もし藤丸立香(女性)がFate/Zeroの雨生龍之介にキャスターとして召喚されたら   作:白豚くん

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FGOでのアルトリア・オルタ(ランサー)の出番、もっと増えないですかね・・・。


第十一話:狂戦士の咆哮 

月明かりが、ホテルのカーテンの隙間からベッドに横たわる二人の横顔を照らしている。

心地よさそうに龍之介に抱き着きながら眠っていた藤丸立香が、急にカッと目を見開いた。

彼女の心地よい狂気と殺戮の余韻に浸っていた意識が覚醒する。

それは、彼女たちの「作品」を飾っている工房へ何者かが侵入したことを伝える警告。

あの地下室――そこに隠しておいた影からの異変を伝える連絡だった。

 

「……! 嫌な臭い……。

起きて、龍之介くん。

私たちのお家に、余計なお客さんが、勝手に入り込んじゃったみたい」

 

立香は、隣で無防備に寝息を立てていた雨生龍之介の肩を、愛おしげに揺すった。  

龍之介は「んぅ……」と子供のような声を漏らし、まどろみながら瞳を開ける。

 

「……ん、立香ちゃん? どうしたの、こんな夜中に……。

また、最高のインスピレーションが夢の中で浮かびそうだったんだけどなぁ……」

 

「……ふふ、ごめんね。

でも、私たちの『お家』にお客さんが入ったみたい。

……誰かが勝手に入って、私たちの作品をめちゃくちゃにしちゃうかもしれないんだよ。

……すごく、嫌な感じがする。

……それに、なにか、私の知ってるような、懐かしいような感じのする魔力。

吐き気がするような臭いがするよ」

 

立香の声色には、龍之介への愛らしさを持ちながらも、狂気の影響で侵入者への絶対的な殺意が滲んでいた。

爛々と輝く見開かれた黄金の瞳。

嫌な臭いの正体。

今の彼女には、その臭いの正体が、自分を救おうと必死に藻掻いている、立香にとって最も大切な少女の気配であることなど知る由も無い。 

 

侵入者。

その事実を知った瞬間、龍之介の瞳からも眠気が一気に吹き飛んだ。

 

「……えっ!? マジで!? 

あそこ、俺たちの宝物がいっぱいあるのに……。

……誰なんだよ!全く!

……そいつは『COOL』じゃないな。……全然、かっこよくない」

 

「そうだよね!

……だからさ、龍之介くん。

……今からちょっと、そのお客さんに『挨拶』しに行こう? 

私たちのお客さんには、ちゃんと歓迎して、素敵な『作品』になってもらわないとね!」

 

「……はは! 流石は立香ちゃん、話がわかる! 

よし、行こうぜ! 

……俺たちの『アート』を汚す奴に、最高の歓迎(デコレーション)をしてやろう!」

 

二人は楽しげに笑い合い、軽やかな足取りでホテルを後にした。

夜の街を歩くその姿は、まるで深夜のデートに向かう恋人同士のようだった。

だが、立香の足元からは、彼女の苛立ちに呼応するように真っ黒な影がどろりと溢れ、夜の闇に溶け込んでいた。

 

 

「……が……はっ、ああ……ッ!!」

 

暗い夜の中、間桐雁夜は、全身を喰らい尽くさんばかりに蠢く「刻印虫」の激痛に、蹲っていた。  

視界は霞み、身体の自由は徐々に失われつつある。

ただ一つの妄執――遠坂時臣を殺し、桜を救い出すという、その呪いにも似た願いだけが、彼を突き動かしていた。

 

「……どこだ、どこにいる……時臣……! 

……クソッ、バーサーカーが、魔力を……喰いすぎている……」

 

影のように付き従う、黒い霧を纏った騎士。

その狂戦士を現界させ続けるだけで、雁夜の命は削られていく。  

そんな中、教会の監督役代行である言峰神父からの通達が彼にも届いていた。

 

『キャスター陣営を討伐せよ。

最も討伐に貢献した陣営には報奨として令呪一画を与える』。  

 

時臣を探し求めて彷徨っていた雁夜にとって、それは願ってもないチャンスだった。

令呪が増えれば、魔力源を増やせる。

元々魔術師ではない彼にとって、バーサーカーを維持するためのリソースに出来る令呪は喉から手が出るほど欲しいものだった。

……そのために行われる戦闘で消費されるリソースについてまで、もはや彼の思考は巡らない。

 

「……時臣……! それにキャスター、……どこにいる……。

……あの殺人鬼ども……」

 

その時だった。  

森の開けた道、街灯の届かない暗がりの向こうから、不釣り合いなほど陽気な話し声が聞こえてきた。

 

「……あはは! 立香ちゃん、見てよ! 

