ようこそ殺戮至上主義の教室へ   作:戦竜

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第九章 優雅な支配者

林の少し先で、坂柳有栖は小屋の銃声を聞いた。

 

足を止めることはしなかった。

止めれば、きっと戻ってしまうからだ。

 

橋本正義は、おそらくもう死んだ。

そう理解していた。

 

それでも坂柳は前へ進む。

杖をつきながら。

 

一歩。

また一歩。

 

その速度は、歩くというより前へ倒れないように進んでいるに近い。

足が重い。

呼吸も浅い。

神室を失い、高円寺と別れ、橋本の援護で小屋を出た今、

坂柳はようやく本当の意味で単独になっていた。

 

林の空気は湿っている。

葉の裏に残った露が風に揺れ、どこかで小さな虫の羽音がした。

 

だがその自然の音は、いまの坂柳に安らぎを与えない。

 

坂柳は振り返りもしなかった。

振り返れば、判断が鈍る。

 

橋本が何を思って残ったのか。

生き残る見込みをどこまで計算しているのか。

そんなものは今となっては関係ない。

 

彼は自分を逃がすために残った。

ならば、自分は逃げ切らなければならない。

 

それだけだ。

 

杖の先が土を突く。

 

ずぶ、と湿った音がする。

 

もう少し速度を上げたい。

だが身体がついてこない。

この足では走れない。地面の起伏を一つ越えるだけでも、

バランスを崩さないよう神経を使わなければならない。

 

普通の人間なら、ここでようやく自分の弱さを呪うのかもしれない。

だが坂柳は、昔からそれを知っていた。

 

身体が不自由であること。

他人より遅く、他人より弱く、他人より不利であること。

それを前提に戦い方を組み立てるのが、自分の生き方だった。

 

ただ――この試験では、その前提があまりにも重い。

 

知略で覆せる範囲を、純粋な暴力が簡単に突き破ってくる。

どれだけ先を読んでも、相手が銃を持ち、こちらが走れない以上、

詰みに近い局面はいくらでも生まれる。

 

だからこそ、いま坂柳は冷静に理解していた。

神室や橋本がいなければ、すでに終わっていたかもしれない、と。

 

その瞬間だった。

背後で枝が折れる音がした。

 

坂柳の足が止まる。

近い。

かなり近い。

 

足音は一つ。

勢いをつけて追ってきたというより、

確実に仕留める距離まで気配を殺して近づき、

最後の数歩だけ重さが漏れた足取りだ。

 

橋本ではない。

橋本なら、ここまで音を潜める必要がない。

 

坂柳はゆっくり振り返った。

 

そこに立っていたのは、白石飛鳥だった。

 

制服は爆風と土で汚れ、頬には細い切り傷が走っている。

左腕の袖は裂け、そこから見える皮膚にも擦過傷がある。

小屋での戦闘と爆発をくぐってきた痕跡は明らかだった。

 

それでも、その両手にはしっかりとショットガンが握られている。

近距離での制圧力なら最悪の部類の武器。

至近距離で撃たれれば、坂柳の身体では防ぎようがない。

 

「……見つけました」

 

白石が言った。

 

呼吸は荒い。

だが目はまだ死んでいない。

 

追跡に成功した興奮と、ここで獲物を仕留められるという確信が、

はっきりとその目の奥にあった。

 

「逃げ足、遅いですね」

 

坂柳は答えなかった。

 

ただ白石を見た。

 

距離はおよそ三メートル。

 

遠くはない。

近すぎる。

 

この間合いは、ショットガンの勝ちだ。

 

散弾は広がる。

こちらが飛び込む前に、引き金一つで終わる。

 

坂柳は自分の呼吸を整えた。

 

杖をつく左手。

重心の位置。

地面の湿り気。

白石の足幅。

銃口の高さ。

引き金へかかった指。

 

見るべきものは多い。

だが、考える時間はない。

 

白石がゆっくりとショットガンの銃口を持ち上げた。

 

