煙を上げながら停止した。
『ドンピシャお見事ー。細かい裁縫はお得意かー? イカしたいいスカート履いてんねー、うちのコスプレクラン【cosmos】は、いつでもおまえを歓迎するー』
「……コスプレ? 裁縫ならコットンの方が得意よ。そのスカートも縫ってもらったわ。こらっ、そんなに跳ねないで」
さりげなく自分の所属するコスプレ業を生業とするクランの宣伝をしつつ、パロダがガーネットの膝の上で喜んだ様子で跳ね続ける。
「なんだ彼氏自慢かー、パロパロー、おたくもちょっとは喜べー」
おちゃらける球体玩具のパロダが見上げるガーネットの表情は、喜びや自信というよりは、まだ驚きの色の方が濃く映っているように思えた。
「違うわ。でも、面白くて悪そうで……そうっ根は良い人よ」
『彼氏じゃなくて、でも面白くて悪そうで根は良いやつー……? あーそれならパロダも似たやつを知っているー。おまけでだいぶ嘘つきだけどー。おかげでもう14機は死んだー、ヤマダの残機はのこり19だー気をつけろー』
「嘘つき? ざんき? あなたのギフトか何か……? ──気になるけど追々ねっ! まだ金色の馬車がいるはず! ナイトも接触して戦っているかもしれないわ!」
すぐ近くの道路に曲射された砲弾が落ち、爆ぜた。
戦車02を撃破したガーネットは、備え付けのベルトで落ちないように固定したパロダを膝上に置いたまま、車椅子を急発進させた。
『ひみつの恋バナはあとあとー、このまま女子二人でやっちまおうぜー。しゃくれのナイトには荷が重いー』
「ええッ!」
車椅子の二輪のマジックホイールが唸り、荒れてきた市街地の風を切る。互いに共闘関係を結んだガーネットとパロダの二人は、敵勢力の司令官であるムゥー大佐の操るメル・ザ・メルの撃破を目指して、再びジオラマの戦場を駆け抜けた。