私は本を読みたいだけです   作:上条@そぉい!

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栞の二枚目

今日の夢は何処かと思えば、如何にもといった、中世風の場所だった。石を多用した建造物や、石像、道を歩く人々の服装。それらを加味して、ギリシャが元ネタだろうか?遥か先には天を突くサイズの石像が……

 

「何処かで見たと思えば、アトラスじゃないか」

 

 昔、海外の雑誌で似たような石像を見たことがあった。夢だからだろう、私の記憶と多少の差異はあったがサイズは遥かにこちらが上だ。

 

「中華、近未来と来て次は中世か……いいね」

 

 どんな本があるだろうか。街中で塀の上に立ち景色を見ている私を通行人が怪しげに視線をやっているが、今の私には効かない。

 

「嬢ちゃん、見掛けねえ顔だが観光客かい」

「んん?まぁ、そうかな?」

 

 そんな私に足元から声を掛けてくる人がいた。少し年老いた妙齢の男性だ。

 

「とりあえず、そこ降りな。仕事の邪魔だ」

「おっと、失礼」

 

 スタッと、塀から飛び降りる。そんな私を横目に、男性はキャンパスを立てかけ、椅子に座り絵描き道具を並べ始める。

 

「黒炭にパン屑……鉱石とか、顔料は使わないのかい?」

 

 ふむふむと、並べている様子を見ながら尋るが、男性は片眉をあげ訝しむ。

 

「黄金裔に仕えるような絵師ならあるかもしれねぇが……生憎貧乏でな、そんな高級品はねぇよ」

「ふーん……あ、そうだ。本を探してるんだけど、本がある場所って知ってる?」

「本?」

「うん、出来ればいっぱいあるところ」

「そりゃ、多くとなれば神悟の樹庭しかないだろうな」

 

 そう言って方向を指差すので、私はその方角を目指し歩く事にした。道すがら横切る人たちの会話を盗み聞く限り、ここはオクヘイマと呼ばれる場所らしい。石作りの建物が並び、陽の差し込む光と合わせてまるで神話の中にいるようにも感じられる街だ。少し過剰な金糸の装飾が目立つが、何かのおまじないだろうか。風に揺られて私にも絡みつこうとしてくるのでヒラヒラと避けながら街を抜け、ひとっ飛びで目的の場所へ到着した。

 

「うん、さすが夢。都合が良い」

 

 目的の本を探すため、樹庭を歩く。本棚が至る所にあり、目を惹くものから一冊の本を取り出し、本棚に寄りかかり読み耽る。

 

「へぇ……」

 

 内容は神と人の差異。神とは、という随分と既存概念にメスを入れるような内容だった。著者は神というものを随分と懐疑的に見ていたようで、その本質は人と変わらないと推測していたように見える。

 

「うん、うん」

 

 本を通して、著者と会話する。何を伝えたくて、何を考えてほしいのか。詳しい理論についても書かれていたがそちらは雰囲気だけしか掴めない。しかし。

 

「ふふ、面白い人だね」

 

 新しい何かとは破壊無くしては生まれない。そんな思想が見えてきたように思えた。そうして、読み終える頃だった。

 

「随分と楽しそうに読んでいましたね、どうでしたか?」

 

 爽やかな読後感を味わいながら、本を閉じた私に、声を掛けてきた者がいた。

 

「面白かったよ、これを書いた人は随分と捻くれた人だね」

 

 眼帯をつけた神経質そうな男だ。腕を組み、こちらを見ていた。

 

「私がいくら声を掛けても無反応でしたからね。真剣に読んでいたのは見ていて理解できましたが、どう思いましたか?」

「うん?」

「その本を読んで、どう思いましたか」

 

 どう思った、か。

 

「この本の著者と違って、私の神というものに対する見解は違う」

「ふむ」

「神とは居るものではなく、或るものだ。古来より人は理解できないものを神とする事があるけど」

 

 天候であり、災害であり、未知であり。理解できないものを理解できるものへ貶める行為。それを研究と称するのだと。

 

「人はきっと、その好奇心で神を理解できるものへと堕とす。それが叡智であり歴史だと思うよ」

「──貴女、名前は」

「ボクは読書家、そう呼ばれてるよ」

 


 

 その日は研究続きで煮詰まってきた頭を冷やすため、ピュエロスに浸かろうかと歩いていた。しかし、その道中にて書庫への扉が半開きになっているのが見えた。誰かが閉じ忘れたのだろう。何気なく閉めようと扉に手をかけた時、書庫に誰かがいる事に気がついた。

 

「──誰ですか」

 

 いるなら扉を閉めなさい。そんな風に注意をしようと顔を覗かせ、言葉に詰まる。そこにいたのは女性だ。見たこともない女性。しかし、まるで玩具を与えられた童女のように楽しそうに本を読んでいる姿に言葉なく見惚れた。よく見れば、読んでいるのは自身が書いたもの。

 何故ここに居るのか。何故その本を読んでいるのか。何者なのか。疑問が浮かんでは消えていく。声をかけるのも憚られ、無言で扉を閉めて壁に寄りかかる。聞きたいと思った。

 目の前の女性は、私の本を読んでどう思うのか。冒涜的だと怒るか、或いは非難するか。それとも理解できないとサジを投げるか。どんなものなのか、好奇心が顔を覗かせていたのだ。

 

「──」

 

 だからだろうか。思いもよらない答えが返ってきて、言葉に詰まったのは。真の意味で理解できる者など居ないと思っていた。ファイノンなどの教え子も全てを理解できたとは思わない。そういうものだと。

 

「貴女、名前は?」

 

 読書家。そう返ってきて、口の中で幾度もその名前を転がす。

 我々は知恵と尊厳を持つ人間である。そんな当たり前を肯定してもらえたような気がして。

 

 






読書家
この人の書く本は面白いなぁ、と思っている。数式や理論を理解しているわけではないが、それを通して何を伝えたいのかを理解し、その思想を燻らせることを楽しんでいた。


アナイクス改めてアナクサゴラス
心の何処かで自分には現れないであろうと考えていた賛同者、或いは理解者がいた事に脳を焼かれた人。
そうとも。人は未知を踏破し遥か宙にもいつの日か届くのだ。

金織卿
突然現れた怪しい人物を調べようとするも、明らかにこちらの糸をすり抜けていく様子に驚き。脅威になるやも、と師匠達に情報共有をしている。

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