もし藤丸立香(女性)がFate/Zeroの雨生龍之介にキャスターとして召喚されたら 作:白豚くん
稚拙な内容ではありますが、非常に嬉しく思います。
本作も後半に入ってきました。
どうぞよろしくお願いいたします。
冬木市、新都郊外の丘の上に佇む冬木教会。
主を讃えるべきその場所は、今や異界の瘴気と、隠しきれぬ血の匂いに塗り潰されていた。
ステンドグラスを透かして差し込む月光は、祈りを捧げる信徒の姿ではなく、残酷なまでに美しく整えられた「地獄」を照らし出している。
礼拝堂の最奥、祭壇を背にして、一人の男が朗々と声を響かせた。
白磁の如き肌に、道化師の要素を歪に混在させた和風装束という、奇怪な装いをした男。
立香やマシュ達は今だ知らない、異星の使徒。
異形の陰陽師――キャスター・リンボこと、蘆屋道満である。
「ンンンンン、素晴らしい! 実に、実にお見事!
嗚呼、なんと凄絶で、なんと愛おしい狂乱の響きでしょうか!」
道満は長い指を蜘蛛のように動かし、空中に浮かべている水鏡を見つめていた。
そこには、バーサーカーの霊基を影に収め、黄金の瞳を更に狂気で輝かせながら龍之介と共に夜の街を駆ける、藤丸立香の姿が映し出されている。
「見ましたか、今の彼女の貌(かお)を!
かつて、どこまでも希望を捨てずに、どんな相手でも受け入れる善性を持って数多の英霊と縁を結び人理焼却を阻止した、あの人類最後のマスターが!!
今や殺人鬼を最愛のマスターとして心酔する、狂気のサーヴァントですぞ!
……ふふ、ふふふ!
まるで、上質な絹糸が泥沼に沈み、真っ黒に染まっていく様を見るようですなァ!」
道満は狂喜に身を震わせ、隣に立つ男へと視線を向けた。
そこにいたのは、教会の監督役としての法衣を纏いながら、その中身を「異星の使徒」の一柱、アルターエゴ・ラスプーチンへと変生させた男――言峰綺礼であった。
「……道満。悪趣味な『実験』は、概ね順調のようだな」
綺礼の声は、底なしの井戸のように冷たく、無感情だった。
彼は傍らの豪華な椅子に座る、依代の肉体が「師」としていた人物へと目を向けた。
そこには、優雅な深紅の礼装に身を包み、泰然と座すアーチャーのマスター、遠坂時臣の姿があった。
だが、よく見れば、心臓を貫かれた無惨な傷跡と、とうの昔に魂が抜け落ち、防腐魔術によって形を保っているだけの「亡骸」であることが露呈する。
「ええ、ええ! ラスプーチン殿。いえ、敢えて此度は言峰殿とお呼びしましょう!
貴殿の協力あってこそのこの舞台。
この御方も、こうして椅子に座っている分には実に立派な『名門の当主』に見える。
……もっとも、この方々は拙僧が丁寧に丁寧に、あの六芒星の『基点』へと加工させていただきましたがねェ!」
道満は愉快そうに、時臣の冷たくなった肩に手を置いた。
「時臣殿、そして貴殿の依代の父、璃正殿。
時臣殿がサーヴァントを召喚する際の隙を突き、彼らを殺害。
魔術師としての因果を六芒星の基点、キャスター召喚の源とした!
そして、召喚される寸前のアーチャーの霊基を六芒星に魔力として注ぎ込み、藤丸立香を強力なサーヴァントに仕立て上げた!
これこそが、この美しい特異点の産声であったのです!
我が事ながら賞賛すべき出来ですぞ!
……もし時臣殿の狙い通り、黄金の英雄王が呼ばれていたら流石に厄介でしたな。
あの御仁は藤丸立香と縁を結んでいたので……」
そして、足元には、つい先ほどこの場所に辿り着き、力尽きた「残骸」が転がっていた。
間桐雁夜。
立香によって影の力を流し込まれ、時臣への憎悪だけでここまで走り抜けてきた男は、既に事切れていた。
彼が最後に見たものは、既に死んでいるとも知らずに憎悪をぶつけた時臣の背中と、それを嘲笑う道満の素晴らしい笑顔だった。
「この雁夜という男も、実に滑稽でしたな!
……自らの命を削り、勝手な憎悪を募らせ、勝手な想いを暴走させ、憎悪の対象に会った時には、既に相手は死んでいた……。
ンンン! これ以上の喜劇がどこにあるでしょうか!」
道満は雁夜の亡骸を爪先で蹴り飛ばし、再び水鏡へと向き直った。
「言峰殿、貴殿も愉しいでしょう?
