もし藤丸立香(女性)がFate/Zeroの雨生龍之介にキャスターとして召喚されたら 作:白豚くん
「……ああ、なんという屈辱だ。
この私が召喚したサーヴァントが、ただの狂人が召喚した無名の英霊に遅れを取るなど……!」
キャスターに圧されているランサーに対し、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは怒りに顔を真っ赤に染め、激しい怒鳴り声を上げた。
その視線の先では、彼のサーヴァント、ディルムッド・オディナが、影のフィンの執拗な連撃の前に膝をつこうとしている。
ケイネスは、本来自分が召喚していたはずのサーヴァント、イスカンダルならこのような醜態は見せないはずだ、と遺物を盗んだ教え子に恨みを募らせながら、
「ランサー! 貴様、いつまで醜態を晒している!
私の顔に、誇りに、これ以上の泥を塗るつもりか!」
このままでは危うい。代償も致し方なし、とケイネスは右手を掲げた。
その甲に刻まれた令呪が、主の怒りに呼応して燃えるような紅い光を放つ。
2つ目の令呪が消費された。
「令呪をもって命ずる!
ランサー、今すぐその呪わしい影を払い除け、敵マスターを殺せ!!」
「——っ、おおおおおおおおおおおおっ!!」
令呪という名の絶対遵守の命令が、ディルムッドの魔力回路を強制的に増幅し、限界を超えた出力を引き出した。
影のフィンの槍の連撃が、ディルムッドの内側から溢れ出す魔力によって弾け飛ぶ。
「我が主よ、御意……!
一騎打ちに背く行為なれど、このような外道達にはむしろ相応しい!
この一撃、我が騎士道のすべてを賭して、道を切り拓く!」
ディルムッドの両手に握られた双槍が、月光を吸い込んで眩いばかりに輝き出す。
魔力を遮断する黄の槍と、魔力を呪う赤の槍。彼がその身を低く沈めた瞬間、部屋全体の空気が一点に収束した。
「——『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』!
『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』!」
それは、二振りの槍を同時に最大解放する、文字通りの必殺技。
黄と赤の閃光が交差し、旋風となって吹き荒れた。
影のフィン・マックールが放つどす黒い水柱を真っ向から切り裂き、その中心にある霊核へと到達する。
「……ぁ、ああ……」
影のフィンは、一瞬だけかつての理知的な貌を見せ、ディルムッドへ視線を向けたかのように思えたが、直後、存在そのものが霧散し、影へと還っていく。
「申し訳ありません・・・。団長・・・。
キャスター、覚悟しろ!」
身構える立香に突撃するフリをし、ディルムッドは次なる標的を—キャスター-藤丸立香ではなく、その傍らで無防備に興奮しながら観戦している雨生龍之介へと定め、軌道を変える。
令呪による命令通り、マスターを直接狙う—騎士道精神あふれる彼なら忌避する行為—しかし、自身を冒涜したキャスターに対しては遠慮は無かった。
「死ね、外道の徒!」
「あ——」
立香の瞳が、驚愕に揺れる。
だが、ディルムッドの槍は速かった。
シュパッ、と肉を断つ嫌な音が響く。
「……ぐぁ、あ……? ……ああああああああああああああああっ!!」
龍之介の右肩から胸にかけて、深い斬撃が刻まれた。
深紅の鮮血が吹き出し、彼はその場にのたうち回った。
「痛い! 痛いよキャスター!
なんだこれ、僕の体から、すごく熱くてドロドロしたのがいっぱい出てくる!
でも、キレイだ・・・。僕の中にも、こんな美しさが・・・。」
床を転がり、自らの血で池を作る龍之介。
彼はその痛みさえも「新しい体験」として受け入れていたが、身体は死に向かっていく。
その光景を見た瞬間。
藤丸立香の瞳から、光が消える。
「……龍之介くん。私の、大切な……マスター……」
彼女の脳裏に、盾を持った紫色の髪の少女が、光から自分を庇い盾だけを残して消えた姿が映し出される。
少女が誰なのか、今の立香には分からない。
ただ、もう大切な人を失いたくない、その想いが「規格外の狂化」スキルによって増幅されていく。
彼女の瞳が、より狂気に染まる。
「……あは。……あはははは!
