もし藤丸立香(女性)がFate/Zeroの雨生龍之介にキャスターとして召喚されたら   作:白豚くん

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『Fate/Accel_Zero_Order』のイベント開催からもう10年経つという驚き・・・。


第七話:天の衣

頬を叩く夜風は、凍てつくように冷たかった。  

深山町のビルの屋上。コンクリートの感触が、膝を突くマシュ・キリエライトの手のひらに硬く、現実の重みとして伝わってくる。

つい先ほどまで、マスターである藤丸立香に触れられていたはずだった。

引き離されてしまったけど、やっと会えた、大切なマスター。

 

「……っ、はあ……、あ……先輩……、先輩っ……!」

 

マシュは震える手で地面を叩き、こみ上げる嗚咽を必死に抑え込んだ。

狂気に支配され、消えそうな自我を保ち、必死に自分へ希望を託して送り出してくれたマスター。

別れ際に見た、あのあまりにも儚い微笑み。

それでいてマシュの無事を祈るような慈しむような笑みが、脳裏に焼き付いて離れない。

 

「……動くな。それ以上の不用意な挙動は、敵対行為とみなす」

 

鼓膜を震わせたのは、感情を一切排した男の声だった。  

マシュが顔を上げると、数メートル先に衛宮切嗣が立っていた。

彼は、トンプソン・コンテンダーを構え、油断なく冷酷な眼差しでマシュを凝視している。

彼の背後には、同じく警戒を解かない久宇舞弥が、無言で短機関銃の銃口を向けていた。

 

「……貴方は、衛宮切嗣……ですね。……セイバーの、マスター。」

「……何者だ。あのキャスターの使い魔なのか?

……あのような狂った殺人鬼に召喚されたサーヴァントが使役する

使い魔なぞ、ろくなモノではないのだろうが……」

 

切嗣の声には、隠しきれない困惑と、それ以上に深い警戒が混じっていた。

彼にしてみれば、起源弾が命中して苦しんでいたサーヴァントが、突如何事も無かったかのように

復活し、さらにこの少女の外見をした存在をこちらへ送り込んできたのだ。

警戒し、疑うのが当然だった。

 

「違います。……私は、マシュ・キリエライト。

……人理継続保障機関カルデアから来た、デミ・サーヴァントです。

訂正してください……!

貴方の狙撃した、あの人は……藤丸立香は、サーヴァントなんかじゃありません!!

私の、大切な先輩……マスターなんです!」

 

『狂った殺人鬼に召喚されたサーヴァント』扱いされている立香に

胸が張り裂けそうになりながらも、マシュは必死に訴えた。

 

「カルデア……? ……マスター??

一体、お前は何を言っているんだ……?」

 

マシュは、カルデアという存在、ここが特異点であり、歪んでしまった

歴史を修正しに立香と『レイシフト』してきたことを伝える。

 

「……信じられないかもしれませんが、私たちは未来の観測結果に基づき、

この歪んだ歴史、『特異点』を修正するために『レイシフト』してやってきました。

……本来の歴史では、この聖杯戦争に藤丸立香という存在はいません。

……誰かが、彼女を無理やり雨生龍之介と結び付け、狂化を植え付けて……

キャスターのサーヴァントへと、定義してしまったんです!」

 

切嗣の横で、舞弥が微かに視線を交わした。

切嗣は冷たく鼻で笑う。

 

「……御伽話だな。未来人が聖杯戦争を修正しに来たというのか?

……悪いが、魔術師の繰り出す虚言には聞き飽きている。

君が何者であれ、あの殺戮の主導者であるキャスターの身内である以上、

僕が君を信じる理由は何一つない」

 

「待ってください! 先輩は、貴方と協力するように願ったんです!

自分の正気が消える寸前に、貴方と協力しろって……!

