もし藤丸立香(女性)がFate/Zeroの雨生龍之介にキャスターとして召喚されたら   作:白豚くん

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第十二話:深まる狂気 消せない絆

雲に隠れ、月の光も届かない深夜の森。

普段なら静寂に包まれているはずの場所は、今や狂気と暴力の騒乱に晒されていた。  

黒き霧を纏うバーサーカーと、立香が召喚した漆黒の聖槍を携えるアルトリア・オルタ(ランサー) の影が、大気を震わせ、木々をなぎ倒しながら激突し続けている。

バーサーカーが黒い鉄柱を振り回しながら、本人が武器と認識したものを次々と宝具化し、アルトリアに投げつける。

アルトリアの影は、馬上で影の聖槍を振るい、嵐のような旋風を起こし投げつけられる宝具を吹き飛ばす。

互いに決定打が無いながらも、獣のような動きでアルトリアを翻弄するバーサーカーが若干優位に感じられた。

 

そのころ、立香は、アルトリアの劣勢を察知し、バーサーカーのマスター:間桐雁夜を発見。

龍之介と2人で彼の前に立っていた。

 

 

間桐雁夜は、眼前に迫る2人の狂人が目を輝かせながら自分をどうやって殺すかを楽しそうに語り合っているのを絶望しながら見つめていた。

 

(どうすれば……俺はこんなところで死ねないのに……。

さくらちゃんのためにも…… 時臣を……! )

 

俺は、全身を巡る刻印虫の激痛に耐えながら、震える右手を掲げた。

 

(……ぐ……あああああッ!! バーサーカー……! 

戻れ……戻って、こいつを、この女を殺せッ!! )

 

 

 

必死に念を送り、令呪に魔力を込める。

皮膚の下で蠢く虫たちが、生命力を極限まで啜り、魔力へと変換していく。

その苦痛の対価として、己の手に刻まれた「令呪」が、赤く禍々しい光を放ち始めた。  

 

「……令呪をもって命ずる……! バーサーカー……今すぐ、俺の元へ……!」

 

元々令呪を手に入れる目的でキャスター陣営の討伐を狙った間桐雁夜。

しかし、手を出してはならない相手に手を出してしまった時点で、彼の破滅は決まっていたのだった……。

 

 

令呪が発動する寸前。

 

「あはは! だーめ。それは、私のものだよ」

 

鈴を転がすような、無邪気で残酷な声が耳元で響いた。  

雁夜の視界が歪む。気づいた時には、藤丸立香が目の前に立っていた。

彼女は、まるで親しい友人の腕を取るような自然な動作で、雁夜の右腕を掴んだ。

 

「……っ!? な、なにを……離せ……!!」

 

「そんなに焦らないでよ、おじさん。

そんなボロボロの身体で令呪なんて使ったら、本当に死んじゃうよ? 

だからぁ……私が、もらってあげるね」

 

立香の細い指先から、真っ黒な影が溢れ出した。  

その影は意思を持つ生き物のように雁夜の腕に絡みついていく。

そして……

 

「あ、あ、ぎゃああああああああああああああッ!!!」

 

絶叫。  

雁夜に、灼熱の杭を押し付けられたような強烈な痛みと熱が走った。

影は鋭利な刃となり、彼の手首を無慈悲に、そして鮮やかに断ち切った。

鮮血が舞い、雁夜の身体が地面に転がる。  

立香は、切り取られた男の右手を、宝物のように見つめ、大切そうに両手で掲げた。

 

「あは! 見て見て、龍之介くん! 

綺麗な赤色だね。この断面、すっごく綺麗に切れたでしょ!

我ながらうっとりするよ!

それに、この魔力……。これで令呪も二人目……ううん、二つ目かな?」

 

「わあ、すごいね立香ちゃん! 

