もし藤丸立香(女性)がFate/Zeroの雨生龍之介にキャスターとして召喚されたら   作:白豚くん

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雨生龍之介の先祖が陰陽師(の真似事をしていた)という設定があったので、そこから本作の設定を思いついた次第です。


第十三話:六芒星

「……衛宮さん。

もう一度、中を確認させてください。

先輩が召喚されたらしい、あの地下室。

カルデアの資料には、この家……

衛雨生龍之介が一家惨殺を行いキャスターを召喚したここには地下室など無かったようなのです」

 

あの狂気の「ショールーム」。

炎により家が焼き尽くされた後、地下室へ向かうコンクリート製の階段への入口がぽっかりと口を開いていた。

マシュ・キリエライトと衛宮切嗣、そして彼らと一時的な共同戦線を張るライダー陣営が放った炎は、哀れな犠牲者たちを天に帰した。

マシュは、炎が上がっている間、この家に不審な点が無いか、カルデアへ通信しダ・ヴィンチ達に調べてもらっていた。

結果、本来の歴史ではこの家には地下室は確認されていなかった。

 

「まあ、確かに普通の家にはあんな広い地下室は無いよな!

仕方ない、僕も魔術師なんだ、一緒に行ってやるよ」

 

「ありがとうございます! ウェイバーさん!」

 

マシュが、ウェイバーの手を握り嬉しそうに礼を言う。

顔を赤くし照れるウェイバー。

ライダーがからかうと、ウェイバーが 違う! と彼に抗議する。

 

「落ち着いて慎重に行こう、マシュ。

あのキャスターが何か罠を仕掛ける、というのは考えにくいが……。

この状況を作り上げた黒幕が絡んでいる可能性が高いんだ。

あの炎で危険なものは燃えていると思うが、油断はするなよ」

 

「はい。わかっています。

どうしても……先輩の、マスターの気配が、まだここにあるような気がして……」

 

マシュが、煤けた階段を一段ずつ踏みしめながら言った。

その手に握られた盾は、主の不安に呼応するように、鈍い光を放っている。

今の彼女には、宝具の展開が出来ない。

でも、新宿やアガルタの時のように待っているだけなのは嫌だった。

だから、一緒にいたいと思い今回は一緒にレイシフトしようとした。

この盾も、立香に「呼ばれた」時に何故か持っていたが、人理修復の旅の時の力は、今の自分には備わっていないことは自覚出来ていた。

 

(……それでも。私にしか出来ないことがあるはず、です……!)

 

背後からは、衛宮切嗣と、恐怖に肩を震わせながらも好奇心を捨てきれない少年、ウェイバー・ベルベットが続いた。

 

「……ウェイバー、君も余計なことをするなよ。

あまり良い場所じゃない」

 

「わ、わかってるよ……。

ライダーが上で見張っててくれるからいいものの、一人じゃ絶対に来たくないさ。

……ううっ、ひどい臭いだ。頭が痛くなってくる……」

 

ウェイバーは鼻を服の袖で覆いながら、マシュの背後にぴたりと寄り添った。

三人は、地下室へと足を踏み入れた。

マシュは広間の中央で立ち止まり、床の焦げ跡を見つめた。

 

「……これを見てください。衛宮さん、ウェイバーさん」

 

マシュが指し示した先には、歪に書き上げられた魔法陣の跡があった。

そして、その中から不気味な模様が浮かび上がっていた。

 

「な、なんだこれ……? 魔法陣……? 

でも、おかしい。

いや、こんな稚拙な魔法陣でサーヴァント召喚出来るのもおかしいけど、

まあ、それは聖杯の力で何とかなるのか……?

……って、そんなことはどうでもいい!

この紋様だよ!

