もし藤丸立香(女性)がFate/Zeroの雨生龍之介にキャスターとして召喚されたら 作:白豚くん
本当にありがとうございます。
拙い文章とは思いますが、これからもよろしくお願いします。
冬木市を見下ろす新都の象徴、深山町の高級ホテル・ハイアット。
その最上階のスイートルームだった場所は、静寂に包まれていた。
ホテル全体を強固な要塞として構築し、待ち構えていたケイネス・エルメロイ・アーチボルト率いるランサー陣営。
ランサー、ディルムッド・オディナは影に飲み込まれ、ケイネスとその婚約者、ソラウは狂気のキャスター:藤丸立香によって醜悪な「芸術」に仕立て上げられていた。
「あはっ、あはははは! 見てよ龍之介くん。
本当に滑稽で、すごく、すごい面白いアートになったね!」
立香は、狂気で瞳を爛々と輝かせ、恍惚の表情を浮かべていた。
彼女は、影で接合された「ケイネスとソラウだったもの」を影に収めていく。
「ディルムッドも最高だったよね!
この『誇り高い騎士』さま、影に呑み込まれる時まで、主君の名前を呼ぼうとしてたよ。本当に滑稽だよね!」
今の立香には、本来彼女が持つ英霊たちへの敬意は欠片も残っていない。
狂化に冒されている立香には、英霊は自身の影から産み出される人類史の狂気と負の産物として認識されてしまっていた。
それは狂化の際に彼女の記憶からは失われた、カルデア式の英霊召喚を歪めて再現しているスキルと宝具。
本来ならば人理を救うために振るわれるはずのその力は、今や龍之介の殺人美学を完成させるための、最も効率的で凄惨な「解体道具」へと成り下がっていた。
「最高だよ立香!
君の産み出す影は、どんな一流のナイフよりも繊細に、人間を内側から暴いてくれる。
あの魔術師の旦那も、綺麗な奥さんも、グチャグチャだ。
これこそが『クール』、これこそが真実の美だよ!」
雨生龍之介は、負傷した際の血で赤く染まったシャツの袖で顔を拭い、子供のように無邪気な笑みを浮かべていた。
彼は立香の肩を抱き寄せ、彼女の熱を確かめる。
「……んっ、ありがとう、龍之介くん……。
でも、少し……疲れちゃったかな。あのランサー、影の中でも随分と暴れたから。
……それに、あなたが傷つけられて怒っちゃって、宝具まで発動しちゃった反動が、ちょっとだけ、キてるみたい」
立香は龍之介の胸に顔を埋め、甘えるように吐息を漏らした。
EXレベルの狂化スキルの影響により、彼女の肉体と精神は本来の限界を遥かに超えた魔力を行使している。
サーヴァントとしての霊基を生きている人間に無理やり定着された彼女は、先ほどの戦闘でスキルに加え宝具を発動したことで、全身に激しい痛みを発していたが、マスターである龍之介への依存心と狂気がその苦痛を甘美な快楽へと変換していた。
「おっと、それは大変だ。
僕の理解者に無理をさせすぎたかな。
ここはもう、僕たちの独壇場だもんね」
龍之介は周囲を見渡した。
ケイネスが占拠していたこのホテルには、まだ探索していない豪華な客室がいくつも並んでいる。
彼の殺人鬼としての好奇心は、この「魔術師の城」に隠された更なる獲物へと向けられていた。
「ねえ、龍之介くん。
このホテルの罠は、私の影が全部食べちゃったから。
もう危険なものはないよ。
……だから、龍之介くんは好きなだけ、このホテルを探索してきて?
私はここで、少し休んで、身体を回復させるから」
立香は龍之介の頬を撫で、慈しむような微笑みを向けた。
「いいのかい? せっかくの『宝探し』なのに」
「うん。龍之介くんが楽しそうにしているのを想像するだけで、私も幸せになれるから。
……いってらっしゃい、私のマスター」
「ははっ、最高の理解者だね、君は!
