もし藤丸立香(女性)がFate/Zeroの雨生龍之介にキャスターとして召喚されたら 作:白豚くん
第1話の補足も兼ねて構成しました。
雨生龍之介視点の回です。
あー……、最高。マジで、最高だわ。
ホテルのスイートルームの、無駄にふかふかなベッド。
その上で、俺——雨生龍之介は、言葉にできないほどの幸せを感じていた。
窓の外を見れば、月がニヤニヤとこっちを覗き込んでる。
部屋の中は、さっきまでの「宴」の余韻がたっぷり残っていて、鉄錆みたいなあの独特の、それでいて清々しい匂いが充満していた。
腕の中には、まだスースーと可愛い寝息を立てている女の子。
俺が呼び出した、世界で一番「COOL」なパートナー。キャスター。
「……ふふ、ははは。……ホント、神様って粋なことするよなぁ」
俺は天井を見上げて、思わず独り言を漏らした。
少し前までの俺は、ちょっとしたスランプだったんだ。
人を殺すっていう、俺にとって唯一の、そして最高の「表現活動」に対して、どうにもモチベーションが上がらなくなっていた。
なんて言うか、ルーチンワークになっちゃってたんだよね。
刺して、開いて、中身を見る。
それだけじゃ、何かが足りない。
もっとこう、ダイレクトに「生」の輝きを感じるための、新しい手法が必要だって、俺の魂が叫んでたんだ。
だから、実家の蔵で見つけたあの古めかしい本……『儀式殺人』について書かれたあの胡散臭い手記を参考にして、見よう見まねでやってみたんだよ。
あの夜のことを思い出すと、今でも胸が熱くなる。
壁や床に描いた不格好な魔法陣。素材にした一家の鮮やかな「赤」。
そこから、煙と一緒に現れたのが、この子だった。
最初は驚いたよ。悪魔を呼んだつもりが、出てきたのは俺とあんまり年が変わらない、オレンジ色の髪の可愛い女の子だったんだから。
最初は戸惑っていたみたいだけど、でも、彼女と「繋がった」瞬間に分かったんだ。
『……あはっ! すごい、龍之介くん。
これ、君がやったの? この切り口、すごく大胆。
でも、ここの血管をもう少し残しておけば、もっと長く、綺麗な音で悲鳴を奏でられたかもしれないよ?』
あの時の彼女の瞳。
黄金色の中に、混じりけのない狂気がキラキラと輝いていて。
一発で惚れたね。
見た目だけじゃない、あ、こいつは俺と同じ側の人間だ、って。
「……いやぁ、あの時、、俺、マジで感動して涙が出そうになったよ。
……『龍之介くん、これ、こうした方がいい音が鳴るんだよ?』って笑う君が、マジで天使に見えたんだ」
それからは、もう、最高にハッピーだった。
冬木の街は、俺たちのために用意された巨大なおもちゃ箱みたいで。
キャスターは、俺が思いもつかないような魔法みたいな……アートの手法を次から次へと披露してくれた。
俺が「量より質だよね」って言えば、彼女は
「じゃあ、一番綺麗な悲鳴を出してくれそうな子を、私の影でじっくり探そうか」
って応えてくれる。
俺たちが作り上げた作品たちは、どれもこれも神様がスタンディングオベーションしちゃうくらいの傑作ばかりだ。
さっきのこのホテルの「解体作業」だってそうだ。
「時計塔のロード」とかいう、いかにもお堅そうなオジサンを、キャスターは笑いながら影で蹂躙してくれた。
『あはははは! 見て見て龍之介くん!
二人の肉体が、影の中で溶けて、一つに混ざり合っていくよ!
