TS鬼道丸   作:ブッタ

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第零訓 鬼へと至る道

 

 ────侍の国。

 

 かつてはそう呼ばれていた国は長きに渡る攘夷戦争の末、宇宙から来た天人達が我が物顔で国中を闊歩するようになった。そして天人がもたらした技術革命により文明のレベルが著しく向上、この国は良くも悪くも大きな変化の波に呑まれていった。

 そんな国の首都"江戸"の地下深く、そこには表の世界では知られることのない裏世界の娯楽が隠されていた。

 

 "煉獄関"

 

 様々な力自慢や武者修行の浪人、ましてや凶暴な罪人達を戦わせる謂わば秘密の地下闘技場。ルールもレフェリーもなくどちらかが死ぬまで戦わせられる、正真正銘の殺し合いを見世物としている無法の闘技場である。

 観客たちは闘士たちの勝敗(生死)に多額の金を賭け、戦いの一進一退に狂ったように熱をあげる。

 運営には裏の組織だけではなく、幕府の上層部の人間に数多の政治家、強大な財閥が複数、ましてや多くの惑星の王族達も関わっており、1人死ぬ度に血と業に塗れた巨万の金が裏で動いている。

 故に警察や真選組見廻組は手を出すことのできない治外法権の地獄が出来上がっていた。

 

 今宵、その地獄が諸手を挙げて熱狂する闘士が1人闘技場で佇んでいた。

 

 

 煉獄関最強 "鬼道丸"。

 

 

 六尺は超えていよう背丈を持つその闘士は、一切飾り気のないボロボロの袴に身を包んでおり、その上からも均整の取れた筋肉が付いていることが分かる。

 得物は四尺に届きそうな長く無骨な金砕棒。

 しかし特有の棘は使い込まれた故かほぼ壊れており、見た目はただ長い鉄の塊の根元に滑り止めの布が巻かれているだけだ。

 その得物を握る腕に刻まれた無数の傷跡がその闘士の潜ってきた数多の死線を物語る。

 そして赤鬼を模した面を被り、その素顔を隠していた。

 

「さぁ皆さん!我々は今宵特別な死合をご用意しました!!言葉で表すのならば"鬼対鬼"!!まずは皆さんご存知の通り我等煉獄関にて無敗を誇る最強の闘士、鬼道丸!!」

 

 場内に響き渡るアナウンスに観客達のボルテージは急上昇。揺れる歓声を受けた鬼道丸は微動だにせず静かに佇む。

 

「相対するは広大な宇宙の中でも最も凶暴な種族だと恐れられる傭兵部族..!荼吉尼の戦士!!!」

 

 そのアナウンスを聞いて場内はどよめく。当然だ、最強と謳われる鬼道丸といえど地球人。御伽噺の鬼のような体躯と怪力を誇る荼吉尼族にただの地球人が逆立ちしても勝てる筈がない。

 運営は死合と評したがこれから起こるのはただの殺戮ショーであることは観客の誰もが理解した。いつものように鬼道丸へと賭けた多くの観客たちの慟哭が場内に響き渡る。怒りも恨みも混じり会場は普段よりも一層熱と混迷を極めていく。

 

 決闘場で佇む鬼道丸の表情は赤鬼の面に隠されて分からない。ただただ静かに佇み対戦相手が入ってくる筈の入口を、仮面の奥で見据えているだけだ。

 すると入口の向こうから足音が響いた。荼吉尼の戦士にしては珍しく静かで落ち着いた足音。一歩また一歩聞こえてくる度に鬼道丸の無骨な金砕棒を握る手に力が籠る。

 

 今宵もまた地獄が始まる。

 


 

 時は数十年遡り、萩の国の裕福な武家で一つの産声が上がる。

 だがその赤子が祝福されることは無かった。世継ぎの困っていたそのお家に赤子が生まれることは願っても居ない事、しかし産まれてきたのが女でなければという言葉が付く。

 それだけならば、大人になるまで英才教育を施し将来は家のために何処ぞの良家へと嫁に渡せば良いだけ。

 

