転生しても俺は魔法が使えない   作:佐佑左右

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第7話「これでキミも魔法使えない部の一員だよ」 「(仮)ですけどね」

「これは推論なのだけれど」

 

 俺が黙考していると、いい加減焦れたのかこちらの返事を待たずにそう切り出した。

 どうでもいいが目まぐるしく話題がローテーションするせいで頭が混乱してきた。

 

「死神は何か別の目的があって、そのために私達を利用しようとしているんじゃないかしら」

 

 耳に刺さる言葉だった。あいつらにそんな思惑はないと思いたいが、しかしそう断言できるほどの根拠もまたないのが事実だ。

 

「そうでなければ私達の記憶や肉体情報を引き継がせたり、ましてや異能力を授けたりしないはずだもの」

 

 ……ん、ちょっと待て、今何かおかしな単語が聞こえたぞ。異能力だとかなんとか。

 

「何を呆けているの? 貴方も死神から授かったでしょう。異能力を」

「授かったというよりは、無理やり貸し付けられたといった方が適切かもね」

「俺だけじゃなかったのか……」

 

 呆然とする。てっきり自分だけが死神から異能力を受け取ったと思っていたのにこの仕打ちときたもんだ。これじゃあ異能力のバーゲンセールじゃん。

 

「……貴方もしかして、自分だけが何か特別な存在だと思っていたのかしら?」

 

 ええ恥ずかしながらその通りでございますですよ畜生め。

 

「止めておきたまえ。彼は厨二病とやらに罹患しているんだ、もう手の施しようはない」

 

 ぐふぅ、抉るな、俺の繊細な心をこれ以上抉ってくれるなロリ先輩。おかげで肺に穴が空くかと思ったわ。

 そういやネットの小説でよく「批判や中傷は止めてください、作者のガラスのハートがブレイクしま……げふんげふん」という注意書きがあったりするが、何でどいつもこいつも揃ってこんな感じの文句なの? 

 ブロークンハートとかまんまだろ。

 

 閑話休題。

 二人の話から事のあらましが見えてきた。

 それを理解すると共に、やはり俺はこの部に所属した方がいいと判断する。

 というのも、今し方の会話で死神に対する猜疑心が植え付けられてしまった。

 相手方の思惑が明らかでない以上、情報を共有する者同士で協力した方が得策だと考える。

 赤信号みんなで渡れば怖くないという間違った格言もあることだし。

 

「……なあ」

 

 部長とロリ先輩が同時にこちらを見る。

 そのストレスで腸内にガスが溜まってきやがった。

 やばい出そう。堪えろ。

 

「やっぱり俺——この部に……、魔法使えない部に入部したい!」

「……そう、そうよね」

 

 部長は俺の決意表明を聞くと静かに首肯し、

 

「でも断るわ」

 

 と正面からバッサリ切り捨てた。

 【悲報】物語終了のお知らせ。

 

「私は男が嫌いなの」

 

 声高にそう主張する彼女。

 どうやら寸暇の会話ならいざ知らず、毎日顔を合わせるのは勘弁ということらしい。

 困った、このままでは本当に四面楚歌になってしまう。

 そうなればバッドエンド一直線だ。

 どうにかならないものだろうか。

 だって俺には他に居場所がないんだよ。

 

「……ふむ」

 

 ロリ先輩が顎に手を当て、何かを考えるような素振りをする。どうでもいいけどその仕草超可愛いな。是非とも家に持ち帰って愛でたい所存だ。ヘベフィリアじゃないけどな!

 

「キミ、一つボクの質問に答えてくれるかな?」

「ええ、それはいいですけど、何ですか」

「コーヒーとお茶、キミはどちらが好きかい?」

 

 質問と言うから何を聞かれるかと思いきや、なんだよそんなどうでもいいことか。

 ……いやそんなことはないなやっぱり。

 他人に質問するということは相手に興味を持つことと同義だ。 

 つまり少しはロリ先輩も俺に関心があるという訳で。

 うん、悪くないな。

 

 それにかの者はこう言った。何だかんだと聞かれたら答えてあげるが世の情け——と。

 

「うーん、やっぱりお茶ですね」

 

 それも緑茶な。なんたってごはんのお供に最適だからだ。たまに食卓に炭酸飲料を持ち出す輩がいるが、俺から言わせればそれは邪道も邪道である。一体どこの会社の回し者だよとつい勘繰ってしまう。

 もちろん油ものには烏龍茶、これ鉄板。否、鉄則。俺が勝手に納得しているとロリ先輩が諸手を挙げかねん勢いのまま詰め寄ってきて、

 

「そうだろうそうだろう、やはり日本人と言ったらお茶に決まっているよ。ふふん、なかなか見所があるじゃないかキミ、気に入った。なので特別に便宜を図ってあげよう」

 

 後ろ盾になってくれる宣言。

 二対一(当然俺が一対側)だった先の状況が逆転し、今やロリ先輩が味方陣営にいる。ありがたい話だ。

 

「ロリ先輩は紅茶派じゃなかったんですか?」

 

 はっ、止めとけ。彼女は綾村サイドの人間だぜ、黙っていろ小娘が!

