トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜 作:山下敬雄
「ちまちまと、何がパワーアップや。歩がと金に成ったところでその程度、しれとるわ! ドラハハハ」
「フフフ、一手一手は微力されど侮るなかれ。部下を信じて育てきれなかったキミの負けだ。それに大方一人じゃ怖くなって、契約のギフトで強制的にこの場に呼び寄せたんだろう。魂と質のない雪だるまは、虚飾にすぎない。
百足分のリーチを持つ雷電の鞭を盛大に振り回し、騎乗する灰色の猫を走らせながら、アキトは殺到する雪兵を薙ぎ払う。雪だるまの輪郭をいくら精巧に彫っても、ジブンのように偽物は本物にはならない。そしていくら現れようとも将棋の駒の歩にも未たない戦力だと、ツツミを皮肉った。
「王を取らずに勝ち気取りか!」
しかし絶対的な力を持つ王は、道化師のささやく皮肉を笑い飛ばす。ツツミが振るう三叉の戟から飛ばされた雷が、タイキとアキト歯向かうそれぞれの駒に襲いかかる。
「【ボーンハウス】──フッフ、焦っているね。今すぐに取れずとも、こちらの取りうる手段は一つじゃないさ」
【ボーンハウス】──密接するララ・リンクスのギフトを拝借し、アキトが浮かぶ骨を魔力操作した。そして巧みな指揮で組み上げた簡易な骨のトライアングルが幾多も列を成し並んだ。三角形が重なり宙に浮かぶ星のマークに、三叉に分かれて追尾してきた雷が吸い込まれていく。
赤熱し回転する三角の骨組みは、やがて、通り抜けた強烈な雷の魔力に晒されて爆ぜるように砕け散った。
だが、アキトとタイキはその身を雷にさらされることなく健在。また一つ、思いがけないギフトとアイデアで、竜の攻め手を凌いで見せた。
「ドラハハ、そっちやろ。骨までしゃぶってネタがもたんのは!」
「さぁどうだろう? だが、心配せずとも……もう間もなく〝我が物顔〟が鎮座する玉座は崩れる。そのもう少しの辛抱ぐらい、フフ……待つさ!」
道化師の手品がこのまま無限につづく訳がない。ならば急いているのは竜ではなく、空をバタバタと飛び跳ねるそちら側。ツツミはそう鋭く、微笑の仮面の裏側に湿る道化師の焦りを見抜いた。
実際にツツミの洞察は当たっていた。アキトの切れるカードなど、もう残り指折り数える程度しかない。ネタ切れも間近──だが、道化師は不敵に笑いつづける。暴れる竜を挑発する不穏な言葉をこぼして。
「ドラハハハ。痛みも効きもしない、蚊の刺すようなそんな見せかけだけの剣でか。伊達者が!」
ツツミは余裕を見せつける道化師の虚言には付き合わない。そしてこの王として君臨する圧倒的な竜の駒を、奴らに取る決定的な一手はやはりないと知る。
ならばこの局面この勝負に引き分けも敗北も最初から存在しない。黄色い眼を三日月に歪ませ嗤い、竜は大きく呼吸した。そして大きく吐き出した。
「骨まで凍えろ、【
慢心する道化師へと向かい今吐き出した一手。凍てつく竜の息吹が、うろちょろと飛び跳ねる猫とそいつごと、視界一面を支配する──はずだった。
「ヒュっ……ぅ!? ナ、なにっ!?」
「バカだね」
竜が口から盛大に吐こうとした冷気が、全く別の口から漏れ出る。そう、口は口でも傷口。腹に空いた青い傷口から、穴の空いた風船のように不恰好にそれは漏れ出ていた。
「ふふふふふ言ったろ、傲慢な王は動けば崩れる。因果応報、不当に奪ったギフトを全て返してもらうよ。──【
もう辛抱する必要はない。予告通りに王は自ら崩れた、その
空を蹴り駆け抜ける灰色の山猫に跨り、笑う道化師は今、真剣な眼差しでプラスチックのソードを煌めかせる──。
『オレを使え』とささやいている──四島彰人の心にはギフトの声が確かに響いた。そして一閃の振りに、三度の斬撃の呪いを重ねる神速の剣が、隙をさらした竜の頬を嘲笑うように引っ掻いた。