トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
絶大なる力を持つ巨大な竜に対し、己が無力と知りながらも、何かしたいと行動に移る者たちがいた。
皆を鼓舞するその青く勇ましいリーダーに、武器を貸し与えることを志願し託すのは、後方に控えていた団員たちだった。
「愛剣だ。怯えて錆びついてしまう前に、俺の代わりにぶった斬ってくれタイキ!」
「ハヤト、タイキくんにこのこを持ってって!」
「おうよっ! 任せろまかせろ!」
「あぁっ!」
快速を飛ばすハヤトに運ばれた団員たちの武器を借りて、たとえ壊れても壊れても、聳え立つ黒い鱗に向かい砕ける刃を打ち込みつづけるタイキ。
「ドラハハ……馬鹿が必死に無駄なことを! 下位互換のギフト持ちの貴様の攻撃なぞ、全然痒くもないわドラハハハ」
タイキが必死でアタックをつづけるも竜の鱗は傷つかない。ツツミにとっては、同じ雷属性系のギフトであり、ましてやパワーの劣る青い雷なぞやはり脅威の内ではなかった。
(アキトさんがつけた傷がある。だったら、破れない鎧じゃないんだ!)
それでもタイキの目が捉えていたのは、黒い竜鱗にわずかに見えた小さな綻び。巨大な竜の腕やうなじについた、アキトの残した戦いの証だった。それがタイキには攻略の糸口のように思えてならなかった。嘲笑う竜の言葉は聞き入れず、不屈の心で団員たちの武器を打ち込みつづけた。
竜に喰らい付いていたのはタイキだけではない、何度はたき落とされても前線で果敢に戦うアトラ、そして的確に隙を埋める援護爆撃をつづけるリンクスもいた。
「くらえ【チャクラムステップ】!」
そして乱戦の中、恐れながらも隙を見て竜の横腹を蹴ったのは、ハヤト。チエミからもらった光輪のギフトを装備した右足を振り抜き、頑丈な竜の腹をわずかに揺らした。
「ふぃー……。おいチエミ、朗報だ! やっぱりこうして武器にすると威力が上がってんぜお前の輪っかのギフト。さっきよりも手応えある一発をかましてきたぜ、はぁはぁ……!」
多量の冷や汗をかきながらも、竜に蹴りをお見舞いし再び地に舞い戻ったハヤトは、そうチエミにギフトの使用感を報告した。
「それならさっさとタイキに届けなさいっての! おためしの実験台はもういいからねっ! お疲れお疲れ!」
チエミもなんとなく自分のギフトの
「ははは、そらそうだっ! そらよっハヤト宅急便だ、タイキっ受け取れ!」
俊足を活かしギフトと武器を届ける。ハヤトが最後に投げ渡したのは、一本の重厚な槍だった。その柄にはチエミから受け取った光輪が幾重にも巻きつき浮かび、破格の魔力を一つの武器に外付けすることに成功していた。
受け取った槍の重み、そして仲間の想い。今まで以上の期待感に満ちた魔力が槍を握った瞬間に、タイキの全身に伝った。
「──やるっ……!」
槍が貫く光輪がひとりでに回転し出し、バチバチと音を鳴らし放電する。竜を屠ることを心に誓い、全身全霊の魔力をタイキはその最高の槍に込めた。
竜は後ろで持て余していた尻尾を、突然ずぷりと地に突き刺した。狙うはもちろん、ギラつくその赤い瞳でまだ何かを企む青い髪。
タイキは重厚な槍を構えたままその場に留まり、虎視眈々と巨敵の隙を狙う。しかしそれすらも隙であることを、敵を倒すことに深く集中した彼は気づいていなかった。
密かに地を伝う遠隔からの狡猾な悪戯。ツツミはアキトとの戦いでも見せたショックウェーブの改良技を、呑気に槍を構えて固まった青髪の男へとお見舞いする。
地中足元から噴き出す雷電がタイキを襲う──はずだった。だが、急に地中から飛び出た白骨が、それぞれ赤い雷電を帯びながら浮き上がった宙で爆ぜた。
「何かあるんじゃないかと思ったけど……随分と趣味の悪いことするじゃないの、アイツが教えでもしたの? まったく!」
リンクスが事前に地中にお守りとして張り巡らせていた骨のギフトが、ツツミが尻尾から地を伝わせた衝撃と魔力を吸収し自壊した。結果としてアキトに鍛えられたリンクスの読みは正しく、タイキに向けたツツミの闇討ちを遮る形となった。
「リンクスさん!」
「さん呼びはララ呼びよりやめてほしいのよっ、本当に骨が折れるわね……行きなさい! これ以上折れる前に!」
「あぁっ!」
リンクスからの激励を受けて、前に駆け始めた青髪の戦士に向けて、ツツミは舌打ちをしながらも長い竜の尾をしならせた。尻尾には新たに生やされた無数の刃、それが地を抉りながら槍を掲げ進撃するタイキを薙ぎ払おうとする。
しかしそんな危険な黒い尾を身を挺して止めたのは、アトラ。
「70……82! ……90!」