その動きに迷いはなかった。

脅しではない。

本気で撃つつもりだ。

 

「諦めました?」

 

白石が笑う。

 

その笑みは、余裕から来るものというより、

ようやく自分が優位に立てたことへの安堵に近かった。

この試験の中で、彼女もまた怯え続けてきたはずだ。

だからこそ今、明確に勝てる相手を前にして、やっと強気になれている。

 

人は、そういう時ほど視野が狭くなる。

 

坂柳は静かに言った。

 

「いいえ」

 

白石の眉がわずかに動く。

 

「じゃあ、どうするんです?」

 

撃鉄が上がる。

 

金属音。

カチリ、と短く乾いた音が林の静寂に刺さる。

 

坂柳の全身に緊張が走る。

 

ここだ。

 

この瞬間しかない。

 

白石の指が引き金を絞る動作に入るより先。

銃口が完全に固定されるより先。

相手が撃てると確信しきるより先。

 

坂柳が動いた。

それは大きな動作ではなかった。

 

走ることはできない。

飛び込むだけの脚力もない。

だが、それは必要ではなかった。

 

必要なのは、ほんのわずかに「線」を外すことだけだ。

 

杖を支点に、身体を半歩だけ流す。

 

白石が引き金を引いた。

轟音。

ショットガンが火を噴く。

 

散弾が坂柳のいた位置を薙ぎ、背後の木の幹を抉った。

樹皮が弾け、木屑が飛び散る。

太い幹に深い傷が刻まれ、破片が雨のように落ちた。

 

当たれば終わりだった。

 

だが坂柳は、そこにはいない。

 

完全に避けたわけではない。

弾道の中心から、ほんのわずかに外れただけだ。

 

白石の目が見開かれる。

坂柳は、そのまま懐へ入る。

 

足が遅い。

身体は弱い。

ならば、相手が撃った直後の隙へ入るしかない。

 

白石がショットガンを引き戻そうとした瞬間、坂柳の右手が銃身へ触れた。

 

止めない。

押し返さない。

流す。

 

合気道の理合は単純だ。

力で争わない。

相手の力と動きを受け、方向を変え、重心を奪う。

 

坂柳の手が銃身を横へ逸らす。

同時にもう片方の手が白石の手首へ絡む。

 

「っ!?」

 

白石が息を呑む。

 

自分の腕が予想外の方向へ引かれたことで、肩のラインが崩れる。

ショットガンは重い。撃った直後ならなおさらだ。

その重さが白石自身のバランスを壊す方向へ働いた。

 

坂柳は一歩だけ踏み込む。

杖を滑らせるように地面へ預け、体重を預ける。

 

白石の肘。

肩。

腰。

 

力の流れが見える。

 

その流れを断ち切るように、坂柳は身体をひねった。

白石の重心が前へ落ちる。

そこへ、さらに手首を引き、肩を押し、身体全体を回す。

 

投げ技。

 

坂柳の腕力ではない。

白石自身の体重と勢いを、崩れた重心の方向へ落としただけだ。

 

それでも、合気道の効果は十分だった。

 

白石の足が一瞬浮き、支えを失う。

なにをされたのか分からないまま体勢を取り戻す間もなく、前方へ崩れ落ちる。

 

ドンッ、と鈍い音。

肺の空気が一気に抜けたのか、白石の口から詰まったような声が漏れた。

 

「かはっ……!」

 

ショットガンが手から滑り落ちる。

 

だが白石も、そこで終わるほど甘くはなかった。

地面へ落ちたまま、反射的に腕を伸ばす。

ショットガンへ。

その一瞬の判断だけは、まだ死んでいない。

 

坂柳はそれを予期していた。

 

杖を拾う動作すら後回しにする。

先にショットガンへ手を伸ばした。

白石の指先が銃床へ触れる。

同時に坂柳の手も届く。

 

奪い合い。

 

普通なら、坂柳が勝てるはずのない力の差だ。

 

