トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
第二ラウンドの戦いは、化け物が地を這う盛大なゴングとともに始まった。
パーティー会場を縦横無尽に暴れ回る、翼のない漆黒の巨大竜。魔物のアースサーペントを遥かに凌駕する大きさのその竜は、一人の小さな冒険者に向かい容赦のない突進と破壊行動を開始し、赤い雷の魔力を撒き散らした。
パーティー会場を根こそぎミニチュアの模型のように蹂躙する黒竜の猛威を、マントを華麗に揺らし避け続ける冒険者アキト。
アキトは避けるだけではなく隙を見て幾多の属性カードを乱れ撃つように投げつけるも、その黒竜は大して効いた様子もなく、巨体と尾を揺らす進撃の勢いはなおも止まらなかった。
物という物が巨竜の腹に押し潰されて、呆気なく壊れる音を立てる。荒れ果てた末に、やがて濁る煙の立ち込めてきた空間で、ターゲットを一時見失った黒竜は長い尻尾を鞭のように振るった。
すると、その風を裂いた黒鞭の尾が、煙に紛れ仕掛けようと飛び出した人影を素速く捉えた。だが人影を激しく鞭打ったその瞬間──引き裂かれた影から突然、青い綿が盛大に飛び散った。
「魔力を当てにするより、視力検査もした方がいい、フフ」
伸ばした尾に返った予想外の軽い手応えに、驚愕に目を剥くその竜の耳元で、黒髪の冒険者はそう冷たく囁く。
あの瞬間、尻尾による鋭い攻撃が煙の中より出てきたアキトの身を確かに捉えたかに見えた。だがそれは、冒険者の衣装を着せたただの身代わり。コットンのギフトを事前に拝借していたアキトが仕掛けた、雷電の魔力で動く綿人形のデコイだった。
気配と魔力を消し、いつの間にか労せず竜の背に忍び乗っていたアキト。彼は突き立てていたレイピアを、眼下に見える黒い鱗と鱗の間、太いうなじを狙い一気に下ろした。
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だが、その必殺の細剣が竜の肉を貫くことはなかった。巨大で硬質な山壁に阻まれるような感覚が、一瞬、アキトの両手に痺れ返ってくる。剥がれた一枚の黒い鱗と、欠けた刃の残骸が彼の眼前の宙を虚しく舞っていく。
首をぐるりと後ろに向けた化け物の面が、大きな大きなその黄色い眼を三日月に歪ませ細める。背に乗った手品の尽きた道化師を、巨竜は低く喉を唸らせ、嗤って見つめていた────。