武術の王『虎杖悠仁』   作:やめろ小僧、その技は俺に効く

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禪院直哉や

 

 

 

 九陽神功。

 

 それは如来神掌と同様に、時代の流れの中で失われた“武術”の一つである。術式とは異なり、呪力を媒介としない体系でありながら、肉体そのものを極限まで高め、内側から変質させることで常識の外に到達する術理を持つ。

 

 ただし、その到達条件は明確に狂っている。

 

 ()()会得するためには、生と死の境界を越える必要がある。

 

 経絡の開通。

 

 それは単なる鍛錬では到達し得ない段階であり、肉体の機能が一度完全に断絶し、その上でなお巡りを取り戻すという矛盾を内包している。死を起点としなければならないという点において、それは武術でありながら、既に武術の枠を逸脱していた。

 

 だが——如来神掌ほど露骨に理を踏み外したものではない。

 

 理屈はある。

 

 到達すれば、結果も伴う。

 

 無限に近い体力の循環、外部からの衝撃に耐える金剛不壊の肉体、そして損壊を前提としながらも成立する自己再生能力。それらは決して奇跡ではなく、すべて“流れ”の制御によって説明される。

 

 もっとも、それを実現できる者が存在しない限り、理屈に意味はないのだが。

 

 ——そして今、その理屈が現実へと現れていた。

 

 そこは京都コロニー外縁部、禪院直哉が源頼光に叩き潰された場所——人の営みが完全に途絶えたその一角には、戦闘の痕跡だけが不自然な静寂の中に取り残されていた。

 

 壁面には衝突の跡が深く刻まれ、放射状に広がった亀裂がその威力を物語っている。地面には肉片と骨片、そして臓物が散乱しており、それらを囲うように乾ききらない血が黒く染みついていた。時間の経過を考えれば、本来ならば既に腐臭が立ち込めていてもおかしくはない。だが、この場所にはそれがない。

 

 異様な静けさ。

 

 そして、僅かな変化。

 

 最初に血が消えた。

 

 蒸発というよりも、溶けるように輪郭を失い、空気へと溶け込むように消えていく。赤黒い色は淡くなり、やがて金色の微かな光を帯びながら、風に吹かれるように散っていった。それはまるで、初めから存在しなかったかのように痕跡を残さず消滅する。

 

 次に、肉と骨と臓物が動いた。

 

 ばらばらに散らばっていたはずのそれらが、引き寄せられるように微かに震え始める。重力とは異なる何かに従い、少しずつ位置を変え、互いに接近していく。断片だったものが線となり、線が面となり、やがて形を取り戻していく。

 

 その過程は決して速くはない。

 

 だが確実だった。

 

 欠けた部分が埋まり、潰れた箇所が再構成され、骨格が組み上がり、肉がそれを覆い、内臓が配置される。そのすべてが、金色の淡い光を伴いながら進行していく。まるで設計図に従って組み立てられるかのように、破壊されたはずの肉体が“正しい形”へと戻っていく。

 

 やがて、それは一つの形を成した。

 

 人間。

 

 完全な人間だった。

 

 だが、どこかが違う。

 

 体毛が一本も存在しない。頭髪すらもなく、肌は均一で、外界に晒された痕跡が一切ない。服もなく、装飾もなく、ただ肉体のみがそこに在る。その姿は、成長した人間でありながら、どこか生まれたばかりの存在のようでもあった。

 

 禪院直哉、再誕。

 

 ゆっくりと、その瞼が開かれる。

 

 焦点の合わない視線が空を捉え、次いで周囲へと移る。光を認識し、距離を測り、形を理解する。その一つ一つの過程が、どこかぎこちなく、しかし確実に進んでいく。

 

 「あれ、なんやこれ」

 

 第一声は、それだった。

 

 状況を理解しようとする意思はある。だが、言葉と認識が噛み合っていない。直哉は上体を起こし、周囲を見渡す。壊れた壁、削れた地面、何もない空間。そのすべてを視界に収めながら、どこか新鮮なものを見るような目をしていた。