面白い。面白いね、ランサー。
……君、今、私の宝物を傷つけたんだ。
……ねえ、知ってる?
今の私、怒ると、自分でもどうなるか分からないんだよ!」
立香は、地を這う龍之介に歩み寄り、その血まみれの体を優しく抱き上げた。
「よしよし。いい子だね、龍之介くん。
君の血の色、すごく綺麗だよ。
でも、まだ死んじゃダメ。
もっと一緒に、最高のクールを見つけなきゃいけないんだから」
立香は、龍之介の耳元で囁くと、そのまま彼の唇を、自分の唇で塞いだ。
「——ん……っ」
それは、本来の彼女がつ他者への献身の心の残滓なのか。
キャスターとしてサーヴァントした彼女の持つ魔力で、カルデア制服の礼装スキル「応急手当」の効果を極限まで上げ、直接体内へ流し込む。
ドクン、ドクンと、立香の影から抽出された魔力が龍之介の血管へと流れ込む。
傷口が不気味な黒い糸で縫い合わされ、失われた肉が影によって再構築されていく。
龍之介の瞳は快楽と魔力酔いで虚ろになり、全身が痙攣しながらも、その生命力は異常なまでの活性化を見せた。
「……ふぅ。お待たせ、龍之介くん。もう痛くないでしょ?」
唇を離した立香の口端には、龍之介の血と、黒い魔力の雫が伝っていた。
彼女はそれを舌で舐め取ると、ランサーを……いや、その背後にいるケイネスたちを、氷のように冷酷な視線で射抜いた。
「貴方たち、もう許さない。
……私の名前、教えてあげる。しっかり魂に刻んでおいて」
立香の背後、ホテルの天井が、意思を持つ影によって飲み込まれていく。
「真名、藤丸立香。
……かつて人理を修復し、今はマスター……雨生龍之介のサーヴァント。
……さあ、見せてあげるよ。
これは、人理を彩る英雄達の影。彼ら、彼女らの負の側面の集合」
彼女の手の甲に、漆黒に輝く令呪のような紋章が現れ、妖しく光る。
周囲の景色が変わり、巨大な門(ゲート)が顕現した。
「宝具展開——『英霊召喚・反転(シャドウ・オブ・ヒューマニティ)』!!」
彼女の言葉と共に、門が開く。開いた門から流れ出す影が、床一面に広がり、底なしの影の沼へと化していく。
「な……っ!? なんだこの魔力量は……!?」
ケイネスが驚愕の声を上げる暇もなく、沼の中から、膨大な数の「影」が這い出してきた。
漆黒の剣士、血を滴らせる弓兵、怨嗟を吐く騎兵。呪詛を結ぶ魔術師。
それらはすべて、かつて立香と絆を結んだはずの英雄たち。
英雄の負の側面だけを抽出した、醜悪な影。
「やっちゃって、みんな!
この傲慢な魔術師さんたちに、本当の『絶望』を教えてあげて!!」
数多の影が一斉にランサーへと襲いかかる。
「くっ……! この数は……!」
ディルムッドは双槍を振るい、影を散らそうとするが、倒しても倒しても、沼からは新たな影が湧き上がってくる。
「あはは! 無駄だよランサー!
君の槍ごときで私の影は消せない!
