もし藤丸立香(女性)がFate/Zeroの雨生龍之介にキャスターとして召喚されたら 作:白豚くん
「AAAALaLaLaLaLaie!!!」
数万の英霊たちの雄叫びが轟く。
熱風吹き抜ける広大な荒野と熱砂の砂漠。
展開された心象風景、固有結界の中を軍勢が突撃していく。
その先頭、吹き荒れる熱風を切り裂いて、ライダー――征服王イスカンダルが駆る『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』が爆進していた。
二頭の神牛が大地を蹴り立て、紫電が車輪から迸る。
「さあ、しっかり掴まっておれよ、マシュ!
『 遙かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)!!』」
『飛蹄雷牛(ゴッド・ブル)』 と戦車が纏った雷撃が、影の英霊たちをその名のとおり蹂躙し、前へ、前へ戦線を押し上げる。
それに続くように、イスカンダルに忠誠を誓う『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』の勇者たちもまた、怒涛の勢いで影の群れへと突っ込んでいく。
剣戟が鳴り響き、魔術が飛び交い、砂塵が舞う。
個々の戦闘力では劣らないはずの影の英霊たちだが、連携と士気に勝る王の軍勢の前に次々と蹴散らされ、黒い霧となって霧散していく。
「う、うわあああああっ!? な、なんだよあいつら! チート、チートだ!!」
遥か後方、影の軍勢の奥で立香と共にその光景を見ていた雨生龍之介は、恐怖に顔を引き攣らせて叫んだ。
「せっかく立香ちゃんが出してくれた俺たちのクールな影が、あんな大味な雷で次々と……!
だ、ダメだ、こっちに近づいてくる!立香ちゃん、どうしよう、どうしよう!?」
腰を抜かしそうになる龍之介。
だが、その震える手を、立香が優しく握りしめた。
「大丈夫だよ、私のマスター。怖がらないで」
立香の黄金色の瞳は、劣勢にもかかわらず、微塵の恐怖も抱いていなかった。
ただ、マスターを怖がらせる者たちへの怒りと、彼を護るという狂った使命感で最高の気分になっていた。
「あれくらいで私の可愛い影たちは抜けないよ。
でも、念のため……龍之介くん、お願い。
マスターの令呪で、私にもっと魔力をちょうだい」
「れ、令呪……? あ、ああ! これか! 手の赤い痣!」
「そう。私はあなたのサーヴァント。だから、命令して?マスター。
私たちの敵を殺せって。最高の悲鳴を聞かせろって。
……そうしたら、私はもっと最高の殺意に狂えると思うんだ!」
「分かったよ! 立香ちゃん!!
そうだよな、こんなカッコ悪い姿、見せてごめんよ。
やっぱり君は最高のパートナーだ!
ようし、頼む!俺のサーヴァント、キャスター!!
令呪をもって命ずる! あいつらをぶっ殺して、最高の悲鳴を聞かせてくれ!!」
龍之介の右手に刻まれた令呪が一画、不気味な光を放ち、消失する。
その瞬間、膨大な魔力と共にどす黒い殺意と狂気が立香の身体へと流れ込んだ。
「あはっ……! すごい、熱い……!
マスターの想いが、流れ込んでくる!」
立香は恍惚とした表情を浮かべ、瞳を輝かせながら両手を天へと掲げた。
「さあ、おいで。原初の母。
今のあなたを誕生させたことこそ、人類史の負の側面そのもの。
さあ、全てを殺し尽くして! ティアマト!!」
彼女の背後に広がる巨大な門(ゲート)から溢れだす泥のような影。
それは、圧倒的な質量を持った、黒い泥の波。
やがて顕現したのは、巨大な角を持つ人面竜のような巨体の怪物。
かつてカルデアが対峙し、多大な犠牲を払い討伐した、人類悪――『ティアマト』を模したかのような、巨大な影。
「さあ、蹴散らして。私たちの邪魔をするあの不快な連中を!」
立香の冷酷な命令を受け、巨大な泥の影が咆哮を上げた。
その声を聞いた者達は身体が痺れるような感覚になり、軍勢の足が止まる。
怪物は巨大な前肢を振り下ろし、数十人の勇者たちを影の英霊もろとも大地に叩き潰した。
「ぬぅっ!? あれは……神代の獣の類か!?」
神威の車輪の上で、イスカンダルが舌打ちをする。
戦車に同乗しているマシュも、その巨大な影を見て戦慄した。
「……あれは、あの影は!間違いありません!
バビロニアで遭遇した、人類悪・ビースト……ティアマト!!
ライダーさん!出来るだけアレに触れないようにしてください!
まさか、生命を根源から塗り替える権能まで再現出来ているとは思えませんが、
アレは、私たちが経験した中でも最悪に近い存在なんです!」
「むう! 厄介なものを喚び出しおる!