 問題はその赤子がその身に見合わぬ桁外れの膂力を身に宿していた事だ。

 

 事件が起きたのは産み落とされてから数日の事、その赤子は乳母が差し出した人差し指を握り潰したのだ。

 屋敷中に甲高く響いた悲鳴、何事かと集まりその異様な光景を目にした屋敷の人間たちはその赤子を恐れるようになった。

 忌み子。鬼子。そう呼ばれ、血の繋がった親からも疎まれる様になるにもそう時間はかからなかった。

 

 疎まれ、恐れられながらも赤子の育ちは早い。すぐに寝返りをうち、這い回るようになり、やがて何かに掴まりながら両脚で立てるようになるのに半年程度だった。

 異様な成長の速度に更に気味悪がられていった。

 

 それでも子供は親に愛されたいものだ。

 時が経ち物心を持つようになってからは、子供は親に振り向いてもらおうとその小さな身体で努力をする。

 

「おとーさん見て!もじの書きかたならったから、お手がみかいたの!」

 

 しかし、その手紙が読まれることはなく燃やされた。

 

「おと、父上!お茶をいれてみました!いつもお疲れさま!」

 

 その湯呑みは子供の額まで飛んできて割られる。熱湯と破片が辺りに飛び散るが子供の身体には傷がつくことはなかった。

 

「父上。今日は────」

 

 どれだけぞんざいに扱われようと子供はめげなかった。彼等に振り向いてもらえるように、淑女教育も勉学も弱音一つ吐く事なくこなしていった。

 されど、両親が彼女を見ることはない。一つを除いて。

 

 彼等が彼女を認識する瞬間、彼女が剣術や薙刀術などの修練をしている時だけ。

 それは決して彼女の才に見惚れたというものではない。寧ろ才覚というもので言えば劣っている方だ。力任せな醜い太刀筋に指先まで固まった不細工な型。武家の当主からすれば見るに耐えないものだろう。

 

 そんなことは彼女にもわかっている。決して期待なんか向けられている訳じゃないことも。並外れた膂力を有している己が武器を持って妙な気を回さないか警戒していることも。

 それでも、たとえ己の両親への想いを疑われていても、この木刀を振るう瞬間だけは見ていてくれる。居ないものと扱わないでくれる。

 それだけで彼女が頑張る理由になっていた。

 

 

 齢が9つを越えたころ彼女に弟が出来た。

 男の子であり正式な世継ぎが出来たことで両親や屋敷の人間はどんちゃん大騒ぎ。

 皆、特に当主である父は見たことがないほどに顔を綻ばせて喜び、これ以上ないほどに祝福されて生まれてきた弟を溺愛するようになっていた。

 

 最低限、武家の娘として恥ずかしくないようにと付けてくれていた習い事の教師達は全て弟へと送られた。

 食事の場もいずれ1人で取ることが多くなり、やがて一日中両親に会うことがない日が増えていった。

 

 それでも彼女は己を磨く事をやめない。たとえ教師がいなくなっても勉学は独学で。礼儀作法は癖になるまで反復を。不細工だった剣術の型が流麗になるまでの修練を。

 

 ────いずれまた見てくれるようになる筈だ。きっと続ければいつか認めてくれるはずだ。

 

 それでもまだ十にもならない子供。元々不得手で見てくれたことのない勉学などから、徐々に得意な剣術の修練に比重が傾くのは仕方のないことだろう。

 

 

 更に時が経ち、彼女は十四になった。

 背丈も同年代の子供と比べ十分以上に伸び、今も続けている剣術の修練により身体は女らしさが感じられ無いほどに均整のとれた筋肉で引き締められていた。

 腰まで真っ直ぐ伸びた濡羽色の髪や端正な顔つき、そして身につけた女物の着物だけが女性らしさを物語る。

 

