トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
「属性系ではなく報酬系のギフトでしょうか……。カチュラスープを、なるほど? 聞いたことがあります、料理人たちが信仰する火の神カチュラですか……。それを満足させるための大掛かりな
「え、何っ!?」
「
黒いレシピを示した料理人の意図を理解した仮面の魔術師は、すぐさま二度目の合体魔術を推奨する。一度目は少し失敗したが、二度目ならばコツをつかみ成功率は上がっているはず。そんな期待を込めたリリスへの無茶な注文をかけた。
「かか加減って……今言われても……ある程度は分かったけど……それとは別に、もう魔力がちょっとしかないってのよ」
「なんとまぁ……向こう見ずなのは相変わらずですね」
「ぅぐっ……って、あんたが魔術試練なんてやっちゃったからでしょ! あの一回分が無ければぜったい足りてたのよぉー!」
「それもそうでしたね? しかし困りましたねぇー、私もそれほど残りの魔力量に余裕があるわけでは」
問題は残っている魔力量の方。このまま発練を始めてもヒノタマ一発分にも未たない。リリスがそう申告し、とぼける仮面の魔術師に厳しいツッコミを浴びせていると──。
「使え!」
「ってわわ!? え、なにこれ……?」
ペコロが唐突に叫び、リリスへと小さな何かを投げ渡した。
「ぬっ、それは俺が奴にあげた霊酒か」
「れいしゅ?」
「飲めば魔力を回復する、我が道場に伝わる代物だ。持ち合わせはその一つ以外に今はない」
「一つだけ……!」
今投げ渡された小壺に見覚えがあった羅黄は、首を傾げるリリスにそう中にある霊酒の効能を説明した。
「本当に私がやるの……」
「やるんですよ」
「ははは、他にいまい。全てを見越してのことだろう、遠慮せずに使うがいい」
仮面の魔術師と道場の師範がこぞって、不安げな言葉を投げかけていたリリスを促す。迫る二人の大人の男どもの圧に、リリスは思い切って小壺の中の霊酒を天を仰ぎ飲んだ。
そうして魔力を回復し、始まった合体魔術。杖と杖を交差し重ね合わせ、赤と白のヒノタマが魔術師の師弟により同時に発練されていく。浮かぶ宙でみるみると肥えた火球は、隣同士、やがて互いに重なり合い。
「まぁとは言ったものの。人間、一朝一夕ではそうそう上達はしませんね」
「えぇ!? ってまた失敗なの!?」
「愚痴を吐いただけで、まだそうとまでは言ってませんよ。ではお願いします」
仮面の魔術師は、弟子の相変わらずの不器用さに軽い愚痴を吐いた後、ここで新たな助っ人に呼びかけた。
「……はいっ! 【
二人の魔術師の近くに現れたのは一人のパティシエ。彼女が操れるのは甘いスイーツだけにあらず。ユキエの成形のギフトで、仮面の魔術師とリリス、中途半端に重なり合っていた二つのヒノタマを一つにまとめ上げていく。
そうして畑違いの助っ人の手を借りなんとか一つにまとまった大きな火球を、更なる助っ人に受け渡していく。
「今日は俺の番が多いな? ハハハ、鍛錬にはちょうどいい。任せろっ!」
待っていたとばかりに道着を再び豪快に脱ぎ捨てて、上裸になった羅黄がお得意の気操術を用いる。頭上に掲げた火球を回転させ、より一体感を出すように攪拌させていく。
「来いっ、火入れだ。開け、【デモンズキッチン】!」
一流のコックが黒いナイフでひとたび地を豪快に捌くと、紅蓮の火がふつふつと滾る地獄の釜が開かれる。
「応ともっ!」
羅黄は待ち侘びたペコロの指示通りに、大きな火球を操り、地に煮える釜の中へと慎重に沈めていった。
さらにすかさずその釜に同じ二人の料理人コンガとペネロが、持参していた
「おい半人前、アロゼしろアロゼ。そうすれば一度肉を引き上げても温度は落ちない。焦らず火を通せ、じっくりしっかりな!」
「うるせぇ! 覚えたてのこじゃれた言葉ではしゃぐな! 俺のキッチンだ!」
「んだとこらぁ! 誰が覚えたてだ!」
「ガサツそうなてめぇがそんな宮廷料理の技法を知ってるわけねぇだろ!」
「舐めるな俺はバークローズ、世界一の肉の専門家だぞ! オマエが貧相な栄養のないふやけた飯を食ってた赤ん坊の時には、既に知っていたわ馬鹿が!」
「あぁ……? てめぇ親の料理を馬鹿にしたか今?」
「聞こえねぇのか馬鹿って言ってんだろうが馬鹿が、馬鹿舌が!」
「ぬぅ……凄まじい火力! 現世の食材では物足りんと言わんばかりの……少し……黙れェ!」
肉丁コンガと玉ねぎ丁ペコロ、煮えたぎる地獄の釜の前でも言い争う二人の料理人に激丁ペネロが一喝。
尋常じゃない汗をかきながらも、ペコロは包丁から変化させた『グツグツ』と笑う黒いお玉を操る。悪魔の食器を握りしめ熱した辛い魔油を掬い上げ、一度釜から引き上げた肉模様の綺麗なヒノタマに、幾度も浴びせかけていく。