だが、恐るるに足らず! 我らが退けば、その先に待つのは敗北のみ!
勇者たちよ、恐れるな! 歩みを止めるな!
巨大な獣であろうと、我らの力で切り開くのだ!」
「オオオオオオオオオオオオオオ!!!」
ティアマトの影による迎撃を受け、進撃の速度は目に見えて鈍った。
しかし、王の軍勢は誰一人として背を見せない。
イスカンダルの鼓舞に応え、次々とティアマトの影や影の英霊たちへと突撃し、その身を削りながらも僅かずつ前進を続けていた。
雷を纏った戦車が、ティアマトの腕を弾き飛ばし、突破を図る。
立香と龍之介の姿が、少しずつ、確実に近づいていた。
◇
一方、時間は少し遡る。
夜の冬木市、決戦地に急ぐセイバー達。
ここでも、激しい金属音が鳴り、火花が散っていた。
「ハァッ!!」
アルトリア・ペンドラゴン――セイバーの振るう不可視の剣が、闇の中から飛び出してきた黒装束の暗殺者を両断した。
だが、倒れた暗殺者は黒い煙となって消え、直後に別の暗殺者が四方八方から彼女へと襲い掛かってくる。
「くっ……! キリがありません! 一体どれだけの数がいるというのです!」
「セイバー、気をつけて! また来るわ!」
セイバーに護られているアイリスフィール・フォン・アインツベルンが叫ぶ。
彼女たちの行く手を塞ぐのは、無数の暗殺者の群れ。
アサシンのサーヴァント――百貌のハサン。
その宝具『妄想幻像(ザバーニーヤ)』によって無数に分割された個体たちが、セイバーの足を止めるためだけに命を投げ出すような特攻攻撃を繰り返していた。
「同胞の依頼とは言え、つまらんものだな。
どうした騎士王よ、宝具は使わんのか?
まとめてこいつらを薙ぎ払ってしまえばよかろうよ」
暗殺者たちの背後で、愉悦を含む冷徹な声が響いた。
黒い法衣を纏った男、言峰綺礼。
その手には黒鍵が握られており、アサシンを使ってセイバーの足止めに徹している。
「言峰綺礼……! 監督役であるあなたが、何故このような真似を!
なにを考えているの!?」
「答える義務はない。
私はただ、同胞の依頼で君たちがあの舞台に揃うのを遅らせているだけだ。
それよりも、どうしたのだ?
早くその聖剣の封印を解き、まとめて薙ぎ払えばよかろう?」
綺礼の挑発に、セイバーは唇を噛む。
アイリスフィールの通信機からは、切嗣からの厳命が下っていた。
『宝具の解放は許可しない。キャスター達との決戦のために、切り札を温存しろ』
ここでエクスカリバーを放てば、確かにアサシンを一掃できる。
しかし、ここで宝具を使ってしまえば、その手の内をさらしてしまう。
(もどかしい……! もう、戦いは始まっているというのに!)
セイバーが焦燥に駆られ、さらなる暗殺者の刃を弾き落とした、その時だった。
「――グオォォォォォッ!?」
突如として、斬りかかってこようとしていたアサシンの一人が、苦悶の叫びを上げた。 一斉に、周囲を囲んでいた数十人のアサシンたちが、頭を抱えて地に伏せる。
「な、何事ですか!?」
セイバーが警戒して剣を構えたまま後退する。
アサシンたちの身体が、ドロドロと溶け始めていた。
なにか攻撃を受けたわけではない。
霊基そのものが、内側から強制的に分解され、黒い泥のような魔力へと還元されていく。
断末魔の叫びと共に、百貌のハサンを構成する群体の全てが、地面に染み込むようにして完全に消滅した。
その異常な光景に、セイバーとアイリは言葉を失う。
「……ほう」
その一部始終を見ていた言峰綺礼は、全く動揺を見せずに目を細めた。
「あいつの仕業か。
……勝手なことだ。だが、これでやっと私の役割は終わったというわけだ」
綺礼は独り言のようにそう呟くと、踵を返した。
「待ちなさい! 今の言葉、どういう意味ですか!
アサシンに何が起きたというのです!」
セイバーが剣を向けて問い詰めるが、綺礼は冷ややかな視線を一瞥しただけだった。
「そんなことより、急ぐことだな、騎士王。
君たちが守るべき『希望』は、今まさに最悪の絶望へと変容していっているところだ。
せいぜい、間に合うように走るがいい」
そう言い残し、綺礼の姿は闇に溶け込むように消え去った。
「セイバー! 言峰神父を追っている暇はないわ!
