(仮)購買意欲が勝った転生者   作:Celtmyth

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 多大な読者の皆様から誤字報告を頂きました。報告、ありがとうございます。

 こっちの筆がよく進む。少し前に投稿した作品のプロット構成に失敗したからなぁ。とは言え筆が進むならまぁいいか、と思う日々です。
 『大抗争』まであと一話、切りが悪かったら二話ぐらいで入ります。


『猫の報恩』

 カロンがそこへやってきたのはある一匹の猫の誘導だった。

 

「あれが【ソーマ・ファミリア】か」

 

 猫たちが言っていたファミリアの一つであり、つまりは素行が悪いファミリアである。

 

 曰く、八つ当たりで蹴られそうになった。

 曰く、警戒心が解けないほど殺気立っている。

 曰く、匂いが臭くて近寄れない。

 

 三つめはどんな匂いかわからなかったが、本拠(ホーム)に足を運んでみればその正体がわかる。酒だ。アルコールの匂いがここから漂ってくる。

 調べるとソーマとはインド神話の月の神チャンドラと同一視されているそうだが、この世界にとって別人か複数の名を持つ神なのかはさすがにわからなかった。少なくともここのソーマと言う神は月の神より酒の神のようだった。

 しかしカロンはそんな印象はなく、今この本拠(ホーム)の雰囲気が気に入らなかった。

 

(ゴロツキ共の寝床……)

 

 さっきの2人組のようなろくでもない冒険者どもの気配がする。そんな場所にここまで誘導した猫は()()()()()()()()()と言ってきた。そんな場所から救い出してほしいと言う事は、間違いなく弱者。それも、

 

(いや、急ぐか)

 

 すでに行動を決めているのに過程を思考するのは時間の無駄だと切り替えた。ここから潜入となるがエレボスの計画の手前、この時点で騒ぎになることは避けたかった。噂から黒寄りのグレーなファミリアではありそうだがそれでも何事も起きない方がいい。

 ならここで実践することとした。

 

「【其は、真理を綴る銀の楔。目覚めよ古き森の記憶。白銀の調べを以て、万象を編む記述を解き明かさん。】」

 

 人目を避けたカロンはヘルムを脱ぎ、その猫人(キャットピープル)とハイエルフが混じった容貌を晒して自分の両目を右手で塞ぐと詠唱(うた)を紡ぐ。

 

「【我が瞳の前に偽りは潰え、秘されたる理は白日の下に晒される。虚ろなる綴りを書き換え、歪なる言葉を真実に。】」

 

 神の恩恵(ファルナ)と授かった時に発現した魔法。それは血統が、先祖返りとも言えるエルフの証明のようで少し嫌悪感が生まれたカロンだったが、世には発現した魔法を嫌って使わない子供もいると言ってくれた。もっとも、魔法は当人の魂の根源にも近い物が発現するとも。

 

「【境界を越え、妖精の瞬きを以て、現世(うつしよ)の理を再定義せよ。欺け、幻惑。射抜け、至高の真理。】」

 

 未だ受け入れているとは言えない。しかし母と同じ(しゅぞく)、同じ(けいふ)、同じ(いろ)。否定と肯定の狭間。種族として妖精(エルフ)を嫌悪しながら、親子としての妖精(エルフ)はまだ愛がある。

 もとより只人(ヒューマン)の血が繋げた猫人(キャットピープル)妖精(エルフ)の混血。境界に立つ存在。であればある意味、この魔法が発現したのは必然か、運命なのかもしれなかった。

 

「【我が視線の先に虚妄の檻を。――――我が名はアールヴ。】」

 

 そして世界中の妖精(エルフ)達の気が狂いかねない一節が紡がれ、両目に魔力が高まる感覚がハッキリとわかるようになった。

 

「【グラマリー・サイト】」

 

 魔法名の宣言と同時に手を放し両目の視界を広げる。カロンの双眸は今、まさに宝石の如く輝いていた。翠をメインに数多の色が宝石カットの反射のように美しい。

 付与魔法【グラマリー・サイト】。源は恐らく妖精グラマー、妖精眼ことグラムサイト。妖精王が持つと言われる、正真正銘王族の象徴である。

 

 

 

 

 カロンは()()()【ソーマ・ファミリア】の本拠(ホーム)を歩いていた。歩けば最低限の見栄えを維持した廊下と部屋。そこに寝転がる泥酔者。アルコール―中毒の禁断症状が出たように「酒、さけぇ……」と唸る冒険者に、その逆に狂ったように暴力と喧嘩に明け暮れる冒険者もいる。前世の世界でも嫌悪しそうな光景、その中でカロンは【ソーマ・ファミリア】の眷属の横を()()()()()()()()()()