私の影は『人理の影』そのものなんだ。
消しても消しても、人理が続く限り、それは尽きないんだよ!!」
立香の嘲笑が響く中、一つの巨大な影の腕が、ディルムッドの足を掴んだ。
「……ぁ、ああああっ!? 足が、沈む……!?」
「バイバイ、ディルムッド・オディナ。
貴方のその高潔な魂、影の中でゆっくりと溶かしてあげる。
……大丈夫。すぐに、貴方の主君たちも送ってあげるからね」
ディルムッドは、主君であるケイネスの名を叫ぼうとしたが、その口もまた影によって塞がれた。
不屈の騎士は、一筋の光も届かぬ闇の底へと、無惨に引きずり込まれ、消失した。
「ラ、ランサー……!? なんだ……その宝具は……!」
サーヴァントを失ったケイネスは、腰を抜かして床にへたり込んだ。
その隣で、ソラウもまた、恐怖のあまり声も出せず、ガチガチと歯を鳴らしている。
立香は、ゆっくりと二人の方へ歩み寄った。
その背後では、完全に回復した龍之介が、狂喜乱舞しながら立ち上がっている。
「キャスター! すごい、すごいよ!
あの騎士様、消えちゃった!
泥の中に飲まれて、真っ黒になっちゃった!
これだよ、これこそが僕の求めていた『究極のクール』だ!」
「うん。龍之介くん。でも、まだ終わりじゃないよ。
……ほら、そこに最高に美味しそうな『素材』が二つも残ってる」
立香は、ケイネスの目の前で屈み込み、その瞳を覗き込んだ。
「……ふぅん。時計塔のロードさん、なんだ?
その雰囲気、なんか嫌いだなぁ・・・。
……でも、その誇りに満ちた顔が、屈辱で歪んでいくのは
……あは、最高の『アート』だね」
立香の指先から、黒い影の糸が伸び、ケイネスの四肢を絡め取った。
「や、やめろ……!
私は……私は名門アーチボルトの……ぎ、ぎああああああああああああああっ!!!」
ケイネスの悲鳴が、ホテルの最上階に木霊する。
立香は、彼の魔術回路を一つずつ、「解体」していった。
回路を一本ずつ影の針で突き刺し、引き抜く。引き抜いた回路を自分へ移植し、強化していく。
「ねえ、ソラウさん。貴女も、この人の隣にいたいんでしょ?
……じゃあ、二人一緒に、永遠に解けないようにしてあげる」
立香は笑いながら、ソラウの髪を掴み、ケイネスの体へと押し付けた。
「あはははは! 見て見て龍之介くん!
二人の肉体が、影の中で溶けて、一つに混ざり合っていくよ!
まるで、大きな、赤いマーブル模様のキャンディみたい!」
「クール……! クールすぎるよキャスター!
プライドの高そうな連中が、二人で一つの塊に……!
あははは! これ、僕の部屋に飾りたいな!」
立香の狂気は、もはや留まるところを知らなかった。
彼女は、阿鼻叫喚の地獄絵図の中で、狂ったように笑い続ける。
『大切な人を傷つけられた』立香の怒りは、ケイネス達にぶつけることで収まりつつあった。
しかし、より狂気に染まった彼女の心は、元には戻らない。
いまや、ケイネスとソラウだったものは、原型を留めていなかった。
二人の肉体は、影によって接合され、奇妙な形に捻じ曲げられたまま、ビクンビクンと痙攣を続けている。
その瞳は、絶望の色を湛えたまま、虚空を見つめている。
「完成。
……タイトルは『恋人同士一心同体』かな。
……どう、龍之介くん? 私の新しい作品、気に入ってくれた?」
立香は、血と汗に汚れた顔を龍之介に向け、誇らしげに胸を張った。
「最高だよキャスター!
あんたは、僕の人生で出会った中で、一番の天才だ!」
「あはっ! 嬉しい。
……さあ、ここには、まだ他にも素材がいっぱいあるよ。
……全部、全部私の影に入れて、最高の展覧会を開こう?」
外では、ホテルの異変を察知した人々が集まり始めていた。
だが、その誰もが、この最上階で起きている「惨劇」の正体を知ることはない。
藤丸立香は、窓の外に見える冬木の街を見下ろした。
「……待っててね、冬木。
……私が、全部全部、綺麗にしてあげるから」
狂化が進んだ立香の哄笑が、夜の帳を切り裂く。
人類最後のマスターは、次なる獲物に心を躍らせるのだった。