「へいまいどあり!またご贔屓に!」

 

 そんな彼女は今、買い出しに出掛けていた。

 何故武家の娘である彼女が下女のような真似をしているのだろうか。

 いや、答えはすぐにわかるだろう。両親の仕業だ。

 

 後継である弟が生まれてから彼に付きっきりの彼等は、女らしく育つこともできない長女の存在をはじめから居なかったものとしようと画策し始めたのだ。

 だが下女となんら変わらない扱いをされ始めた彼女はそれでも従順に従い続ける。彼等が居なければ、もし捨てられていたらきっと自分はとっくに飢えてこの世にいなかっただろうから。

 受けた恩には必ず報いる。もうそこに親子の愛情が無くとも。

 

「おい高杉ぃ!」

 

 買い出しから帰路に着く道中、聞き覚えのある声が耳に届く。最近、名門講武館に通い始めたと従者達の噂話で聞いた弟の声だ。

 

「下級武士の子倅の分際で!このぼくちんによくも傷をつけてくれたなぁ!!」

「うるせぇな..お前が弱いのがいけないんだろうが。あと傷つってもたんこぶ一つだろ」

 

 聞こえてくる声色だけでも相当に頭に血が昇っているのが分かる。どこからかと探し回れば、少し先に鳥居と階段を見つける。

 どうやら彼はこの階段の上で小競り合いを起こしているようだ。急いで階段を駆け上がり、その先の小さな本殿へと辿り着いた。

 そこでみた光景に目を開いて心の底から驚く。

 

「その生意気な態度ゆるせん!!ここでぼくちんがシュクセーしてやる!!」

「..真剣!?どっから持ってきた!?」

 

 恐らく父の寝室に飾られているものだろう。そんなものを盗み出してあろうことか他所の子供に斬りかかろうなど明らかにやり過ぎだ。

 よろよろと、弟は刀の重さによろけながら振り上げた時に彼女は地を爆ぜて間合いを詰め、

 

 それが振り下ろされるより前に刀身を握り、振り下ろしを止めた。

 

 肉が裂け、血が流れる。だが弟の未熟な腕と自身の桁外れな握力が幸いして切り落とされることはなかった。

 

「お、オマエは────ひでぶッ!?」

 

 こちらを向いて驚く弟の頭に空いている方の腕で拳骨を落とした。

 すこし膂力のコントロールがブレたか、鈍い音共に弟の頭が神社の石畳にめり込んでしまった。

 

 物言わぬ人形のように動かなくなってしまった弟にすこし焦りを感じるが、それよりも先にやる事がある。

 握り締めていた刀を放り、逆恨みにも似た怒りの切先を向けられていた少年に目を向ける。

 

「..な、なんだやる気か?」

「此度の件、私の弟が大変申し訳ないことをした」

「へ..弟?」

 

 深々と頭を下げて謝罪をする。

 その姿に少年は目をまんまるにして驚き動揺を隠せない。

 

「申開きのしようもないほどに愚かしい行動だ。だが弟は今意識が無い故に、いかような罰も私が受けよう」

「罰って...」

「何でも申してくれ」

 

 頭を下げ続ける。そして裂けた掌から血が滴り地に落ち始めた頃、深く息が吐き出される音が聞こえた。

 

「....いいよ罰なんか。それよりさっさとソイツ連れてどっかいってくれ」

「...かたじけない」

 

 更に頭を下げた後、犬神家のように埋まっていた弟と父の刀を持ちその場を去る。階段を降り始める前に、彼女は再度深々と頭を下げた。

 そんな姿を見て、少年はひとりごちる。

 

「あれがアイツの姉貴だって?全然似てねえじゃん」

 

 真っ直ぐに伸びた綺麗な背筋を持つ彼女の背中は、見れば見るほど弟の姿とはかけ離れていた。

 何をどうしたら姉弟でこうも違うのか。1人残された少年は不思議そうに首を捻った。

 

