トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

90 / 90
第89話 悪魔のレシピ

 四人の精鋭冒険者たちと戯れていた竜が、振り上げた三叉の戟を地に突き刺した。その時、地は凍りゆき、パーティー会場全域は瞬く間に真っ白な雪原と化した。

 【雪合戦(スノウボールファイト)】×【小悪魔の約束(ピクシスパクト)】、戟から送られた雷の魔力と唸る竜の檄を得て動き出した精巧な雪像の兵たち。ギフトとギフトを組み合わせる冒険者アキトを想起させる発想で、多勢に無勢だった竜はこの場に部下たちの擬態兵を呼び寄せた。

 

 一方、厳しく環境を変化させ激化する雪原と吹雪荒れる戦場に、何も知らずに迷い込んだ料理人たちは──。

 

「カーーーーーーッ!」

 

 激丁ペネロが口から火を吹いた。170万スコヴィルの激辛の火炎が放射され、近寄る雪像の兵隊の上半身を一気に溶かした。

 

「【肉車:雪化粧】!」

 

 肉丁コンガが、でっぷりと肥えたその巨躯を丸めた。回転し動き始めた肉塊は雪を纏い蹴散らしながら、いつしか大きな雪玉となり、雪像の兵たちをまとめて蹂躙する。

 

 しかし滑走する雪玉に蹴散らされたはずの兵たちは、またひとりでに積もり、記憶を呼び覚ますように崩れた体を元の精巧な五体へと再生させていた。

 

「ぬぅ……これだけの技を振る舞っても再生か……」

「どうなってやがる。これの何が立食パーティーで何が割のいい仕事だ、全然違うじゃねぇか! おいどうなってやがる、何とか言って説明しやがれ玉ねぎ頭!」

 

 どれだけ薙ぎ払ってもゾンビのように復活する白い兵隊にイラつき、ついにコンガは怒声を飛ばす。

 一枚の旗と送り主不明の謎の招待カードで、料理人として招待されたのは立食パーティーなんて嘘もいいところ。コンガとペネロ一流料理人のコンビは、気づけばミラールーム内で起こったクラン同士の激化する抗争に巻き込まれていたのだ。

 

「おいなんとか言いやがれこの三流コックめ!」

 

 再度コンガは執拗に怒声を浴びせる。聞いているのはもちろんそこに呑気に突っ立つ飴色髪のコックにだ。

 

「コックがなんで戦ってんだ……ちがうだろ」

「あぁなんだと!?」

 

 思いもよらぬ熱量のない台詞をつぶやいたペコロに、かちんときたコンガは、雪原を強く踏み締めながらその馬鹿な男に詰め寄ろうとした。

 しかし突然、雪を積らせた飴色髪の横顔は振り返った。そして打って変わって熱量と意志を宿した強い眼光で、玉ねぎ丁のペコロは二人の料理人に告げた。

 

「作るんだよッ──【カチュラスープ】!」

「「カチュラスープ……!?」

 

 コンガとペネロの声が驚愕で重なった。

 わがままな火の神様カチュラに捧げる、腕のいい料理人たちが即興で協力し合い作りあげたとされる〝伝説の日替わりスープ〟。それがカチュラスープ。

 無論、敵がゾンビのように湧くこの極寒のミラールームでそんなものを作っている余裕などはない。

 

「こんなときに何言ってやがる、この馬鹿が! オマエ……さては俺たちの船で作ってやったヤツを、台無しにして捨てたんじゃねぇだろうな!」

「……もう一度、協力しろとでも言うのか?」

 

 コンガが罵声を浴びせ、ペネロが冷静に問い返す。

 

「なんで半人前のコイツの命令に従わなきゃいけねぇんだよ。俺は肉丁コンガ・リー・ダン様だぞっ! 絶対嫌だぜ! 下っ端なんて付け合わせのじゃがいもの皮を剥かせてればいいんだよ」

 

 格下の無名のコックには意地でも従わない。コンガがさらに皮肉を重ねた、その時だった──。

 