 【グラマリー・サイト】、属性は『幻理』。幻は『幻惑』であり、理は恐らく『現実』、(ことわり)を象徴している。視界に入るものに幻惑を見せ、その逆に人の眼には見えない世界の理を視認する魔法だ。ここの冒険者がカロンにちょっかいを出さないのは視界に入った時点で幻を見せられて気づいていないだけ。そして堂々と歩いているのはどこが行くべき場所なのか『視』えているからだ。

 オラリオに来る前に試していたカロンは深く使い過ぎで鼻血が出かけたが凡その扱い方を把握した。だがその光景をエレボスは「チートじゃん……。クソッ、ホントに惜しい眷属……」とレア物を手放しがたい顔をしていた。

 それはさておき、バレないとはいえ静かに進むカロン。心なしか足取りが早くなっている。そして進むと玄関からの清潔さがなくなり汚れが目立ち始め、あと寝転がったり蹲る冒険者が増えてくる。途中、腐った性根をしたような笑顔を見せる獣人とすれ違ったが無視した。そうしてたどり着いたのは奥の部屋、扉は両開きの二枚扉になっているので倉庫か何かに使われているようだがここまで奥にあると怪しいものを疑ってしまう。しかしカロンは軽々と開けてその中に入っていく。

 

 

 

 そこに、ボロボロの幼子が力なく倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『暗黒期』は地獄。ただ生まれてからそんな地獄にいた自分にとっては違いはなかったのかもしれない。

 両親は神酒(ソーマ)に溺れ、ダンジョンの中で死んだ。酒を手に入れるために眷属にさせた自分を残して。あの両親の下でも地獄だったが死んでからはもっと地獄だった。なんだかんだであの2人の所有物として認識されていたのだろう。そして死んでからはイチ眷属として使い捨ての道具のように扱われた。失敗しようがしまいが暴力を振るわれ、報酬もなし。どうにかくすねた小さな魔石を換金して空腹を満たす。薬を買えるお金までは届かず、調合の見よう見まねで粗悪品のポーションで怪我を治す。生きたいだけの本能だけでここまで命を繋いできた。かつて口にした神酒(ソーマ)の酩酊と依存性は完全に抜け、酒を欲する気持ちはない。ただもう一度口にしてしまえば再び虜になるだろうと察していた。

 ここから逃げ出したかった。主神たるソーマは酒造りにしか興味がなくファミリアの運営は団長のザニスに丸投げ。その彼がこの現状を齎した元凶だがファミリア内でも上級冒険者であるので実力はあり、横暴であっても神酒(ソーマ)に惑わされ成長を求めない冒険者たちでは太刀打ちできない。そんな冒険者たちよりも弱い者は身も心もすり減らして死んでいく。そんな中、一度だけ団長も眷属たちの目から逃れてられた。そして自分にとって初めて安寧と言える日々を過ごせた。

 暗黒期の中、その言葉はないに等しい。実際に傍から見ればその日々もなんとか生きる糧を集めて命を繋ぐものだった。でも暴力はなくお酒の匂いも程遠く、何より()()()()()()()()()

 

『ここは危ない! 早く行って!』

 

 闇派閥(イヴィルス)の襲撃に対し、単身で奇襲をかけていたかの冒険者。名前は知らず、オラリオでは道化師(ジェスター)と呼ばれていた謎の人物。皮肉にもその人が暴れている間が自分にとって自由だった。元々、自分の周りの冒険者は闇派閥(イヴィルス)の事件に巻き込まれないようにコソコソとしていたし、身に危険が及べば他を見捨てて逃げ出す。自分もそうやって置いて行かれた事もあった。

 眷属たちのいる本拠(ホーム)か、闇派閥(イヴィルス)がいる外か。その後者を選んだだけだった。普通なら逆だったがすでに心が拒絶の域までに疲弊したこともあり、ただ逃げ出した頃は後悔したこともあった。それが道化師(ジェスター)の活躍のお陰でなくなった。眷属達の行動は変わらず、闇派閥(イヴィルス)の活動は妨害されている。それが自分にとっていい方向に転んだ。

 それに一度、道化師(ジェスター)に会った事もあった。

 

『えっ、もしかしてキミは……?』

 

 灰色のフードにマスク。道化師(ジェスター)の名にしては地味だと最初は思った。ただどう言う訳か自分を見て動揺していた。顔見知りだったかと思ったが自分にそんなまともな相手はいないし、何よりこの背丈の人物ならまずいない。自分が首を傾げていると空腹の音が鳴る。そう言えばここ最近は食料が少なかったなと思っていたら道化師(ジェスター)が何かを差し出した。

