空があんまり綺麗だから思わず目を輝かせているのを、二人に見られて今度は羞恥で顔を真っ赤にするなど……そうしてしばらく、二人と空を飛んでいると17号、と名乗っていた青年が手で合図を送り、下にある道路を指差した。そこへ降りようという事らしい。
危なげなく……自分でも本当に、なぜこんなにも易々と、空が飛べる事を受け入れ、そしてその力が行使出来るのかは分からないが、とにかく無事に着地すると18号が口を開いた。
「ちょっと17号、どうして降りるの?」
飛んで行ったら早いのに。とは確かに私も同意見である。しかし17号は気にした様子もなく。
「のんびり楽しみながら行こう。急いだって意味はない」
そう言って17号が視線を空や、周りの自然に向ける。私も倣って周囲に目を向けると、そこには何もない、何もないがあったとでもいうべきか。
コンビニとかビルとか家が無い、だけれど、代わりに森に棲む生き物達、彼らの声、木々が風で揺れる音、そして心地良い風が身体を撫でて通り過ぎていく。
すうっと深呼吸でもしたくなるような、長閑で、良い風景だ。
「……歩いていくの?」
私はそれでもかまわない、と思うぐらいこの景色は良いものだが……やっぱり18号にとっては退屈なのかもしれない。
「自動車に乗って行こう。そのうち、ここを通る車があるだろうから、それに乗っていくんだ」
「……ヒッチハイク、ですか?」
「いいや? 奪っていく。なあに、ちょっと借りるだけさ」
やばコイツ。
「おいおい、嫌そうな顔するなよ。俺達は人造人間なんだぜ? わざわざ人間の法に従ってやる必要がどこにあるって言うんだ?」
「思ったよりもずっと人間らしいとこが残ってるんだね。やっぱり元が女の子だと違うのかな?」
ウッ、私が意識して意識しないようにしていたところを……。
そう、そうなんだよな……私今、どっからどう見たって女の子、なんだよな……。
顔まではまだ自分じゃ観たことない、けど……ていうか、この人達の事を信用するなら、私ってどうやら男とか女以前に、人間そのものを辞めてしまっているらしいし……。
一体何故……私が一体何をしたというのか。
「ごめんごめん、もしかして気にしてた? 謝るからさ、機嫌直してよ」
「い、いや……なんというか、まだ現状を呑み込めてなくって……空を飛ぶのも、初めてだったし……人造人間っていう自覚も、あんまりないし……」
「(……妙だな……ドクター・ゲロはなんでこんな戦闘に向かなそうな人造人間を作ったんだ? それこそ、こんな子供相手なら19号のような性格に洗脳でも何でもすれば良かったものを)」
「よう」
17号が今は亡き……というか亡き者にしたドクター・ゲロと16号に対して疑念を抱いていると、彼らの前にとある人物が現れた。
「まだこんな所でウロウロしてやがったとは……意外だったぜ?」
うっ……わぁ……な、なんだこの人……こ、こわ~。
全身ピチピチタイツのムキムキのマッチョマンの金髪のおじさん、こわぁ……。
「これからどこに行くんだ? 聞かせてくれよ」
「孫悟空の所よ。殺しにね」
……怖いのはこっちもだった。
そうだ、そうだよ、私達って所謂……悪役なんじゃないの!?
そんごくうって人がどんなだったか思い出せないけど……確か、なんか漫画の主人公だったような気がする……それも、すごく強い人……なんでここまで思い出せるのに肝心の漫画の内容やそんごくう本人の事について何も思い出せないんだ、私は!?
「やはりそうか……だが残念! 奴の所に行くことは出来ないな。なぜなら……お前らは全員、このベジータ様がスクラップにしてやるからだ」
「フッ……サイヤ人というのはどいつも自信過剰だな? 半端な奴ほどその下らないプライドのせいで早死にすることになる」
「……人形の癖にガタガタ抜かしやがって!! 粉々にしてやるぜ! どいつからだ!? ガキか!? 女か!? それともそこのチビか!?」
「ひぇっ!」
なんでいちいち煽るんだよ~!? 額に血管浮き出る程怒ってんじゃん!? 絶対これここだけの話じゃないじゃん……君ら二人があの人になんかしたんじゃないの!? 怖いよお!!
「ちょっと……何怖がってんのよ16号? そうだ、アンタがやってみる? あのドクター・ゲロも恐れた人造人間の実力、気になるわ」
「むっ!? むむむ、無理無理無理無理!! 無理ですよ!!」
私は喧嘩なんかしたことない!! 人造人間だかなんだか知らないが、いくらなんでも……それも初戦があんな怖そうなおじさんなんて嫌だ!! もっとこう、スライムとか……!!
「……はあ~あ、同じ人造人間として情けない……でもま、スキャンした結果からすると、中身が臆病者でも、出力は俺よりちょっと劣るぐらいだ。戦闘はそのうちその身体に慣れたらでいいだろ」
「それもそうね……仕方ない、ここは私がやるわ」
そう言って、18号はいつの間にか勝手にひっついていた私の身体をひっぺがして、スタスタとベジータとかいう金髪のムキムキの所へ、まるで散歩するかのような気軽さで歩いて行った。
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な、なんじゃありゃあ……喧嘩なんてずぶの素人の私にだって、今の二人の攻防を見ていれば……自分でもなんであんな速い戦闘を目でラクラク追えるのか意味不明だが、とにかく……この喧嘩は言葉に出来ないぐらい凄い。
そして……どうやら、人造人間というのは私が思っていたよりも、ずっと強いのかもしれない。
18号さん、さっきから全然本気を出してない。本当なら一撃で勝負を決められるハズなのに、まるで遊んでいるかのようだ。表情にも余裕が見て取れる。
一方で、ベジータさんはいくら殴ってもダメージを与えられたような感触が無く、少し焦っているように見える。このままだと……あの人、負けちゃうのでは……う~ん、でも、あの人が負ける事ってそんなに悪い事なのだろうか……どうみても悪人顔だし……でもな~! こっちもどう見たって悪役だしな~……!
……いやいや、待て、このまま18号さんが勝っちゃったら、主人公である、かもしれない、そんごくうが殺されちゃうじゃん!?
そしたら、えっと……良く分かんないけど、なんか結構色々とダメな気がする。
ど、どうしたら……う~ん、でも今の私、人造人間側なんだよな~!?
そんな事を考えながら頭を悩ませていると、ふと後方から何かが迫ってきているのが分かる。
アレは……人が何人も空飛んでる!? ……この空飛ぶの、もしかしてこの世界だとデフォの技能だったりする? それではしゃいでた私ってもしかして恥ずかしい奴……?
「おや、助っ人か……流石にあの数相手だと18号でも骨が折れるだろうなあ……仕方ない、行ってやるか。それとも16号、お前が……行くわけないか」
お前が……の辺りで首をブンブン横に振ってたら呆れたように笑われてしまった……。
や、だって怖いしさあ……あと、怖いし……それに怖いし……怖いしか言ってないな私?
だって考えてもみてよ! 素人だよ! 私! 何度も言うけど!!
そんな私がさあ、いきなり「これ着てれば絶対大丈夫だから」っていう超高性能な安全スーツを突然渡されて、それで「はいじゃあ今から武道家の人と混ざって殺し合いしてもらいます」って言われるようなもんだよ!?
無理……! 無理だって……!! 情けないとか思われるかもしれないけど……心の中じゃこんなに怖いのに、何故か全く、ピクリとも震えない身体が、逆に怖い。
こんな所で「私ってマジで人間じゃないんだな」なんて感想を抱く事になるとは思わなかった……。