 

 次に、自分の手を見る。

 

 ゆっくりと持ち上げ、指を開く。

 

 閉じる。

 

 もう一度開く。

 

 関節の動き、筋肉の収縮、皮膚の感触。それら一つ一つを確かめるように、慎重に動かす。

 

 「なんやこれ……すごい気持ちええなぁ」

 

 その声には、純粋な感嘆が混じっていた。

 

 痛みはない。

 

 違和感もない。

 

 むしろ、かつて感じたことのないほどに滑らかで、淀みのない感覚が全身を満たしている。血の巡りも、神経の伝達も、何一つ引っかかることなく通っている。

 

 直哉はゆっくりと立ち上がる。

 

 足裏が地面を捉える。

 

 その瞬間、重心の位置、筋力の配分、反応の速度が一斉に頭の中へと流れ込んでくる。考えるよりも先に、身体が理解している。

 

 「……はは」

 

 小さく笑う。

 

 理由は分からない。

 

 だが、可笑しかった。

 

 理解できないことが、妙に心地いい。

 

 そして、その奥底で——

 

 かつて抱いた渇望が、形を変えて蠢いていた。

 

 あっち側。

 

 その言葉の意味が、今この瞬間、別の形で繋がり始めていた。

 

 そうして直哉はゆっくりと歩き始めた。空を見上げながら、薄らと笑みを浮かべ、その笑みが消えることはないまま、足取りだけが異様に一定の速度で進んでいく。焦りはない。目的もまだ定まっていないはずなのに、進むという行為そのものに意味を見出しているかのようだった。

 

 その歩みは静かで、しかし確実に地面を踏みしめている。踏み出すたびに、肉体の内部で何かが巡る感覚がある。血流とも違う、呪力とも違う、だが確かに“動いている”と分かる流れが、直哉の全身を満たしていた。

 

 「……ええなぁ」

 

 ぽつりと漏れる声は、誰に向けたものでもない。自分自身の内側に対する感想に近い。手を軽く開き、閉じる。その単純な動作一つで、筋肉の収縮が滑らかに繋がり、無駄が一切ないことが分かる。力を込める必要がない。動こうとすれば、その通りに動く。

 

 それが、ただ気持ちいい。

 

 直哉は空を見たまま笑う。

 

 じっとりとした、粘つくような笑みだった。

 

 その先には、京都コロニーの結界があった。視認できるわけではないが、空間の歪みとして確かに存在するそれは、近づくほどに境界の気配を強くする。

 

 直哉は歩みを止めない。

 

 何の躊躇もなく、そのまま距離を詰める。

 

 そして結界のすぐ手前で——

 

 ひゅん、と音もなく、直哉の側に一つの存在が現れた。

 

 「よぉ!俺はコガネ!この結界の中では死滅回游って殺し合いのゲームが開催中だ!一度足を踏み入れたらお前も游者!それでもお前は結界に入るのかい!?」

 

 甲高い声でまくし立てるコガネ。その役割は明確で、侵入者に対する警告と説明。だが直哉は視線すら向けない。まるでそこに何もいないかのように、その存在を完全に無視していた。

 

 「……」

 

 足が止まることはない。

 

 ただ一歩、踏み出す。

 

 トプンッ、と空間が揺れる。

 

 水面に触れたような感触と共に、直哉の身体は結界の内側へと沈み込んでいく。その動作に迷いはなく、確認もなく、ただ“入る”という結果だけがそこにあった。

 

 結界は再び静かに閉じる。

 

 外界と内界を分かつ境界が、何事もなかったかのように元へ戻る。

 

 そしてその頃——

 

 定食屋で腹拵えを済ませた虎杖悠仁、禪院真希、源頼光の三人は、会計を終えて店外へと出ていた。暖簾をくぐり、夜気に触れた瞬間、店内の温もりが一気に遠ざかる。

 

 「ふぅ〜食った食った。で、これからどうする?」

 