白石の顔に勝ちを確信した色が戻る。

だが坂柳は、そこで力をぶつけなかった。

 

引かない。

押し返さない。

 

相手が引く方向へ、あえて少しだけついていく。

白石の身体が、その反作用でさらに前へ流れる。

 

「……え」

 

その一瞬の戸惑い。

 

坂柳の左手が、迷いなく伸びた。

白石の長い髪を、根元から軽く掴む。

 

強くはない。

だが、逃げ場のない方向へ引かれたその力は、鋭い痛みとして神経を走る。

白石の顔が歪み、反射的に身体が止まった。

 

「不用意に長いですね」

「痛っ、やめ……!」

 

その隙を逃さず、坂柳は手にしていた杖を滑らせる。

流れる髪を掬い上げるように巻き取り、細く絡め取った。

軽く捻るだけで、逃げようとするたびに頭皮へ強い痛みが走る。

 

白石の目が細くなる。

次の瞬間、懐から引き抜かれたナイフが躊躇なく振るわれた。

 

絡め取られた自らの髪を、まとめて断ち切る。

断たれた束が地面へ散り、拘束は一瞬で解けた。

そのまま白石は一歩引き、ナイフを構え直す。

その目に宿る熱は、先ほどまでのそれとは明らかに違っていた。

 

刃渡りは短い。だが、扱いに慣れていることは一目で分かる。

無駄のない握り。刃の向き。踏み込みの角度。

 

坂柳は一瞬でそれを見抜く。

白石はナイフでの近接戦に移行するつもりだ。

 

「……やるではないですか」

 

低く、静かな声。

 

呼吸が整っている。

視線がブレていない。

足の運びが、無駄なく重心を支えている。

 

先ほどまでとは別人だった。

 

「正直、ちょっとあなたのことを舐めていました」

 

ナイフを軽く構え直す。

刃先は揺れない。

手首も固まっていない。

いつでも角度を変えられる柔軟さがある。

 

「でも、もう分かりました」

 

白石は一歩、踏み込む。

 

「あなた、普通ではありません」

 

その瞬間、地面を蹴った。

 

速い。

一直線ではない。

わずかに軌道をずらしながら、最短距離で間合いへ入る。

 

ナイフが振り下ろされる。

 

わずかに軌道がずれた。

狙いは急所ではない。

だが、浅く確実に届く角度。

 

布が裂ける音。

坂柳の腕をかすめ、さらに脇腹を薄く抉る。

熱を帯びた痛みが、一瞬遅れて神経を走った。

 

「……っ」

 

呼吸がわずかに乱れる。

ほんの一瞬、動きが鈍る。

 

その反応を、白石は見逃さなかった。

 

「当たるじゃないですか」

 

嬉しそうに、口元が歪む。

獲物に刃が届いた手応えを、確かに感じ取っていた。

 

しかし、坂柳は動じない。

半歩、ずれる。

刃が空を切る。

 

白石はそのまま終わらない。

振り下ろしから、即座に横薙ぎへ。

さらに手首を返し、突きへ移行する。

 

連撃。

しかも速い。

 

坂柳は杖を滑らせる。

 

カンッ――!

 

ナイフの軌道を、最小限の動きで弾く。

弾きすぎない。力を逃がしすぎない。

 

ただ、刃の進む方向だけを逸らす。

 

白石の眉がわずかに動く。

 

止められたのではない。

流された。

 

それを理解したからだ。

 

「……面白いですね」

 

白石がさらに踏み込む。

 

今度は低い。

腰を落とし、下から斬り上げる軌道。

 

視界の外から来る刃。

だが坂柳は、視線ではなく重心でそれを読む。

 

杖を下へ。

 

コツッ、と軽く触れる。

 

それだけで、ナイフの軌道がわずかに逸れる。

そのわずかなズレが、致命的な差になる。

 

坂柳は身体を傾けるだけで回避する。

 

そして――

 

「遅いですね」

 

白石の腕へ、軽く触れる。

ただの接触。

だが次の瞬間、白石の体勢が崩れた。

 

