もし藤丸立香(女性)がFate/Zeroの雨生龍之介にキャスターとして召喚されたら   作:白豚くん

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第二十話 宿る希望

「……作戦は、失敗だ……!」

 

衛宮切嗣は感情を押し殺しながらも、怒りを隠せずに言葉を漏らした。

不自然な動きで、何故かサーヴァントを庇ったキャスターのマスター。

恐らく六芒星の件と関わっているのだろうが、何にせよキャスターに起源弾は命中せず、さらに禍々しく変貌してしまった。

彼は眼を瞑り、精神を落ち着け次の策を懸命に考えようとした。

その時、周囲の気配が変わっていく。

魔力を供給していたウェイバー・ベルベットが限界に近づいたためか、とうとうライダー自身が宝具『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』を解除し、固有結界が晴れ、元の冬木の森に戻っていたのだ。

固有結界が解除されたため、令呪で呼び戻していたセイバーとアイリスフィールが切嗣に駆け寄り、状況を確認してくる。

切嗣は眼を開き、最後の可能性を求め2人に状況を説明し、作戦を伝える……。

 

 

「……あはっ」

静寂が戻った森の中で、ひどく甘く、それでいて背筋を凍らせるような笑い声が響いた。

漆黒の礼装を纏い、病的なまでに白い肌を晒した藤丸立香は、その腕の中にマシュ・キリエライトを強く抱きしめたまま、うっとりと目を細めていた。

彼女の黄金色の瞳は、月の光を反射して怪しく輝き、その瞳孔には慈愛と狂気が混ざり合っている。

 

「ねえ、マシュ。元の世界に戻ってきちゃったね。

でも大丈夫だよ、どこにいたって私はあなたの先輩だし、あなたは私の可愛い後輩、共犯者なんだから」

 

立香は、マシュの耳元に唇を寄せ、愛おしげに囁く。

その指先がマシュの頬を愛撫し、薄く肌をなぞるたびに黒い泥のような跡が残る。

 

「ねえ、教えて、マシュ。……あなたはどんな死に方がいい? 

どんな風に殺したら、一番美しくなれるかな? 

もう、そんなに怯えないでよ。

私、あなたが今度こそ最高の、世界で一番美しくてクールな『芸術(アート)』になれるように、最高に情熱的に殺してあげるから!

殺した後は、もう離れ離れにならないように、私の愛で、私の影で、ドロドロに溶かして、永遠に私の一部にしてあげるね……!

ずっと、ずっと一緒だよ……。私の可愛いマシュ……。」

 

マシュは、立香の言葉にただ涙するだけだった。

自分を抱きしめる立香から伝わってくるのは、かつての温もりではなく、底知れぬ深淵の冷たさと、心臓を直接握りつぶされるような悍ましいプレッシャー。

放たれる言葉は、嬉しそうに自分の殺し方を考え、聞いてくるという狂気に満ちた内容。

もう、彼女は元に戻すことができないのではないか……?

あきらめたくはない、でも……、もう方法が……。

マシュは、自分の心が絶望に染まっていってしまうのを感じていた。

 

「もう、そんな暗い顔をしないでよ。

笑ってよマシュ。ねえ、返事をして? 

私たちの新しい旅の始まりなんだよ? テンション上げて、クールに行こうよ……!」

 

立香がマシュの唇に自らのそれを重ねようとした、その時だった。

 

「――そこまでです。外道の魔術師。その娘から離れよ」

 

静寂を切り裂く、凛とした声。  

同時に、森の闇を払うような鋭い一閃が、立香とマシュの間に割り込んだ。

不可視の風を纏った刃が、立香の周囲を渦巻く黒い影を両断する。

 

「……っ、チッ……!」

 

立香は不快そうに舌打ちを漏らすと、マシュを放して跳びのいた。  

数メートル後退した立香の視線の先には、一人の騎士が立っていた。  

月光に照らされたその姿は、あまりにも気高く、そして峻烈だった。  

青い衣の上に、銀色の鎧を纏った小柄な少女。

だが、その身体から放たれる威圧感は、千の軍勢を凌駕するほどに重く、鋭い。

彼女の手には、風を巻いてその真実の姿を隠した聖剣が握られていた。

 

「問おう。貴様が、この聖杯戦争を狂わせているサーヴァント……キャスターか」

 

騎士王、アルトリア・ペンドラゴン。  

第四次聖杯戦争におけるセイバーのサーヴァントは、その碧眼で真っ直ぐに立香を射抜いた。  

彼女にとって、目の前の存在は、もはや英霊ですらなかった。

人としての形を保ちながら、その内側から溢れ出しているのは、輝く狂気と悪意に満ちた泥のような影。

セイバーは剣を強く握りしめ、警戒を強める。

 