まるで、大きな、赤いマーブル模様のキャンディみたい!』
って、君があのオジサンとオバサンをぐちゃぐちゃに混ぜていた時、俺、改めて確信したんだ。
……君こそが、俺の、そして、俺は、君の、唯一無二の理解者なんだって。
キャスターの小さな肩を、より強く引き寄せる。
柔らかな肌の感触。だけど、その内側には、この街の誰よりも禍々しくて、それでいて純粋な「暴力」と「魔力」が詰まっている。
俺と同じ価値観を持って、俺の拙い「芸術論」を『最高にCOOLだよ!』って笑って肯定してくれる。
「……あーあ。ホント、幸せすぎて怖いね、これは。
……神様、ありがとうございます。
こんな素敵なプレゼントを俺にくれるなんて。
……きっと神様も、俺たちの新作、楽しみにしてくれてるんだよね」
俺が幸せを噛み締めていると、腕の中の温もりが、微かに動いた。
「……んん……っ……。……龍之介、くん……?」
寝ぼけ眼をこすりながら、キャスター……藤丸立香が、ゆっくりと瞳を開けた。
その瞳は、今はまだ微睡みの中で、溶けた黄金のようにゆらゆらと揺れている。
「……どうしたの……? ……まだ、夜……だよね? ……眠れない……?」
掠れた、甘えるような声。
あれだけの戦闘をしてたとは思えないほど、無防備で、可憐な表情。
俺は、彼女のふわふわしたオレンジ色の髪を、壊れ物を扱うように優しく、丁寧に撫でた。
「あはは、ごめんごめん。起こしちゃったかな。
……いや、なんでもないんだ。
……たださ、君と一緒にいると、マジでインスピレーションが止まらなくてさ。
……君は最高のパートナーだなぁ、って、改めて思ってただけなんだ」
「……ふふ、なにそれ。……改まって、恥ずかしいよ……」
キャスターは少しだけ顔を赤らめて、俺の胸に頭を擦り寄せてきた。
「……でも、私も……嬉しいな。
……龍之介くんといると、私、自分が自分じゃないみたいに……
ううん、これが本当の私なんだ!って気がするの。
……ねえ、次はどんな『アート』を作ろうか?
……もっともっと、龍之介くんが驚くような、綺麗な『赤』を、私が描いてあげるね?」
その言葉を聞いて、俺の胸の奥が、熱いもので満たされた。
あー、ダメだ。
この子を、ただ「キャスター」っていう、職業?の名前だけで呼ぶのが、凄く勿体ない気がしてきた。
召喚した者・された者としての主従関係なんて、俺たちの「絆」には、もういらない。
「ねえ、……ひとつ、聞いてもいいかな?」
「ん……? なあに、龍之介くん」
「これまでさ、俺、君のことを『キャスター』って、そんな風に呼んでたけど……。
……これからはさ、名前で呼んでもいいかな? ……名前で、呼びたいんだ」
立香は一瞬、きょとんとした顔で俺を見上げた。
それから、まるで世界中の春を集めたような、眩しくて、残酷なほどに純粋な笑顔を浮かべた。
「……ふふ、いいよ! ……あたりまえじゃない。
……私だって、龍之介くんに、ちゃんと私の名前を呼んでほしいって、ずっと思ってたんだよ?
私だけ、マスターのこと名前で呼んでたから、寂しかったんだから!」
「……マジで? よかった。
……それじゃあさ、……改めて。……よろしくね、立香ちゃん」
「うん! ……よろしくね、龍之介くん!」
俺たちは、血の匂いが漂う静寂の中で、もう一度深く、お互いを抱きしめ合った。
窓の外では、月が静かに、俺たちの「新しい関係」を祝福するように輝いている。
「立香ちゃん。……明日の朝になったらさ、俺たちの『工房』に戻ろう!
コレクションも確認したいし、今晩集めた素材で、もっと派手な、歴史に残るようなアートをぶち上げようよ」
「あはは、賛成!
私も、頭の中でインスピレーションが止まらないんだ!
帰ったら、すごいのを作るからね!」
俺の指が、彼女の頬をなぞる。
彼女は恍惚とした表情で、俺の手に自分の手を重ねた。
「……ねえ、龍之介くん。……約束だよ。……最後まで、私と一緒にいてね? …
…最後まで、私と一緒に、神様を喜ばせてあげようね?」
「もちろんだよ、立香ちゃん。……俺たちの芸術は、まだ始まったばかりだ。
……誰にも邪魔させない。……俺と、君の、最高のショーを続けよう」
俺たちは、朝が来るのを待ちわびながら、再び微睡みの中へと沈んでいった。
雨生龍之介。 藤丸立香。
二人の魂が、狂気という糸で、より強固に、より深く結びついていく。
「……おやすみ、立香ちゃん。……いい夢を」
「……おやすみなさい、龍之介くん。……大好きだよ……」
ああ、明日も最高の1日になりそうだ……。
……そう言えば、立香ちゃんを召喚したあの家、なんで地下室なんかあったんだろうな?
おかげで彼女と会えたから、どうでもいいんだけど。