エロ同人RPG系勇者ちゃんVSヒロピン好きの俺VSダークライ 作:らっきー(16代目)
「お兄ちゃん?」
「? はい。え、何ですか急に。記憶喪失のフリは今時流行りませんよ」
なんだろう。わけのわからない催眠かけるのやめてもらっていいですか? 何をどうしたらこうなるのか、一度てるてる坊主を問い詰めさせてもらいたい。血縁関係捏造して何の得があるんだよ。
「ちょっと落ち着こう。勇者ちゃん、一回色々と整理させてくれ」
「その……さっきから言ってる『勇者ちゃん』って何です? 他の女と間違えてたら結構怒りますけど」
「マジ……?」
そこからなの? というかそれじゃあ勇者ちゃんの今の自認はいったい……?
「えっと……俺達って奇跡の調査をする為に泊まったんだよな?」
「寝惚けてます……? そうですよ。カマエルさんの奇跡で冒険者の人達を癒してもらえるかどうかって」
「そこの認識は変わってないのね」
となると勇者の自覚を消すとかだろうか。一応女神の神託の下に魔王の妨害をしまくってるわけだし。魔王の目的すら分かってないけど、勇者が邪魔でその活動を止めるためとすれば説明はつく気はする。
催眠……5円玉の振り子……光? 音……匂い?
「そういえばゆう……シルヴィ、ア。昨日どんな夢を見た?」
「また唐突な話題ですね……夢……そういえば、久しぶりにお母さんの夢を見ましたね」
「村の?」
「他にお母さんは居ませんけど……そろそろ顔を見せた方が良いかもしれませんね。お兄ちゃんも一緒に行きますよ」
勇者ちゃんの中で俺も家族の一員になってる? 法王のコープレベルいつの間にかマックスにしてたのか? ファミパンされたのか?
「……あー、母さんって今何してるんだっけ?」
勇者ちゃんの家庭環境を考えればとんでもない地雷になりかねない発言。しかし。
「ほんとに大丈夫です? 今もいつも通り、教会で働いてると思いますよ」
案の定というか、返ってきたのは俺の知っている現実とは異なる状況。まあ予想通りと言えば予想通り。
「……父親は?」
「お父さん? 今はお仕事で王都に居るじゃないですか。駄目ですよ、いくらあんまり帰ってこないからって忘れたことにしちゃ」
「そうだったな」
まあ、なんとなく掴めてきた。本人にとって上手くいかなかったことというか、『こうだったらいいのに』を読み取って都合のいい夢を見せてるんだろう。俺は催眠が効いてたらどうなってたのかね。興味が無くも無いが、素直に難を逃れたことを喜んでおくべきだろう。
「よし。目も覚めて来たし、あのてるてる坊主のとこ行くか。……どこ居るんだ?」
「さぁ……とりあえず食堂行きます?」
「え、ゆう……シルヴィア、ここの構造分かるの?」
「いえ、案内板が」
「うーん親切」
案内の表示に従って食堂に行ってみれば、既に先客が何人か。熱心なカルト信者、ということになるのだろうか。わざわざ衣食住──衣は分からんが──まで提供して、奇跡を演出して、いったい何が目的なのかね? 金集めにしたってもっと効率いい方法がいくらでもあるだろうし、信者に何かをさせるわけでもない。そもそも精神的やら肉体的やらで何かさせられそうにも無い人が多いが。
食事は割と美味しかった。催眠に任せてゴミとか食わされなくて何よりだ。
そうして再び割り当てられた部屋に戻ってきたわけだが……取れる行動は大きく分けて二つ。このまま様子を見ててるてる坊主の目的を探るか、全てを無視して真正面から問いただしてしまうか。幸いにも奇跡を見せるという名分で姿を現すことは確定しているわけだし。
前者は様子を見ている間に何が起きるのか分からないリスクがある。現に勇者ちゃんは催眠にかかってるし。……家族がらみはともかくなんで俺はお兄ちゃんなのかね? 兄弟欲しかったのかな。
後者はそのリスクが無い代わりに恐らく信者全てを敵に回す。最悪勇者ちゃんの催眠解除のやり方が分からないままになる可能性もある。精神分析(物理)でなんとかなるか? それも含めて問いただせればいいんだが……どうしたものかね。
考えているうちに、『本日の奇跡』の時間になったらしい。周りの反応からするにこうも短い間隔で奇跡を起こしてくれるのは珍しいらしい。なんか条件でもあるのかね。
今回壇上に連れてこられたのは体の一部が欠損した冒険者と思しき人達。おそらくあのゴブリンの被害者たちだろう。酷いマッチポンプもあったものだ。
何やら仰々しい言葉の後、歓声が上がっているが、俺には相変わらず何が変わったのか分からない……のだが、今回は明確な違和感。なにせ片足が無い人間が当たり前のように、支えも無しに立っているのだから。もうこれ催眠とかそういう次元じゃ無くないか……? 幻覚か……?
