もし藤丸立香(女性)がFate/Zeroの雨生龍之介にキャスターとして召喚されたら 作:白豚くん
第十四話でも致命的な誤字を発見したので修正しました・・・。
「あああああ! 俺の、俺たちのクールなアートが!
神様、あんまりだよ!ひど過ぎる! こんなのってないよ!
ひでぇ、あんまりだぁ、精魂込めて俺たちが仕上げてきたアートが、ひどすぎる。
こんな、これが人間のやることかよぉー!!?」
冬木の夜空に殺人鬼の嘆きの叫びが響く。
自分たちの「工房」まで戻ってきた龍之介 と立香。
眼前に広がるのは、マシュと切嗣たちによって、「火葬」された犠牲者たち。
2人は、焼け落ちた屋敷の地下室で、自分たちの作り上げた「芸術」が灰になっているのを見てしまった。
「龍之介くん……。泣かないで。
また作ろうよ!
私、今インスピレーションがどんどん湧いてきてるんだ!
今ならもっとすごい「芸術」が造れると思う!」
彼女は龍之介の震える肩に、そっと、慈しむように手を置いた。
立香の言葉には、本来の彼女の価値観はもはや微塵も残っていない。
今の彼女を動かしているのは、歪められた殺人鬼としての記憶と役割、そしてパートナーである龍之介の狂気と同調していることで得られる、壊れた充足感だけだった。
「立香ちゃん……。
そうだな!芸術に完璧は無い!
これを糧にして、俺は、俺たちは更なる高みに登るぞ!」
「その意気だよ!
私は知ってるんだ。諦めなければいつかは辿り着けるから!
私は成し遂げたからね!」
立香の狂気に染まった黄金色の瞳が輝き、誇らしげに笑顔で答える。
バーサーカーを影に収め、更にキャスターのサーヴァントとしての定着が深まってしまった彼女は、歪められた人理修復の旅の記憶を思い出していた。
地下室から階段を上がり、地上まで出てきた2人。
立香は、口元を狂気の笑みで歪ませ、敵意に満ちた声で周囲に呼びかける。
「さて、そろそろ出てきてくれるかな。
私たちの芸術を灰にしてくれた犯人さん?
それで隠れてるつもりなの?
ドブネズミみたいな臭いにおい、隠せてないよ?」
「……マスター。……先輩!」
悲痛な、泣き出しそうな叫びと共に進み出たのは、薄紫色の髪をした少女――マシュ・キリエライト。
そしてその隣には、威風堂々とした巨躯を誇る ライダー――イスカンダルが、マントを夜風に翻して立っていた。
彼らは今、衛宮切嗣の策に従い、一時的な共同戦線を張っている。
周囲の闇の中には、切嗣と久宇舞弥、そしてライダーのマスターであるウェイバー・ベルベットが身を潜めていた。
◇
「そろそろ連中が戻ってくる。作戦は頭に叩き込んだな?」
切嗣さんが私たちに告げる。
先輩……。
あの地下室の惨状を思い出し、彼女をこんな狂気に叩き落した犯人への怒りが溢れてくる。
自然と盾を持つ手に力が入る。
でも、今の私には戦う力がほとんど、無い……。
「下を向くな、盾の娘よ。
頭を上げ、前を向け。
どんなことも、挑まねば届かぬ。
お前とあのキャスターには、誰にも断てない絆があるのだろう?
絆というものの強さは、誰よりも余が知っている。
案ずるな。キャスターの元までは必ず余が連れていくとも」
ライダー、イスカンダルさんが私の頭を乱暴に、でも優しく撫でる。
……イスカンダルさん。以前、アイリさんをカルデアで召喚するきっかけとなった
事件の時に縁を結んだ、偉大な王。
このイスカンダルさんにはあの時の記憶は無いのだろうけれど、変わらないカリスマとその意志に、心が奮い立った。
「はい!マシュ・キリエライト、絶対にあきらめません!
