端的に言えば、セルは焦っていた。
街の人々を襲い、生体エネルギーを吸収し、成長する事で莫大なパワーを得たが……それでも、無敵の超パワーと呼ぶには程遠い……やはり、彼を生み出したコンピューターの教えてくれた通り、人造人間17号と18号を吸収する事で、完全体へと進化する。
自身が宇宙最強の生命体になる方法はそれしかないと考えていた。
しかし、丸一日……丸一日活動していたのにも拘わらず、セルは彼ら、17号や18号と邂逅するに至っていなかった。
これはセルにとって計算外であった。
17号と18号は、孫悟空やピッコロ達と近いうちに何処かでぶつかる。
ドクター・ゲロがプログラムした「孫悟空を抹殺せよ」という命令が彼らをそうさせる為だ。
そして彼らが闘う事になれば、17号と18号は感知出来なくても、孫悟空達のうちの誰かか、あるいは全員の気が、戦闘の為に大きく膨れ上がるのを、遠く離れていた地だとしても感知出来るはずだ。
つまり、戦闘をしている巨大な気、それに目を光らせていれば、そのうち17号や18号を見つけ出す事が出来る、そう考えていた。
だが、これはセルが知る由もない事だが……人造人間17号と18号はとある理由から孫悟空を避けるように行動している事と、マインドコントロールに失敗している為、孫悟空を殺せという命令を簡単に無視出来るという事。
そして、孫悟空達もまた、彼らを探してはいるものの、生体エネルギー……つまり”気”をもたない彼らを探すのは至難の業だったし、ピッコロが取り逃した程の相手であるセルや、一度何も出来ずに叩きのめされた人造人間を相手に、無策で挑む程愚かではなかったという事。
そう……セルは既に一度、偶然街を襲うセルの気を探知して遭遇した、超ナメック星人となったピッコロと戦い、一度敗走している。
太陽拳と呼ばれる、太陽光を集約し、強い光で視界を一時的に麻痺させる技を使う事で、何とか離脱に成功する事が出来たものの……それでも、絶対的な差を埋めるに至れているかは確信の持てるところではない。
既にどれほどの一般人を糧にして、どれほど成長したかはセル自身にも分からないが……それで安心出来る程、悠長な事を言っていられない。
何故なら、ピッコロ達が既にセルの目的を知ってしまっているからだ。
片腕を使えなくしたピッコロに油断して、ペラペラと自身の計画について話してしまうという、大失態を犯したのである。
セルは、わざわざ未来から手間をかけてタイムマシンでこの時代にやってきて、ほとんど何の力も無いと言って良い市民達を膨大な量喰らいつくすという回りくどい方法で自身を強化し、いざ、成体となった今こそ彼らを吸収し、夢の完全体へと。
……だが、この大失態によって、もし、セルよりも先に17号達がピッコロ達に見つかり、破壊されてしまったら……。
これまでの計画は全て、パアになってしまう! それだけは、なんとしても阻止せねばならなかった……なんとしても、奴らより先に17号と18号を見つけ出さなくてはならないのだ!
故に、セルは賭けに出た。
テレビを通じ……自身の場所を17号と18号にアピールする事、そして、吸収されるのを拒まれる可能性も考慮して、脅迫……島を破壊し、それでもダメだったら地球そのものを破壊してやる、と。
無論、誘い出す為のハッタリである。
だが事実、パワーアップしたセルなら、地球そのものを破壊することぐらいわけはない。それくらいの事だったら、地球に襲来しに来た時の、まだ超サイヤ人にすらなっていないベジータにすら出来る事だ。
それこそ、やろうと思えば17号にだって、18号にだって同じことは可能だろう。
でもやらないのは、いくら彼らでも、自身が住む星そのものを消し飛ばそうなんて考えは起こさないし、そこまでの悪事がしたい訳でも無く……めちゃくちゃになって、誰も居なくなった地球や、粉々になって、生命が住んでいけなくなった星の残骸で生きて行くのはごめんだからだ。
困るだろう? そんな事をされては。
嫌だろう? 生きて行く場所が無くなるのは。
腹が立つだろう? こんな挑発をされては。
『……たった今から、1時間が経過するたびに、島を、あるいは大陸を! ……この星から消滅させる! 分かったな……?』
そう言い切って、それが彼らに伝わると願いつつ……カメラを踏み潰した。
もしかすると、17号や18号ではなく……ピッコロや孫悟空達にも、自分の居場所がバレたかもしれない……だが、それならそれでいい。