「……っ!?」

 

力で引いたのではない。

 

関節。

重心。

支点。

 

そのすべてを、ほんのわずかにずらされた。

踏み込みの勢いが、そのまま自分へ返ってくる。

白石の身体が前へ流れる。

 

坂柳は追撃しない。

ただ、位置を取る。

常に次の動きを封じる位置へ。

 

白石は理解していた。

 

この女は、力で戦っていない。

いや、力を使っているが、それを主軸にしていない。

 

相手の力。

相手の動き。

相手の意志。

 

それらを利用している。

身体的なハンデに影響を与えず、相手を支配する格闘技。

 

まさに、合気道の達人。

 

その言葉が頭をよぎる。

 

「……厄介ですね」

 

白石が距離を取る。

だが逃げない。

再び構える。

 

ナイフを低く。

視線を一点に固定する。

 

「ですが」

 

一歩。

 

「それ、ずっと通用すると思っていますか?」

 

踏み込む。

今度はフェイントが混ざる。

 

右。

左。

一瞬止まり、そこから加速。

刃の軌道が読みにくい。

 

だがそれでも坂柳は――動かない。

直前まで。

刃が届く、その一瞬でだけ動く。

杖が滑る。

 

白石の手首へ、ほんの一瞬触れる。

その瞬間、ナイフの角度が変わる。

 

「なっ……!?」

 

斬るはずだった軌道が、自分の身体から外れる。

力を入れた分だけ、制御が効かない。

 

坂柳は一歩だけ前へ。

距離を詰める。

白石の懐。

 

「近すぎ――」

 

言い終わる前に。

坂柳の杖が、白石の肩口へ軽く当たる。

 

押したわけではない。

置いただけ。

 

だがその位置が絶妙だった。

 

重心の真上。

バランスの中心。

 

そこへ触れられたことで、白石の身体がわずかに浮く。

 

次の瞬間。

崩れた。

 

ドンッ!

再び白石が地面へ叩きつけられる。

 

息が詰まる。

白石は即座に転がる。

その場に留まらない。

 

立ち上がる。

ナイフはまだ手にある。

 

だが――分かっていた。

 

勝てない。

理屈ではなく、本能がそう告げていた。

 

「……ふふ」

 

白石が小さく笑う。

 

坂柳有栖は、変わらない。

傷を少し負ったが、呼吸一つ乱れていない。

杖を軽く持ち直し、静かに立っている。

 

まるで最初から、結果が決まっているかのように。

 

「坂柳さん」

 

白石が言う。

 

「どこでそんな戦い方を覚えたんですか?」

 

坂柳は、わずかに首を傾ける。

 

「さあ」

 

そして、静かに答える。

 

「必要だったからでは?」

 

その一言。

 

それ以上の説明はない。

だが、それで十分だった。

 

手首の方向。

指のかかり。

体重の流れ。

 

力ではなく、支点を変える技だった。

 

だが――白石は止まらなかった。

 

転がるように体勢を立て直し、間を置かずに踏み込む。

ナイフの軌道が変わる。先ほどまでの直線的な斬撃ではない。

角度を刻み、わずかなズレで防御を外す、読みを潰すための刃。

 

適応している。

 

坂柳の最小限の動きに対して、最短ではなく当たる軌道を選び始めていた。

 

「……っ」

 

初めて、坂柳の処理が一瞬遅れる。

 

杖で逸らしきれない。

半歩では足りない。

 

一歩、大きく動くしかない。

 

刃が頬をかすめる。

続けざまに、胸元を浅く裂いた。

 

布が裂け、赤が滲む。

 

白石の目が鋭く細まる。

 

「今のは、避けきれてませんよ」

 

だが――

 

その大きな動きこそが問題だった。

 

本来、坂柳の戦い方ではあり得ない動作。

医者から一切の運動を禁じられていたその身体にとって、

その負荷は、戦闘とは別の意味で致命的になり得る。

 

