オラリオが戦いの傷跡の修復や残された物でまだ騒がしさが続く中、その喧騒や責任から上手く躱したファミリアがあった。
「……まだギルドへ上げなければならない報告書があると言うのに」
「ならいい息抜きじゃないか。英気を養っておこうじゃないか」
「提出期限が、間近なんですよ!」
「ハハハハッ」
復興の喧騒から離れ、『大抗争』以前ですでに暮らす人々もいなくなり無人の廃屋が建て並ぶ区画を歩くのは【ヘルメス・ファミリア』の主神ヘルメスと
裏方としてこの戦いを支え続けた彼のファミリアも報告書を作成して提出しなければならないと言うのにヘルメスは飄々としていた。対してアスフィは【大抗争】中の徹夜明けから未だにまともな睡眠は取れておらず目元の隈が誤魔化し切れずにいる。加えて現場に出ていた事による報告書を責任者として提出しなければならない。また一徹増えそうである。
「――が、真面目な話、急いでいるんだ。万が一に他の誰かに見つけられる訳にはいかないんだ。神友の為にね」
「貴方に言えた言葉ではありませんが、騙されてませんか?」
「ないだろう。バベルの天辺で送還直前、あのアストレアにも気付かれないようにメモを渡された。でもあそこまで慎重で出てきたのがボケの一つや二つであっても面白そうだがな」
あの日、立会人としてエレボスの送還の儀にいたヘルメスだったが半分冗談で「神友」と言ったがエレボスはそれに同意してスキンシップに抱き着いてきた時、こっそりとメモを渡された。アストレアと別れた後に確認すると「世界を頼む」とある場所を示した地図が描かれていた。
情報収集を生業としている【ヘルメス・ファミリア】から見ても7日間の『大抗争』で戦場になったオラリオでも空白地帯になった場所だ。
「ここだな」
そしてそこは誰も住まず、すでに廃屋と化した家屋だった。何とか原型は留めているが生い茂った雑草や壁に巻き付いた蔓を見れば人気はない、筈だった。
「……最近出入りした形跡があります」
「じゃあ入ろうか」
「って警戒してください! 罠だったらどうするんですか!?」
「ないからさ。エレボスは、送還されてそんな嫌がらせをするような神じゃない」
最後の言葉、先ほどまでの飄々とした態度が一変したヘルメスはそう告げて家屋の中へ入っていく。それに気圧されたアスフィだが一柱にさせられないので慌てて後に続く。
出入りした形跡を見つけたのはアスフィだがヘルメスもその手の痕跡を見つける技術は持ち合わせている。元々、裕福な住人の家だったのだろう。間取りは広く、ボロボロだが家具も多くある。つまり部屋数もそれなりにある、もしくは。
「ここだな」
足跡を辿ってヘルメスの目の前にあるのは隙間の多い本棚。ほとんど風化して残骸が残る中、原型を保ちつつ支えもないのに直立する一冊がある。よく見ればそれは本に見立てた作り物であり、ヘルメスはその本を軽い力で傾け、カチリと音が鳴った。ヘルメスが一歩下がると同時に本棚は横へと動いてその奥に隠された部屋への入り口が開かれた。
「これは……!?」
ヘルメスの後ろから隠し部屋の奥を覗いたアスフィは言葉を失い、ヘルメスより先に中へ入っていく。その後にヘルメスが中に入って周囲を見渡す。
一見すれば秘密基地のような隠し部屋だった。生活感があり、最近まで使っていただろう感じだ。机と椅子があり、棚があり、空き瓶と
「なるほど、なるほど……」
「なるほどって、ヘルメス様はこの魔道具――」
「いや、それは魔道具じゃないよ。ましてや魔石製品でもない」
「はぁ!? だったらどうやって動くのですか!?」
「その答えよりも前に、こっちだ」
ヘルメスが目を向けるのは机の上で布で覆われた物だ。彼がその布を取るとそこには3冊の本と、フレイヤが手に入れた物とは違う録音機。
「えっ、アリーゼに、リオン? なんで彼女達の絵が」