これ、見た感じ、召喚儀式起動の際に無理やり割り込んで起動させるためのものだ。

この魔法陣を起点として、何かを呼び出した対象に強制付与させるための……」

 

ウェイバーはしゃがみこんで魔法陣を凝視し、分析した。

切嗣も魔法陣の側に屈み込み、手袋を嵌めた指でその縁をなぞった。

 

「確かに、異様だな。

聖杯のシステムを利用しながらも、召喚された対象に『別の何か』を被せるための術式……。

……マシュ、君はこのような術式に見覚えはあるか?」

 

「いえ……。

私たちの英霊召喚システム『F.A.T.E』とは、似ても似つきません。

私には、これは呼び出した対象を強制的に型(クラス)へ押し込めるための……呪いの檻のように見えます」

 

マシュの声が震える。やはり、ここで藤丸立香が呼び出されたのだ。

本来ならば、「今の時代を生きている人間」である彼女を、無理やり「サーヴァント:キャスター」という器と役割に押し込め、その本質を歪ませ、狂い果てさせている原因がこの魔法陣には刻まれている、と確信していた。

 

「……あ、……っ!?」

 

マシュが顔を上げ、焦げた壁の一角に目を留めた。  

切嗣が放った炎は、地下室の備品も、龍之介が持ち込んだ道具も、全てを焼き尽くしていた。

しかし、北側の壁面だけは、まるで炎を拒絶したかのように、不気味なほど無傷で残っていた。

 

「みなさん、あそこです! あの壁、炎で燃えた跡に何かあります!」

 

「本当だ……。魔術的な拒絶反応か? 

あんなに激しく燃えたのに、あそこだけ何もなかったみたいだ……」

 

ウェイバーが腰を引かせながらも、その壁を調べ出す。

そこには、鮮やかなまでの色彩を保ったままの「六芒星」が描かれていた。  

だが、それは西洋魔術におけるヘキサグラムではない。

線の結び、頂点の角度、そして使われている墨のような塗料の質。

 

「……これは……六芒星……。

ダビデの……? いえ、違う、私、どこかで……」

 

「……待て。六芒星、それにこの筆致。……これは西洋の魔術じゃないぞ。

極東の……日本に伝わる陰陽道で使われる『晴明紋』に似ている。

だが、決定的に違う……」

 

ウェイバーが知識を総動員して分析を始める。

 

「晴明紋……。

天地を巡る五行を操り、万物の理を説く術、安倍晴明が完成させたものですね。

ですが、ウェイバーさん。

この六芒星、晴明のものとは線の交差が逆です。

……まるで、理を正すのではなく、理をねじ曲げるための……」

 

「そうなんだ。

僕が調べた文献にある『安倍晴明』のやり方とは、根底にある思想が正反対だ。

晴明の術式は宇宙を模し、調和を目指す。

……だけど、これは……。

調和を破壊し、混沌を呼び込むための術式だ。

……なんて悪趣味なんだ。こんな邪悪な陰陽道なんて、聞いたこともない!」

 

ウェイバーの言葉に、切嗣の瞳に冷徹な光が宿る。

 

「……つまり、キャスターのマスター、雨生龍之介は、ただの『依代』に過ぎなかったということか。

龍之介という男に魔術の素養はなかった。

恐らく、彼は偶然、召喚の術式を見つけて実行したんだろう。

あの稚拙な魔法陣がその証拠だ。

あの男が偶然見つけた召喚の術式、というのも恐らく、最初から何者かによって仕組まれたものなのだろう。

黒幕と龍之介には、もしかしたら龍之介本人も知らない、何かの「縁」があるのかもな。

それで彼の「狂気」を利用し、キャスターの少女と結び付けた。

この壁の術式があの魔法陣の紋様と連動して、彼女をサーヴァント化させ、狂化させている元凶だろう」

 

「……だとすると、誰かはまだ分かりませんが、陰陽道に通じる何者かが、先輩を……。

あの人を……!

狂い果てさせて、あんなひどいことをさせて!

