トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
静かに煮える釜の前に立つ飴色髪のコックが、鋭く目を光らせる。時折感じる冷ややかな視線が、被る鉄兜を通り抜け一人の男に突き刺さる。
要注意人物とみなされたナイトは、このままでは終われない。『まだ最強の剣が自分にはある』崖っぷちの立場でありながらもそのことを思い出したナイトは、残された手立てでなんとか名誉挽回を試みる。今まさに汗ばむその手に、騎士の象徴たる偉大な剣を握ろうとするも──。
「よっ、あれ。あれっ」
右手は空を掴むばかり。手応えのないおかしな感触に、空の手を見つめたナイトが直後、顔を上げ辺りを見渡す。すると、彼の視界にはグランドナイツソードがひとりでに前方を、ふらふらと泳いでいくのが見えた。
「ってなんか自由に散歩してるーーーー! おいおいお前まで見捨てたのか、ナイトは俺俺!」
手を伸ばし手繰り寄せようとも、念力は通じない。主の言うことを無視して勝手に彷徨いだした剣を、ナイトは急ぎ追いかけるが追いつけず。彷徨っていたその剣は、誰かを見つけたのか、スピードを上げて宙を切り裂くように泳いでいった。
「はぁはぁ……え、なんでナイトなんで? 俺はナイト……剣に認められし騎士道精神を持つ古参のナイトだが……? じゃあ、あっちのお兄さんは?」
走るのをやめたナイトが息を切らしながら見つめる遠方には、佇む一人の影。すらりと長い背丈の男が、迷子の剣を呼び寄せるように指をスナップし弾き鳴らしていた。
『しゃくれでも偽りでもない、真のナイト様? あながちビジュ的に?』
「あぁ……あながちそう……っておい」
飛び跳ねて寄ってきたパロダが、ナイトがおもむろに脱いだ鉄兜の中で首を傾げる。
宙を泳ぎつづける摩訶不思議なプラスチックの剣は、切先を向けて引き寄せられていく。妖しげな魔力を高め佇む、その真の騎士の元へと──。
「アキトさん!」
駆けてきたのは剣だけではなく、竜を飲み込む暴風から飛び退いたタイキがアキトに近づき呼びかけた。
「あぁ、タイキ。キミのおかげで名誉挽回のチャンスが巡ってきたようさ。だが……もう少しその
不敵に微笑む冒険者アキトは、タイキを見つめ返しそう告げた。
「フフ……示現──【
そして彼が虚空に小気味良く指を弾くと、獅子のような人のような顔をした石の円盤がどこからともなく示現した。その石彫りの獅子の間抜けに開けた口の中へと、タイキの示現させた青い百足が宙を這うように走り入っていく。
百足の尾までもが穴の中を通り、すっかりその長い全身を飲み込んだ。
『ズズズ……バリバリ……」蠢く音と危うげな震動が、穴の奥からどもり響き渡る。
やがて響いていた音は鳴りを潜め、静まり返り──。
すると、堰を切らしたように石獅子の口から、幾多の焼けこげたカードが次々と漏出していく。
同時に狂ったように笑う風音が流れていき、刹那──石の円盤が爆ぜた。
燃え尽きるカード、粉々に散りゆく石板。宙を引き裂くけたたましい雷鳴と共に生まれ出たのは、活き活きとうねる二匹の龍。
「これが最後の
全てのカードを捧げて。石のゲートをくぐり今、鏡合わせのように仮想示現した偽物のギフト。
二匹に増えた青い百足が、並び立つそれぞれの男の元へと帰り、神々しい羽衣のように纏わる。
騎士を騙る道化師が、その手に手繰り寄せた偉大なる迷剣。そして、タイキが手にする団員から譲り受けた不屈の剣。
天に掲げた二人の剣が重なり交わる、共に冒険をしたあの時のように。闘争と覚悟を宿した互いの刃に、青い雷電をバチバチと灯し合った──。