トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
氷属性の冷たい魔力が空間に与えた影響か、ジオラマの戦場に、スノードームのように真っ白な雪が降り注いできた。
「させるかァ! 破壊! 破壊ィッ!」
戦意を再び上げたムゥー大佐が、戦車の砲身を車椅子で疾走するガーネットへと向ける。しかし、左に散開するも無視されていたナイトが、隙を見て戦車へと近づき仕掛けた。
「そらよっ! 【シールドバッシュート】!」
特殊機巧を持つ自作の盾に、ナイトは獲得していた忠誠メダルを2枚装填した。そして盾からワイヤーを勢いよく射出し、砲身へと巻きつける。絡ませたワイヤーごと力任せに引っ張ることで砲角をわずかに横へと逸らした。
ガーネットを狙い放たれた砲弾はナイトの入れた横槍により外れてしまう。
「ええい邪魔だっ!」
「うおわっ!?」
外したことに苛立ちを見せたムゥー大佐が、メル・ザ・メルの砲身を操縦し振り回す。地に根を張るように立ち、ワイヤーを掴んでいたナイトの体が宙へと振り回されていく。
「蜘蛛男じゃねぇんだぞ、この野郎ッ!」
ナイトは宙にぶら下がりながらも片手に取った剣を車体へと叩きつけた。だが、剣は戦車の装甲に弾かれ歯が立たず折れてしまった。
「なにぃーー!? ちくしょう俺はナイトじゃねぇのかよっ、どうにでもなりやがれ!」
ナイトがダメ元で突き刺さんとした折れた剣は、戦車の正面装甲のプラスチックパーツの繋ぎ目に、なんとぐさりと深く突き刺さった。
「──おっ? ヲワッ!?」
嘘のようにすっと刃が通った手応えに自分でも驚いたナイトであったが、手荒い運転を続けた黄金の戦車から、ついにその身を振り落とされてしまった。
「大した傷ではないっ……チィっ、またちょこまかと! そんな不格好な乗り物で私の周りをうろつくな! 矮小な存在がァ!」
ナイトが捨て身の行動で時間を稼いでいた間にも、ガーネットが着実にパーツの隙間を狙い、赤い宝石の弾丸を何発も撃ち込んでいく。
愛機に傷を付けられて苛立ちを募らせるムゥー大佐は、必死に車椅子のガーネットを追いかけようと、戦車のキャタピラを雪の原にうるさく駆動させていく。
「たとえ小さな力でもっ! 大きなものにヒビを入れることはできます!」
「歯に詰まったカスのような奴が! できない戯言を!」
機銃の雨を潜り抜け、無謀な肉薄を仕掛けてきた車椅子に乗るその金髪の女を潰さんと、ムゥー大佐は振り上げていた主砲の砲身を地へと乱暴に叩きつけた。
激しい白が散っていく。雪原を蹴散らした長鼻の砲の質量。
しかし揺らぐ戦車内のモニターに映っていたのは──乱れる金髪を白く染めた、青い双眸の戦士の姿だった。
「ナ……!?」
ガーネットは砲身に巻きつけ千切れていた一本の細いワイヤーを掴んだ。そして結晶化させた手の内の宝石をワイヤーと繋げたグリップ代わりにし、そこから彼女は己の魔力を流していった。
一本のワイヤーを通して目一杯に流された魔力。戦車のあらゆるパーツの隙間に放った幾多の宝石と、ガーネットの魔力が今、次々と発光しリンクする。
『いけー、必殺のオーラ蹴りだぁー! パロパロー!』
埋もれていた雪の中から、突如顔を出した球体の玩具が飛び跳ねた。そんなパロダの威勢のいい煽りを受けて、ガーネットの手中に眠る赤い宝石が眩く力強く煌めいた。
撃ち込んだ全ての魔力が複雑に巣を張るように繋がり、黄金の戦車の装甲を貫く術は既に整った。流れ始めたその多大な魔力の奔流はもう抑えきれない。【
堅牢な戦車を内側から破壊する一蹴一撃。巨大な足の形を成す必殺技が、戦車のハッチの上蓋を勢いよく蹴破った。搭乗していた四名の兵と、ノースリーブの軍服の司令官も悲鳴を上げながら、赤い魔力の奔流に抗えず天へと弾き出されていく。
「破れない殻はありません! このギフトならば……!」
灼けるように熱い手の内、宝石はまだ輝いている。青い双眸に凝らし宿した厚い魔力のフィルターに、確かに勝利の光景は描かれている。
積もる雪が綿菓子のように溶けていく。成長の殻を破り続けるガーネット・フローザ、彼女の瞳は、真っ赤に熱く燃え続けて────。