 虎杖が腹を軽く叩きながら言う。その表情には満足感が浮かんでいるが、同時に次へ向かう意識もすぐに切り替わっていた。

 

 真希が一歩前に出る。

 

 「当初の目的は恵の姉を死滅回游から離脱させる事と、獄門疆に封印された悟の解放だ。京都コロニーは既に頼光が点を稼いでるから、入ったら出れなくなる可能性がある。だからこのまま南下して別のコロニーに行くのが筋だが……」

 

 そこで言葉が止まる。

 

 頼光が口を開いたからだ。

 

 「京の結界の中には私の部下がいる」

 

 淡々とした声音だったが、その内容は無視できないものだった。

 

 「部下?」

 

 虎杖が聞き返す。

 

 「金時だ。奴も点を持っている」

 

 短く答える頼光。その言葉に迷いはない。

 

 真希が眉を寄せる。

 

 「信用できるのか?」

 

 「できる。少なくとも、私の命令には従う」

 

 断言だった。

 

 そして頼光は視線を少し上に向ける。

 

 「コガネ」

 

 呼びかけに応じるように、空間が歪み、烏帽子を被ったコガネが現れる。

 

 「お呼びですか!」

 

 「京都結界の游者を参照しろ」

 

 「承知!」

 

 即座に応じ、コガネの前に光の映像が展開される。無数の名前が縦に並び、スクロールされるように流れていく。その中で、一番上に表示された名前。

 

 合田勇次郎。

 

 「ごうだゆうじろう?この人が金時って人なのか?」

 

 虎杖が首を傾げる。

 

 頼光が頷く。

 

 「そう。私たちは現代の人間に受肉している。表示されるのは元の肉体の名前よ」

 

 「なるほど」

 

 虎杖は腕を組み、少し考える。

 

 「……よし、じゃあ金時って奴に点を使ってもらおう。追加するルールは……そういえば乙骨先輩から連絡はあった?」

 

 真希が首を振る。

 

 「いや今のところねぇな。結界に入ると電波が絶たれる。まぁアイツは心配いらねぇだろう。問題は東京に残ってる連中だ」

 

 「伏黒と釘崎かぁ」

 

 虎杖の声が少しだけ低くなる。

 

 真希が続ける。

 

 「秤と合流できたとしても、東京第二コロニーにいる天使を探さないといけないからな」

 

 その言葉に、虎杖は一瞬だけ黙る。

 

 「俺戻ったほうがいいか?」

 

 提案だった。

 

 だが軽く言ったわけではない。

 

 真希は視線を逸らさず、少し考える。

 

 「んー……」

 

 即答はしない。

 

 状況は単純ではない。

 

 どこに戦力を割くべきか、それを見誤れば全てが崩れる。

 

 「虎杖くんは私と闘う約束よ?行っちゃダメ」

 

 源頼光が言いながら、虎杖悠仁の肩をがっしりと掴んだ。その手は細く見えるにも関わらず、握力は異様に強く、ただ触れているだけで逃がさないという意思が伝わってくる。距離も近い。顔を覗き込むような位置取りで、視線が逸れることを許さない。

 

 虎杖は一瞬だけ困ったように眉を下げたが、すぐに軽く肩をすくめた。

 

 「ということみたいです、真希さん」

 

 どこか諦めたような、しかし完全に拒絶しているわけでもない声音だった。頼光の性質を理解し始めているからこその対応であり、無理に引き剥がそうとしても意味がないと判断している。

 

 真希はそんな二人を見て、鼻で小さく笑う。

 

 「まぁ東京の連中なら大丈夫か……」

 

 呟きながら視線を前に戻す。現状を冷静に整理し、優先順位を決める。その思考は一瞬で終わる。

 

 「よし、行くか」

 

 短くそう言って歩き出した。

 

 躊躇はない。

 