貴方と一緒に、この狂った聖杯戦争を正して欲しいと、そう言ったんですっ!」

 

「……滑稽だな。自分を撃ち抜いた暗殺者に希望を託すとは。

……その言葉自体が、僕を油断させるためのキャスターの策謀ではないと、

どうやって証明する?」

 

切嗣の追求は冷酷だった。理論的で、一切の妥協を許さない。

マシュは唇を噛み、先輩の言葉を思い返した。

 

(……マシュ。……衛宮さん達……セイバー陣営と、協力して……。

カルデアに居る、アイリさんに協力してもらえば、何とかなると思うから……)

 

そうだ。先輩は、あの地獄のような状況で、確かな「鍵」を伝えてくれていた……!

 

「……証明します。私の言葉ではなく、貴方のよく知る『絆』をもって。

…… カルデア、応答してください!

ダ・ヴィンチさん!……いえ、誰でもいい! 誰か……!!」

 

マシュが叫ぶと同時に、彼女の持つ通信端末が青白い光を放ち、

空中にノイズ混じりのホログラムが展開される。

 

「……マシュ!? 繋がったのかい!?

今、レイシフト先が異常な数値を示していて……」

 

「ダ・ヴィンチさん! 説明は後です!

お願いです、今すぐ……アイリスフィールさんを呼んでください!

この場所に、彼女の声を、姿を届けてほしいんです!」

 

「……!? アイリスフィール、だと?」

 

その名を耳にした瞬間、切嗣の表情が初めて崩れた。

鉄の仮面のような無表情の下から、動揺という名の亀裂が走る。

 

「……ふざけるな。……アイリは今、アインツベルンの別荘に居る。

……そんな小細工が通用すると——」

 

「切嗣。……切嗣、なのね」

 

空中に投影されたホログラムに、一人の女性の姿が浮かび上がった。

雪のような白い髪。慈愛に満ちた真紅の瞳。

そして、彼女が纏う、天の衣。 

だが、その姿は切嗣の知る妻とは決定的に異なっていた。

彼女が纏う空気は、あまりにも神々しく、そしてどこか哀しげな「英霊」としての

重みを湛えていた。

 

「……あ、アイリ……? ……まさか、そんな、馬鹿な……」

 

切嗣の手から、力が抜ける。

コンテンダーを握っていた指が震え、彼はよろめくように一歩前へ出た。

 

「ええ、切嗣。……でも、私は貴方の知るアイリスフィールではないわ。

……私は、カルデアで、マスターやマシュ達に力を貸している、英霊としての別の世界の私なの」

 

キャスターのサーヴァントとして現界している、英霊としてのアイリスフィール。

彼女はホログラム越しに、愛おしげに、そして痛切な眼差しで切嗣を見つめた。

 

「切嗣……。信じてあげて。

その少女、マシュ・キリエライトが言っていることは、全て真実よ。

……今、貴方たちのいる冬木は、本来の歴史から大きく逸脱してしまった。

……このままじゃ、人理にも影響が……。

お願い、貴方の力を貸してあげて……?」

 

「……別の、世界線の……アイリ……。……人理に、影響……?」

 

切嗣は茫然と立ち尽くした。

マシュの言葉だけなら、彼は決して信じなかっただろう。

だが、アイリスフィール——自分と共に、今まさにこの冬木の地で戦っているはずの妻の、

その未来の姿、あるいは可能性の化身が、こうして自分に語りかけている。

 

「……切嗣。このままでは、貴方の願いも、私の命も、全てが無意味な

闇に呑み込まれてしまうわ。

……あの少女、藤丸立香という子は、誰よりも世界を愛し、守ろうとしていた子なの。

……彼女を救って。……そして、この狂った聖杯戦争を正して。……お願い、切嗣。

……私の願いを聞いて……」

 

アイリスフィールの姿が、通信の不安定さから乱れ始める。

 

「……待て、アイリ! 待ってくれ! 君は、一体——」

 

光の粒子が弾け、通信が途切れた。

静寂が戻る。切嗣は、自分の手が激しく震えているのを、隠そうとはしなかった。

彼は深い吐息をつき、天を仰いだ。その目には、強固な覚悟が宿っていた。

 

「……。……舞弥、銃を下ろせ。……この少女は、敵ではない」

 

「……しかし、切嗣。今の映像は幻術の可能性も……」

 

「……いや。……あれは、アイリだ。

……本物のアイリスフィール・フォン・アインツベルンだ。……僕が間違えるはずがない」

 