だが、立香はそんなセイバーの態度に、ただ不愉快そうに眉をひそめるだけだった。

 

「……なんなの、あなた。邪魔をしないでよ。

今、せっかくマシュと良いところだったのに」

 

立香は、黄金色の瞳でセイバーを冷たく睨みつけた。

彼女は、セイバーの真名も看破する。

 

「確かに私はキャスターのサーヴァントだけど、あなたみたいな王様には用は無いんだ、アーサー王サマ。

悪いんだけど、マシュと私……二人だけにしてくれる? 

今、とっても大切な話をしてるんだ。

これからどうやって彼女を美しく殺そうかっていう、世界で一番純粋な綺麗な愛の話をね!」

 

「……狂っているな。愛だと? 

その少女は貴様の最も大切な存在ではないのか?

よくもそのような戯言を。

キャスター、貴様の存在そのものが私の騎士道に対する侮辱だ。

この場で速やかに排除させてもらう!」

 

セイバーの足元で地面が爆ぜた。  

瞬きする間もない神速の踏み込み。

不可視の剣『風王結界(インビジブル・エア)』が、立香の首筋を目掛けて一閃される。

 

「あははっ、さすがに速いね! でも、私に触れることは出来ないよ!

さあ、貴方と戦いたがってる子が私の影に居るんだ!出ておいで!

バーサーカー!!」

 

立香が指を鳴らす。  

すると、彼女の足元から噴き出したドス黒い泥のような影が、一人の騎士の形を成した。

黒い影に覆われた全身鎧の騎士。

その手には、影に飲み込まれる前には持っていなかった剣が握られている。

バーサーカー・ランスロット。

その姿は漆黒の影に覆われ、兜のバイザー部分から漏れる禍々しい赤い光だけが爛々と光っていた。

 

「Aurrrrr……Arrrrrthurrrrrrrrーー!!」

 

「なっ……サーヴァント!? 

いや、これは影……キャスターによる擬似的な召喚か?

だが、何という存在感だ……。」

 

黒の聖杯姿になり、魔力が格段に上がった立香。

召喚する影の軍勢も、さらに強化されていた。

 

剣と剣がぶつかりあい、火花が飛び散り、金属音が夜の森に反響する。

 

「っ……くっ、この重圧……。影でありながら、これほどの出力を保つというのか!」

 

セイバーは防戦に回らざるを得ない。

バーサーカーの猛攻を弾きながら、彼女は冷静に勝機を窺う。  

一方、立香は、戦いに関心などないと言わぬばかりに、再びマシュの方へと視線を戻していた。

 

「見ててね、マシュ。あの気高いアーサー王が、どんな風に影に飲み込まれていくか。

あんな風に、プライドをズタズタにされて絶望する姿も、なかなか良いアートになると思わない……?」

 

バーサーカーの突きがセイバーの脇腹を捉えようとした瞬間、彼女は敢えてその一撃を受け、後方へ吹き飛ばされるフリをした。  

彼女は、飛ばされる方向を調節し、震えるマシュのすぐ側に着地する。

 

「……マシュ、と言いましたね。しっかりしてください」

 

土煙の中から立ち上がったセイバーは、立香に聞こえないように、小声でマシュに呼びかけた。

 

「……セ、セイバー……さん……?」

 

マシュが掠れた声で、目の前の騎士を見上げる。  

マシュの知るカルデアのアルトリアではない。

だが、その気高さ、その澄んだ魂の輝きは同じように感じられた。

 

「時間がない、作戦を伝えます。

これは衛宮切嗣……私のマスターからの伝言だ」

 

「『狙撃は失敗した。

だが、敵が起源弾を防いだということは、これはやはり有効ということ。

だから、起源弾を君に託す。直接君の手でキャスターに打ち込め。

そして、『全て遠き理想郷(アヴァロン)』で彼女を癒すんだ。

君ならば……きっと、その連鎖を断ち切れる』……と」

 

「わ、私が……先輩を……?」

 

「そうです。さあ、受け取りなさい。

これが、キャスターを正気に戻すための……そして貴方たちを救うための、最後の切り札だ」

 

セイバーは、アイリスフィールから返還され、自身の内に収めていた黄金に輝く「概念」をマシュへと差し出した。  

それは、鞘だった。  

金と青のエナメルで装飾された、この世のものとは思えぬほどに美しい、伝説の鞘。

 