「アストレア・レコード」
小さな本に精巧な友人2人の絵。それを差し置いてヘルメスはその中央に書かれた文字を口にした。そして『邪悪胎動』『正義失墜』『正邪決戦』の三つのサブタイトル。それが何なのか察したヘルメスだったがそれよりも先に録音機のスイッチを押した。
『――やぁヘルメス。来てくれた事にまず感謝を』
流れ出したのはエレボスの声だった。見知らぬ物から声が出てアスフィはビクッと驚いたがヘルメスが黙って聞いていたので彼女も口を挟まず静かにしている。
『お前が送還の立ち合いになる事は知っていた。お前ならわかるだろう? そこに並んだ三冊の本が
「その縁が
ヘルメスの呟きは静かにエレボスの声に沈んでいき、アスフィには聞こえなかった。いや、目の前の3冊がIFの世界を綴っているのだと聞いて混乱してそもそもが聞いていなかった。
『まぁお前からすれば色々な事を知りたいだろうが、そこは置いておいてお前に伝えたい事がある。
この言葉で
『これから7年後に、時代は大きく動く。それも救世にだ。だがそれまでの間、そして7年後はお前が
(それは、確かに)
『褒賞はここに残っている品々と、足りなければ
「……了解。それで、どこに向かえばいいんだい、エレボス?」
この時点でヘルメスはエレボスの頼みごとを受けるつもりであった。何よりこの部屋にある異質な物や銃、そしてロボットなんかを用意できる存在は間違いなく救世の力になるだろうと。
『あいつが向かったのは犯罪都市ベルゲン。目的は、救世に助力してくれる冥府を司る神に主神になって貰うためだ』
「ベルゲンの神に!?」
アスフィが思わず声を上げる。しかしそれもその筈。あそこは冥府の神々が世界中の犯罪を集めて作り上げた
『あそこには俺に縁ある神があり、そして
「ウラノスも承知か……。あの7日間でどうやって手に入れたのか」
「すいません。私、ベルゲンの名前が出た時点で行きたくないんですが」
アスフィの懇願をヘルメスは聞き流した。
『それじゃあ。よろしく頼んだぜ、我が神友ヘルメス』
エレボスの言葉が終わり、部屋に沈黙が訪れる。それを打ち破ったのはヘルメスの方だった。
「アスフィ」
「行きたくないですよ!?」
「いや、今回のお前は留守番だ。ベルゲンに行くなら、お前より
「えっ、
「だがあそこならリディスの方が立ち回れる。それに俺だって冥府に縁ある神だ。上手く立ち回るさ。とは言え準備にはお前にも協力してもらうから」
「ッッッ~~~~~! ……絶対に私は行かないですからね!」
「ああ、もちろん。だから団長代理としてファミリアを頼むわ」
とりあえずヘルメスの次の目的は決まった。彼もまた
とりあえずこの部屋に残っている物を密かに回収して――。
『あ、すまん。――――ベットの下のエロ本とセクシー写真集は処分してくれ』
「なんだとっ! どこにある!!」
「何に反応してるんですかこの変態神!!」
「げふっ!!」
まだ再生中だった所、そんな事を言われてここ一番の反応を見せたヘルメスを、アスフィはストレスも相まってハイキックを決めた。
決戦を超えて様々な思惑が芽吹く中、同じく芽吹いたものがまだあった。しかしそれは時を遡り、誰にも気付かれない仄暗い下水道を彼はボロボロの身体を這っていた。
彼の名はヴィトー。エレボスの眷属であり、正史では彼の唯一の眷属であった男。彼は今、悲嘆と憤怒、そして衝動を抱えていた。
「ぜったい……、絶対に諦めるものですか……!!」
彼はエレボスの思惑を知った。『絶対悪』ではなく『必要悪』、『正義』は『理想』。そして世界を愛していると。自身すら認める欠陥を持つヴィトーにとってはその神意を絶望に落とす残酷な事実だった。色彩を見えず、常に雑音が響き、食の喜びを知らず、無臭の窮屈さを持つ。その事実を彼は、この下界を破壊する『下界是正』の大願を持つに至り、だからこそエレボスの真実は彼にとって裏切りそのものだった。