呼吸が、わずかに乱れる。

 

ほんの一瞬。

だが確かに、命に触れるズレだった。

 

――だが。

 

白石には、もう一つ見えていなかったものがある。

 

落としたショットガン。

 

本来なら、即座に拾い直すべき最優先の武器。

それが、未だ地面に転がったまま放置されている。

 

なぜか。

 

答えは単純だった。

 

坂柳が、そこから遠ざけていたからだ。

 

攻防の中でわずかずつ位置をずらし、

白石の踏み込みを制御し、

常にショットガンから距離を取らせていた。

 

そして同時に――

 

自分だけが、自然な動きの中でその位置へ近づいている。

 

偶然ではない。

 

最初から組まれていた動線。

 

戦いながら盤面を整え、最終的な位置関係まで計算に入れる。

坂柳有栖にしか成立しない、頭脳をも含めた完璧な戦術だった。

 

坂柳は丁度よく近くに落ちていた白石のショットガンに視線を向ける。

 

白石の顔が凍りつく。

それはようやく、自分が狩る側から撃たれる側へ転落したことを理解した顔だった。

 

坂柳はショットガンを持ち上げた。

 

重い。

 

だが扱えないほどではない。

 

白石は地面を這うように後退しようとする。

足がもつれる。

爆発と格闘で疲労した腕がうまく動かない。

 

「待っ――」

 

その声は最後まで続かなかった。

 

坂柳の指が引き金を引く。

 

轟音。

 

至近距離の発砲音が、林の空気を叩き割った。

 

散弾が白石の頭部を貫く。

白石飛鳥の身体が大きく揺れ、そのまま力を失って崩れ落ちた。

 

動かない。

 

もう二度と。

 

坂柳はしばらく、その場に立っていた。

すでに戦いが終わったことなど、最初から分かっていたかのように。

 

ショットガンの反動が腕へ重く返る。

足元は不安定だ。

呼吸も乱れている。

 

それでも、倒れなかった。

 

林を吹き抜ける風が、髪を揺らす。

 

「……力は必要ありません」

 

誰に聞かせるでもなく、静かに呟く。

 

「崩せば、それで十分です」

 

その言葉は白石へ向けたものでもあり、自分自身への確認でもあった。

 

この試験では、自分の知略は通用しない場面が多い。

身体的な不利は消えない。

走れないことも、力がないことも、どうにもならない。

 

それでも。

 

まだ自分には使えるものがある。

それを確認できたことだけが、この勝利の意味だった。

 

その時、林の向こうからたった一発の銃声が響いた。

 

短い。

乾いた。

だが決定的な音。

 

坂柳の表情がわずかに変わる。

 

橋本か、西川。

 

まだ生きていた。

そして、どちらかがどちらかを撃った。

あるいは、相打ちか。

 

坂柳は数秒だけ目を閉じた。

 

戻るべきか。

その問いは一瞬だけ浮かび、すぐ消えた。

 

戻っても、たぶん間に合わない。

戻れば自分も終わるかもしれない。

そして何より、橋本は自分を逃がすために残った。

 

ならば答えは決まっている。

 

坂柳は杖を拾い、身体を支え直した。

 

ショットガンは持っていくべきか、一瞬だけ考える。

だが自分の腕力と機動力では、杖と両立させて運用するのは難しい。

弾数も不明だ。

 

坂柳はショットガンを白石の死体のそばへ残した。

同時にずっとかさばっていた大口径のリボルバーも捨てた。

 

自分が持つべき武器ではない。

それを冷静に理解していた。

 

「神室さんも、橋本くんも」

 

小さく呟く。

 

「私を逃がすために残ったのですね」

 

返事はない。

 

だが坂柳はそれ以上言葉を重ねなかった。

 

林の奥へ向き直る。

 

一歩。

また一歩。

 

遅くても。

 

この身体でも。

 

生き延びることだけが、今は彼らへの唯一の返答だった。

 

風が吹く。

第二日目が、ようやく終わろうとしていた。




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