ほんの少しだけ時を遡り、ピッコロ達が到着するよりも前。
今まさに17号が怪物と戦って……いや、一方的にやられてしまっている状況で、人造人間16号と18号は物陰に隠れて奇襲する機会を窺っていた。
「あ、あれが……セル……!!」
「ま、待って! ダメだ! 無策で飛び出して勝てる相手じゃない!!」
「でも、早くしないと17号が……!! 聞いてただろ? アイツ、私達を吸収するつもりだって……!!」
正確に言えば、すぐにでも飛び出そうとする18号を、16号が必死に制止しているという状況。
17号が良いようにやられて黙っていられる程18号の気は長くない。
それに、18号が言うように、セルがいつ17号を吸収してしまうのか分からない。
それでも……今ここで18号が飛び出していったとして、二人で相手をしたとしてセルに勝てるという保証もない。
それをパワーレーダーを唯一搭載されている16号だけが理解していた。
「わ、分かった……だったら、わ、私が戦う……!!」
「なっ……アンタは……」
「わ、私だって人造人間、だから……少しは時間稼ぎ出来る、と思う……だから、その隙に、18号は17号を連れてこの場から逃げて……!!」
「馬鹿言ってんじゃないよ!! アンタにあんな奴の相手が出来る訳ないだろ!?」
するにしたって、役割が逆だろうと反論するが……16号が首を横に振った。
「セルと言う化け物が吸収したいのは、17号と18号、貴女達……でしょう? そして完全体になったら、もっと手の付けられない化け物になってしまう……だ、だったら……貴女がアイツの相手をしちゃダメなんだ……だから私が、私がやらないと……」
16号は俯きながら、まるで自分に言い聞かせるかのようにそう言った。
18号とセルが闘う訳にはいかない。吸収されてしまってはセルの思うつぼだから……故に、吸収すると言った候補に無い16号が相手をすれば、ひとまずセルの目的が果たされることはない。
16号がセルに吸収されてしまったらどうなるか……という不安もあるが……。
18号はそう言って説得する16号の姿に、泣きながら震える子供の姿を幻視する。
しかしやがて顔を上げた16号の顔には柔らかな笑みが映っていた。
「貴女達は……悪ぶってるだけで、本当は良い人なんだと思う。無益に人を殺したりしなかったし、自然や動物を害す事も無かった……ちょっとは悪い事もしたけど……で、でも、私……貴女達と、少しの間でも旅が出来て、た、楽しかった……!!」
言いながら、一歩、また一歩と後ずさり、そして。
「ま、待て! 16号!!」
16号は物陰から飛び出し、飛翔する。
18号の制止の声に後ろ髪を引かれながら……17号とセルの闘いの場へと。
――――
「なんだ、貴様は?」
「わ、私は……人造人間16号……!!」
こ、怖ぇ~!! 近くで見ると思いのほかでっけえコイツ!! あとちょっと節々が昆虫っぽくてきしょい!! いや虫は別に怖くないんだけど、ここまででっかい虫は普通に怖えし人型だしそれ以前に化け物だし!!
もうすでにちょっと飛び出してきた事を後悔してる!! 人間だったらパンツがびしょびしょになるぐらいちびり散らかしてた!!
―――でも、やらなくては。
「……私のデータには無い人造人間、か……それで? やめなかったらどうするつもりだ? まさか、お前が私の相手をしようだなんて言うつもりじゃないだろうな?」
「……そうだ!!」
「なっ、何を言ってるんだ16号!! お前に勝てるような相手じゃない!! 死ぬつもりか!?」
勝てないだなんて事は分かってる。君らと違ってそもそも喧嘩なんてした事無いし、いくらパワーが、スピードがあったって、根本的に武術のぶの字も知らない自分じゃ勝ち目が無いって事くらい。
でも、それでも……17号と18号を助けるためにはこうするのが一番だって事も、同じくらいハッキリと理解出来る。してしまうんだ。
「ど、どうした……かかってこい!! お前なんて怖くないぞ!」
「……ガキが」
少しでも、ほんの少しでもいい。時間を稼いで、それで……!!