「必ず、下界是正を成し遂げるっ! この神々への憎悪に誓って必ず!!」
彼は涙していた。しかしその存在を知覚できない以上、あるのは膨らみ続ける破滅的な衝動だけ。それは例えるなら無限に膨らみ続ける風船の様で、外からの干渉がなければ止まる事も破裂する事もない。このまま強大な『悪』となるだろう。
―――コツ、コツ。
そんなヴィトーの耳に別の雑音が聞こえ始めた。経験からそれが足音だとわかった彼はすぐに警戒する。敵か、味方か。だがどちらにしてもヴィトーの琴線に触れるようであれば殺す程に彼の心は昏く深い。
そして、
「――――――――――」
その心の深淵に光が差した。
「貴方は?」
現れたのは
「……オラリオの冒険者か、
女性はヴィトーの姿を見てそう言うと今いる場所に一つ、回復薬を置いた。これは万が一、負傷者がいれば使うと良いと彼女の
「失礼します。こちらもオラリオに長居できない身の上なので」
背を向けて立ち去る彼女を、ヴィトーは
何とか体を這って置かれたエリクサーを手に取り、すぐに使用する。体力はすぐに戻らないが使用する前と比べればかなり回復できた。そしてその空き瓶を手放さない程の力で握りしめて、壁に背を預ける。
「……なぜですか?」
ふと彼はそんな事を呟いた。世界を憎んだ彼はその為の答えを既に出しており、そしてその答えである『下界是正』の大願はより深まっていた。
それが今、小さな小さな
「
彼は生まれて初めて、自身の欠陥を越えた
【ヘルメス・ファミリア】
ヘルメスのベルゲン行き決定。同行者は団長のリディス・カヴェルナ(※重症→後遺症アリで復帰可能)に決定。思えば彼女、作中ではヘルメスの一言で死亡宣言されたけど、あのヘルメスって思うとこっそり生かしてる可能性があるんじゃないかって思うんだよね。眷属の死を把握できる神が『死んだ』と言えばそれが真実になるから。
神友であるエレボスが、カロンの力になってほしいと願われヘルメスはそれを受諾する。それに冥府の神を選出した理由も察しているので口は様ないし、ウラノスもそれをわかって認めていると。とりあえず都合がいい事に捕縛した
エレボスが遺したエロ本とセクシー写真集は身を挺して守り切った。漫画はファミリアの秘匿で共有財産(※文字読めないけどね)となり、ポ〇モンのソフトが入ったD〇はヘルメスがゲットした。
【エレボス・ファミリア】(仮称)
残された2人の眷属。1人は救世の為の準備へと旅立ち、もう一人は憎悪を抱いて地下へと潜む。出会えば間違いなく、対立するであろう2人。それもまた『遺されたモノ』が紡ぐ物語の1ページとならん事を。
と、真面目に語るのはここまでで最後の描写については、ヴィトーと言うキャラクターが手塚治虫作『火の鳥(復活編)』に登場した主人公レオナの設定に重なったからです。経緯も立ち位置も違いますが、ヴィトーの欠陥が『この世界』の物を認識できないと言うなら『違う世界』の物なら、と思ってです。
貴方はどの主神が好み?(※本当に好みだけです。選んだ神が主神に選ばれることはありません)
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彼の神と兄弟神で奈落そのものたる男神
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ある狡知神に縁がある女王たる女神
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対極の妹を持つ冷酷で厳格な女主人たる女神
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生と死の表裏一体を司る鹿の角を持つ男神