必ず先輩を取り戻します!」
「うむ。良い気迫だ。
……坊主、お前も準備は良いか?」
「だ、大丈夫だよ!
うう……大事な令呪を使うことになるなんて……。
オマエこそ大丈夫なのか?
聞く限り、キャスターの宝具は大量の影の英霊を召喚して襲わせるんだろ?
あの戦車だけじゃ厳しいんじゃあ……」
「フフン、坊主よ。しかとその眼で見ておくがいい。
余が誇る最強の宝具をな。さあ、魔力を回せ!」
「分かったよ!
我がサーヴァントよ、ウェイバー・ベルベットが令呪をもって命ずる。
ライダーよ、必ずや、 敵を打ち砕き、マシュをキャスターの元まで連れていけ!」
イスカンダルさんの身体に魔力が満ちていく。
準備は出来た。
後は、待つのみ。
◇
マシュの姿が視界に入った瞬間、立香の頭の中を強烈な激痛が襲った。
「――っ!? 痛い、あたまが……割れる……っ!!」
立香は頭を両手で抱え、その場にうずくまった。
黄金色の瞳が見開かれ、苦しみに悶える。
彼女の脳内では、記憶を消されても断ち切れないマシュとの深い絆が、道満の呪いと激しくぶつかり合っていた。
「先輩! 分かりますか、私です! マシュ・キリエライトです!
一緒に旅をした、あなたの後輩です! お願いです、思い出してください!」
必死に呼びかけるマシュと苦しみ悶える立香。
事態に付いていけず放心していた龍之介が、状況を飲み込み、苦しむ立香を抱きしめる。
「立香ちゃん、しっかりしろ!
立香ちゃんは俺のパートナーだ!あんな奴の言うことは聞くことないよ!
俺のことだけを感じて、見てくれよ!」
龍之介の言葉で、揺れていた立香の精神は再び龍之介の狂気と同調し、安定していく。
「そうだよね、マスター。
私はあなたのサーヴァントだもんね!
なんなの、お前……。
うるさいな……。黙ってよ……!
何なのさ、その気持ちの悪い、押し付けがましい言葉は……!」
立香は不快感を露わにしてマシュを罵った。
今の彼女に、マシュから放たれる言葉は耐え難い不快感をもたらしていた。
道満によって記憶を改竄され、「役割」を与えられた彼女には、マシュが自分の積み上げた「罪」を否定しに来た、最も排除すべき邪魔者にしか見えない。
「知らない……。私はお前なんて知らない!
私の名前を、その汚らわしい口で呼ばないで!
……ああ、気持ち悪い。反吐が出る。
お前から漂うその臭い……まるで、腐りかけの死体みたいで、吐き気がするんだよ!!」
「先輩……そんな……。どうして、そこまで……」
マシュの瞳に絶望の色が広がる。
愛する先輩に、これほどまでの嫌悪を向けられる日が来るとは。
しかし、傍らに立つライダーが、その太い腕でマシュの肩を力強く叩いた。
「うろたえるな、マシュ!
越える壁は高ければ高いほど越えた時の喜びも大きい!
今のあやつには、声は届かぬ。だが、絆は消えぬ!
今から余がそれを証明してやろうではないか!」
ライダーは立香を真っ直ぐに見据え、腰のスパタを力強く抜き放った。
その覇気は、夜の冷気を一瞬で吹き飛ばすほどの熱量を持っている。
「立香ちゃん! あいつらだ、あいつらが俺たちの芸術を台無しにしたんだろ!?
あんな、見るからに退屈そうな連中がさあ!
