もし藤丸立香(女性)がFate/Zeroの雨生龍之介にキャスターとして召喚されたら 作:白豚くん
本当にありがとうございます。
「りゅう……のすけ、くん……?」
綺麗な赤色が私の顏に飛び散った。
ドサリ、という重い音が砂の上に響く。
目の前で、私の大切なマスター、龍之介くんの身体が糸の切れた人形みたいに崩れ落ちていく。
どうして?
私を庇ってくれたの?
サーヴァントの私を?
背後から私を抱きしめている薄紫色の髪の少女の力が緩む。
そうだ、この娘はマシュ・キリエライトだ。
どうして忘れていたんだろう。私の大切な後輩。
一緒に7つの特異点を旅した、人理修復の旅の大切なパートナー。
私は彼女の腕を振り払い、地面に横たわる龍之介くんのもとへ歩み寄る。
「嫌だ……嘘、嘘だよ。ねえ、起きてよ、龍之介くん!マスター!!」
私は彼を抱きかかえ、必死に呼びかける。
龍之介くんの胸には、大きな穴が開いていた。そこから溢れ出すのは、赤い血。
彼は何かを言おうとして口をパクパクと動かしているけれど、そこから漏れるのは言葉じゃなくて、ゴボゴボという血の泡だけだった。
「……ゴ、ボ……ッ……」
「だめだよ、喋らないで! 私がすぐに治してあげるから!
影たち、来て! 私のマスターを今すぐ癒して……!」
だめだ、間に合わない……。
またなの? 私は、また大切な人を失ってしまうの?
……また? またって、何のこと……?
その時、私の頭の中に圧倒的な光の奔流が流れ込んできた。
(――先輩、今までありがとうございました)
誰。誰の声……。
光の中に立つ、一人の少女。
大きな盾を構えて、空を覆い尽くすような巨大な光を受け止めている。
彼女の身体が、白く、熱く、透き通っていく。
ああ、そうだ。私は知っている。この光景を知っている。
終局特異点。魔術王の、第三宝具。
人類終了を告げる光帯から私を守るために、彼女は……。
『全ての傷、全ての怨恨を癒す我らが故郷、顕現せよ、
不意に蘇る、私の記憶。 そう、かつての私が体験した、忌まわしくも鮮烈な光景。
場所は、時間神殿。終局特異点。
目の前にいるのは、魔術王ゲーティア。
放たれたのは、第三宝具『
光の束が、私達を焼き尽くそうと迫り来る中、私を守るべく前に出てくれたのは――。
盾を掲げ、ただ一人、絶望的な熱量に立ち向かう、薄紫色輩の髪の少女。
そして、 最後に、彼女は振り返り、私に向けて微笑んだ。
『……でもちょっと悔しいです。
わたしは、守られてばかりだったから――。
最後に一度くらいは、先輩のお役に、立ちたかった 』
そして、彼女は蒸発した。 文字通り、跡形もなく。
あの雪花の盾だけを残して、私の目の前から消え去ったのだ。
ああ……思い出した。完全に思い出した。
どうして、忘れていたんだろう。
あの時のマシュの姿……。
自らの命を燃やし尽くし、ただ一つの目的のために全てを捧げ、最も輝かしい瞬間に弾けて消える。
あれこそが最高の『
私が、龍之介くんと追求していた、最高にクールな、最高のアートそのものじゃないか!
マシュ・キリエライトのあの死に様こそ、世界で一番美しい「最高の美」だったんだ!!
「あはっ……ふふ、あははははは!」
喉の奥から、笑いがこみ上げる。
でも、どこか、頭の奥で悲痛な声が響くような気がする。
違う、と。私はそんなこと考えたこともない、と。
私があの時思ったのは、そんな悍ましいことじゃない、と。
その声を無視し、記憶と思考を同調させていく。
欠けていた自分が埋められていく感覚があった。
同時に、激しい怒りが湧いてくる。
許せないという気持ち。
腕の中で冷たくなっていく龍之介くんを、まじまじと見つめる。
……違う。 龍之介くんの最期は、こんなのじゃない。
彼が死ぬときは、もっと満足して死ぬはずだったんだ。
自らの血と臓物で最高の絵を描きながら、狂気に満ちた笑顔で死んでいくべきだったんだ。
なのに、さっきの彼の動きは何?