 

「紅茶だろうが日本茶だろうが茶は茶だよ。ボクの持論では、お茶好きにあんまり悪い人間はいないんだよ」

「その持論の論拠がよく分からないのですがそれはさておき。……一応聞いておきますが何が言いたいのですか?」

「ふふん、愚問だね——」 

 

 そこでたっぷり三秒ほど溜めの時間を作り、しっかりと印象付けておいてから発言に移る。

 

「彼をこの部の籍に入れたまえ。これは先輩からの命令だよ」

 

 さすがロリ先輩! おれにできない事を平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!    

 ……まあ某五番隊の隊長曰く、憧れは理解から最も遠い感情らしいけどな。

 

「お言葉ですがこの場における全ての権限は私に一任されています。ですので彼の入部を認めないという私の意思は、それすなわち部の総意であるといっても過言ではありません」

 

 なるほど確かにそれだったら仕方ないよな——って明らかな権限乱用じゃねぇか!

 

「まあまあ。今まで男手が足りなかったんだからこの際思いきって仮入部させてみたらどうだい? 彼も雑用係から下僕まで幅広く何でもやってくれると言っているし」 

 

 いや言ってないですけど。全然、少しも、全く、これっぽっちも、そんな一言は言ってないですけど。というか何故に同級生に従属の誓いを立てねばならんのでしょうか。

 

「そんなぼっちに一体何が出来るというのですか? 空気汚染でもするんですか?」

 

 ハッて鼻で笑われたよ鼻で。

 人様をバイオテロみたいな扱いしてんじゃねぇよ綾村菌タッチすんぞ。

 二秒で全身を駆け巡るからな、覚えとけ俺のトラウマ。

 

「いざという時の防壁にはなるだろうさ、和紙のように薄っぺらい装甲だけどね」

 

 おい、なんか俺ひどい言われようなんだけど。泣いてもいいかな、いいよね。よし泣くぞ。ははは、しまいにゃ泣くぞ。……泣くぞ。

 

「それにだよ部長さん。例の期限まで残り僅かだけど、果たして人員に当てはあるのかな?」

「それは……っ、ないですけど」

「だろう? ——肝心の疵梨さんは知っての通りあの様で、ボクやキミは最初から論外。伏日さんも荒事は駄目で、頸野さんに至ってはもっての外だよ」

 

 何やら意味深長な会話。見る見る内に顔を曇らせていく部長とは正反対に勝ち誇った表情をするロリ先輩。これは、なんだかよく分からないがいけそうな気がする。

 

「ま、物は試しという奴だよ。どっちにしろこのままじゃ不戦敗で黙って立ち退くしかないんだからね、一か八かのギャンブルも悪くはないだろうさ」

 

「……分かりました」

 

 おおっ、あの渋面たっぷりだった部長を肯定させただと。いくら童顔とはいえ(関係ない)、やっぱり年長なだけあるではないか。口八丁な人間はいいなぁ、素直に羨ましい。

 

 部長が俺に向き直る。口をへの字に曲げ、釈然としていなさそうな表情を浮かべながらも、けれども最後には濃厚な諦めの色を滲ませて言う。

 

「誠に不本意ながらも」  

 

 だからその汚物を見るかのような目を止めろ。俺は紙装甲なんだ、丁重に扱え。

 

「貴方を我が部への仮入部を認めます。あくまで『仮』ですが」 

 

 仮を強調するな仮を。くそ、いつか必ず「仮は返したぜ」とか言って正式に入部してやる。

 

「おめでとう」

 

 ロリ先輩のパチパチパチと乾いた拍手が鳴り響く。どうでもいいんですけどもう少しやる気を出してもらえませんかね?