「これが……『全て遠き理想郷(アヴァロン)』……!?」

 

マシュの瞳が驚愕に見開かれる。  

人理修復の旅の中で知った、星の内に鍛えられた究極の守護。

いかなる不浄も寄せ付けず、持ち主に永遠の安らぎと治癒をもたらす、王の帰還すべき場所。

 

「これを、貴方に託します。

この鞘の加護があれば、起源弾の効果を癒し、彼女を本来の身体に戻してくれるはずだ」

 

「マシュ・キリエライト。

貴方の主は、今まさに悪意の影に沈もうとしている。

彼女をあの呪縛から引き戻せるのは、同じ道を歩み、絆を紡いできた貴方だけだ。

……信じています、盾の娘よ」

 

セイバーの手から放たれた黄金の光が、マシュの胸元へと吸い込まれていく。

絶望しかけていたマシュの身体に、かつてないほどの温かな熱が流れ込んだ。

 

「……ああ、あったかい……。これが……」

 

マシュの瞳に、再び光が戻る。  

絶望で諦めかけていた心が、黄金の加護によって再び奮い立つ。

 

「……何をしてるの、セイバー」

 

その時、背後から冷たく立香の声が響いた。  

立香は、バーサーカーを下がらせ、ゆっくりとマシュとセイバーの方へ歩み寄ってきていた。

その表情からは先ほどまでの上機嫌から一転した、底知れぬ不信と怒りが渦巻いている。

 

「私のマシュに、何を吹き込んだの?

 ……ねえ、マシュ。何をもらったの? 

そんなキラキラしたもの、あなたには似合わないよ。

捨てちゃいなよ、そんなの。ね?」

 

立香の足元から、無数の影の手が伸び、マシュを絡め取ろうとする。  

だが、その影がマシュに触れようとした瞬間、彼女の身体から溢れ出した黄金の輝きが、影を塵へと変えて消滅させた。

 

 

「……え?」

 

立香が、驚いて目を見開く。  

マシュは、ゆっくりと立ち上がる。

その手には、力強く盾が握られている。

 

「……先輩」

 

マシュの声は、もう震えていなかった。

悲しみも、絶望も消えたわけではない。

だが、その全てを抱えたまま、彼女は「藤丸立香のファーストサーヴァント」としての矜持を取り戻していた。

 

「先輩。……私は、あなたを取り返します」

 

「……??

マシュ? 何を言ってるの? 私は私――」

 

「先輩は私を、殺して『芸術』にすると言いました。

……でも、あなたは、藤丸立香は、誰かを殺して喜ぶような人ではありません。

傷ついた誰かのために涙を流し、救えない命のために誰よりも苦しみ……それでも、明日のために歩みを止めない人なんです!」

 

マシュは盾を構え、立香の黄金色の瞳を真っ向から見据えた。  

アヴァロンの加護が、盾に共鳴しマシュの霊基を本来の状態に引き上げ始める。

 

「私を殺して、自分の一部にするのがあなたの愛だと言うのなら……私は、それを全力で拒絶します! 

私は、あなたに殺されるためにここにいるのではありません。

あなたを……偽りの狂気から解放するためにいるんです!」

 

「……やめて。やめてよ、マシュ。そんな眼で、私を見ないで。

私を否定しないで。私は……私は、あなたのために……!」

 

立香の表情が歪む。

僅かに残る正気が、圧倒的な狂気の中で彼女に訴える。

マシュの手を取れと。私の居場所はあちらだと。

それだけ、マシュから放たれる光は、今の立香にとって耐え難いほどの眩しさだった。

それは、彼女が「殺人鬼」として植え付けられた偽りの旅路を、根底から覆す真実の光。

 

「セイバーさん、ありがとうございます」

 

セイバーは、頷き、聖剣を構える。

 

「よし。私がキャスターの影を抑えます。

……行け、マシュ・キリエライト。君の主を、その手で救い出せ!」

 

「はい! ――先輩、今度こそ……あなたを、助けます!!」

 

「来ないで……来ないでよおおおっ! 違う、違う!!

お前は私のマシュじゃない!!

マシュ、どこにいるの!?

私を一人にしないで、私を助けて!! 

影よ、殺して! 殺してよ! 

みんな、みんな殺しちゃええええ!!!」

 

黄金の光を纏ったマシュが、盾を構え、立香へと向かって突撃を開始した。

それは、この歪んだ聖杯戦争を終わらせるための、そして一人の少女を取り戻すための、最後の戦いの始まりだった。

 

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