セルという恐怖の怪物が、恐ろしいメッセージをTVを通じて発信してからというもの、世界は大混乱に陥っていた。
街を襲う、人々を消滅させてしまう怪物、その正体が明らかになった事、その怪物が、同じ人造人間とやらにメッセージを送った……つまりこの怪物は一体ではないという事。
そしてとうとう、人々を消すだけに飽き足らず、島を、そして大陸を、挙句の果てにはこの星そのものを破壊すると。
そんな事が出来るはずが無い……人々の多くはそう考えていた。
しかし、実際に一つ、二つ、そして三つと島々が、とてつもない爆発で次々と消えていく。
人類史上未曽有の恐怖が現れたのだと、人々はようやっと理解したのだ。
次はどこなんだ、今セルは何処に居るんだ、どうしたら助かるんだ、誰でもいいから何とかしてくれ、死にたくない、死にたくない!
「お、おい! アレ!!」
そんなパニックに陥った人間の内の一人が、上空のとある方向を指差した。
そこには、特徴的な尾と羽根を持つ、緑色の化け物が、上空で人類を見下ろしている姿があった。
―――セルだ!
「に、逃げろおーーーッ!!」
「嫌ァ! 死にたくないーッ!!」
「どけっ! どけーっ!! ワシはこんな所で死んでいい人間じゃないんだーッ!!」
奴が現れた! 次はここだ! 逃げるんだ、早く! 死んでしまう、このままでは!
「ママーッ! パパ―ッ!!」
愚かな、とセルは上空でそんな人類を眺めながら、しばし嘲笑する。
恐怖で引き攣った人間達の表情は、セルにとって何よりも面白いエンターテインメントだった。
誰もが、我先にと他者を押しのけ、生きようと藻掻き、足掻くその様といったら。
「……! 来たか」
いくら観ていても飽きないその光景だが、本来の目的を忘れる訳にはいかない。さて、ここらでもう一発、島を吹き飛ばすか……そう思った矢先に、セルの元へ飛来する人影。
「……よう、化け物……呼ばれたから来てやったぞ?」
好戦的な笑みを浮かべ、セルを打倒する為飛来した人造人間17号であった。
たった今、彼はこの場において未来を照らす希望となるか……あるいは、絶望となるのか。
「……!? あ、あれは、17号か!?」
「何……!?」
そして、タッチの差でその場に飛来し、その二人の姿を目にしたのは、もう一人の戦士……ピッコロ、そして少し離れて天津飯であった。
セルによるTVでのメッセージをカメハウスで目にしたのは、人造人間17号達だけでなく、カメハウスで被害情報を確認していたピッコロ達も同様であった。
「アイツ、どういうつもりだ……何故今現れた!?」
目下最大の脅威であるセルと、同じく未来では世界に恐怖を齎した人造人間17号。
同時にその場所に存在するのは極めて状況が悪い。
17号だけなら、セルだけなら、ピッコロでも充分に戦えた。
しかし同時に……そしてなるべく迅速に片方をどうにか破壊しなければならない。
「吸収するだと!? この俺を……!?」
「正確には17号と18号、貴様ら2体の生命体を吸収し、完全体となる事が俺の目的なのだ」
「お前のような気味の悪い化け物に……誰が吸収なんてされるものか!!」
「貴様の意見は聞いていない! これは既に決定事項なのだァ!!」
二人はしばらく睨み合ったかと思うと、どちらからともなくぶつかり合う。
「なっ……!?」
「フッ!!」
「ぐああっ!?」
世界最強を誇る17号の拳がセルの額に炸裂する……が、ビクともしない。セルはニヤリと不敵な笑みを浮かべると、同じように17号の額に拳を叩き込む。17号の身体は弾丸のように吹き飛び、ビルの壁を幾つも貫通した後、大きな高速道路を支える柱に叩きつけられ、力なくアスファルトの上に転がされた。
「そ、そんな、馬鹿な……!?」
——ま、待って!! 私のパワーレーダーでは、17号よりも、あの化け物の方がずっと強い!