じゃあ、ちょっと行ってくるよ。
面白いものを見つけたら、君のところに真っ先に持ってくるからね!」
龍之介は腰のナイフを軽く叩き、スキップでも踏みそうな軽い足取りで、血の足跡を廊下へと残しながら去っていった。
静寂が部屋に戻る。
藤丸立香は、豪華なソファの残骸に深く身を沈めた。
瞳を閉じると、自身の内側に流れる、濁りきった、しかし強大な魔力の奔流が感じられる。
(……ランサー陣営、排除完了。
……次は……誰にしようかな。
まだまだサーヴァントは沢山いるからな~。楽しみで仕方ないよ・・・。
次は、どんな綺麗な『色』が……)
狂気の色に染まった思考が、昏い満足感と共に沈んでいく。
彼女は自らの意識を内面へと向け、瞑想に入る。
隙だらけの、しかし彼女にとっては至福の休息の時間。
だが、その無防備な姿を、冷徹な「観測者」が捉えていた。
ホテルの向かい側に位置するビル。その屋上の影に、一人の男が伏せていた。
『衛宮切嗣』
「魔術師殺し」の異名を持つその男は、セイバー陣営のマスターでありながら、騎士道精神を尊ぶセイバー、アーサー王とは決して相容れぬ手法を選んでいた。
彼は愛人であり助手でもある久宇舞弥と共に狙撃ポイントに位置取り
対魔術師用の特殊礼装を構えて、脅威となる「時計塔のロード」を狙ってハイアットホテルの推移を見守っていたのだ。
「……信じがたい結果だな」
切嗣は、ライフルのスコープ越しに、影に沈むランサー陣営の最期を目撃していた。
時計塔のロードが、無名の青年と彼が使役するキャスターのサーヴァントによって、手も足も出ずに敗れた。
その異常なまでの魔力、そして影を用いた召喚術。
切嗣の冷徹な計算が、一つの結論を弾き出す。
(あのキャスターは、この聖杯戦争における最大級の脅威だ。
正攻法ではセイバーでも確実に勝てる保証はない。だが——)
スコープの十字円の中に、ソファで休息を取る立香の後頭部が収まった。
(マスターであるあの青年が離れた今、彼女は完全に孤立している。
そして、おそらく魔力回復のために意識を内側に向け、周囲の警戒を解いている。……この好機を逃す手はない)
切嗣は傍らに置いたケースから、一発の銃弾を取り出した。
それは、彼自身の肋骨を粉末にして魂の根源を封じ込めた、魔術師にとっての致命の毒——「起源弾」。
切嗣の起源は「切断」と「結合」。この弾丸が魔術回路を稼働させている魔術師に命中すれば、その回路は一旦切断され、その後「出鱈目な形」で結合される。それは魔術師としての死、あるいは回復不能な廃人化を意味する。
「……さらばだ、謎のキャスター」
切嗣の指が、引き金にかかる。
深夜の静寂を、乾いた発射音が切り裂いた。
ドシュッ、という鈍い衝撃。
ソファで瞑想していた立香の背中、その左肩甲骨の下あたりに、起源弾が吸い込まれるように命中した。
「……えっ?」
最初、立香は何が起きたのか理解できなかった。ただ、冷たい何かが背中を突き抜けた感覚。
だが、その直後。
彼女の全身を、地獄の業火で焼かれるような、あるいは万力で骨を砕かれるような激痛が襲った。
「が……っ、あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
絶叫。
ソファから転げ落ち、激痛で立香はのたうち回った。
彼女の体内で、キャスターとしての霊基を形作る魔術回路と狂化スキルが起源弾の衝撃によって「切断」された。
そして、結合。
「切断」された魔術回路は、何の偶然か、本来の「藤丸立香」という少女が持っていた、素人同然のひ弱な回路へと無理やり繋ぎ直された。
だが、そこにはキャスターとしての異常な魔力がまだ残存しており、それが出鱈目な経路を逆流し、彼女の肉体を内側から破壊し始める。
「熱い……っ、痛い、痛いよぉ!! 龍之介……くん……たすけて……!?」
彼女は血を吐きながら、去っていった青年の名前を呼ぼうとした。
だが。
激痛と共に、脳内を支配していた狂気が、急速に晴れていくのを感じた。
視界を覆っていた狂気のフィルターが剥がれ落ちる。
自分がマスターと呼び、愛おしさを感じていた男、雨生龍之介が、どれほど凄惨な殺人鬼であるか。
自分が「アート」だと呼び、影に呑み込ませてきた人々が、どれほど理不尽に命を奪われた犠牲者であったか。
「……あ……あぁ……っ」
瞳から黄金の光が消え、元の、意志の強い琥珀色の瞳に戻る。
正気に戻った藤丸立香を襲ったのは、傷の痛み以上に、耐え難い「罪の意識」と「絶望」だった。
「私は……私は、何を……。何人を、殺したの……?