 突然ケラケラと笑いだした奇妙な一本の黒ナイフが、ペコロの腰元の小さな木鞘から抜け出し勝手に宙を泳ぎ始めた。

 やがて狂い舞っていたナイフは、駆けて来た雪像の兵の足の甲へと深く突き刺さった。

 すると雪像は悶えたような表情で顔を溶かし、つま先まで急速に溶けると、濡れた地に残ったのは一枚の紙を貫いた一本のナイフだった。

 すると血に滲んでいた白い紙はナイフから伝う黒炎に燃やされ、不思議と燃え尽きることなく、表裏をすべて黒く塗り替えられるように染まった。

 

 風に流され地から剥がれたその一枚の黒い紙は、やがてペコロの手元にひらひらと舞い収まっていた。

 

「オーダーだ……。なんでもいいっ、使える食材を俺の厨房(もと)に持ってこい!」

 

 黒い紙に記されたオーダーを確認したペコロは、空で狂いはしゃぐ趣味の悪い包丁を、強くその手に捕らえ握り締めた。

 燃えたぎる紅蓮の魔力を放ちながら、今、ふざけた悪魔が耳元でささやくレシピを再現することを決意した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

異世界でとんかつ屋さんとして生きていきたい(作者:藤沢春)(オリジナルファンタジー/文芸)

十五歳で異世界に転生した『さくら』は、元九十八歳。▼ネコ型の魔獣『キャット・シー』と暮らしながら、王都で開くことになった小さな食堂『とんかつ さくら』。▼試行錯誤しながら作る、ちょっと懐かしくて、やさしい料理。▼その味と不思議な安心感はじわじわ評判になり、気づけば普通の客だけでなく、王族や貴族まで巻き込む大騒ぎに発展していく。▼地球で過ごした過酷な青年期。▼…


総合評価:174/評価:7/完結:86話/更新日時:2026年07月21日(火) 11:10 小説情報

押し入れの向こうは異世界でした(作者:Brooks)(オリジナル現代/コメディ)

▼練馬区江古田の古いアパートで一人暮らしをする女子大生・篠原澪は、友達の少ないボッチ気質の二十歳。趣味は彫金とギター。貯金は十万円ほどしかなく、大学、家賃、生活費に追われながら、六畳一間で静かに暮らしていた。▼ある日、小さな地震のあと、部屋の押入れの向こうが異世界の市場につながる。▼幸い、言葉は通じた。澪は恐る恐る異世界へ足を踏み入れ、手元にあった爪切りを売…


総合評価:165/評価:-.--/連載:300話/更新日時:2026年09月01日(火) 08:29 小説情報

私、ヴィランを目指します!(作者:Sano / セイノ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

人生二週目の女の子。彼女の瞳に映るのは、ヒーローたちが華々しく活躍し、悪逆非道なヴィランたちが跋扈するヒロアカの世界。これは、彼女が最強で最凶で最恐のヴィランになるまでの物語。▼※pixivでも閲覧できます(https://www.pixiv.net/users/1542351)


総合評価:920/評価:7.28/連載:72話/更新日時:2026年08月27日(木) 22:49 小説情報

因習村の怪しげな神にTS転生した話(作者:大崎 狂花)(オリジナルファンタジー/コメディ)

因習村の神になったおじさんの話です▼とりあえず復活させようと思います どうなるかわかりませんが、よろしくお願いします


総合評価:552/評価:7.32/連載:16話/更新日時:2026年08月27日(木) 23:07 小説情報

☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜(作者:ちんこ良い肉)(オリジナル現代/冒険・バトル)

火賀灯真は、世界が終わる日を知っていた。▼正確には、世界が“サービス終了する”日を。▼午前十時。▼現代日本にダンジョンが出現し、人類の一部にレアリティとクラスとスキルが配られる。▼世間は混乱し、国家は対応に追われ、凡人は怯え、英雄願望のある者は浮かれる。▼そして俺は、ゲームの周回で猛威を振るった、自爆宝具…もとい戦闘不能と引き換えに繰り出す超火力広域攻撃スキ…


総合評価:6004/評価:7.99/連載:35話/更新日時:2026年06月21日(日) 23:26 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>