いつものカウントを今日は多めに数えていく。
「アトラっ……!」
呼びかけられてもアトラは決して振り向かない。棘立つ竜の尾をその両手の怪力で確かに受け止めてみせた。タイキの壁となり、血を流そうとも負けじと踏ん張りつづける、その背で語ってみせた。
言葉はなくても分かる。ただならぬ覚悟を汲み取ったタイキは、前に勇敢に割り込んだアトラの背を追い越した。
やがて尻尾から切り離され弾丸のように飛んできた、二重の棘のトラップ。危険な棘の雨の中を、タイキは無我夢中の全速力でただ前へと駆け抜けた。
だが、聳え立つ竜は余裕を見せて仁王立ちをする。竜の間近まで駆け抜けようとしたタイキに、突如吹き及ぶのは厳しい雪。
気づけば雪原の中にいた。突飛もなく青髪に降り積もる雪が、視界を白く染め上げていく。
「かかったな、そこは俺様の土俵のうちや……
そこはすでに竜の立つ白い土俵。
次々と積もり形を成し、立ちはだかり現れた雪だるまの兵隊が、竜の吹かせた風の軍配の合図とともに──今、雪原の上に独り立つちっぽけな青い熱源に向かい雪崩れ込んだ。
軍配の風がまたしても竜の味方をする、強烈に吹かせるシロツメ支部を苦しめる最高の風を。そしてまだ狡猾にも隠していた新たなギフトまで、雪だるまの
竜の足元に広がる極寒のフィールドと、徐々に勢いを増し吹き荒れる吹雪に、槍一本で突貫したタイキの無策ぶりを天から見下す竜は盛大に嘲笑う。
シロツメ支部のバトンリレーを凌駕するそんな幾重にも張り巡らせた竜のギフトの罠に、突撃作戦は失敗──誰もがそう思った時だった。
「【
突出した青髪の男に殺到する雪像の兵たちが、淡い白から真っ赤に染め上げられた。
料理人が振るう紅蓮の刃が、伸びる炎となり、やがて増え続ける無限の三日月を真っ白な冷たいキャンバスへと描いていく。その業火のギフトの中へと飛び込んで行った雪像の兵たちは、すべて平らげられるように溶けていった。
「【
突然、竜の左腕にしゅるしゅると得体の知れない感覚が這い、きつく縛った。
奇妙なその正体は、なんとも長い長い黒の艶髪だった。竜に巻き付き垂れ下がる一本の太い綱髪が、猛烈な勢いで下方から次々とその編み目を解いていく。
そして高速回転する一人の戦士の身から放たれた突き上げる一撃。現剣流道場仕込みの【渦八卦】が、竜の肘へと向けて全力をもってお見舞いされた。
敵の内部から破壊する波動の掌底が炸裂。手痛く痺れる衝撃が竜の巨腕を一瞬駆け巡り、握っていた不吉な風を唸らせる軍配を落とさせた。
「俺のメニューに安いシャーベットと、デカトカゲの魔物ソテーはねぇぞ! 世話といろいろ焼くのは今回だけだ!」
「っゥが!? ぐっ……遅れました……タイキさんっ……!」
「ペコロ! ミソラ!」
遅れて参戦した二人が道をこじ開けた。腕の痛みを抱えながら雪原に落ちる美楚羅、炎の刃で残敵を切り払うペコロ。今命懸けで阻んでいた障害を取り払ってくれた彼らを背にして、タイキはもう、ただ真っ直ぐに突き進んだ。
「【
タイキは走りながら微弱な雷電の魔力を前方へと飛ばした。船の上の海丁レモラ戦で得た繊細な探知技術で探るのは、一番脆い部分。
(ただ突き刺すだけじゃきっと足りない……どこかに弱点があるはずだ……!)
だが、漆黒の鱗に覆われた竜の壁はあまりにも強固。手首やうなじの剥げた綻びを、もう一度取り付き寸分違わず穿つのは至難の技。誇る鉄壁に慢心している口ぶりだが、当然ツツミもそこは警戒しているだろう。
おそらくチャンスは一度きり、最高の一撃を叩き込むために──。汗水を流し最後の最後まで必死に集中をする。そんなタイキに、今ふと、風が何かをささやいたように思えた。
竜の足元には落とされたままの黒い軍配。
タイキは鋭くも悟った。そこから吹いた微風が、わずかにだが確かに、吸い込まれるように渦巻き〝その一点〟を示していたことを。
(なんだ……風が……そうかっ! 分かった!)
人である以上、人が化ける竜にも等しく〝ソレ〟はあるはず。『ここしかない』──雪原を溶かし地を焦がす足跡を刻み、白い煙を引き裂く。タイキは迷わずに最短距離で、その一点へと飛び込んだ。
青く爆ぜた雷光のステップが、下る赤き天雷と、翳る竜の魔の手を置き去りにする。覚悟を決めて地を踏み翔んだ、最後にして最速のステップを誰も止めることはできやしない。
一直線に伸びた青い閃光が怒る赤雷をかいくぐり、ついに竜の腹へと届いた。
笑い、隠していても分かる。風のギフトが囁きくすぐる、鉄壁の城塞に空いたわずかな隙は。
タイキは強く握り込んだ光の槍を、風が導く秘されし竜の臍へと向けて、貫いた──。