「……!?」
「邪魔をするな!!」
バンッ! と空気そのものが破裂するかのような音と共に、セルが一瞬で眼前まで迫ったかと思うと。
その瞬間、まるで新幹線に乗っている時のように、風景が、ボロボロになった街並みが凄まじい速度で流れていき、ガツンと強い衝撃と共に視界が回転し、何度かそれを繰り返した後、目の前がアスファルトでいっぱいになった。
「16号ーーーッ!!!」
……あ、そうか、一瞬何が起こったか分からなかったが、私は今ぶっ飛ばされたんだ。
殴られて吹っ飛ばされるという事がそもそも今までの人生で一度も無かったからっていうのもそうだけど、その尺度があまりにも違いすぎて何事かと思った。
それに……。
「ほう?」
「ぜ、全然、へっちゃらだぞ……!!」
あんだけぶっ飛ばされたのに
かといって怖くない訳じゃ全く無いんだけど。
「興味深いな……私は今、貴様の首を刎ね飛ばすつもりだったんだぞ?」
ギュピ、と特徴的な足音を鳴らしながら悠々と歩いてこちらに近づいてくるセル。
そうだいいぞ、もっとこっちを見ろ。
「その強度……手応えの無さ……硬さだけなら17号よりも上か? しかし……」
「ひっ……!?」
おもむろに首元を掴まれ、ぶらりと宙ぶらりんにされてしまう。
その腕にしがみつく形になり、眼前いっぱいに広がる化け物の顔に思わず恐怖の声が漏れる。
「肝心の性格がコレなのはどういう事だ? 戦闘より怖がっているフリが得意な人造人間なんてな……いくら天才とはいえ、ドクター・ゲロも完璧ではなかったという事か……」
「うわっ!?」
セルは私を放り投げ……ビカッ、とセルの手から光が放たれる。
球状の光のエネルギーが身体に直撃し、爆風をその身に受け、抗う術も無く吹き飛ばされ……もうもうと立ち込める土煙の中に、追撃のエネルギー弾が無数に撃ち込まれ、視界がチカチカと光で明滅する。
自分が今どうなっているのか分からない。
もしかして身体の何処かが千切れてしまっているんじゃないかと思うほどの衝撃と、体の内部まで鋭く響く振動が何度も何度も襲う。
身体がグルグルとかき回され、何処が地面で、何処が空で、自分の身体がどうなっているのかも分からない。
数秒だったか、私にとっては数分にも数時間にも及んだように思える時間が過ぎ去った。
「他愛もない」
ガラガラ、パラパラと、空中に巻き上げられた瓦礫やコンクリートの破片や小石が地面に落ちて転がる音に交じって、そんな失望や呆れの混じったセルの声が聞こえた。
「さて、とんだ邪魔が入ったが……!?」
興味を失ったように踵を返すセルだったが、その頬に響く鋭い衝撃。
ここに来て初めて感じる痛み、不意にセルを襲ったダメージ……何事かとセルが振り返ると、そこには誰も居ない。その方向は未だに土煙がもうもうと立ち上がり、その中に居るのはボロボロの16号のはず。
ゴトンッ、ゴロゴロ……と、何やら金属質で重厚な物が落ちる音がして、そちらに目を向けると、そこには、小さく……しかし強く握りしめられた拳と腕、そのものが落ちていた。
「これは……!?」
チカ、とセルの視界の端、土煙の中で何かが光った。
「ヘルズフラッシュ!!」
その閃光は猛烈な衝撃波で土煙を晴らし、真っ直ぐとセルに向かって伸びるとその身体を呑み込み、凄まじい熱量と破壊力を伴い、地面を削りながら、瓦礫を吹き飛ばしていく。
「なっ!? こ、これは……!!」
そしてそれは彼方の海上でキラリと光り、巨大な爆発を起こした。
台風のような爆風がその場の全員を襲う。
「ぐおおっ……!! ま、まさか、これほどとは……!! 出来損ないの分際でっ……!!」
核爆発でも起きたかのようなキノコ雲を発生させたそれは、直撃を咄嗟に回避したセルの下半身を丸ごと消し飛ばしたのだった。