その手の甲の模様、まるで生きているみたいに脈動してる。

……最高に『クール』だ! それで、そいつはどうするの?」

 

龍之介が興奮気味に身を乗り出す。

立香は楽しげに微笑むと、切り取った右手を、自身の影の中へとゆっくりと沈ませた。

 

「こうするんだよ。……おいで、私の影の中に。

……貴方の持ち主には、この力を使いこなせないみたいだから」

 

影が令呪を、そしてその手に残された魔術回路を蟲ごと飲み込んでいく。

手が完全に影に飲み込まれた瞬間、立香は繋がったことを感じた。

狂気に囚われ、主を求めて彷徨っていた黒き騎士の魂――バーサーカーの制御権が、令呪の譲渡という形を飛び越え、影の浸食によって強引に立香へと移譲されたのだ。

 

「……あはっ。繋がった。……聞こえるよ、彼の悲鳴が。

……ねえ、もういいよ。こっちにおいで、ランスロット」

 

立香が森の奥、激闘を続ける戦場へ向かって手を差し伸べた。

すると、影のアルトリア・オルタと切り結んでいたバーサーカーが、ピタリと動きを止めた。

彼は獣のような唸り声を上げながら、ズルズルと、引き寄せられるように立香の元へと歩み寄ってくる。

 

「Arrrrr……Arrrrrrrrr……」

 

「よしよし、いい子だね。

……貴方の狂気も、その恨みも、全部私が抱きしめてあげる。

……影の中で、王様と一緒に、永遠に踊り続けよう?」

 

立香の足元から巨大な影の口が開き、バーサーカーの身体を飲み込んでいく。  

抵抗することも、咆哮を上げることもなく、狂戦士はその闇の中へと消えていった。

それと同時に、役目を終えたランサー・アルトリアの影もまた、霧のように霧散し、立香の影へと還っていく。

 

静寂が訪れた。  

立香はふぅ、と満足げな吐息を漏らすと、くるりと振り返って龍之介に抱き着いた。

 

「やったね、龍之介くん! ランサーに続いて、これで二人目! 

……あはは、なんだか、すごく調子が良くなってきたよ!」

 

「お疲れ様、立香ちゃん! 

あんな凄いのを二人もやっつけちゃうなんて、やっぱり君は俺の最高のパートナーだよ!

……でも、調子が良いって?」

 

龍之介が彼女の背中を優しく撫でながら問いかける。  

立香は彼の胸に顔を埋めたまま、うっとりとした表情で言葉を紡いだ。

 

 

(……ああ、すごい。さらに魔力が高まっていく……!)

私の視界が、黄金色の魔力によって鮮やかに染まる。

私は、調子が良くなってきたことを気にするマスター、龍之介くんの胸に顔を埋め、答える。

 

「うん……なんだろう。

身体の芯から、熱い力が湧き出してくる感じ。

……なにか、身体と精神がより一体化したっていうのかな。

……今の私が本当の自分なんだ、っていう確信が、どんどん強くなってくるの。

……ずっと昔から、私はこうだったんだって……そう思えるんだ」

 

自分でも何を言っているのか、よく分からないけど、私は「人理を守るために、七つの世界を滅ぼして、その人たちを皆殺しにした、最悪の殺人鬼」の英霊だもんね。

うん ……。余計なことは考えちゃ駄目。「役割」を全うしなきゃ……。

 

「やっぱり君は俺の最高のパートナーだよ!」

 

龍之介くんの声が聞こえる。

その言葉が耳に届いた時だった。  

 

(…………えっ?)

 

私の胸の奥で、鋭い針で刺されたような「痛み」が走った。  

 

――薄紫色の短い髪をした、眼鏡をかけた少女。

――自分を「先輩」と呼び、常に傍らで支えてくれた存在。

――戦場で盾を構え、全てから守ってくれた一途な瞳。

 

(……だれ……? あの、女の子……。

……どうして、私をそんな悲しそうな顔で見てるの……?)

 

名前は分からない。

それに、彼女の気配からはとても嫌な、吐き気がするような臭いがする。

でも……それなのに……どうして……。

 

龍之介くんに、最高のパートナーと呼ばれた時、強烈な違和感が襲った。

頭が、いたい……。

あの子は……。

いや、いいや……。だって、私のパートナー、理解者、マスターは、

龍之介くんだもんね!

 

 

彼女が顔を上げた時、その瞳は狂化の証である黄金色の輝きを放っていた。  

本来の彼女……人類最後のマスターとして、慈愛と勇気を持って戦っていた藤丸立香の面影は存在しない。

ランサーに続き、バーサーカーという強力な英霊の霊基を影に吸収したことで、彼女の存在を「狂気のキャスター」という霊基の定義として強化されていく。

それは、彼女が「元の自分」へ戻るための道を、自らの手で一歩ずつ、そして確実に焼き払っていることに他ならなかった。

しかし、彼女の最も強い「絆」はまだ消えていない。

マシュとの記憶は消され、彼女との関係性は「最悪」へと改ざんされているはずだった。

それなのに、龍之介に「最高のパートナー」と呼ばれた瞬間、その座に在るべき「別の誰か」の残像が、強烈な違和感となって彼女を揺さぶったのだ。

二人の再会がどういう結果をもたらすかは、まだ分からない……。

 

 

「……本当の自分、か。

……あはは、立香ちゃん、難しいことはよくわからないけどさ。

……立香は立香だよ! 

