もし藤丸立香(女性)がFate/Zeroの雨生龍之介にキャスターとして召喚されたら 作:白豚くん
熱風が吹き荒れる広大な砂漠。
ライダー・イスカンダルが展開した固有結界『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』の心象風景の中で、藤丸立香の狂気と歓喜に満ちた絶叫が木霊する。
アサシンの霊基を取り込まされ、さらに深く「狂気のキャスター」としての役割に沈み込んだ立香。
際限なく湧き出す影の軍勢が、雷光を纏う神威の車輪を、そして不屈の闘志で突撃を繰り返す王の軍勢を、じわじわと押し返し始めていた。
「ぬぅ……! 戦の潮目が変わった……!
キャスターに、何か変化があったな……。
マシュよ、心当たりはあるか?」
「……今、切嗣さんから通信がありました。
セイバーさんの妨害をしていたアサシンが、急に溶けて消えたとのことです。
恐らく、先輩に取り込まれたのだと思います……!」
マシュは、血が滲むほど拳を固く握りしめ、努めて冷静に答えた。
それを聞いたイスカンダルは、冷静に戦局を分析する。
彼の軍勢には絶対の信頼を置いている。
しかし、倒しても倒してもキャスターから供給される無尽蔵の魔力で即座に復活し、さらには強化までされていく影の波は、確実に彼らの進撃の歩みを鈍らせていた。
キャスターである立香、そしてそのマスターである雨生龍之介まで、視界に入る距離まで来ている。
だが、まだ遠い。影の壁は幾重にも重なり、キャスターまでの道を塞いでいた。
「くそっ、キリがないぞライダー!
あと少しなのに!
これじゃ、いつまで経ってもキャスターのところに辿り着けないじゃないか!」
念話越しに、切嗣や舞弥と戦況を見守るウェイバー・ベルベットの悲痛な声が響く。
「うろたえるな、坊主!
たかが意志なき影に、我が勇者たちが敗走することなどあり得ぬわ!
……だが、いささか時間が惜しいのは事実。
このまま正面から削り合っていては、この結界を維持する魔力が尽きるのが先か、あやつの影が尽きるのが先か、持久戦になってしまうからな」
そして、その場合、負けるのはこちらになるだろう、と結論付ける。
今、動くしかない。彼は判断する。
その時、ウェイバーの声が再度響いた。
「よし!このタイミングだ!
令呪を使うぞ、ライダー!
お前とマシュを強化して突っ込ませる!
ライダーは戦車の速度を上げてその勢いのままマシュをキャスター目掛けて投擲するんだ!」
その言葉を聞いたイスカンダルは、口角を上げニヤリと笑う。
自分と同じ思考に至った、まだ未熟なマスターの成長を嬉しく思い、令呪の発動を待つ。
◇
「影の軍勢か!
そのような烏合の衆、余が蹴散らしてくれよう!」
決戦前の作戦会議。
衛宮切嗣からキャスター・藤丸立香の宝具について聞いたイスカンダルは豪快に笑い飛ばす。
「おい!何勝手に決めてるんだよ!僕を無視するな!」
背中をポカポカ叩くウェイバーを無視し、マシュに問いかけるイスカンダル。
「盾の娘よ。聞いていたな。
貴様が鍵となる。余が貴様を主の元へと連れていく。
必ず、あの少女を元に戻してやれ」
「……はい。
今の私には、戦う力はほとんどありません。宝具も、今は使えないのです。
それでも、先輩を取り戻したいんです!」
「ウム!
その意気やよし!
マシュよ。余が認める、今から貴様は余の臣下だ!
これで坊主が令呪を使えば、その効果は余の臣下たる貴様にも及ぶだろう」
乱暴にマシュの背中を叩くイスカンダル。
マシュは、痛みよりも熱が身体に充満するのを感じた。
「おい!僕も行くぞ!僕はお前のマスターなんだからな!」
「スマンな、坊主。余の戦車は2人乗りなんだ」
笑いながらウェイバーをからかうイスカンダル。
しかし、真剣な表情で彼に言う。
「ウェイバーよ。貴様は後方で戦局を見ながら令呪を使うタイミングを見極めよ。
おそらく、最初の1画だけでは魔力が足らんだろう。
……前線で戦うだけが戦ではない。頼んだぞ」
「そ、そこまで言うなら仕方ないな!
分かったよ、いわゆる軍師だな、軍師!」
ふんすと気合を入れるウェイバー。
軍師という言葉に、カルデアの彼を思い出し、マシュは久しぶりに笑みをこぼした。
◇
「……僕のサーヴァント、ライダー・イスカンダルよ!
そして、その臣下、マシュ・キリエライト!
ウェイバー・ベルベットが令呪をもって命ずる!」
「必ず! 絶対に! あのキャスターの元へ辿り着き、大切な人を取り戻せ!!」
ウェイバーの叫びと共に、令呪の魔力がイスカンダルとマシュに奔流となって流れ込む。
「おおおおおおお!!
