トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
「さっきの剣はもしかして……俺の実力か? ……まぁいいか? それよりだな、このナイトも足手纏いにはならない渋い活躍ができたのは良かったんだが……。ちと育ちすぎじゃね、あのお姫様?」
ナイトは己の活躍を振り返る。だが、一番はやはりガーネットだ。昨日の神技で見た彼女よりも、今日の彼女は一段と強さを増していた。どちらが騎士役か分からないほどに、自分より巨大かつ強大な戦車三台を相手に物怖じしない獅子奮迅の活躍であった。
機能停止し沈黙した大型戦車メル・ザ・メルは、塗装された金色のメッキを溶かしゆくように灰色に色褪せてゆく。煌めく勝利の赤い雨が、白い雪に紛れて降り注ぐ。
「おーーいっ、姫さん、派手に上手くいっ──!?」
敵の沈黙を確認したナイトが大きく手を振り、大声を響かせながらガーネットたちの元へと駆け寄る。
その時だった──大地が激しく震えたのは。
『まだだ……まだ終わらせるものかァーーッ!! 夢幻戦車メル・ザ・メルが! ジオラマの外でも実用化の暁には! 先生がもっと……もっともっとぉおッ、あの大きな手でッ、ムゥーの頭を撫でてくれるのだァーーっ!! アハハハ……ハハハハハハハハ』
雪原が、放出されるただならぬ魔力の熱にドロドロと溶けていく。
額から血を流し、半壊した戦車の上に立ち狂い叫ぶのは、ムゥー大佐。彼はまだ倒れてはいなかった。なんという執念たる魔力か、滲み出る妖しげなオーラが機体全体を覆っていく。
装甲にこびりついた赤い結晶をどす黒く濁らせ染め上げていく。プラスチックの軋む音を響かせながら、無理なビルドアップを繰り返し、禍々しくも巨大化していく異様な戦車。いや、もはやそれは人間の想像しうる戦車の
「巨大化!? 嘘だろおい! 戦車がこれ以上大きくなりやがるのは……描くにしてもリアルじゃねぇぞ!」
「何故、あそこまで……もう勝負は……あの魔力じゃいずれコントロールできずに自滅するわっ……」
まだ残っていた魔力のフィルターから巨大な影へと目を凝らす。戦車の上に立つムゥー大佐の常軌を逸した執念に戸惑いながらも、ガーネットには分かった。
その禍々しい力はもう、その人間の持つべきキャパシティをとうに超えていることに。そのような無理に殻を破る己のギフトの範疇を超えた力を行使し続ければ、行く末は破滅、それ以外にない。
ギフトが暴走し踏み倒したデメリットは、いずれ必ずなんらかの形で返ってくる。灼けた左の手のひらに一瞬目を落としたガーネットは、やはりそう思わざるを得なかった。
『ちがうちがうコスプレで飯食うパロダには分かるー、これはきっとプライドを砕くまでの戦いだぁー。腐臭ただようこのイヤな感じの魔力っ、そんな同族の道を踏み外した姿にそっくりだー。この場合っ躊躇は逆に毒だぞーおしゃんのガーネットー。てかなんとかしてくれー、パロダを爆弾にする案以外でー』
パロダはガーネットの膝の上で落ち着きなく飛び跳ねながら、そう独自の視点からの見解を述べた。勝敗よりも、理屈よりも、ルール破りの邪魔なプライドが優先されることも時にあることを、コスプレ業を生業にしてきた彼女はどこか知っているようだ。
「偏愛もここまで来ると、まるで肥大化した
湿った顎をさすったナイトは、やがて天を見上げ指をさした。さっきのガーネットの間欠泉のように噴き上がった一蹴一撃が、どうやらこのギフト空間の天まで届き穴を空けていたようだ。
ひび割れた天が、隙間風のような奇妙な風音を唸り上げている。このまま逃げてタイムリミットまでやりすごす、穴とヒビを広げ脱出を図る、この状況からは色々なプランが考えられる。
「肥大化したプライドを……なら」
だが、熟考の末にガーネットはその後ろ向きなどれもを選ばなかった。
「……徹底的にやります! 示現……」
ガーネットの目つきが変わる。顔から戸惑いの色は失せ、彼女は集中をする。
そしてカードを切るように掲げた一枚の花札。その小さな枠内に描かれた小さな絵の世界。
赤い袴の人物が通るのは雨の道、樹上にぶら下がっていた柘榴の実がぐらぐらと風に揺れ落ちていく。へこんだ道の水たまりが、落ちた果実の色合いを搾り出すように、真っ赤に深く染まっていく。
赤い水面に見えたのは──。
「その名が欲しければ、出てきなさいっ──【ジュエルフィッシュ】!!」
花札から飛び出した【ジュエルフィッシュ】。冠のように燦然と、車椅子の玉座に座る彼女の頭上に浮かび上がるそれは、〝
数多の宝石をあしらった海月の姿となり、今、ガーネットの中から示現した。鍛え、理解し、選び取った──深化を果たした真のギフトの姿。
ガーネット・フローザ、彼女が道を彷徨いながらも正しいと深く信じた力の結集が、輝かしく華を開く。青い双眸は色濃く燃え上がる。母に見た宝石のガーネットのように、赤く美しく灯った気高きその瞳を以てして、覚悟を決めた表情で今、目の前に聳え立つ巨大化した邪悪な魔力の塊を迷いなく睨みつけた。