 

 

 

 いつの間にか消えていた刀に大きなタンコブを作って気絶している後継の息子を抱える忌み子の長女。

 その光景は両親がまさに恐れていた事態が来たと勘違いさせてしまった。

 真実を語ろうと口を開くも当主の父は聞く耳を持たず、即日勘当を言い渡される。

 鬼子の血を吸った刀をなど要らぬと押し付け、あれよあれよ少量の食物となけなしの金を持たされ家を追い出されてしまった。

 

 信頼は一日にしてならず、失うは一瞬。

 

 なんて言葉があるらしいが、己は一時でも信頼を築けた瞬間はあっただろうか。固く閉ざされた門を眺めながら彼女は自身に問いかけた。

 立ち尽くしてどれだけの刻が経っただろうか。

 

 もう己はこの屋敷の敷居を跨ぐことはできない。なのに何故か脚が動かせない。

 

 わかっている。

 産まれた落ちた時から彼等に愛されたことなど一瞬も無かったことくらい。

 きっと、間違いだったのだ。人として命を授かったことが。この憎たらしい人並外れた膂力が何よりの証拠だ。

 

 もう行こう。

 ここに居ても何も変わらない。寧ろここにいれば迷惑をかけてしまうんだ。ここまで育ててくれた彼等が消えろと言うのだ。その恩に報いろ。

 動け。動いてよ。

 

「....やだよぉ..」

 

 結局、門の前から離れたのは日がどっぷり落ちて夜闇が辺りを支配した頃だった。

 

 

 

 

 

 髪を切った。

 

 腰まで伸びていたそれは今じゃ肩口程度になっていた。刀で適当に切り捨てたから切り口はバラバラ。

 女物の着物は売り払い、代わりに質素な袴を身につけた。膨らみのある胸は晒しを巻きつけ潰す。

 三度笠を目深に被り、端正な顔を隠す。

 

 ぱっと見では男にしか見えない格好となった彼女は今、道端の茶屋で団子を頬張って居た。

 

「はいこれお茶」

「ありがとう」

「武者修行の旅ですかいお侍さん」

「侍じゃない..ただの流浪人だ」

「ですがかなり腕が立つんじゃねぇですかい?その掌の傷痕、凄まじい立ち合いについたものだったり!」

「そんなに格好いいものではないさ」

 

 湯気の立つ湯呑みに口をつけ、団子を胃に流し込む。

 勘当されてから一年(ひととせ)が経ち彼女は今、十五になった。慣れない旅生活に戸惑いつつも、行く宛もなく各地を放浪する生活を過ごしていた。

 

 道の泥にはまった行商人の荷車を動かしたり、腰を痛めた農夫の仕事の手伝いをしたりなど、こつこつその場しのぎで日銭を稼いだり、夕餉を馳走してもらうことで今日まで食い繋いできた。

 

 剣の稽古も欠かさず続けてきた。しかしそれはもはや惰性のように続けているだけで武者修行なんてものではない。

 ただ、死んでないから生きるだけ。理由もなくただただ朝を迎え、目的も見つけずに夜を超える。

 どうでも良いのだ。生まれたことが間違いなのだから。

 

「これから何処へ行くつもりで?」

「江戸に行こうかと思っているんだが..主人、どちらの方角に行けばいいか知らないか」

 

 そう聞くと、茶屋の主人が何やら言いたげな表情になっているのに気づいた。

 はて、知らぬうちに何かマズイことでもしてしまっただろうか。

 

「旦那...悪いことは言わねぇ。今江戸に近づくのはやめときな」

「...何故だ?」

「今江戸じゃ妙な噂が立ってんでさぁ。なにも、今江戸にゃ犬の頭をした人間や肌が紫色で額に妙なもんぶら下げた人間とか変なもんがあちこち歩いているっつー話だ」

「...妖怪か?魑魅魍魎が江戸の町中に蔓延ってるとでも?」

「それならまだしも奴らは違うらしいですぜ?なにせこことは違うとこから来たらしい」

「違うところ?何処からだ?」

 