 

「これでキミも魔法使えない部の一員だよ」

「(仮)ですけどね」

 

 だからうるせえって。

 

「というわけでまずは自己紹介しようか。ボクの名前は瑚雛炉璃(ごすうろり)、キミも気軽にロリ先輩と呼んでくれるといい」

 

 それ名前だったのか! てっきり俺はニックネームか何かだと思ってたんだが。

 しかし名は体を表すというが、いくら何でもロリ先輩はまんま過ぎるだろ。

 いやまあイメージに合致してるといえばしてるので問題はないけども。

 

「……私は棚町季節。よろしくしないでくれていいわ。お互い外でばったり出くわしても見て見ぬ振りをする健全で良好な関係を築きましょう」

 

 やっぱり憎まれ口を叩く部長もとい棚町。

 俺から視線を逸らしツンと澄まし顔。

 これが照れ隠しとかならばまだ微笑ましいものの、残念ながらそうではなくむしろ好感度がマイナスを突っ切って冥界の淵まで下降してさえある。

 

 今この場にいるのは俺を含めて三人なので、これで彼女たちの自己紹介は終わりか。となれば残す所は自分だけである。さっさと終わらせてしまおう。

 

「俺は——」

「綾村圭くん、でしょ?」 

 

 名乗ろうとした矢先、いきなり発せられた棚町の声によって遮られた。出鼻を挫かれた俺は「え? あ、うん」と、しどろもどろになってしまう。

 

「おや、二人は知り合いだったのかな?」 

 

 とはロリ先輩。いやいやそんなはずはない。だって棚町とは今さっき出会ったばかりだし、よって知り合いなどでは断じてない、よな?

 

「まあ知り合いではないと断言出来ます。何故なら彼は私のことを路傍に転がる石ころ程度にしか思っていないようですので」

 

 えらく険呑な物言いだな。

 そりゃ確かに、俺には棚町という名前を聞いても思い当たる節はないぞ。

 だが有名人である俺(魔法が使えないという点で)のことを事前に知っていただけかもしれない。

 そんな風に思案に耽っていると棚町は然もありなんとばかりに言った。

 

「もっとも、私を知らないのも無理ないかもしれないわね。私は教室では空気だし、浮いてるし。貴方にも言えることだけど」

「それはその通りなんだけど、なんで俺がクラスで浮いていることを知ってるんだ?」

「……嫌でも分かるわよ。だって私、教室で貴方の後ろの席にいるのだもの」

 

 次の日のことである。

 今日も今日とて、決して晴れることのない憂鬱な心境を引っ提げてえっちらほっちら学校に登校する。

 無駄に高鳴りつつある鼓動を抑え、教室の自席に着くなり後ろを確認してみた。

 

「…………」

 

 いた。

 ぶすっとしたしかめっ面で俺を含む他のクラスメートを睥睨する残念系美少女、棚町季節の姿が確かにあった。

 

 椅子を浅く引きまずは座る。

 これは言い訳になってしまうが、俺と彼女がまさか同じクラスだとは知らなかったのだ。思ってもみなかった。

 それもそのはず。

 俺にはクラスメートの面を拝んだ回数も人数もどちらもすっぽり片手に収まってしまうほどしかなくすぐにクラス連中から爪弾きにされてしまったので、周囲に誰がいるだとか確認するような心の余裕が無かったのだ。

 

 ただそれでも、彼女が真後ろの人間だとすぐに気づかなかったのは自分でも鈍感だと思う。なので俺は棚町の方へと身体の向きを変える。

 

「なあ」

「……何かしら?」

 

 ちらほらと視界のはじっこでクラスメートがざわついているのが見てとれた。

 恐らくはぶれ者(自分で言ってて悲しいが)であるこの俺が同じような境遇である棚町に話しかけているのが驚きなのだろう。

 ええい注目するな沈黙するな、話しにくいだろうがおのれら。

 

「いやなんでもない。また部活でな」

 

 こんな空気の中ではそれだけを言うのが精一杯だった。変態、と冷めた声で返された。

 

 ——さて。

 

 これは後々分かることなのだが、この時点の俺は盛大にある思い違いをしていた。

 何だかんだで魔法使えない部に歓迎されているものだと、当時青かった俺はそんな自意識過剰も甚だしい恥部を晒していたのである。

 しかし現実はギブアンドテイク。

 当然とばかりに若輩者たる自分にも一端(いっぱし)の貢献を求められていたのだ。 

 

 とある日のとある出来事。

 それが俺の学校生活のターニングポイントだったりする。

 語るべくんばその時の活躍も事細かに一条したいなんて考えたり。

 

 まあ、いや、そんなわけで。

 俺の転生物語はこの時をもって再始動したのであった。

 あるいは変動したのかもしれない。

 一筆啓上。




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