あそこの木の枝、あいつが死んだ後の指の形にそっくりだよ!」

 

「……本当だ!……龍之介くん、君の観察眼はやっぱり素晴らしいね……」

 

雁夜は、目を剥いた。  

……いた。 キャスター陣営。

あまりにも無防備に、鼻歌さえ交えて歩くその姿は、聖杯戦争という命のやり取りをしている魔術師達のものとは到底思えず、思考力の低下している彼でも思わず罠を疑うほどだった。

 

「……見つけた……!でも、隙だらけだ……。

罠……なのか……?

それでも、あいつらさえ殺せば……令呪が手に入る……時臣に、届く……!」

 

雁夜は残された力を振り絞り、命令を出す。

 

「……殺せ……! バーサーカー!! マスターを狙うんだ、八つ裂きにしろ!!」

 

 

 

突如として、夜の静寂が、暴力的な咆哮によって引き裂かれた。  

黒い霧を吹き出し、空間そのものを腐食させるようなプレッシャーを纏った『何者か』が、茂みから飛び出した。  

その目標は、無防備な背中を見せていた雨生龍之介。

 

「……危ない!」

 

キャスターのサーヴァントである今の立香の反射神経は、常人の域を越えている。

さらに、カルデアで培った、幾多の死線を潜り抜けた経験――。

彼女は龍之介の首根っこを強引に掴み、自身の礼装を起動させ後方へと跳躍した。  ズォォォォォン!!  先ほどまで龍之介が立っていた地面が、バーサーカーの振るった正体不明の「黒い鉄柱」によって、クレーターのように陥没する。

 

「……おっと! ……あぶなっ! 

……立香ちゃん、サンキュー! ……今の、すごい『音』がしたねぇ!」

 

龍之介は尻餅をつきながらも、その瞳は恐怖ではなく興奮に輝いていた。

だが、立香の表情からは笑みが消えていた。  

大切なパートナーである龍之介に向けられた明確な殺意。

それが、彼女の逆鱗に触れたのだ。

 

「あはは。きみ、もしかして……龍之介くんを殺そうとした?

……私のマスターを、私の唯一の理解者を? 

……許さない。……絶対に、許さないんだから」

 

立香は立ち上がり、黒い霧の中に佇む『何者か』を睨みつけた。

黒い霧に覆われ、その輪郭ははっきりしない。

サーヴァントであることは間違いない。

ランサーの時は、すぐに分かった。

その正体を突き止めようと、彼女の瞳が輝きを増す。

本来の彼女には英霊の真名を見抜く「真名看破」のスキルに近い技能がある。

人理焼却を防ぐため、英雄について必死に勉強したこと、そしてカルデアで数多の英霊を召喚し、共に戦い、その魂の在り方を知ったからだ。

狂化スキルを強制付与され、旅の記憶を捻じ曲げられ、マシュ達のことも記憶から消された今でもその経験は残っている。

見当くらいはつくはず……。

 

「なに……?この霧?」

 

だが、この目の前のサーヴァントは、不可解だった。  

黒い霧での隠蔽。

 

真名を隠す宝具の効果――『己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)』が、彼女の認識を拒んでいる。

 

「……認識が歪められている? ……この黒い霧の効果だね。

……あの感じ、アーチャーじゃないよね? セイバー?それとも……」

 

「Aurrrrr……Arrrrrthurrrrrrrrーー!!」

立香が考えている中、騎士の喉から、血を吐くような、絶望に満ちた絶叫が漏れた。  

 

その叫び声を聞いた瞬間、立香の脳裏に、かつての(改ざんされた記憶の中の)知識が閃光のように走った。

 

「……Arrrrrthurrrrrrrr……。アーサー!!

……ああ、そうか。貴方は、あの『王』を求めているんだね。

……その怨嗟の響き、その深い後悔……。

……分かったよ。貴方は、ランスロット。

それも、バーサーカーの側面での現界だね。

……かつて円卓に列した、最も美しく、そして最も惨めに裏切った騎士……」

 

立香の口元が、歪な、邪悪な笑みに吊り上がった。  

 

「……いいよ。そんなに『王様』に会いたいなら、会わせてあげる。

……貴方が一番見たくないはずの、……貴方を永遠に呪い、祝福する、その姿をね」

 

立香は右手を高く掲げた。

彼女の足元の影から、どろりとした黒い影が溢れ出し、それが実体を持って形を成していく。  

「……おいで、アーサー王! ……ランサーアルトリアの影!」

 

漆黒の魔力が渦巻き、そこから一騎の影が現れた。  

黒い鎧。冷酷なまでの威圧感。

そして、その手に握られているのは、黒い聖槍『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』。 『アルトリア・オルタ(ランサー)』

――その暴風の王の幻影が、立香の呼び声に応えて顕現した。

彼女もまた、影のフィン・マックールと同じように顔はのっぺりとした影の膜に覆われ、瞳があるべき場所には、虚無の炎が揺らめいていた。

 

「…………!!」

 

バーサーカーの動きが、止まった。  

その兜の奥にある瞳が、影であるはずのアルトリアを捉えた瞬間、彼の狂気は極限にまで跳ね上がった。

 

「Arrrrrrrrrthurrrrrrrrrrrr!!!」

 

大地を砕くような加速で、バーサーカーが突進する。  

対するアルトリアの影は、一言も発さず、ただ冷酷に聖槍を構えた。

 

激突。  

キィィィィィィィン!!  