 

『これ携帯食だけど。あと飲み水とポーション』

 

 それは自分の生きる糧にとって必要だったもの。携帯食とは言うがこれまで食べてきた物の中ではまともに入るものだった。なぜ? そんな疑問しか浮かばなかったが去ろうとする道化師(ジェスター)の後姿を見て思わず尋ねた。

 

 

 

 

 なぜ、()()に恵んでくれるのですか? と。

 

 

 

 

 すると道化師(ジェスター)は複雑そうに、言いづらそうにしたが答えてくれた。

 

『身に覚えがない事だけれども、僕はキミに助けて貰ったことがあるから、その恩返しみたいなものだよ』

 

 それじゃあ、とその言葉を残して今度は去っていた。

 意味がわからなかった。自分は誰かに使い潰されるような日々しかなく、誰かを助けた事などはなかった。だが予想外の結果を残したと言えば確かに彼は道化師(ジェスター)と呼ばれるのも納得した。

 その日は携帯食とは言え久々のまともな食材だった。一緒に水筒の水でふやかして食べていると猫の鳴き声が聞こえた。振り向けば痩せた野良猫が一匹、ジッと自分の事を、いや手に持っている携帯食を見ていた。食べている所を見て食べ物と理解したのだろう。野良にしては賢いと思うと同時、どうしようかと悩む。いつもなら無視して全部平らげる所だったが、道化師(ジェスター)の事を思うと、らしくもなく分けてあげることにした。その辺に捨ててあった皿に携帯食を半分置き、飲み水をかけて柔らかくする。それを差し出せば野良猫は弱々しくも嬉しそうに頬張る。分けようが分けまいが、腹の足しにはそう変わらないからですよ。なんて強がりを言ってみた。

 そんな不思議な日からも前よりマシな日々を続けていたが、ファミリアの眷属に見つかり本拠(ホーム)に連れ戻される。ロクに大穴(ダンジョン)へ潜らないのにと思うが、理由はわかっている。気まぐれに殴れる存在が欲しかっただけ。見つかった際も痛めつけられてからだったし、連れ戻されてからも暴行を受けた。でも内心は諦観していた。

 あぁ、結局は地獄の中か。そんな気持ちが気力を奪い、涙も流れなくなった。ただそんな地獄の中、自分に手を差し伸べてくれた事実が絶望の底へ落ちることを阻んだ。もっとも、諦めがあったから底を底だとは思わなかったのかもしれない。結局はこの地獄で生きていくのだと、そう思っていた。

 

「意識はあるか?」

 

 ふと、知らない声が聞こえた。よく連れまわしていた冒険者のカヌゥでも、その取り巻きでもない。それどころかこの本拠(ホーム)では似つかわしくない子供の声だ。もう子供と呼べる眷属はいないはずなのに。

 

「ああ、意識があるな。じゃあ先に言っておく。俺は闇派閥(イヴィルス)に属している」

 

 闇派閥(イヴィルス)の名前を聞いて身が縮む悪寒が走った。なぜここにいるのかと言う疑問より先にここで殺されるのかと言う恐怖が勝ったから。

 

「だが組織としては外部の存在だ。傭兵のようなものだと思えばいい。そして俺がここに来たのはお前を助けに来たからだ」

 

 一方的に話しかけられていくにつれて恐怖が困惑に変わっていく。傭兵? 闇派閥(イヴィルス)が自分を助けに? そもそもなんで自分を? 疑問と言う疑問が積み上がり頭を回しているとだんだん意識が薄れていく。どうやら少ない体力を使い果たそうとしているようだ。そんな状態だったが、それでも声だけは何とか拾って疑問を解消できる言葉を待った。

 

「お前、いつか野良猫に食べ物を恵んだろ? その猫に頼まれて助けに来た。なんで知ってるかは今は考えるな。猫の恩返し、そう思っておけ」

 

 まさか、と思ったがそれが本当なら大きな恩返しだった。

 

 

 

 ――――ああ。もし本当に救われるのなら、道化師(ジェスター)に恩を返したいなぁ。

 

 

 

     

 

 

 

 古く、軋みそうな扉をカロンは意識して音を立てずに開けると、部屋の外で待っていたエレボスと合流する。

 

「――治療は終わった。久々に医療道具を使ったが前世のように使えたよ」

「この世界より発展した医療道具に患者衣、パイプベッド、点滴とか絶対に見ないぞ」

「命が掛かっているのにそこまで時代に合わせるわけにもいかないだろ。そっちも部屋を出て貰って悪いな。子供とは言え女の子の治療には配慮したくてな」

「エロガキ」

「前世の若い頃にお世話になったセクシー写真集とエロ同人誌があるがどうする? 保存状態は良いぞ」

「失礼しましたカロン先生。治療行為に下世話なことを言いました。訂正しますのでどうかお許しください。あとセクシー写真集の方をください」

 