「……クソッ!!」
16号の言った通り、17号とセルの間には、あまりにも戦闘力に差が開き過ぎていた。
17号は目覚めてから初めて感じる無力感と怒りに震えながら立ち上がる。
逃げるべきか、こんな所で、あんな奴に、この17号ともあろうものが。
逃亡、その二文字が脳裏にちらついたその時、目の前に怪物の足が立ちふさがる。
「少しばかりパワーアップし過ぎてしまったかな?」
「……!!」
「クソッ!! あのままでは……!!」
「待て! 天津飯! お前が行っても無駄だ!!」
「なら……どうしろと言うんだ、ピッコロ!!」
眼前で繰り広げられている戦闘……いや、一方的な虐殺。セルはまるで弄ぶかのように17号を痛めつけ、圧倒的な戦闘能力の差を見せつけていた。
このまま放置していれば、17号は今にもセルに吸収されてしまうだろう。
「セルめ……一体どれだけの民間人を吸収したんだ……!!」
しかしそれを止める術が今のピッコロ達には無かった。
その戦闘力は今や、ピッコロが闘った時のセルとは比べ物にならない程に高まっていたのだ。
正直に言って、もう少し早く……17号よりも早くここへピッコロが来ていたとしたら、ああなっていたのはピッコロの方だっただろう、いや、それがたとえ……孫悟空や、ベジータだったとしても結果は同じだった。
セルは今や、完全体とならずとも誰にも止める事の出来ない怪物となってしまっているのだ。
「だ、だが……奴め、その力に溺れ、驕っているようだ。17号を完全に玩具扱い……あれなら、あるいは……」
直ぐにでも17号を吸収すればいいものを……まるで、
「ピッコロ……?」
しばし、額に汗を浮かべながら、ピッコロは冷酷な……孫悟空や悟飯達ならば出来なかっただろう決断を下そうとしていた。
「……タイミングを見計らい、17号を粉々に破壊する!!」
「何っ!?」
「今あの闘いに混ざったとしても勝ち目は無い! だが……それ以上に、吸収を許してしまっては勝利は絶望的だ……それだけは避けなくてはならん! このまま様子を見て……弱った17号なら、一瞬で破壊する事が出来るかもしれん!」
冷酷だが、合理的な判断ではあった。
元々、未来から来た少年トランクスが言うには、17号と18号は未来で甚大な被害を出すという……破壊するのが早いか遅いかの違いでしかないのだ。
ここでセルが進化してしまう事を阻止すれば、修行を終えたベジータなら、悟空なら、あるいは、セルと言う悪魔を止める事が出来るかもしれない。
しかし、逆に真の力をセルが手に入れてしまったら……それがどの程度の物かは分からないが、もしかしたら、ベジータも悟空にも倒せないかもしれない。
そうなっては地球が、いや、宇宙そのものが。
トランクスが居た地獄のような未来をも超える、本当の地獄が始まってしまうかもしれない。
「そ、それは……しかし……いや、そうするしかないのか……!」
天津飯は己の無力さに拳を握りしめた。
武道家として、正々堂々セルを倒せるだけの力があるならばどれだけ良いだろう。
しかし、現状はピッコロの言う通り、隙を見て17号を破壊するしかない。
「俺は隙を見て17号を破壊する……お前はあの太陽拳とかいう技でセルの動きを止めてくれ。ほんの少しでいい。17号を破壊したら直ぐに離脱する」
「……ああ、分かっ……!?」
天津飯が頷きかけたその時。
「ぬ? なんだ貴様は……?」
「じゅ、16号……!?」
追撃を行わんと歩みを進めるセルと、倒れ伏し、絶体絶命の17号の間に立ちふさがる小さな影。
「や、やめろ……ば、化け物……!!」
なけなしの勇気を振り絞って立ち上がり、恐怖を隠す事も出来ないまま、両の手を広げた人造人間16号がセルと対峙した。