アサシンがいなくなったのなら、すぐに切嗣たちの元へ行きましょう!」
「……はい! アイリスフィール、急ぎましょう!」
不可解な事態に困惑しながらも、足止めが無くなった二人は、決戦の地へと全速力で駆け出した。
◇
再び、固有結界。
ティアマトの影を召喚したにもかかわらず、イスカンダルと勇者たちの進撃は止まらなかった。 ティアマトの身体は削られ、影の軍勢も着実に数を減らしている。
そして、遂にティアマトの影が力尽き影へ戻り消滅していく。
立香が呼び出したティアマトの影は、姿形こそ模倣していたが、その能力は本物とは比べ物にならなかった。
人類悪には、人類愛という要素が不可欠。
今の藤丸立香には、そのような思考は全く存在しない。
歪められてしまった彼女には知る由も無いことだが。
「嘘だろ!? あんなバカでかい怪物を出したのに、なんであいつら止まらないんだよ!
おかしいよ、立香ちゃん! 俺たちのアートが負けるなんて、そんなのあり得ない!」
龍之介がパニックに陥り、頭を抱えて叫ぶ。
立香の表情にも、わずかな焦りの色が浮かんでいた。
令呪の魔力を注ぎ込み、ビーストの影まで喚び出したというのに、あの戦車は雷光を纏って強引に影の海を切り裂いてくる。
「……しつこい。なんで……なんであんなものに、私の影が押されているの。
あんな不快な臭いのする女に……。
あんな、絆とかいう分からないモノを押し付ける奴らなんかに……!
私は、私は七つの世界を殺し尽くした最悪の殺人鬼、最強のキャスターなのに……!」
立香は爪を噛み、ギリッと歯を鳴らした。
マシュの乗る戦車が、徐々に、しかし確実にこちらへと迫ってくる。
あの盾の女の顔を見るだけで、心の奥底で何かが疼くのだ。
彼女の手を取れ、と。
自分の居る場所は、あちらだと。
「うるさい……。うるさいよ……!
もっと……もっと力が……」
立香がそう呟いた、その瞬間だった。
(――ドクンッ)
立香の身体が、大きく跳ねた。
心臓を直接鷲掴みにされたような、強烈な衝撃。
彼女の中に、更なる魔力と狂気が流れ込んでくる。
ランサーを、バーサーカーを影に収めた時と同じ、
「あ、あ……?」
それは、地下室の『六芒星』を通じて送り込まれたもの。
蘆屋道満によって強制的に解体され送られてきた、アサシン――『百貌のハサン』の霊基そのものだった。
「あ……ああ、あああ……!!」
圧倒的な高揚感、湧きだしてくる魔力。
固定化される自分。さらに禍々しく黄金色に輝く瞳。
ランサー、バーサーカーに続く、三体目のサーヴァントの吸収。
地下室の六芒星の角が、さらにもう一つ、強烈な光を放って点灯した。
「立香ちゃん? どうしたの、急に震え出して……」
心配そうに覗き込む龍之介の前で、立香はゆっくりと顔を上げた。
その黄金色の瞳は、先程までの焦りなど微塵も残っていない。
ただ、底なしの狂気と、全てを支配する全能感だけが、ギラギラと輝いていた。
「あはっ……」
立香の口から、笑い声が溢れる。
「あはははははっ! アハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
彼女は狂ったように笑い出した。
最悪なことに、今回流れ込んできたアサシンの霊基は、歪められた彼女の精神に、恐ろしいほどに馴染んだ。
暗殺者としてのクラスが、殺人鬼としての彼女の役割をさらに強固なものへと昇華させてしまっていたのだった。
「最高……最高だよ、マスター! 力が、どんどん湧いてくる!
やっぱり神様はいるんだ!
私たちを見てる!助けてくれる!正しいのは私たち!
さあ、私の影たち!戦いはこれからだよ!
殺しちゃえ!いつものように皆殺しにしてあげて!!」
立香が両手を広げると、影の英霊たちに変化が起きた。
倒され影に消えていった英霊たちは再び姿を現し、稼働している影たちも魔力が供給され更に強化されていく。
「ぬぅっ!? 影の奴らの動きが変わったぞ!」
イスカンダルが神威の車輪の上で声を上げる。
復活し、強化された影の軍勢が、王の軍勢の突撃を真正面から受け止め、逆に押し返し始めた。
雷光を纏う戦車でさえも、影たちの波に、その進撃速度を落としていく。
「あっははは! さあ、死んで! 死んで死んで死んで!!
私のアートの、最高の素材になってよ!!」
立香の狂気に満ちた声が、固有結界に響き渡る。
更なる定着を果たされた狂気のキャスター。
マシュは、彼女の笑い声に心を痛めながらも、ライダーと共に前に進んでいく。
彼女を、取り戻すために。