 ここまでの会話で最終的には部屋の前の通路でエレボスが子供のカロンに深々と頭を下げて謝罪するエレボスの姿だった。そんなエレボスにセクシー写真集を律儀に渡す子供のカロン。絵的にヤバい。

 

「あの子の治療も終わり、留守にしても大丈夫のようにした。なら早く例の廃教会へ行こうか」

「そうだな。遅れるとわがままの女王様に吹っ飛ばされそうだ」

「それって冗談? マジな話?」

「マジだ」

「マジかぁ」

 

 とは言え受け取った写真集を速攻開いて視線を外さないエレボスの言では冗談の方にしか聞こえない。しかしこの言葉に続きがあるなら、カロンは神の言など半信半疑に聞いて自己で判断すべきだと思っている。いわゆる、『聞いただけ』である。まぁ結果としてある意味で神との付き合いかたがしっかりしているカロンである。

 

「それじゃ行くか、俺の強欲な老人(パンタロン)。殺されないようにな」

「武装もしているから、死なない程度にはするさ。――――ところで件の女王様はそんな写真集を持ってる男に何かしない保証は?」

「……置いて行くか」

 

 カロンの疑問にエレボスはあり得ると思ったのか、写真集を閉じて自分の生活スペースへ置きに向かった。その間、カロンは扉の所から部屋の奥、このファンタジー世界に似つかわしくない現代チックなベッドで眠る少女の様子を見る。

 汚れを落とし、包帯とガーゼで傷を治療した彼女の腕には栄養失調に使う点滴のチューブが伸びている。しかし表情は穏やかになっていた。

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その言葉の()()を待たずに、扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと来たかエレボス。……なんだそのガキは?」

「私たちの案内を放り出した理由がその子供か? 随分と酔狂が過ぎるのではないか?」

 

 そして、最強と最凶の残滓と出会った。

 

 

 

 

 




・カロン・グリマルキン
 情報をくれた猫の内の一匹からの救助を壊れて助けた前世が闇医者の男。性欲はその気がないと湧かないほど異性の体は見ている。
 作中で初めて魔法を使った。あらゆるものを惑わし、または認識する。ただし今回は隠密行動だったので浅い部分しか使っていない。本当はエレボスが送還を惜しむ事を感上げるほどのチート魔法。具体的な使用は今後にこうご期待! 特にエルフ相手に煽って使いたいネ☆(当本人の心中)
 治療道具は前世の医療マシンはあったが場所がなかったし情勢もあってすぐ避難できるように現代的な治療を行った。ただし、彼女を守るためのモノは用意している。

・リリ
 フルネームはリリルカ・アーデ。小人族(パルゥム)。この子の場合は前世の聖女様による負債が今を不幸にしている。
 両親が死んで虐待の日々だったが何とか生きて、本拠(ホーム)よりマシだと思って外に出てみたら狩人こと道化師(■■・■■■■)と遭遇。彼から食料と回復アイテムを受け取ったことで『いい日があった』事と『自分も誰かに恵む』気持ちが出来た。その巡り巡ってカロンに救助される。当の本人は■■と出会ったことで救われたと思っているので未来のヒロインフラグは健在。カロンに対しては闇派閥(イヴィルス)の関係者だと聞いたので変な小人族(パルゥム)(よく見えていなかったので背丈で判断)と思っている。
 この時点で魔法を発現したから不明だが神からの更新は必要だし、あのザニスが最初の内を無料で更新させていたかがネック。正直、信用できない。ザニスだし。

・エレボス
 カロンが拾ってきた少女は受け入れて部屋を貸した。ギリシャ系なのでエッチは絵より被写体がいい。でもエロ本も好きだぞ、ギリシャの男神様だから。
 元々、この日に廃教会へカロンを連れて行き最強と最凶に紹介するつもりだった。ただLv.1な上に眷属成りたてホヤホヤだから会わせたくなかったけど、紹介しないでしなかったら女王様にボコられるし、大食いが知らずにつまんでしまうかもしれないから会わせる事にした。
 カロンが少女を守るために出したモノに少年心が疼いている。

・野良猫
 リリに食料を貰ったオラリオの野良。この時かなり弱っており、ここで恵んでもらえなかったら次の食い扶持までには餓死していた。
 現在、リリの眠る部屋の窓の外で見守っている。

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