殺そうぜ! 今すぐ、最高にクールな方法で、バラバラに解体してやろうよ!」
龍之介が憎悪に満ちた声を張り上げ、地を踏み鳴らして叫ぶ。
マスターの明確な「命令」が下った瞬間、いまだ立香を苛んでいた頭痛は、冷酷なまでに研ぎ澄まされた殺意へと昇華された。
立香は、龍之介に口づけし、魔力を回してもらう。
彼女の黄金色の瞳が爛々と輝き、狂気に満ちた笑顔で語りだす。
「……ふぅ。 了解だよ、マスター。
さあ、私の影たち。……おいで。
これは、人理を彩る英雄達の影。彼ら、彼女らの負の側面の集合。
宝具展開——『英霊召喚・反転(シャドウ・オブ・ヒューマニティ)』!!」
彼女の手の甲に、再び漆黒に輝く令呪のような紋章が現れ、妖しく光る。
周囲の景色が変わり、巨大な門(ゲート)が顕現する。
ランサー戦の時よりもさらに禍々しさを増した門。
開いた門から流れ出す影が、床一面に広がり、底なしの影の沼へと化していく。
そして、膨大な数の「影」が這い出してきた。
その中には、吸収したランサー・ディルムッドやバーサーカー・ランスロットの影だけではなく、ケイネスやソラウまでが含まれている。
彼らの顔は、他の影と同じくのっぺりとした影の膜に覆われていた。
「あはは、あははははははは!
前よりも調子がいいよ!龍之介くん!
さっき影にしまった皆も協力してくれるって!
これが私たちの絆だよね!
……さあ、マスターの望み通り、あいつらを最高にクールに解体してあげて!」
「フム……。
これがキャスターの宝具か。
同じ軍勢でも余とは大違いだな。何の脅威も感じぬわ」
ライダーの身体にも魔力がみなぎる。
事前に令呪を使用したおかげで、全力を出す準備は出来ていた。
「ここはかつて我が軍勢が駆け抜けた大地。
余と苦楽を共にした勇者達が、等しく心に焼き付けた景色。
肉体は滅び、その魂は英霊として世界に召し上げられて
それでもなお余に忠義する伝説の勇者達。
彼等との絆こそ我が至宝! 我が王道!
見よ、我が無双の軍勢を!
これこそが、イスカンダルたる余が誇る最強宝具 『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ』”なり! 」
展開される固有結界。
その心象風景は、見渡す限りの蒼穹と太陽が照り輝き、熱風吹き抜ける広大な荒野と砂漠。
そして、召喚されていく大軍勢。
「遠征は終わらぬ。
我らが胸に彼方への野心ある限り。勝鬨を上げよ!!AAAALaLaLaLaLaie!!」
数万の軍勢の咆哮。
ライダーは、神威の車輪(ゴルディアス・ホイール) も展開し戦車に乗り込む。
「さあ、マシュよ!早く乗れ。
一気に突破するぞ。突撃じゃあ!!!」
「なに、あれ……。
不快だ、すごく気持ち悪い……。
そうか、あのサーヴァント、イスカンダル。アレキサンダー大王だったんだね。
生前の軍勢を召喚して作り上げる固有結界。それに、あの戦車……。
でも、私の影たちには敵わないよ。いくらでも代わりはいるから!」
本来の「藤丸立香」が結んできた「縁」や「絆」。
それが具現化されたような固有結界は、今の彼女には不快なものにしか映らない。
そして、本来の彼女なら絶対に考えないであろう、サーヴァントの使い捨て。
その言葉を聞いてしまったマシュは、悲しみを感じながらも決意を込めて戦車に乗り込む。
その時、耳のイヤホンに切嗣からの声が届いた。
「マシュ、聞こえるか?
アイリから連絡だ。こちらに向かっている二人に妨害が入った。
アサシンのようだ。監督役のはずの言峰神父も居るらしい。
教会もグルのようだな。
セイバーの到着が予想より遅れるだろう。
だが、作戦は決行する」
「了解です」
短く答えるマシュ。
突撃を開始するライダーと彼の軍勢。
ずるずると蠢きながら動き出す影の軍勢。
決戦の時が迫る。