貴殿がかつて求めていた『愉悦』という名の深淵。
それを今、私は特等席でお見せしている。
藤丸立香という、善性に満ちた存在が、己を捻じ曲げさせられ自ら悪徳を選び取っていく。
その過程で流される血と涙は、どのような酒よりも美味ではありませんか?」
綺礼は表情を変えず、静かに祭壇の十字架を見上げた。
「……私は、ただ事実を観測しているに過ぎない。
だが、道満。
この時代、あの龍之介という男を依代に選んだのは、貴公の判断か?」
「左様! あの男、雨生龍之介。
……彼の遠い先祖には、拙僧の如き陰陽師の真似事をしていた者がおりましてなァ。
その血の縁(えにし)と、彼が抱く、狂った『殺人の美学』。
……それが、藤丸立香の魂を汚染するには最適だったのです」
道満は唇を歪め、邪悪な笑みを深めた。
「彼女は今、自らを『人理を守るために7つの世界を滅ぼした殺人鬼』だと思い込んでいる。
……拙僧が丁寧に、丁寧に、丁寧に!
彼女の記憶を改ざんし、さらに龍之介氏をマスターとして設定することで、彼の狂気と同調させましたからなァ。
……そもそも、この特異点を作り上げる際、最大の懸念は『彼女の強固な意志』にございました。
数多の地獄を潜り抜けたその魂は、並大抵の呪いでは屈服せぬ。
ならばどうするか? 答えは簡単。
……彼女の中に、彼女ではない『別の狂気』を混ぜ合わせれば良い。
私はこの冬木の歴史を漁り、実に愉快な『縁』を見つけ出しました。
……雨生龍之介。陰陽師の真似事をしていた先祖を持つという、筋金入りの殺人鬼」
「……その狂気と、彼女を同調させたというわけか」
「左様! 龍之介氏に見つけさせた召喚術式、その裏に私の式を忍ばせ、彼女を引き寄せた。
汚染された聖杯に影響されたサーヴァントの霊基も利用し、彼女の記憶を、彼女の功績を……全て龍之介の『殺人美学』というフィルターで塗り潰したのです!
人理を救った事実は『七つの世界を滅ぼした罪』へと置換され、英雄たちとの絆は『人類の負の叡智の結晶』へと変生した!
ああ、滑稽! 実にあっぱれな変生にございまするなぁ!
……『役割』と『狂気』。
正直、ここまで馴染むとは思いませなんだが!
彼女はマシュ・キリエライトという光すら、汚らわしい不純物としか認識できなくなった!」
「記憶の改ざんと、役割の固定か。
……確かに、今の彼女は、自らが狂気のキャスターであることに一点の疑いも持っていないようだ。
さらに、サーヴァントを吸収するたびに、その霊基は肥大し、人としての藤丸立香は消滅していく」
「その通り! ンンン! 素晴らしい理解力ですぞ、言峰殿!
サーヴァントを喰らう、それは魂喰いの行為。
……ランサー、そしてバーサーカー。
……六芒星の角が一つ、また一つと点灯するたびに、あの星は完成へと近づく。
……それが全て埋まった時、藤丸立香という存在は消え失せ、最高の狂気を持った同胞が完成するのです!」
道満は激しく、、高笑いを上げた。
その声は教会の天井に反響し、まるで見えない悪霊たちが一斉に笑い出したかのような不気味な不協和音を作り出す。
「嗚呼、待ち遠しい! 彼女が自らの手で、あの盾の乙女を貫く瞬間が!
自分が守りたかったはずのものを、自らの意志で、最高の悦びと共に破壊する。
……その時、彼女の魂から溢れ出す絶望の滴を、拙僧はこの手で受け止め、飲み干しましょうぞ!」
「……しかし、マシュ・キリエライトは既に地下室の六芒星に辿り着いた。
衛宮切嗣、そしてライダー陣営。彼らが君の仕掛けた『毒』に気づき始めた。
……これも、貴公の計算通りなのかね?」
綺礼が静かに問う。道満は一瞬だけ笑い声を止め、目を細めた。
「計算? ……クフ、クフフ。……そんな退屈な言葉で片付けないでいただきたい。
……気づかせたのですよ。絶望というものは、希望を抱いている間に突き落としてこそ、その真価を発揮する。
……彼女たちは今、必死に『救い』を求めて藻掻いている。
……それが、全て無駄であると知った時の貌が、見たくないと言えば嘘になりますなァ!」
「さあ、次の舞台の準備を整えましょう。
言峰殿。あなたのサーヴァント、アサシンを動かしてくだされ。
セイバーの足止めを行っていただきたい。
もちろん、倒してもらっても構いませんぞ?」
「……準備は整っている。
精々、私も道化を演じるとしよう。
しかし、道満よ。今でも強力な存在になっているあのキャスター、完全に『出来上がった』場合、貴公に制御できるのかね?
……私の手には負えぬが」
一瞬の沈黙が流れる。
「ンンンソンンン――! 拙僧にお任せあれ!!」
綺礼は目を瞑り無言で立ち去っていく。
「……まあ、予定している次の実験は、もっと洗練したやり方にしましょうとも!
宿業の埋め込みと元の霊基の破壊。
確かに、出力は多少、多少は気にしないといけませんなぁ!!」
道満の叫びが夜の帳を揺らし、特異点の歪みはさらにその深さを増していく。
「さあ、立香殿!
もうすぐ貴方の愛しの後輩と会えますぞ!
拙僧に最高の舞台を見せてくだされ!」
物語は、黒幕たちの望む通りに、救いのない終焉へと加速し始めていた。