 その背を追うように、虎杖と頼光も動き出す。頼光の手は既に虎杖の肩から離れているが、その視線はずっと虎杖に向けられたままだった。まるで獲物を見失わないようにする捕食者のように、意識の中心がそこに固定されている。

 

 やがて、視界の先にそれが見えてくる。

 

 京都コロニーの結界。

 

 空へと伸びる巨大な筒状の壁は、物理的に存在しているわけではない。それでも確かに“そこにある”と分かる圧があり、空間そのものが歪んでいる。半径約六キロにも及ぶ広大な範囲を覆うその結界は、外界と完全に隔絶された領域を形成していた。

 

 近づくにつれ、空気が変わる。

 

 密度がわずかに上がり、肌に触れる感覚が重くなる。通常の術師であれば、その境界に触れる前に意識を向けざるを得ないほどの違和感だ。

 

 真希は足を止めない。

 

 そのまま歩み寄り、何の構えもなく手を伸ばす。

 

 結界に触れる。

 

 そして、そのまま通過した。

 

 トプン、と水面に触れたような感触だけが一瞬だけ空間に残るが、抵抗は一切ない。拒絶もない。まるでそこに境界など存在しないかのように、真希の身体は自然に内側へと滑り込んでいく。

 

 「そういや真希さんコガネいなくね」

 

 虎杖が後ろから声をかける。

 

 通常であれば、結界に近づいた時点でコガネが現れ、説明と確認を行うはずだ。それがないことに違和感を覚えたのだ。

 

 真希は振り返らずに答える。

 

 「もう私に呪力はねぇからな。真依が全部持っていったお陰で、呪力に反応するものは全部素通りだ」

 

 淡々とした口調だった。

 

 だがその内容は重い。

 

 呪力を完全に失ったという事実。それは術師としての枠から外れることを意味する。だが同時に、この死滅回游という“術式の檻”に対しては例外的な存在となる。

 

 虎杖は小さく頷く。

 

 「なるほどな……」

 

 理解はした。

 

 だが、それがどれほど異常な状態なのかも同時に分かっている。

 

 頼光はそのやり取りを横目に見ながら、わずかに口角を上げる。

 

 「面白いわね」

 

 短く呟く。

 

 興味の対象は明確だった。

 

 虎杖だけではない。

 

 真希という存在もまた、彼女にとっては観察に値する“異質”だった。

 

 そして三人は結界の前に並ぶ。

 

 わずかな静寂、そして外界と内界の境界線。

 

 その向こうには、既にいくつもの命が削られ、いくつもの思惑が渦巻いている戦場が広がっている。

 

 虎杖が一歩踏み出し、頼光も同時に動く。

 

 結界に触れる。

 

 トプン、と空間が揺れる。

 

 そのまま二人の身体が内側へと沈み込んでいく。

 

 外の空気が切り離される。

 

 景色が変わる。

 

 そして——誰もまだ知らない。

 

 その内側に、既に“別の異物”が入り込んでいることを。

 

 

 そして結界内部——京都コロニー内には、一つの避難区域が存在していた。

 

 死滅回游という狂った殺し合いの中で、戦う力を持たない非術師達、あるいは術式に目覚めたとしても人を殺す覚悟を持てなかった者達を集め、最低限の安全を維持するために作られた場所である。元は大型商業施設だった建物を利用したそこには、簡易的なバリケードや呪具による警戒線が張り巡らされ、疲弊しきった人々が肩を寄せ合うように身を寄せていた。

 

 泣き声は少ない。

 

 既に泣き疲れているからだ。

 

 代わりに聞こえるのは、小さな話し声、浅い呼吸音、そして時折響く遠方の破壊音。それらが混ざり合い、この場所が辛うじて“人間の生存圏”であることを示している。

 

 その入り口に、一人の男が立っていた。

 

 坂田金時。

 

 身長二メートルを超える巨躯に、袖と裾が弾け飛んだ黒い学ランを纏い、露出した腕と首筋には分厚い筋肉が浮き上がっている。逆立った赤い怒髪は獣の鬣のようであり、その場に立っているだけで周囲の空気を押し潰すような圧があった。

