蠍座の少年と退魔の血族   作:独身紳士

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 世界が燃えている。

 

 僕は炎に包まれた街を見てそう思った。

 

 さっきまで友人と好きな漫画の新刊を買って、喜びを分かち合い、さて家に帰ってじっくりと読もうと店を出た所で、僕の目の前にあったのはこの光景だった。

 

 最初は夢だと思った。

 

 朝起きてからのこれまで出来事が全て夢で、これも紛い物だと信じたかった。けれど、肌に感じる熱は本物であり僕の下にある人間の燃え滓から匂う異臭は、容赦なく鼻を通って、脳に伝わった。

 

 ああ、これは現実だ。紛れもない現実なのだと自分を納得させれば、ぼやけていた視界が嫌にはっきりしてくる。

 

 崩壊した建物の瓦礫。その下敷きになっている人間だったものの部位。燃えながらも意識があるのか、こちらに手を伸ばしてくる性別不明の人間。

 

「うぐっ……」

 

 込み上げてくる酸っぱいものを必死に押し留める。

 逃げ出したい、なんだこれは、熱い、死にたくない。

 思考の波が僕を襲う。

 

 でも、僕は足を動かした。

 

 早くこの場から去りたいという想いが強かった。これ以上、人間が焼ける匂いを嗅ぎたくなかった。しかし、この燃え盛る街はそう易々と僕を逃してはくれないようだった。

 

 それは瓦礫の合間を抜け、少しだけ開けた場所に出た時のこと。俺は化け物と出会ってしまった。

 

 そいつは圧倒的な存在感を持ち、憤怒の表情で燃え盛る剣を振るう、例えるならそう――不動明王。

 

 周りには黒い軍服を着た人間たちが倒れていた。

 その人間たちの武器なのか翡翠色に輝く剣が至る所に落ちていた。

 もちろん人間たちはぴくりとも動くことはない。

 

「ユルサヌ……」

 

 化け物は剣を激しく振り回す。

 

 その度に種火が生まれ、そこから炎の狼が生まれ、付き従うように化け物の周りにずらりと並んだ。

 

 瓦礫の後ろに身を隠していたのに、その化け物は僕を見つけた。ヒヤリとした汗が流れ、しかし周りを包む炎によってすぐに蒸発する。

 

 今すぐにでも逃げるべきだった。それが正しい選択肢だと分かっていた。

 

「うう……」

 

 でも、近くで倒れていた軍服の一人が声を発した事で、僕は迷ってしまった。

 

 ……見捨てるべきだ。

 

 生き残る為には他者も犠牲にしなければ生き残ることはできないと、知っていた。

 

 僕は、僕は……。

 

「最悪、だっ!!」

 

 懐に隠していた新作のゲームソフトを、全力で瓦礫の外へと放り投げた。

 

 その方向に向かって、炎の狼たちが突撃する。

 

 僕はその隙に倒れている軍服の人を背負って、駆け出した。

 

 きっとこれは人間らしい正しい選択だと信じて。

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