Monster Hunter ~失ったもの、手に入れたもの~ 作:小松菜大佐
「うっ」
部屋に入ったあと、外にまで漂ってきていた匂いが三倍四倍になって俺に襲いかかってきた。俺は軽くうめいた後、口と鼻を押さえた。
「……お前、もしかして酒場に行ったことない?」
俺の反応を見たお兄さんが呆れたように言う。
「い、いや、そういう訳じゃないんだけどさ。お兄さんが見たかどうかはしらんけど、俺のいた所も酒場兼ギルドだったけど、完全に分けられてたからここまでキツい匂いは初めてなんだ……うっぷ」
「そうか。まあ、どうでもいいがな」
「なら言わせんな!」
「頼んでないぞ、思い返してみな」
「え……あ、ホントだ」
「残念だったな」
………。
「……なあ、話変えるけどさ」
「ん?」
「なんか、やたら騒がしくない?いや、俺の感覚だからそんなもんなのかは知らんけど」
俺は聞こえてくるやたらと興奮したような声がどうしても気になった。話が盛り上がって、というよりはアイドルが登場した後の野次馬が騒いでいるような感じに近い。目的があって……というべきか?
俺の言葉に、意外にも納得したらしいお兄さん。首を傾げている。
「……確かに、いつもうるせえけど今日は飛び抜けて五月蝿いな。なにかあったのかもしれんな」
「どうする?調べてみる?」
「いい。そんな暇はねえ」
「いつも暇なんじゃないの?俺にいっつも暇つぶしが云々って言うけど」
「わかってねえな。俺は、暇を作るために暇じゃねえんだ」
「……」
不思議な人だなあ、と俺は思った。
「……まあいいや。じゃあ受付に行けばいいの?」
「あー……ま、そうだな。基本的にマスターも受付にいるから……こっちだ。付いてこい」
「了解……って、そっち騒ぎの中心じゃない?」
親指をくいくいしてるその先、そこは多くの人が視線を向けている方向。
「んじゃあ、ちょうどいいじゃねえか。騒ぎの理由も知れて、同時に顔も出せる。一石二鳥だ」
「そんなもんかな……面倒事には巻き込まれたくないけど……ってだからさっさと行かないでくれって言ってるんだけど!?」
「そんな思考、時間の無駄だっつの。さっさと行くぞ」
この人、めんどくさがりで適当に見えて、かなり正論を叩きつけてくる。
(だからやりづらいんだよな……)
ひとりでステーキを切り分けているハンター、パーティ組んでクエストをクリアしたのか騒ぎまくっている3人組、酒に酔って喧嘩している二人。それらを謝り倒しながらかわして、ずんずん進んでいくお兄さんを追っかける。
ちょっと進んだ後、お兄さんが止まった。
「やっと着いたのか……って」
止まったお兄さんの背中からひょこっ、と様子を伺う。そこでは、予想もしなかった光景が。
「ゆ、床が砕けてる!?は、ハンマー!?な、なんなんだ!?」
「さあ、な。でも和気あいあいじゃない。それだけだ」
「それくらいわかるよ!?」
目の前では一人の少女が青年の前でハンマーを振り切り、鼻先を掠めていった後床に突き刺さっていた。その被害にあった石でできた床は、無残に砕け散っていた。かわいそうに。
(しかし……)
ハンターがハンターに向けて武器を振るう。それはかなり重大な行為であり、振るった側の少女がどれだけ怒っているかが証明されているようなもの。青年は一体なにをしたんだ……?
「ふざけたこと思ってるんじゃないわよ!」
そう怒鳴る少女は、その体と同じくらいの大槌……『ブロステイル』だろうか?角竜『ディアブロス』の素材を使ったハンマーだったはず。それを振り上げ、肩に担いだ。その重さに少女の体が確かに沈み込む。
その得物にばかり視線がいってしまうが、俺は少女自体にも目を奪われた。
これまたすっごい美人さんだったのだ。
シルフィードさんとは違う。どちらかというと可愛い系という奴なのだろうか?綺麗な顔、その中で怒りによってギラギラと輝きを放つ瞳は透き通るような蒼。狩りから帰ってきたばかりであるはずなのに髪はサラサラ、手ぐしを入れたら簡単に通りそうだ。
「あたしはあたしの実力で『闘龍士』になったんだからね!ね、ガノン?」
そう言うと、
「……無論です」
と、誰かが言った。皆の視線を探りながら誰かを探すか――――と思ったが、必要など無かった。
(でかっ!?)