 

 腕を組み、壁にもたれかかるように立つその姿は、一見すれば無防備に見える。だが実際には違う。重心は既に落ちており、視線を閉じていても周囲の気配を完全に把握していた。

 

 だからこそ、男はゆっくりと目を開いた。

 

 視線の先。

 

 人気の消えた道路の奥から、一人の男が歩いてくる。

 

 全裸だった。

 

 いや、正確には“裸であることを気にしていない”と言った方が近い。羞恥も警戒もなく、月光の下を当たり前のように歩いてくるその姿には、人間が持つべき感覚のいくつかが欠落していた。

 

 「……」

 

 金時は何も言わず、その男を見据える。

 

 男——禪院直哉もまた、視線を返しながら歩みを止めない。裸足でアスファルトを踏みしめるたび、筋肉と骨格が滑らかに連動し、異様なほど自然に身体が動いている。

 

 その様子を見た瞬間、金時の眉がわずかに寄った。

 

 気持ち悪い。

 

 まず最初に抱いた感想がそれだった。

 

 呪力は感じる。だが、その巡り方が普通ではない。術師のように練り上げられた流れでもなく、呪霊のような濁ったものでもない。肉体の奥底で別種の“循環”が発生している。

 

 しかもそれが、異様に安定していた。

 

 「おい、そこの者」

 

 金時が低い声を出す。

 

 怒鳴ったわけではない。それでも声が響いた瞬間、周囲の空気が震えた。避難区域の内部にいた者達が無意識に肩を縮め、入り口付近の人間が反射的に息を呑む。

 

 直哉は止まらない。

 

 むしろ、口元をゆっくりと歪めた。

 

 「なんやここ、人がぎょうさんおるなぁ」

 

 声音は柔らかい。

 

 だが、その柔らかさが逆に不気味だった。

 

 以前の直哉にあった刺々しい傲慢さは薄れている。代わりに、じっとりとした粘つきのようなものが混ざっていた。言葉を発するたびに、空気に薄い膜が張るような違和感がある。

 

 金時は腕を組んだまま動かない。

 

 しかし視線だけは鋭く細まっていく。

 

 「止まれ」

 

 静かな警告だった。

 

 その瞬間、周囲の空気がわずかに張り詰める。避難区域内部にいた術師達も異常を察知し始め、建物の奥から複数の視線が向けられる。

 

 だが直哉は笑ったままだ。

 

 「ええやん別に。仲良くしよや」

 

 軽く言いながら、更に一歩踏み出す。

 

 その瞬間。

 

 ドクン、と音が鳴った。

 

 心臓の鼓動に似ている。

 

 しかし違う。

 

 それは胸だけではなく、全身から響いていた。筋肉、骨、皮膚、その全てが脈打つように震え、内部を巡る何かが共鳴している。

 

 金時の表情から笑みが消える。

 

 初めて、明確な警戒が浮かんだ。

 

 「……貴様、なんだ?」

 

 問いながら、金時の重心が更に沈む。踏み込み一つで相手を粉砕できる位置まで、既に身体が移行していた。

 

 直哉はそこでようやく立ち止まる。

 

 そして、自分の胸に手を当てた。

 

 鼓動を確かめるように。

 

 巡りを撫でるように。

 

 「俺?」

 

 そこで言葉が途切れる。

 

 直哉自身、理解していなかった。

 

 自分が何になったのか。

 

 何を得たのか。

 

 何故こうして立っているのか。

 

 だが一つだけ、確かなことがある。

 

 今の自分は、とても心地いい。

 

 全身の内側を巡る熱が、これまで感じたどんな快楽よりも濃密だった。

 

 「……禪院直哉や」

 

 ゆっくりと名乗る。

 

 その笑みを見た瞬間、金時は本能で理解した。

 

 目の前にいる男は、既にどこか壊れている。

 

 だが同時に——異様なまでに強い。




金時「変態……?」
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