 団子を頬張る彼女の質問に主人は答えない。どうしたのかそちらへと振り返れば彼は言葉ではなく行動で答えていた。

 

 それはただ指を上に向けるのみ。

 

 指を指すのは屋根ではない。さらにもっとその先、江戸に聳え立つ城も太古からこの国を見守ってきた富士の山も届かないその先。

 

「────天でさぁ」

 

 言葉を失った。

 

「その噂じゃあの空高くに浮かんでいる真白な雲よりも遙か上の天からきたらしい。だからそんな奴らのこと江戸じゃあ天人(あまんと)と呼ぶらしい」

「....はは、流石は天下の大将軍のお膝元。随分と突飛な噂だな」

「本当ですぜ?」

 

 湯呑みのお茶を飲み干し、お代を置いて立ち上がる。

 

「行く気ですかい?」

「まぁ..どうせ行く宛のない旅路だ。天人なるものを一目見るのも悪くはないだろうさ」

「あっしは止めましたからね。江戸へだったらここから東に進めば着きます」

「助かる」

 

 刀を腰に刺し、言われた通り東の江戸へと向けて歩き出した。明確な目的を持って旅を始めるのはひょっとしてこれが初めてなのかもしれない。

 そう考えた彼女の足取りは自然と軽くなっていた。

 

 

 

 江戸に着いたのはあれから半年がたった、あちこちの山が紅い化粧を始めた頃のこと。

 故郷の萩の国では見たことがないほどの人、人、人の往来。

 あまりの人の物量と忙しなく動き回り続ける町中に目が回りそうにもなりなるその姿はまさしくお上りさんだったろう。

 

 正直に言おう。彼女は浮かれていた。自他共に認める根っからの田舎者なのだから仕方ないことではある。

 そういうお上りさんにこそ、悪意の手が伸ばされやすい。

 

「おっとごめんよ」

「あ、こちらこそ済まない」

 

 肩と肩がぶつかってしまう。これだけの人の往来なのだから仕方のないことだ。

 彼女はそう考え、取り敢えず一息つくために近くの茶屋に行こうと懐に手を伸ばした時だった。

 

 紙入れ*1が..無い!?

 

 すぐに身を翻し先ほど肩がぶつかった男を探す。人が多すぎて見つからないかと思えたが幸いにも見つけれた。

 未だにこの大通りを悠々と闊歩している。そんな彼めがけて彼女は一心不乱に走り出す。成長期とも言える年になった彼女の背丈は今じゃ五尺八寸にまで届きそうになっている。

 

 そんな彼女人混みを掻き分けるように走り出せば当然スリの男も気付く。

 

「ゲッ..!?もう気づきやがった!」

 

 顔色を変えて直ぐに走り出す男を彼女は追いかける...が、なかなかに距離が縮まらない。

 こちらが人混みを大柄な体格を存分に使い掻き分け走っているのに対し、スリの男はまるで道で見えているかのようにするするっと間を潜り抜けていくのだ。

 

 手慣れている。先ほどの盗み出した手際もそうだが、今こうして逃げているのもまるであらかじめ逃走経路を決めているようにも見える。

 だがそれでも逃げられる訳にはいかない。あの紙入れには今までの旅路の中でいくつもの人から親切にも手伝いの報酬を支払ってくれた金が入っている。

 自分が誰かのために使うのならば兎も角、盗人なんぞにおめおめとくれてやっては彼等に顔向けが出来ない。

 

「くそッ!しつけぇな!!良い加減諦めろやこのデカブツ!!」

「盗人なんぞにくれてやるものは無い。とっ捕まえてその舌引っこ抜いてやる」

 

 男は近くに居た行商人の荷車を押し倒し行手を阻む。大きな音を立てて荷物が崩れて落ちるが、彼女は止まらず思い切ってその散らばった荷物達を飛び越えた。

 

