トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
再示現した火の女神により下ろされる軍配。爽快に吹き抜けた緑の熱嵐に、辺りを燃え盛り支配していた灰色の火の海は払われる。パーティー会場で冒険者たちと踊っていた穢れた魂たちは、一つ残らず浄化された。
(チッ、なんや……。何故ミタライがコトコのギフトを使える。どういうことや……。ミタライのギフトは【ウィルオウィスプ】。他者の魂を焼いてギフトを調理するのは上手でも、俺みたいに肉体にストックはできんはずや。貸与先が無能力者じゃない限り、俺が一度預からんとギフトの付け替えはできん……じゃあ何故奴は今【唯我独尊】を使えた。それになんや、アレは──)
狼狽える竜の眼下には、火により形作られた緑と黒の翼をもつ女神の姿。軍配を手にした謎の女神が、ミタライ支部長の隣に顕れていた。
「ギフトは一人の身に一つまで、何故そのルールを破り彼女が二つのギフトを併用し使えたのか。──そんなの、答えは簡単さ」
その時シャンデリアから悠然と飛び降りた道化師が、マントについた煤を払い、睨む竜に向けて語り始めた。
「肉体は滅んでもその魂までは死なない。そして形のあるギフトには全て魂が宿っている。怨念または恩恵、生前の者が念じる心が強いほど、このように友達にギフトを遺すことも可能なのさ」
道化師は自分の周囲をぐるりと舞う美しい女神に一礼し、楽しげに語りつづける。
「あぁ、そうだね? 平然と借りパク行為を繰り返すようなやつには分からないかい? フフフ、盗られないように名前を書いておくべきだったね。それがキミの敗・因」
色褪せた葉の模様の盾をとんとんと小突いて、道化師は言う。バークローズ王国の優れた騎士のみが持つことを許された盾、その遺物を誇示して。
また道化師の屁理屈が始まりでもしたのか。
どちらにせよ、青髪の剣士のみならずミタライ支部長までもが、奇妙な霊体を従え成長を遂げたのは事実。それも竜の体内に宿していたギフトを一つ奪われてのこと。
鉄壁の竜鱗の背を斬られたあげく、秘蔵の灰色の魂の火までを鎮火された。
圧倒的な力で反乱分子の冒険者どもをまとめて蹂躙し跪かせるはずが、気づけばあり得ないイレギュラーの連続に翻弄されていた。だが、そんな危機迫る状況の中でも竜は不敵に嗤った。
「ははは……時間はたっぷりあったからな。臍の奥の設計図は見つかってもうたわ、ドラハハハ」
顎を大きく開け、高らかに嗤う竜の手元に鋭き一筋の雷が落ちた。一瞬、白く明滅した雷光が止むと、竜はその手に巨大な三叉の戟を握りしめていた。
再度、装備する【激昂の戟】。妖しく唸る赤雷を纏う白き光のギフトが、圧倒的な魔力と威圧を放ちつづけている。
吐き出した魂の火はサブプランに過ぎない。本命の三位一体のギフトを再び手にした竜に恐れる者はない。
「じゃあここからが──本当の、
三人、いや四人の冒険者が今、竜の前に立ち並ぶ。
青きオーラを剣に帯電させ唸らせるタイキ・フジは、今度こそ竜の首を狙い見据える。小瓶に入れていた獣人の雫を垂らし、もう一度色鮮やかに深緑の盾を芽吹かせたアキト。火の魔力を焚べるミタライの隣で、コトコの面影を重ねた女神が翼を揺らして微笑んだ──。
燃えたぎる魔力を乗せた軍配は、勇ましく下ろされた。
起こす風と振るう雷と踊る炎が、竜と冒険者の争う決戦の地に今激しく渦巻いた。