英霊たちを、あんなに冒涜して・・・」
震える手で、自分の顔を覆う。
吐き気がした。
自分という存在そのものを消し去ってしまいたいほどの自己嫌悪。
だが。
(……いや。……ダメだ。ここで、折れちゃ、ダメだ……!)
彼女は歯を食いしばり、崩れ落ちそうになる身体と意識を繋ぎ止めた。
今の何者かによる攻撃で、キャスターと付与された霊基と狂気から解放されていることを感じた。
(……今しかない……!)
レイシフトを妨害し、自分をあの青年の元に飛ばし、キャスターのサーヴァントとして狂気に染めた何者か。
明らかに自分を狙った行為。
自分を利用してこの聖杯戦争を本来の歴史からかけ離れ、より酷い結果に変貌させようとしている、ドロドロの悪意。
藤丸立香は、数多の特異点を乗り越えてきた「人類最後のマスター」としての魂を失ってはいなかった。
たとえ狂気に汚され、肉体が破壊されても、彼女が成すべきことはただ一つ。
信じてくれている人たちのために、最後まで足掻き生き残る。
狂化が解けたことで正気を取り戻したが、自分を利用しようとしている何者かが、このままにするとは思えない。
「……まだ、終われない……。……私の……、私の、一番、大切な……」
立香は、震える右手を掲げた。
そこには、本来の彼女の持つ令呪が、輝きを放っている。
立香は、レイシフトの最中に引き離された、彼女の最愛の「相棒」を呼ぶ。
「……お願い。……届いて…っ!」
彼女は、自分に残る全ての魔力を一点に集中させた。
スイートルームに、眩いばかりの純白の光が溢れた。
「令呪をもって、命ずる——ッ!! 来て、マシュ!!!」
空間が、硝子が割れるような音を立てて砕け散った。
次元の壁を突き破り、虚空から一人の少女が飛び出してくる。
紫色の髪、そして、彼女の身長をも凌ぐ巨大な盾。
藤丸立香ののファースト・サーヴァント、マシュ・キリエライト。
「……せん……ぱい……?」
マシュは、召喚の衝撃で床に着地した。
彼女の眼前に広がっているのは、崩壊しかけたホテルの豪華な部屋。 そして、その中心で、涙を流しなら、しかし優しく微笑んで自分を見つめる、最愛の「先輩」の姿だった。
「……あ……、ああぁ……っ!! 先輩! 先輩っ!!」
マシュは盾を抱え、立香のもとへ駆け寄った。
彼女は震える手で、崩れ落ちた立香の身体を抱き起した。
「マシュ……。……やっと……会えたね……」
「先輩、なにがあったんですか……!
誰が、誰がこんな……! すぐに治療を、カルデアとの通信を……っ!」
「いいの……マシュ。……時間が無い。
私の話を聞いて。マスターが戻ってくる前に、状況を説明するから……」
「マスター……? 何を言っているんですか?
マスターは先輩じゃないですか!? それに、その瞳は……?」
立香は、無意識に発した『マスター』という言葉に気づき戦慄した。
再び狂気が自分を覆いつくそうとしている。
やはり、誰かが私を操っている……!
「……マシュ。落ち着いて聞いて。私はもうすぐ私じゃなくなる。
誰かがレイシフトを妨害し、雨生龍之介……、本来の歴史でキャスターのマスターとなる殺人鬼の元に送り込み、私をキャスターのサーヴァントにしてしまったの……。
そして、その際に狂化のスキル、おそらくEXレベルの……。
が付与され、私は彼の最高の理解者となっちゃった……。」
涙を流しマシュに抱き着く立香。
「そんな……、そんなこと……」
「……たくさんの人を、この手で……。
そして、何者かの攻撃で私は奇跡的に正気を取り戻せた。
これは多分、カルデアの資料にあった、セイバー陣営のマスター『衛宮切嗣』の起源弾……。
マシュ、私はもうすぐ再び狂気に支配される。
その前に、あなたをセイバー陣営に転移させるね。
彼らと協力体制を作って。カルデアに居るアイリさんに協力してもらえば、何とかなると思うから……。」
「嫌です!先輩と離れたくありません!!」
立香を強く抱きしめるマシュ。
狂った聖杯戦争は、新たな局面へと動き出そうとしていた。