我がマスターからの下知である!勇者たちよ!
我らが覇道を示すのだ!!」
イスカンダルの咆哮に応えるように、数万の英霊たちが一斉に勝鬨を上げ立ち塞がる影の軍勢へ特攻を仕掛ける。
影が勇者を串刺しにしようとも、己が消滅することなど微塵も恐れず突き進む。
ただ前へ進むためだけに。
立香へ続く道が、こじ開けられていく。
「な、なんだ!? あいつら、急に動きが変わったぞ! 立香ちゃん、なんかヤバいんじゃないか!?」
龍之介が焦ったように声を上げるが、立香は黄金の瞳を爛々と輝かせたまま余裕の笑みで答える。
「ふふ、無駄だよ。
いくら道を作ったって、すぐにまた私の可愛い影たちで埋め尽くすから。
あんな戦車が突っ込んできても、絶対に届かない。……絶対に、届かせない!!」
立香の背後の門から、影の軍勢が滲み出て、王の軍勢がこじ開けた道を塞ごうとする。
しかし、それよりも早く。
「……力が、湧いてくる」
マシュは己の身体に漲る魔力の流れを感じていた。
今の彼女は、魔術回路が起動しない状態で、宝具も使えない。
しかし、何故かこの特異点では盾を持ち、わずかながら魔力も感じていた。
そして、イスカンダルの臣下という定義の元、ウェイバーの令呪による強引な魔力供給により、一時的に戦う力を取り戻すことが出来ていた。
「今なら……いけます。
私の、私の全てを懸ければ、先輩のところへ届く!」
マシュは盾を両手でしっかりと構え、真っ直ぐに立香を見据えた。
それを見たイスカンダルは戦車の手綱を片手で操りながら、と力強く呼びかける。
「いざ行け、盾の娘よ!
余が全力をもって、お前をあのキャスターの元へと投げ放ってやろう!!」
イスカンダルは戦車を疾走させたまま、太い腕でマシュを力強く掴み上げた。
人間離れしたサーヴァントの筋力。そして、彼自身の底知れぬ膂力。
「うおおおおおおおおっ!! 行けええええええええっ!!!」
凄まじい気合と共に、イスカンダルはマシュの身体を力任せに投擲した。
「きゃあああああっ!?」
凄まじい風圧がマシュを襲う。
彼女の身体は、王の軍勢がこじ開けた隙間を、一直線に進んでいく。
「なっ……!? 人間を、投げた!?
う……、あれは、クールだな……。いや、クレイジーか?」
龍之介が目を丸くして叫んだ。
立香もまた、直線に自分へと迫り来るマシュの姿に、一瞬だけ驚きの表情を浮かべた。
しかし、すぐにその顔は憎悪と不快感に歪められた。
「嫌だ……! 来るな、汚らしい!! 私に近寄るな!!
殺して、影たち! あいつを串刺しにして、地面に叩き落として!!」
立香の絶叫と共に、マシュへ向かって影の槍兵たちが槍衾を展開し一斉に突き出した。
「……させません!!」
空中で体勢を整えたマシュは、握りしめた盾を強く前方へと突き出した。
迫り来る無数の影。死の刃。
だが、マシュの心に恐怖はない。
彼女にあるのは、狂気に沈む彼女の大切な人を助け出したいという、その一心だけだった。
「ウェイバーさんの魔力、イスカンダルさんの想い……そして、私が、私たちが!
先輩と歩んできた、決して消えない軌跡と絆!
それら全てを、この盾に!!」
マシュの身体から、眩いほどの光が溢れ出す。
それは、人理修復という未来を取り戻すための旅路で、幾度となく立香を守り抜いてきた、希望の光。
「宝具、展開します……!!
其は全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷。顕現せよ!!
『いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)』!!!
彼女は、魂を振り絞るような声で叫んだ。
宝具が発動し、巨大な白亜の城壁の幻影が顕現する。
しかし、本来の『いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)』には遠く及ばない。
その城壁は所々が欠け、ひび割れている。
綻び、脆く、儚い夢想の城であった。
しかし、それでも。その城壁は、影を真っ向から弾き飛ばし、粉砕した。
「嘘……私の影が、あんなボロボロの壁に……っ!?
でも、どうして……?
私、あんなの知らないはずなのに!
どうして、涙が出てくるの……?
私、あの子を知ってる……?
うう、痛い、あたまが、痛い……!」
立香は信じられないというように目を見開き、宝具を見て苦しみだす。
「先輩……!!」
宝具を展開したマシュは、影の迎撃を全て突破し、ついに、狂気に染まる立香へと到達した。
彼女は凄まじい勢いで着地し、砂埃を巻き上げながら、後ろから回り込んで立香の身体へと飛び込んだ。
「……え?」
立香の身体を、背後からマシュの両腕がしっかりと、力強く抱きしめる。
「捕まえました……! もう、離しません! 先輩!!」
マシュの必死の呼びかけが、至近距離で立香の耳に届く。
しかし、今の立香にとっては、その接触は言葉にならないほどの嫌悪感を催させるものだった。
「あ、あああ……!? 離せ! 離してよ、気持ち悪い!!
