トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
嗤っていた竜は、不意に背に乗っていたアキトへと向かい噛み付いた。『ギチッ』──竜の鋭い歯が虚空を食らい火花を散らして合わさる。竜に噛み砕かれる前にお邪魔していた大きな背から飛び退いたアキトだったが、直後に襲うように伸びた竜の腕が宙を舞っていた小さな冒険者の身を、その手中についに捕らえた。
「ドラハハハ……ようやく捕まえたな」
「あぁ、そのようだね。もう少しこの激しい化け物とのダンスを楽しみたかったが」
竜の手の中に捕えられ大きな黄色い眼に睨まれながらも、アキトはいつもするような微笑を顔に浮かべそう答えた。
「阿呆、そうはいかん。おい……ここまで手間をかけさせた罰として、そうだな。お前──俺の息子になれ、はははは」
何を脅し言い出すかと思えば、アキトの眼前で凄んでいた巨顔の竜は突拍子もないことを口にし出した。
「息子? ははは、冗談だろ。なんのごっこ遊びだい、こんな親父が常に同じ屋根の下なんて本当に罰ゲームじゃないか? 餌代もバカにならない、ふふふふ」
耳を疑う思わぬことを言い出した竜に化けたツツミに、アキトは同じ調子の冗談で受けて流す。
「ははは。例えが悪かったが軽口を言い合いたいわけじゃない、よせ。そう──この目で見たお前の実力、本物や認めたる。そう言いたいんや」
「さっきも耳にしたが、追い詰められると『認める』と言うのが口癖なのかな?」
「万策尽きたその立場で、よぉぬかしよる」
追い詰められているのはどちらか。竜の手中でまだ冗談をまじえた口答えをする、そんな冒険者に化けた大物の男の様を見たツツミは鼻で笑った。
「……実はな、ミタライのシロツメ支部のことはしばらく泳がせて放っておいてもどうでもよかった。初めから俺が興味あったんはお前や、トランプメン。そして今ここで
目の前の冒険者風情の男の正体は、〝トランプメン〟。ツツミはそう理解していた。そして、戦いを通じてその実力がお飾りではなく、名前と噂通りの本物であることもツツミは身をもって思い知った。
クロキリ本部のツツミの狙いは最初から、謀反を企てたシロツメ支部の鎮圧ではなく、世間を賑わすD級賞金首トランプメン。彼一人だったと言う。そして今クランマスターであるツツミ自らの目で、その実力が紛い物ではないと査定することができた。
「国を牛耳る」──そんな大袈裟なことを堂々とつぶやけるほどに、ツツミは目の前に捕らえた敵のことを高く評価していた。
「……大それたことを言うね。話が少々飛躍しすぎだと思うが。ジブンみたいな駒が一つ増えたところで、国を? キミも会話のキャッチボールができないと、よく部下や専属のコックから言われたりしないかい? 心配だよ、ふふふ」
しかしその評価に妥当性があるかは疑わしい。珍しい手駒が一人増えたところで国を思うように支配できるなら、既に誰かがやっているだろう。アキトは喋る竜のリップサービスを真に受けず、また冗談を飛ばした。
「ふっ、そうか理解できんか。──ほんじゃあ、バークローズ王国の〝聖騎士シデンレイラ様〟と呼んだ方がよかったか?」
ぎろり、目を大きく見開いた竜は、冒険者気取りをつづける男へと鼻先を近づける。そして睨む至近からまた別の名前をはっきりと口にし、その眼前の嘘つきへと突きつけた。
BB級の冒険者アキト、殺人鬼トランプメン、そして聖騎士シデンレイラ。果たしてまったく異なるように映るそれらの