切嗣はマシュに向き直った。

その瞳は、先ほどまでの冷徹な暗殺者のそれではなく、泥を啜ってでも目的を達しようとする、

執念の男の瞳だった。

 

「……マシュ、と言ったか。……状況は理解した。

……僕が狙撃したあの少女が、未来から来たということも、彼女が本意ではなく狂気に堕とされているということも。

……君たちを信用しよう。」

 

「……ありがとうございます、衛宮さん……っ!」  

 

マシュは安堵のあまり、その場に崩れ落ちそうになった。

だが、切嗣の言葉はまだ続いていた。

 

「……一つ、聞かせてくれ。……君たちは『未来から来た』と言ったな。

ここは、君たちの知る世界とは別の世界線かも知れないが……。

君たちは知っているのか?

……本来のこの聖杯戦争が、どのような結末を迎えるのかを」

 

切嗣の声に、重い圧力がこもる。

 

「……僕の願いは叶うのか。

……聖杯は、本当にこの世から悲劇を消し去ってくれるのか。

……本来の歴史で、僕と、アイリはどうなる?」    

 

マシュは息を呑んだ。  

彼女の脳裏に、カルデアのデータベースにある第四次聖杯戦争の記録が流れる。

汚染された聖杯。

アイリスフィールの死と、聖杯の器への変貌。

冬木を焼き尽くす大火災。

そして、衛宮切嗣の末路……。    

マシュは唇を震わせ、拳を強く握りしめた。

 

「……。……答えられません」

 

「……何?」

 

「……知っています。

……本来の歴史が、どのような結末を迎えるのか、私は記録として知っています。

……でも、それを貴方に話すことはできません……。

……この世界が、私たちの世界に繋がるかも分かりません……」

 

マシュは目を伏せ、言葉を濁した。

しかし、その表情が、切嗣にとっては何よりも雄弁な回答となった。

 

「……そうか。……言えないほどの、結末か」

 

切嗣は自嘲気味に、僅かに口角を上げた。

 

「……僕の……、僕の歩んできた道は、結局、失敗だったというわけだ。

……多くの犠牲を払い、アイリまで失って辿り着く先は、君が語るに耐えないほどの結末か……」  

 

彼は懐から煙草を取り出し、火をつけた。紫煙が夜の空気に溶けていく。

 

「……ふん。……皮肉なものだな。

……自分の失敗を、未来から来た客人に突きつけられるとは。

……だが、それなら話は早い」  

 

切嗣は煙草を深く吸い込み、吐き出した。

 

「……この聖杯戦争は、既に本来の歴史からも外れ、変貌している。

……ならば、僕がすべきことは一つだ。

……本来の『失敗』さえも踏み越えて、乗り越えてみせる……。

まずは、君たちのマスター、藤丸立香を奪還し、この冬木の歪みを正す。

……それが、僕の新たな目的だな」

 

切嗣はマシュを見据え、その手を差し出した。

 

「……マシュ・キリエライト。……僕は、君に協力する。

……いや、僕を利用しろ。

……目的のためなら、僕はどんな汚い手段でも使う。

……君の主(マスター)を、狂気から引きずり戻すために」

 

「……はい! ……よろしくお願いします、衛宮さん!」  

 

マシュはその手を強く、力強く握り返した。

「……よし。……作戦を練る。

……舞弥、セイバーに連絡を。……これから、協力者が加わると伝えろ」

 

「了解。……ですが、アーサー王がこの少女をどう見るか……」

 

「……気にするな。

……僕は僕のやり方で進めるだけだ。

……行くぞ、マシュ。

……まずは、あのキャスター……藤丸立香と、雨生龍之介の工房へ先回りする。

場所は分かっている。」

 

ビルの屋上から、三つの影が夜の街へと飛び出していった。  

マシュの胸には、立香への想いが、激しく燃え盛っていた。  

 

第四次聖杯戦争は、本来の歴史からさらに逸脱していく。

未来と過去、希望と絶望が入り混じり、運命の歯車は、

誰も予想し得なかった未知の領域へと、その回転を速めていく……。

 

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