トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
四人の精鋭冒険者たちと戯れていた竜が、振り上げた三叉の戟を地に突き刺した。その時、地は凍りゆき、パーティー会場全域は瞬く間に真っ白な雪原と化した。
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一方、厳しく環境を変化させ激化する雪原と吹雪荒れる戦場に、何も知らずに迷い込んだ料理人たちは──。
「カーーーーーーッ!」
激丁ペネロが口から火を吹いた。170万スコヴィルの激辛の火炎が放射され、近寄る雪像の兵隊の上半身を一気に溶かした。
「【肉車:雪化粧】!」
肉丁コンガが、でっぷりと肥えたその巨躯を丸めた。回転し動き始めた肉塊は雪を纏い蹴散らしながら、いつしか大きな雪玉となり、雪像の兵たちをまとめて蹂躙する。
しかし滑走する雪玉に蹴散らされたはずの兵たちは、またひとりでに積もり、記憶を呼び覚ますように崩れた体を元の精巧な五体へと再生させていた。
「ぬぅ……これだけの技を振る舞っても再生か……」
「どうなってやがる。これの何が立食パーティーで何が割のいい仕事だ、全然違うじゃねぇか! おいどうなってやがる、何とか言って説明しやがれ玉ねぎ頭!」
どれだけ薙ぎ払ってもゾンビのように復活する白い兵隊にイラつき、ついにコンガは怒声を飛ばす。
一枚の旗と送り主不明の謎の招待カードで、料理人として招待されたのは立食パーティーなんて嘘もいいところ。コンガとペネロ一流料理人のコンビは、気づけばミラールーム内で起こったクラン同士の激化する抗争に巻き込まれていたのだ。
「おいなんとか言いやがれこの三流コックめ!」
再度コンガは執拗に怒声を浴びせる。聞いているのはもちろんそこに呑気に突っ立つ飴色髪のコックにだ。
「コックがなんで戦ってんだ……ちがうだろ」
「あぁなんだと!?」
思いもよらぬ熱量のない台詞をつぶやいたペコロに、かちんときたコンガは、雪原を強く踏み締めながらその馬鹿な男に詰め寄ろうとした。
しかし突然、雪を積らせた飴色髪の横顔は振り返った。そして打って変わって熱量と意志を宿した強い眼光で、玉ねぎ丁のペコロは二人の料理人に告げた。
「作るんだよッ──【カチュラスープ】!」
「「カチュラスープ……!?」
コンガとペネロの声が驚愕で重なった。
わがままな火の神様カチュラに捧げる、腕のいい料理人たちが即興で協力し合い作りあげたとされる〝伝説の日替わりスープ〟。それがカチュラスープ。
無論、敵がゾンビのように湧くこの極寒のミラールームでそんなものを作っている余裕などはない。
「こんなときに何言ってやがる、この馬鹿が! オマエ……さては俺たちの船で作ってやったヤツを、台無しにして捨てたんじゃねぇだろうな!」
「……もう一度、協力しろとでも言うのか?」
コンガが罵声を浴びせ、ペネロが冷静に問い返す。
「なんで半人前のコイツの命令に従わなきゃいけねぇんだよ。俺は肉丁コンガ・リー・ダン様だぞっ! 絶対嫌だぜ! 下っ端なんて付け合わせのじゃがいもの皮を剥かせてればいいんだよ」
格下の無名のコックには意地でも従わない。コンガがさらに皮肉を重ねた、その時だった──。
突然ケラケラと笑いだした奇妙な一本の黒ナイフが、ペコロの腰元の小さな木鞘から抜け出し勝手に宙を泳ぎ始めた。
やがて狂い舞っていたナイフは、駆けて来た雪像の兵の足の甲へと深く突き刺さった。
すると雪像は悶えたような表情で顔を溶かし、つま先まで急速に溶けると、濡れた地に残ったのは一枚の紙を貫いた一本のナイフだった。
すると血に滲んでいた白い紙はナイフから伝う黒炎に燃やされ、不思議と燃え尽きることなく、表裏をすべて黒く塗り替えられるように染まった。
風に流され地から剥がれたその一枚の黒い紙は、やがてペコロの手元にひらひらと舞い収まっていた。
「オーダーだ……。なんでもいいっ、使える食材を俺の
黒い紙に記されたオーダーを確認したペコロは、空で狂いはしゃぐ趣味の悪い包丁を、強くその手に捕らえ握り締めた。
燃えたぎる紅蓮の魔力を放ちながら、今、ふざけた悪魔が耳元でささやくレシピを再現することを決意した。