あまり悠長にしているともっと訳の分からない事態になる予感がする。様子見などと言わずにさっさと片付けてしまうべきだろう。胸糞悪い記憶を思い出させてくれた礼もしなくてはならないことだし。
「……そんな剣呑な気配を出さないでください。ここに居るのは貴方のような方ばかりでは無いのですから」
「変な奇跡とかいうペテンをしてなきゃ、俺もこんなことしなくて済むんだがなぁ」
「お兄ちゃん!?」
勇者ちゃんからしたらコイツ、奇跡で被害者を救った善人(かもしれない)人だもんなぁ。首を落とそうとすれば慌てもするか。周りもてるてる坊主がここに居ると気づけば大騒ぎし始めるだろう。
「場所を変えましょうか。……それと、少しばかりお話を」
「首が繋がってる間に終わらせてくれよ?」
パチンと音がして、気づいた時には小さな部屋の中。転移魔法か何かかね。多才なことで。
「さて……どうやら貴方には私の奇跡が届いていない様子。合っていますか?」
「多分な。少なくとも生き返った人間は骨にしか見えなかったし、さっきも何も変わったように見えなかった」
「記憶は? トラウマが癒えるような香を焚いていたのですが」
「……忘れたくて仕方ない、嫌なことなら思い出させてもらったよ」
「それは……申し訳ありません。そちらの彼女には上手くいっているようですが、何故貴方は?」
「それが今関係あるのか?」
それもそうですね。とのたまうてるてる坊主は、少なくとも真実申し訳なさそうな雰囲気を漂わせている。
「なあ、色々聞きたいことはあるんだが……まず、コイツのこれは治せるのか? 一人だけ蚊帳の外ってのもやりにくい」
「……まあ、女神の使徒にも効果があると分かっただけで良しとしましょう」
少し失礼、と勇者ちゃんの頭に手をやって……勇者ちゃんにその手を払いのけられた。
「おや、怒らせてしまいましたか?」
「当たり前です! 人の頭を勝手に弄って!」
「でも、心地よかったでしょう?」
「何を──!」
「貴女が何を見ていたかは知りませんが……少なくとも、嫌なことを忘れられていたでしょう?」
ぐっ、と言葉に詰まっている。まあ、それは間違いではないのだろう。それが良いことなのかどうかは別として。
「……で? 結局お前の目的は何なんだ? 勇者ちゃんの……女神の使徒とやらの旅を止めさせることか?」
「いいえ。結果的にそうなったかもしれませんが、別に貴女方が旅を続けようと、女神の駒として動こうと、少なくとも私にとってはどうでもいい」
少し、付いてきてください。そう言っててるてる坊主は歩き出した。今すぐ首を刎ねられるかもしれないというのに豪胆なことだ。
「──ああ、カマエル様! 見ての通り夫とまた過ごせるようになって──」
最初に入った部屋に居たのは、例の夫が蘇ったと喜んでいた女性だった。
「ええ。暫くゆっくりしていってください。気に入ったなら、ここで暮らしても構いませんよ?」
ベッドに寝かされた骨から目を背ければ、感動的な光景だったのだろう。
「また動けるようになるなんて……! 本当にありがとうございます!」
次の部屋は今日見た冒険者たち。治ってなどいない手足を使った身振り手振りはどこか滑稽ですらある。
「慣れるまでは無理をしないように。ここで手伝って欲しいこともありますから……なんて、ちょっとだけ恩着せがましいですかね?」
次の部屋。
「今度は俺の腕も頼みます! 今まで面倒見てもらった恩返しも出来るようになりますし!」
次。
「娘とまた会いたいんです……どうか……」
次。
「もう疲れた……ただ静かに生きたいだけなのに……」
次。次。次。
どこに居たのも傷ついた人だった。助けを求めた……もしくは、ペテンで救われたと思い込んでいる人達。
「……戻りましょうか」
「分からんな。何を見せたかった? 結局お前の目的はなんだ?」
「一番最初に言ったつもりなのですがね。弱者救済ですよ」
「騙して夢を見せることがか?」
「ええ。ここに居れば、少なくともこれ以上傷つくことはありませんし……何より、夢で何か問題がありますか?」
「さあ? 俺はどうやら夢を見る権利すら無いようだからな」
「では女神の使徒よ。貴女はどう思います?」
「私ですか?」
「ええ。短い間とはいえ夢を見たでしょう? 居心地は良くありませんでしたか? 今、あの時間が恋しいと思いませんか?」
沈黙。これは、さっさと問い詰めて正解だったかもしれないな。勇者ちゃんが催眠……コイツ曰くの夢を見る時間が長かったら、現実に耐えられなくなっていたかもしれん。