「すまん!あとで手伝いに戻る!」

 

 巫山戯んな馬鹿野郎と背後から文句を叫ぶ行商人にそう告げ、追跡を再開する為に男を見れば近くの長家へと入っていく姿が目に映る。

 中にいた家族が驚いて隅へと避けていくのでこれ幸いと彼女も長屋へと突入。

 

 結局盗人に追いついて捕まえることが出来たのは五つ目の長屋から出た後だった。

 

「この....放し..やがれ...馬鹿力..!」

「..やかま..しい。逃げ足と..口先だけは..一丁前だな..盗人め」

 

 互いに息も切れ切れになりながらも彼女は男の首根っこを掴んで離さない。男の背丈は自分よりも小さい、よく見れば若々しい顔つきもしている。同い年か、少しそれより上か。どちらにしろまだ二十は超えていないだろう。

 紙入れも取り返し、二度と取られないようにしっかりと懐の奥に仕舞い込んだ。同じ失敗は繰り返さないのがモットーだ。

 

「奉行所に叩き出してやる」

「冗談じゃねぇ!!そもそも俺は盗人じゃねぇんだ!!」

「何を言い出すかと思えば...見苦しいぞ貴様。人の懐に手を突っ込んで金を盗んだ者を世では立派な盗人というんだ。田舎者の私でも知っている常識だ」

「五月蝿ぇな!!俺は盗人みてぇな小せぇモンじゃねぇ!!俺ぁ攘夷志士だ!!」

「何だそれは。お前なぞ獅子ではなく狐が良いところだ」

「その獅子じゃねぇ田舎者!!」

 

 捕まえられて苛ついているのだろうか。カッカと怒鳴り散らしてくる男の話を半分聞き流しながら長屋の路地裏から大通りへと戻ってくる。

 先ほどとは違うさらに大きく賑やかな通りに出て、

 

 彼女は息を忘れるほどに仰天することになる。

 

 別世界。通りの光景を見た彼女が驚きのあまりに知らぬ間に別世界にでも迷い込んだのかと錯覚をすることになる。

 見たことがないほどに滑らかな石のような道。

 城と見紛うほどに背丈の高い建物には障子ではなく硝子のような物が一面に貼り付けられている。

 所々走る馬車の馬を除いたような物。しかも馬より早い。

 

 そして何より、人間とは思えない異形な者達があちらこちらに闊歩している。

 

「...なんだここは..?」

「...これが今の江戸だ。ほら見えるだろあそこ、江戸城だ」

 

 首根っこを掴まれたままの男が指差す先には、よく知っている日本式の城が遠くに聳え立っていた。

 あれが、この日の本を収め大平の世を作ったかの徳川の城。しかしその周りには見慣れない、城を追い越すほどの背丈の鉄の建物がポツリポツリと立ち始めていた。

 

「この町に..国に天人の奴等が来てからおかしくなっちまった。あの鉄の建物供だってもともと住んでいた奴らを無理矢理追い出して勝手に作り始めやがった。ケンリショだかなんだか訳のわかんねぇことほざいて、人様の国の土地で好き放題やりやがる」

「...天人。本当に居たのか..。奴等が天から来たというのは本当か?」

 

「本当さ。ある日突然空飛ぶ船がこの江戸にやって来やり、開国しろだなんだ勝手な事を将軍様にせまったんだとよ」

「船が空を飛ぶだと?まるで夢物語だ」

「ところがどっこい、全部本当のことだ。俺だってこの目で見たからな」

 

 頭でもおかしくなったのではないかと疑いたくなるような話だ。しかし、現に彼女目の前には今までの常識の根底から覆すような光景が広がっている。信じる他に選択肢はない。

 

「見ろよ..あの天にも登りそうなくらいにでけえ奴を」

「あれは?」

 