宝具:『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』によって宝具化されている黒い鉄柱と、聖槍が打ち合い、森の木々が衝撃波でなぎ倒される。  

バーサーカーの動きは変幻自在だった。

その辺に落ちていた枯れ枝を掴めば、それは『騎士は徒手にて死せず』の効果により、Dランク相当の宝具へと変生し、投げつけられアルトリアの影を襲う。

 

「……あはは! すごい! すごいよ龍之介くん、見て! 

あの黒い人、枯れ枝を投げナイフみたいにして使ってる! 

……あれ、どうやってるんだろうね!」

 

立香は戦闘のすぐそばで、無邪気に手を叩いて喜んでいた。  

アルトリアの影は、槍を振るいバーサーカーの攻撃をいなし、弾き、その隙間に容赦ない突きを叩き込んでいく。  

聖槍が空を切るたび、黒い魔力の断層が発生し、地面が爆ぜる。

バーサーカーは、かつて自分が仕えた王の姿をした影を前に、慟哭を上げながらも、その指先一つ一つにまで宿った「武」の極意をもって、獣のような動きで攻撃を躱し、アルトリアの影へ攻撃を当てていた。

 

「……う~ん、少し分が悪いかな。

王様は、1対1じゃなくて1対多が得意だもんね。

仕方ないか。……あの辺かな?」

 

立香は戦場から視線を外した。  

彼女が感じているのは、眼前の激闘だけではない。  

このバーサーカーを、この狂った騎士をこの場に繋ぎ止めている、細く、しかし汚らわしい魔力の流れ――。

 

「……見つけた。……あっちに、新しい『素材』の匂いがする」

 

立香は鼻をクンクンと鳴らし、バーサーカーのマスターである雁夜が潜んでいる方向へ、ゆっくりと歩き出した。

 

「……龍之介くん、あそこにね、すごく面白い人がいるよ。

……全身が虫さんに食べられてて、絶望でパンパンに膨らんでる……そんな素敵な人が。

きっと、あんな人の皮膚を使えば、最高に、苦しそうな表情の絨毯が作れると思うの!」

 

「……マジで!? ……全身が虫? ……それは新しいな! 

……よし、行こう立香ちゃん! ……その人、ぜひ俺にも紹介してよ!」

 

龍之介もまた、期待に胸を躍らせて立香の後に続く。  

 

森の奥。  

雁夜は、近寄ってくる死の気配に戦慄していた。  

バーサーカーはキャスターの召喚した「何か」と戦っている。

そして、そのキャスター本人が、こちらに向かって笑いながら歩いてきている。

 

「……くっ、くるな……! ……バーサーカー、戻れ! 戻って俺を守れ……ッ!!」

 

叫ぶ雁夜の喉に、さらなる刻印虫の苦痛が走る。

しかし、アーサー王を見て暴走しているバーサーカーは制御が効かず、雁夜の声は届かない。

焦る間も、立香の歩みは止まらない。  

彼女の瞳には、かつての慈愛の光など微塵も残っていない。

あるのは、ただ一つの愉悦。  

 

「……あはは。そんなに怯えないでよ、おじさん。

……大丈夫だよ。死ぬのは、一瞬じゃないから。

私が、君のその『絶望』を、……永遠の芸術に変えてあげるね!」

 

立香の背後では、バーサーカーとアルトリアの影による、さらに苛烈さを増した激突音が響き続けていた。  

火花が飛び散り、魔力が爆ぜる。  

しかし、その光も、間もなく訪れるであろう雁夜の悲鳴にかき消されようとしていた。

 

「……ねえ、龍之介くん。……このおじさんの叫び声、どんな音色だと思う?

 ……私は、……チェロのような、低くて重い……そんな音がすると思うんだ」

 

「……俺はねぇ、立香ちゃん。……壊れたラジオみたいな、ザラザラした音だと思うよ。……どっちが正解か、……今すぐ試してみようぜ!」

 

二人の殺人鬼は、絶望の淵にいる雁夜の前で、無邪気に顔を見合わせた。

月は雲に隠れ、森の深淵は、さらに深い黒に飲み込まれていった。

 

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