ああ、あたまが痛い!割れるみたいだ!
なんなの、お前!!臭い!臭いんだよ! 私に触るなあああああ!!!」
立香はパニックに陥ったように叫び、マシュの身体を狂いそうなほどの力で突き飛ばそうとする。
マシュの腕に爪を立て、引き剥がそうと激しく暴れる。
「ぐっ……! でも、離しません!
思い出してください、先輩!
あなたは、こんな、殺人鬼のキャスターなんかじゃない!
人理を救うために、誰よりも傷つきながら、それでも前を向いて歩き続けている、私の、私の大切なマスターなんです!!」
「違う! 違う違う違う!! 私は殺人鬼!
キャスターのサーヴァント!
七つの世界を皆殺しにした、最低で最高の殺戮者なんだ!
マスターの龍之介くんと一緒に、最高のアートを創るサーヴァントなんだよ!
お前みたいな、偽善の塊みたいな臭いのする奴なんて、知らない!!
消えて、消えてよおおおお!!」
立香の黄金の瞳から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出す。
それは、今の自分を否定されることへの強烈な拒絶反応であり、道満によって植え付けられた偽りの記憶が、役割が、マシュの抱擁と想いをぶつけられることで軋みを上げている証拠だった。
「先輩……っ!」
マシュは立香に回した手に、さらに力を込めて強く抱きしめ、想いを伝える。
立香はさらに苦しみだし、とうとう影の軍勢の動きが止まった。
「……マ……シュ?」
立香の口から、マシュが待ち望んだ声が聞こえた、その時。
血しぶきが、2人の顏に降り注いだ。
◇
戦場の後方。令呪を使い疲弊して荒い息をつくウェイバーの隣。
そこには、衛宮切嗣が息を潜めて伏せていた。
「……射線、通りました。現状、作戦は順調」
傍らでスポッターの役割を果たしている久宇舞弥が、無感情な声で報告する。
切嗣の手には、トンプソン・コンテンダー。
その薬室には、己の肋骨から削り出した『起源弾』がすでに装填されていた。
「風速、気温、結界による魔力的屈折率……全て計算済みです。
目標、キャスターの胸部。
マシュ・キリエライトとの接触により、目標は錯乱状態。無防備です」
「ああ……。今しかない」
切嗣はスコープを覗き込み、マシュと抱き合って暴れる藤丸立香を正確に捉えた。
一切の感情を交えず、ただ任務を遂行するための機械として、彼は引き金に指をかける。
この一撃は、魔術回路を暴走させ、相手を内側から破壊する呪いの弾丸。
ランサー戦のあと、彼女に命中した際は一時的に正気に戻っていたという。
賭けにはなるが、今回も可能性は低くは無いだろう。
命中させた後は、アイリに埋め込んでいる『アレ』を使って彼女を元に戻せば、何とかなるはずだ。
既に令呪を使い、アイリを連れたセイバーをこちらに呼び寄せた。
アサシンの妨害は予想外で、令呪を1画使うことになってしまったが、仕方ない……。
「……これで、終わりだ」
切嗣の指が、引き金を引いた。
――ズドンッ!!
夜気を切り裂く、重々しい銃声。
放たれた起源弾は、螺旋を描きながら停止した影の軍勢をすり抜け、立香へと突き進む。
マシュに気を取られ激しく抵抗する立香は、その弾丸が自分に迫っていることに全く気がついていない。
直撃する。切嗣も、舞弥も、そう確信した。
しかし。その瞬間、あり得ないことが起こった。
◇
「……どういうこと?」
雨生龍之介は、飛び込んできた少女が立香に抱き着き、錯乱している状況に頭がついていかず放心していた。
知り合い?
助けた方がいいのか??
駆け寄ろうとした時、悪意に満ちた声が彼の頭に響いた。
「ンンンンン、素晴らしい光景ですなぁ。
正直、藤丸殿がここまで保つとは、この拙僧の目をもってしても見抜けませんでしたぞ!
ですが、まだまだ彼女には役目がありますでな。
さあ、マスター殿。貴殿を、最高の『アート』にしてさしあげましょう……!」
蘆屋道満の哄笑が、龍之介の脳内に響く。
瞬間、自分の身体が勝手に動き出し、走り出した。
「え?え?なんだ?俺の身体、勝手に動いている??
うわ、うわああああ!!」
起源弾の射線に割り込まされる身体。
――グチャッ!!
鈍く、しかし決定的な破裂音が、周囲に響き渡った。
◇
「え……?」
錯乱し暴れていた立香の動きが、ピタリと止まる。
マシュの腕の中で暴れていた彼女の顔に、生温かい血が飛び散った。
それは、狙撃から自分を庇い崩れ落ちる雨生龍之介の姿だった。
「りゅう……のすけ、くん……?」