「夢は、所詮夢じゃないですか。いくら居心地が良くても、現実が変わらなきゃ何の意味も……」
「覚めなければいい。ずっと夢の世界で過ごせば、そっちが現実でしょう?」
哲学的な話になってきたな。それにしてもコイツ、弱者救済は本気だったのか。本命を隠すための建前だとしか思っていなかったのだが。
「てるてる坊主……いや、カマエル。正直お前の哲学は俺はどうでもいい。俺には効かんしな。だが一つ聞きたい。弱者救済を掲げるなら何故魔石をばら撒く? それこそ弱者が増えるだけだろう?」
「そうですね。多くの人が傷つき、弱者となる。──そうして、弱い者の気持ちを理解する」
「は?」
「私達は虐げられてきた。だったら……少しは思い知らせてやってもいいでしょう?」
「──勇者ちゃん、コイツ駄目だわ。価値観が違いすぎる」
弱者救済を掲げて弱者を増やしている時点で破綻している。魔王はどうとか魔石がどうとか関係なく排除するべき人間だろう。
「私を殺しますか? ……それで、何になります?」
「少なくとも魔石の被害は減るんじゃないか?」
「……では、女神の使徒よ。私は誓いを立てましょう。今後魔石を用いて……いえ、今後一切他人を傷つけないと。ここで奇跡を起こす以上のことは何もしないと」
「……どういうことです?」
「私も死にたくはない……いえ、違いますね。私が死ぬのはいいが、それによって奇跡が無かったことになるのは困る。言ったでしょう? 目的は弱者救済と」
「耳を貸すな。狂人の戯言だ」
「……カマエルさん。もし、あなたが死んだら。ここに居る人達は……」
「夢は覚めますよ。貴女がそうなったように。夫は蘇ってなんかいないことに気が付き、手足は失われたままで、死に別れた家族とは二度と会えない」
それが自然だろうに、よく喋るものだ。
「口約束でなく魔法で縛ってもらっていい。そちらのお連れならそのぐらい出来るのでしょう? どうです? 悪い話ではないと思いますが。……ああ、ついでに私が知る限りの魔石と私の仲間についてもお教えしましょう。見逃してもらえるなら、私はもうここで一生を終えるつもりですから」
「ウーさん、出来ます?」
「……ああ。出来る」
魔法と言うか呪いの類になってくるが、条件を遵守させることぐらいは出来る。相手の同意があるならとても簡単に。
「さて、私の命乞いはこれで終わりです。全く、こんなことなら女神の使徒になんて関わるんじゃなかった」
「はっ、それを言うなら魔石に関わらなきゃ良かっただろうが」
「そうでもしないと私は力が足りませんでしたから」
「あ? ああ……魔法の強化か」
「ええ。それで、女神の使徒よ。回答は如何に?」
俺からすれば殺す一択なんだけどな。俺は知らない人間がどうなろうと構わないカスみたいな人間だから。勇者ちゃんが酷い目に遭わなきゃなんでもいいし、そのためにはリスクは減らしておきたい。どう契約で縛るにしても穴を見つけられる可能性はついて回るから。
「わ。私は……」
でも勇者ちゃんお人好しだからな……殺す殺さないは一旦置いておくにしても、罪を償わせようとした時点でコイツの『奇跡』は崩壊する。
物凄く単純化して言えばこの二択は、善行もしている犯罪者に罪を償わせて、その善行に救われている人を見捨てていいのかという話になる。
「う、ウーさん、どうしましょう……」
「──どうしても決められないなら俺が選んでやる。俺は、現実から目を背け続けるのが救済だとは思わないがな」
答えは無い。というかどっちを選んでも後悔するだろうな。殺せば今救われてる人達は現実に叩き落されるわけだし、殺さなければ嘘を永遠に続ける偽物の救世主が産まれるわけだ。幻覚で騙すとかじゃなくもっと真っ当なカウンセリングでもやってくれりゃ良かったのにな。夢を見せて救う、なんて言えば聞こえはいいが、その実情は現実を正しく認識出来ない狂人を増やしているだけだろう。
「私は──」
アンケート結果は別に今後に影響しません。もう展開は決めてるので。
tips:勇者ちゃんにとっての『夢』は温かい家族という帰る場所があることと好きな人と一緒に世界を旅すること。
tips:ウーさんの『夢』は勇者ちゃんが生きてること。実は催眠耐性が無かったとしても何も変わらない。
カマエルを──
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夢の中だけでも幸せならいいと思います
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眼を背けても本当に傷が癒える日は来ません