「や、やりやがった……16号の奴……!!」
物陰からこっそりと17号を回収するべく戦況を見守っていた18号は、一部始終を見ていた。
勇気を振り絞ってセルと対峙する16号、それをあしらい怒り混じりに16号を叩きのめしたセル……そして、16号が放った反撃の一撃。
セルは呻きながら地に墜落すると、そのまま動かなくなった。
恐怖の人造人間セルは、あの臆病で気弱な人造人間16号の手によって打ち倒されたのだ!
「や、やった……やったぞ! 16号!」
そうして、強大な技の影響でクレーターとなった地の中心、そこで倒れている16号に駆け寄る。
しかし、嬉々として喜び勇んでいた18号の顔は、その16号の姿を見て、悲壮感に歪んだ。
「じゅ、16号……!?」
それは、顔の半分の装甲が剥がれ落ち、剥き出しになった強化外骨格……一緒になって選んだ服……動きやすいからと、何となく悪っぽい長袖のシャツも、17号が履いているのに似たジーンズのパンツも、見るも無残にボロボロになっており……。
プスプスと音を立てながら、口から煙を吐いて静止する16号の姿がそこにあった。
「16号ッ!!」
たまらず駆け寄って肩を揺する18号。しかし、糸が切れた人形のように首をガクガク揺らすだけで、16号から返事はない。
ふと、高熱を感じて16号の腕……セルに一撃を与えた左腕が有った場所を見ると、まるで赤熱した鉄のように赤く輝き、強い衝撃を受け歪んでいた。
「こ、これは……」
17号に比べればメカに詳しくない18号だったが、それでもこれを見た彼女はこう確信した。
16号はセルに致命的な一撃を与える為に、許容限界を超えた膨大なエネルギー、セルの攻撃にすら耐え抜いた頑強な身体すら歪む程の力……それを放った結果、こうなったのだと。
「あ、アンタって奴は……」
戦うのをあれだけ怖がっていたくせに。
ちょっとした事でビクビクして、オドオドするような奴の癖に。
どれだけ怖かっただろう。
どれだけの覚悟だっただろう。
どうして、そこまで。
――少しの間でも旅が出来て、た、楽しかった……!!
「……あ」
気付けば、18号は涙で頬を濡らしていた。
「よくやった……よくやったよ、アンタは……!! 本当によく頑張った……!!」
18号は16号を抱き上げてその場を後にしようとした。
そして17号の居た方へと向かうべく視線をそちらへと向けるが、そこには……。
「アイツ……」
まさか16号にあんなパワーがあったとは、と17号は驚愕の最中にあった。
出力だけ見れば17号にも劣るはず、そういうスキャン結果だった筈なのにも関わらず、16号は17号があれだけ苦戦したセルを打ち倒したのだ。
構造が違うから……隙をついて、油断していた所だったから……色々な要因はあっただろう。
だが……重要なのは、そこじゃない。
「俺は……俺は、何も出来なかった……!!」
悔しさ。
それが17号の胸中にあった全てであった。
セルという化け物に、良いようにやられてしまった事実。
16号という、自分より弱いと思っていた奴に助けられた事実。
それは、先ほどまで、世界最強の人造人間を称していた17号のプライドを、大きく傷つけた。
「16号ッ!!」
「!!」
ギリ、と歯を噛みしめていた17号の目の前で、物陰から18号が飛び出す。
自分を追って16号とやってきたのだろう。
そうだ、まずは16号に……声をかけてやらなくては。
歩いているうちに、17号の脳裏に、色々な言葉が浮かびあがる。
おかげで助かった、ありがとう。
16号に助けられてしまうようじゃ、俺もまだまだだな。
怖いだろうによく頑張った。
ボロボロになった16号を抱き上げた18号が、クレーターになった場所から姿を現し、17号と目が合った。軽く手を上げて無事を伝えようとした、その時……。
「セルはまだ死んでいないッ!! 逃げろッ!! 17号ーーーッ!!」
「17号ッ!! 後ろだーーーッ!!」
上空から、ピッコロの声。
正面から、緊迫した様子の18号の声。
声に従って振り返った17号の眼前には……どこまでも深く、一筋の光も無い暗闇が広がって……それが、彼の見た最期の光景となるのだった。
「じゅ、17号ーーーーッ!!」
18号が観た光景、それは、動けなくなったフリをして倒れていたセルが、17号の背後でその下半身を驚異的な速度で再生し、バネのように跳ね上がり、その勢いのまま、ラッパ状に変形した尻尾の先が、声に気付いてかろうじて振り返った17号を呑み込むその姿だった。
下半身の再生、再生した尻尾の変形、油断した17号を強襲、そして吸収……この全ての動作が、その場に居た全ての人間が反応できないほど素早く行われたのだ。
「おお……おおおおおおッ!!」
17号を吸収したセルに、変化が訪れる。
「く、クソッ!! 奴め、気を消して死んだフリなど……!!」
上半身だけになっているうちに、奴を消し去っていれば……と、今となっては何の意味も無い後悔がピッコロと天津飯を襲う。
そうしているうちにも、セルの持つ気が……今までとは全く比較にならないほど……それこそ、セルの今までの持っていた気と、17号が持つ超パワーをそのまま足したとしても、こんなにも絶対的な力を得るとは思えない。
それだけ大きな変化がセルの身体に起きていた。
「ハァーーーッ!!」
そうして一瞬の閃光と、強大な気の奔流が爆発し……立っていたのは絶望的な未来。
17号を吸収し、第二形態と変化し、まだ完全体にすらなっていないにも関わらず、もはや誰にも止める事が出来なくなったと確信出来るだけの圧倒的なパワーを持つ化け物。
「第二ラウンド……って所かな?」
無慈悲な絶望がそこに立っていた。