まるで、見えない糸に操られた安っぽい操り人形みたいだった。
私を庇っての美しい自己犠牲なんかじゃない。
ただ私の前に『置かれた』だけの、惨めで、滑稽で、少しも美しくない死。
「……かわいそうに。龍之介くん」
誰が、こんな酷いことをしたの?
誰が、私のマスターの最期に、泥を塗ったの?
許さない。絶対に許さない。
私の中に、これまでにないほどのドロドロとした黒い怒りと、研ぎ澄まされた殺意が湧き上がってくる。
黄金色の瞳が、怒りで爛々と輝く。
誰だ。誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ!!!!
『ンンンンン……嘆かわしい、実に嘆かわしい!』
不意に、頭の中に直接、ひどくねっとりとした男の声が響いた。
『見なされ、立香殿。
貴女の愛しいマスターは、あそこで立っている忌まわしき盾の娘のせいで、あのような無惨な最期を遂げてしまった。
あの娘と狙撃者が協力して、貴方を狙ったのです。
龍之介殿は、貴方を守るために身を挺した。
なんと美しい自己犠牲でしょうか……!
拙僧、涙が止まりませんぞ。
さあ、まずはその小娘を殺しなされ。
拙僧も協力いたしますぞ。
マスターの無念を晴らのです!!』
「…………」
私は、黙ってその声を聞いていた。 その声の主が誰なのかは分からない。
でも、私を馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。
「ふふ……あはははははははははは!!!」
私は天を仰ぎ、腹の底から狂笑した。
「馬鹿じゃない? 私がそんな見え透いた嘘に騙されるとでも思ってるの?」
『……な、何と?』
「その耳障りな声。あなたでしょ?
私を、龍之介くんを利用したのは。」
声の主が、一瞬だけ息を呑む気配がした。
「私とマスターの間に入り込んで、私たちを利用して何かをしようとしていた。
私が召喚された時の声と一緒。
さっき、アサシンの霊基を流し込んだのもあなただよね。
……神様扱いしちゃった私を、殺してやりたいよ。
お前なんかに感謝しちゃったなんて、笑い話にもならない!」
「お前が……お前が、龍之介くんが最高のアートになるのを台無しにしたんだ!!!
お前が、私の最高のキャンバスを汚したんだ!!
許さない、許さない許さない許さない!!」
『ンンソンンンン……! なにか、なにか非常に不味い気がしますぞ――
急用を思い出しましたので、拙僧はこれにて失礼を――』
「逃がすかあああああああっ!!!」
私は、アサシンの霊基を流し込まれた際のパスを利用し、声の主の魔力を影の中に吸収するべく強引に吸い上げる。
「吸い尽くしてやる! 私に力を与えたいんでしょ?
もらってあげるよ!あなたの全てをね!」
『なっ!? ば、馬鹿な!
やめなされやめなされ!
拙僧は貴女の器に収まるような者ではありませぬぞ!』
「だからどうしたっていうんだ!! 死ねええええええええええ!!!」
私は魔力を全開にし、狂気のままにその力を吸い上げる。
熱い。痛い。気持ちいい。
得体の知れない宇宙の深淵のような力、
それが、私に無理やり注ぎ込まれていく。
『ソソソソソッ!? おのれ、おのれおのれおのれえええええっ!!』
声の主が、醜い絶叫を上げる。
『ええい、仕方ないですな。今宵はここまで。
またお会いできるのを楽しみにしておりますぞ』
ブツンッ、と。
パスを強制的に切断された。
「……逃げられたか。まあいいよ」
私の中には、十分すぎるほどの力が溜まった。
ああ、溢れ出してきそう。 もう、止まらない……。
汚染された聖杯の泥、影に吸収したサーヴァントの霊基、今吸収した奴の魔力。
全部、私の中に、私の可愛い影の中に入っちゃった。
そうだ。龍之介くんも、一緒に居ようね……。
私は、マスターを影の中に大切に収めた。
すると、さらにドス黒く染まった影が、私の身体を包んでいく。
そうか、私に相応しい姿に着替えさせてくれるんだね。
私はゆっくりと眼を瞑る。着替えが終わるまでに、頭の中を整理するために。
はあ、やっと全部思い出したよ。
どうして、私の大切な後輩を忘れていたんだろう……。
待っててね、マシュ。
はやく、会いたいな……。
どうして、生き返ってるのかな?
駄目じゃない。せっかくあなたは『
かわいそうなマシュ。
大丈夫だよ。今度は、私が最高にクールに殺してあげるからね……。