殺人鬼のキャスターなんて役割をさせるためにこの聖杯戦争という戦場に引きずり込んだんですね……!」

 

マシュの瞳から涙が零れ落ち、唇が震える。  

彼女には、この六芒星が放つ「悪意」の質が、まるで生きているかのように感じられた。

それは、彼女たちがこれまでの旅路で対峙したどんな相手とも違う、底知れぬ愉悦に満ちた邪悪な気配だった。

 

「……卑劣だな。だが、筋は通る。

サーヴァントとして召喚された英霊が、自らのクラス特性や属性を拒むことは難しい。

ましてや、精神を直接作り変えられてしまえば、彼女にとっての『真実』は、殺人鬼としての今の自分そのものになってしまうだろう」

 

切嗣は壁の六芒星を睨みつけながら、硬い声で言った。

 

「切嗣さん、これを壊せませんか!? 

これさえ無くなれば、先輩の狂気が、少しでも和らぐかもしれません!」

 

「……待て、マシュ。うかつに手を出しちゃだめだ!」

 

六芒星の分析を続けているウェイバーが慌ててマシュを止めた。

 

「ウェイバーさん……?」

 

「この六芒星、まだ稼働し続けている。

……これ自体が、魔力を吸い上げ、別の場所へ送るための『中継地点』になっているんだ。……そして、その送り先は……」

 

はっとしたマシュは、戦慄しながらも答える。

 

「先輩、ですね……。

この六芒星は、聖杯から魔力を吸い上げ、先輩へ送っている。

本来の先輩に、あんな魔術は行使できません。

この六芒星を下手に壊してしまうと、溢れた聖杯の魔力がどうなるか分からない、ということですね」

 

頷くウェイバー。

切嗣も続ける。

 

「それだけじゃない。

彼女がランサー陣営を倒したとき、サーヴァントやマスター達も自分の影に取り込んでいた。

……ここを見ろ。六芒星の中心と角の部分だ。

中心部分と角の部分のうち2箇所が光っている。

これは推測だが、恐らく中心はキャスターである彼女本人。

角の一つはランサーだろう。もう一つは分からないが……。

並び方から見てランサーより先に倒されているな。どういうことだ?

まあ、少なくともこの六芒星が完成したら、碌なことにはならないだろうな」

 

マシュの顔から血の気が引いた。

その時、六芒星の一角が光り出す。そして、中心の光がさらに黄金色に輝きだした。

 

「どこかの陣営が倒されたようだな。

アーチャー・バーサーカー・アサシン……。

時間が無いな。キャスターが戻ってくる前に、準備を整えよう」

 

切嗣とウェイバーが階段を上がっていく。

マシュは、黄金色に輝く光を不安そうに見ながら二人についていく。

 

(あの光……。転移させられた時に見た、狂気に染まっていく先輩の眼にそっくりです。

先輩がサーヴァントを影に取り込むことで、彼女はより戻れなくなっていくような……。

……いいえ、私が、そんなことはさせません……!)

 

マシュの瞳に、悲痛な決意が宿る。

彼女はもう一度、壁に刻まれた六芒星を見つめた。

それは、嘲笑うかのように、暗闇の中で光を放っているように見えた。

 

「……待っていてください、先輩。

……たとえ、あなたが私のことを忘れていても。

……たとえ、あなたが私を不要だと蔑んでも……」

 

「私は、あなたを救います。……それが、この盾に誓った、私の願いだから」

 

マシュは床の歪な魔法陣と、壁の六芒星を目に焼き付けた。  

優しく前を向いて歩き続ける少女を、殺人鬼へと変生させた、呪わしい術式。

陰陽師の影が、どこかで愉悦に肩を揺らしているのを、幻視した気がした。

 

「……絶対に、許しません……!」

 

彼女の絞り出すような叫びは、焦げ付いた地下室の壁に反響し、消えていく。

工房を後にする三人の背後で、一層禍々しく明滅を繰り返していた。

 

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