簡単に見つけられるほど、その人は大柄だったからだ。
その大男が身にまとうものはディアブロシリーズ、その肩から周りを威圧するように生えた角が特徴的な、これまた角竜素材をふんだんに使った防具。そして担ぐ得物は飛龍の尾と見紛う程の大きな槍。
(あれって『ヘルファイア』!?すご……)
火竜の尾を中心にした火竜の素材を使った、他とは一風変わりかなり細身な槍身を持つランスだ。火竜の骨髄、火炎袋を使用し、目標を吹き出す炎で焼き殺す。鉄をも溶かすその炎は、時にハンターにまで危害を及ぼす。それから身を守るための大きな盾で、それはようやく一組となる。
(ああ、読めた)
俺はそこで理解した。あの青年の装備、俺と同レベルだ。おそらく俺と同じくらいの初心者で、あの少女がちやほやされるのを見て、でかい人の実力に守られてるだけと勘違いしたのだ。で、突っかかってハンマーで殴られかけた。
(おいおい、あの防具選択を見て何も思わないのか……)
俺は思わず、呆れの溜息をついてしまう。
少女は兜、胴鎧を付けていない。で、ハンマー。しかし、大男は完全防備で武器も防御特化と言えるランス。この二人はおそらく、長年チームを組んでいて、役割分担もできているのだ。だから、少女は胴鎧を付けずスピードを得た。大男がランスで耐えている内に回り込んでぶん殴る……って感じの戦法かな?この戦法はお互いがお互いを信頼していないとできない。つまり、この二人はほぼ同程度の実力を持っているということになる。
(そりゃあの娘も怒るわな……)
しかし、何よりも気になることが一つ。
あの煌く金髪、どこまでも突き抜ける蒼空のような瞳、綺麗に整った顔。陶器のような肌。
(どこかで、見たような。思い出せ……)
自分の脳裏に閃くビジョン。それは瞳と同じ青空の下、煌く金色の――――。
「……君」
「うわっ!?」
思考している俺は、後ろから突然聞こえてきた声に思わず驚いてしまう。
「おおっと、失礼しました。驚かせてしまったようですね」
「いえ、こちらこそ……」
そう言って、振り返ると……ふ、腹筋?
「初めまして、僕はフラディオ・ハートと申します」
丁寧な物腰とは裏腹(?)に、その姿はなかなか奇抜だった。
上半身、裸。
あの少女は胴鎧こそつけていなかったが、インナーはちゃんと着用していた。しかしこの人は違った。ほんとに何もつけてない。裸である。
男の方向から、ゴムの強いに匂いが漂ってきている……。暗い紫色といい、このゴムの匂いといい、おそらくこの人の防具はゲリョスシリーズだ。そして形からして、ガンナーか?
「ぼ……お、俺はタクト・シノカワっていいます。よろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いします。その格好からするに、これからハンターになるのかい?」
「いえ、僕も一応ハンターの端くれです。まだまだ若輩者ですけど……」
なぜだろう?この人の前では俺という一人称が使いづらい。その丁寧な言葉づかいのせいかな?
「ほほう、君のような若さでハンターに……。して、装備はどのようなものを?」
「ぶ、武器はハンターカリンガを。防具はクックを……」
「ほう!」
「!?」
ぎらり、とフラディオさんの目が輝いた気がした。
「同じ鳥竜種で、ゲリョスというモンスターをご存知ですか?」
「え、ええ。一応、戦ったことはないですが」
「惜しい!」
ズイッ!
「え」
「実に惜しい!!」
ズズイッ!
どんどんと顔を近づけてくるフラディオさん。その目はどんどんと輝きを増し、夜空の一等星のように煌めいていた。
「あれほどまでに愛らしいモンスターはこの世に存在しません!あの弾力のある皮の感触!水に濡れて艶やかに輝きを放つあの黒い肌!鶏冠の発する気を失うほどの輝き!息の詰まる毒息!芸術の域にまで達する死んだふり!それら全てを味わうべきです!!」
「は、はあ……」
ヤバイ、この人はヤバイ。俺の本能がそう告げている。
「……失礼。しかし、一度、今すぐにでも出会われる事をおすすめしますよ。お連れしたいのも山々なのですが、残念な事に僕もパーティを組んでいる身なので」
「ああ、またその時にはお願いします。で、そのパーティーのお相手……ってまさか」
この大喧嘩、人なら普通は近寄らないし、おそらくこの人の性格なら寄りもせず、ゲリョスに会いに行っている気がする。ということは。
「ええ、おそらくあなたの予想の通り。あそこのお嬢さんのパーティです」
「やっぱり……」
つーことは、この人、少女、大男の三人のパーティか。個性的だな……。
「おっと、それでは失礼します。またお会いする事を楽しみにしていますね」
そう言って、フラディオさんは去っていった。
「あのう……僕の紹介がまだなんですが……」
と思ったらあの騒ぎのど真ん中に入っていき、自己紹介を始めた。はぶられるのが寂しいのかな?なんだか可愛らしい人だな……あ、ホモじゃないよ?
この時点でWardのページ数:50ジャスト。
現在までに書いてページ数:73。
まだまだ余裕です(´∀`)
では、また来週