既に、充分に生体エネルギーを蓄えた今の状態の自分なら……あの時のピッコロ程度なら相手にならないほどパワーアップ出来ただろうという自負がある。
もし先に奴らと出会ってしまったら……その時は、叩きのめして、こう言えばいい。
人造人間17号と18号を連れてこい、そうして完全体となった暁には、この星を破壊するのだけはやめてやる、と。
……もし既に17号と18号が死んでしまっていた場合は……その時は、仕方ない。
本当にこの地球を破壊して、宇宙全体に住む全ての生命体のエネルギーを喰らいつくし、完全体ではなくとも、この宇宙で最強の戦士になる。
できればそうならない事をセル本人も祈るばかりであった。
「さて……奴らがこの場所に無事辿り着けるよう、大きな花火でもあげて、分かりやすくしてやるとするか……」
そして次の瞬間、閃光がその場の全てを焼き、地球の裏側まで響くような大気の振動が起こった。
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「あ、あの化け物が……本当に島を一つずつ消していくつもりらしいぞ。いずれは、大陸も……あの調子じゃ、この星がいつまで持つか……」
そう言って上空に飛び立ち、件の怪物が居る方向へ視線を向ける17号。
怪物は……17号と18号が来るまで、島や大陸、そしてこの星そのものに対して、破壊活動を続けるという魂胆らしい。
「どうする? 17号……」
「決まってるさ……あんな化け物、俺がぶっ殺してやる!」
「ま、待って!! 私のパワーレーダーでは、17号よりも、あの化け物の方がずっと強い!」
「なんだと……!?」
これは事実だ。先程から「見つけてみろ」と言わんばかりに高められ続けている超パワー、それがもしもセルだとしたら……桁違いだ。
この世界においてこの数値が一体どれほど信用していい物かは分からないが、それでも……恐らく無意味な物であるなんてことは決してない。
これを信じるなら、あの怪物に17号が勝てる訳がない。
死にに行くようなものだ。
「フンッ……ドクター・ゲロはまた一つミスを犯したらしいな。そのパワーレーダーは故障している! 俺よりも上だと……? 世界最強のパワーを持つ、この人造人間17号よりも上のパワーを持つ者なんて、存在するはずが無い!!」
「あっ!?」
「ちょっと!!」
そう激昂すると、17号は制止しようとする私を押しのけて、そのまま怪物が居た方向へと飛び去ってしまう。
「ど、どうして……」
あんな怪物、無視すれば良い! 島が破壊されても……大陸が、星が破壊されたとしても! 人造人間には、酸素も、食べ物も必要無い! 水さえあれば生きていける……あんなのは脅しにならないって、17号も分かってるはずだ。
「私達も行くよ、16号……」
「だ、ダメ……!! 18号、あ、貴女だけでも逃げるべきだ!! あんな怪物の相手なんてしちゃダメだ!!」
「馬鹿……アンタが言ったんだろ? 人があんまり居ない、自然の豊かな場所に行きたいって。その時、私言ったよな? じゃあ、ピクニックにでも行こうって。……まだ行ってないだろ?」
「……!?」
今まで、見た事もないぐらい優しい顔で、18号はそう言った。
そんな事、あるはずもないのに……頭を、金槌で思い切り殴られたような衝撃が走る。
嘘だ、そんなまさか。
「アイツは確かに頭がキレるし、人間らしさってのがかなり残ってる。でも逆に……人間臭さっていうのかな……非効率な事をあえてやるような、馬鹿っぽいとこもあるんだよ」
島や大陸や星が無くなってしまったら……その約束が、果たせなくなってしまうから……!?
「そん、な……じゃあまさか……17号は……!! わ、私のせいでっ……!? 私がっ、あんな事言ったから……!!」
私が……私が殺したようなものじゃないか!? 17号は、決して馬鹿じゃない。
面倒だから、近づかないでおこうって判断だって、出来たハズなのに……私が、自然が好きだから……外の景色や動物達が好きだから……それを、守るために……!?
「違う!! 勝手に決めつけてんじゃないよ! 喧嘩を売られて黙ってられる程、良い子ちゃんじゃないってだけさ! ……だから、行かないと!」
そう言われて、私は頷く事しか出来なかった。
そうだ、きっとまだ間に合う。
そう信じて、飛び去った17号を追いかけるのだった。
勘違いや曇ったりするのが周りの人物だけとは言ってないよねぇ……