俺の理解者で、世界で一番『最高のクール』を分かってくれる、最高のパートナー! 

それが全てで、正解なんだよ」

 

龍之介は一点の曇りもない笑顔で、立香を強く抱きしめた。  

彼にとって、立香は己の芸術を最も理解してくれる愛しい存在。ただそれだけだった。

 

「……龍之介くん。ありがとう……。……貴方がいてくれて、本当によかった」

 

二人の甘い抱擁。

その足元には、右手を失い、地面に這いつくばる間桐雁夜が転がっている。  

雁夜は、薄れゆく意識の中で、喉から血を吐き出しながら呟いた。

 

「……が……っ、は……。……まだ……死ねない……。

……時臣……! ……あの、男だけは……この手で……。……サクラ……を……」

 

もはや言葉にもならない怨嗟。  

龍之介は、足元で芋虫のように蠢く雁夜を、ひどく退屈そうな目で見下ろした。

 

「ねえ、立香ちゃん。……このおじさん、どうする? 

さっきの手を切られた時の叫び声は、チェロみたいで最高に良かったけど……。

新しい声は出なさそうだよね。……もう、要らないかな?」

 

龍之介は、まるで壊れた玩具を捨てるかどうか相談するような口調で言った。  

立香も、雁夜の姿を見下ろす。  

その黄金の瞳が、僅かに細められた。

 

「そうだね。

……あ、でも。……この人、なにかすごく強い『想い』があるみたい。

……見て、この瞳。……全部を失っても、まだ、諦めてない」

 

立香の心に、無意識の残響が響いた。  

人理が焼却され、未来を失った世界で、それでも「明日」を信じて、ボロボロになりながら旅を完遂した、かつての彼女自身の「不屈の精神」。  

旅の記憶を改ざんされても消えきらないその本質が、雁夜の抱く歪な執念に、皮肉にも共鳴してしまったのだ。

「……この諦めない気持ち、私、嫌いじゃないな。

……ふふ、ちょっとだけ、共感しちゃうかも」

 

「ええっ、立香ちゃん、優しいなぁ。

……俺は、早く工房に戻って様子を確かめたいんだけど」

 

「あはは、すぐ終わるよ。

ねえ、おじさん。私の影の力を、少しだけ分けてあげるね。

……それで、貴方の望みを叶えに行っておいでよ。

貴方をこんな風にした『悪い人』を、驚かせてあげなよ」

 

立香は慈愛に満ちた表情で微笑みながら、雁夜の身体を影で覆った。

影は雁夜の失われた右手の切断面から身体に侵入し、彼の体内を刻印虫もろとも塗り潰していく。

 

「サ……サクラ…………トキオミ…………トキオミィィィィィ!!!」

 

雁夜の瞳から理性が消失し、代わりに底なしの闇が宿った。  

影の力によって肉体を強制的に活性化され、理性を代償に爆発的な魔力を得た男の姿は、もはや人間とは呼べない異形の「ナニカ」へと変貌していた。  

雁夜は、自身の目的さえ忘れ、増幅された「時臣への憎悪」だけを燃やし、猛然と駆け出していった。

 

「……あはは! すごい勢い! あのおじさん、あんなに早く走れるんだね」

 

「……うーん、まあ、最後にあれだけ元気に走ってくれるなら、最高のフィナーレだったかな。

……いいことしたね、立香ちゃん!」

 

「うん! いいことした後は気分がいいね! 

……さあ、龍之介くん。早く行こう! 

私たちの『お家』にいる、お客さんたちに『挨拶』 しにいかなきゃ!」

 

「そうだね! 

……どんな奴らだろうなぁ。……俺たちの作品を見て、どんな顔をしてるかな。

……立香ちゃん、早く行こうぜ!」

 

二人は再び腕を組み、スキップでも踏みそうな軽やかな足取りで工房へと向かう。

そこで待ち受けているのが誰かなのかを、立香はまだ知らない。

 

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