 さらに指さす方向へと目を向ければそこには他のものとは比べ物にならないくらいに巨大な建物が建っていた。

 しかしそれは未だに建設途中らしく、見慣れない鉄の腕のような物などが忙しなく動いているのが遠目からでも分かった。

 

「奴等はどうしてもこの国を手にしたいらしくあの建物を建ててるっつー噂だ。何もあれが完成したら奴等の仲間という仲間がウジャウジャと集まってくるらしい」

「なんと...」

「その癖幕府は完全に弱腰だ。奴等との技術の差に完全に縮こまりやがって、いつも非難するの口だけで全くもって止めようとしやがらねぇんだ」

 

 目を開いて唖然としているとその隙を突かれ、男が拘束から抜け出してしまった。

 しかし彼は逃げ出す事なく彼女に顔を向けた。

 

「だから俺たち攘夷志士が必要なんだ。弱腰の幕府じゃねぇ俺たち本当の侍が奴等をこの国から叩き出す!そして本当の江戸の姿を取り戻すんだ!!」

「...なるほど、その心意気は分かった。江戸の抱えるこの問題もきっと他人事じゃないのだろう。しかしそれが何故盗みに繋がるんだ?」

「.........何をするにも金が必要だかイッテェッッ!!?

 

 彼の頭頂部に思いっきり拳骨を叩き込む。

 やはりただの盗人ではないか。先ほどの心意気一瞬でも感心してしまった己が憎い。

 彼女は頭を抑えて悶える男へ冷えた目で見下す。

 

「国を救う為と言ってそこに住まう民に迷惑を掛けていては元も子もないだろうが。気持ちは分からんでもないがやり方を考えろ間抜け」

「ぐぉぉぉ...ッッ!頭割れた..絶対頭割れたぁ..!西瓜割りみたいに..!」

「大袈裟だな」

「こんッの馬鹿力..が」

 

 目尻に涙を浮かべて睨み上げてくる男を無視して彼女は天人が作り出したという街の光景を再度見渡す。

 彼等がこの国へやって来る前、この江戸の通りはどのような様子だっただろうか。きっと先程までいた通りよりも多くの人で賑わって居たはずだ。

 

 けれど今では通りを歩くのは異形の者たちに鉄の塊だけ。新しいものを頭ごなしに否定したいわけではないが、それでも寂しいものは感じてしまう。

 

「...お前何を考えてんだ?」

「此処の昔の姿を想像していた。こんな大きな通りだ、きっとそれは賑やかだったんだろうな」

「────..」

 

 しゃがみ込んで見上げてきていた男の目が僅かに開き、そして静かに立ち上がった。

 

「そうだよ..ここはな江戸の中でも一、二を争うくらいには人で溢れかえってた。行商人も香具師、お侍だってあちらこちらに溢れて、毎日が祭りみたいだった」

「...ここに住んでたのか?」

「もう家はないけどな。ある日突然奴等に全部奪われちまった..。抵抗はしたがでけぇ鉄の乗り物に呆気なく壊された」

「..それは」

「俺なんてまだ良い方さ。同じく抵抗してたダチの中じゃ大勢の天人に打ちのめされて殺された奴もいる」

 

 なんという理不尽だ。元々住んでいた人間を無理矢理追い出してあの鉄の塊を建てるどころか、拒否した人間を大勢で殴り殺すなど、天人は道理も筋も理解できないらしい。

 悔しそうに震えるほどに力を込めて拳を握り込む男は、急に顔をこちらへ上げてきた。

 

「なぁ!!アンタ俺と一緒に戦ってくれねぇか!?」

「..は?」

「俺は馬鹿だし喧嘩も強くねぇ!!だけどアンタは違うだろ!?なりは侍じゃねぇだろうけど刀は差してるし!俺の自慢の脚にも付いてきた!その怪力だって!」

 

 急に捲し立ててくる男の様子に彼女は堪らずのけ反ってしまうが、逃すまいと距離を詰めくる。

 

「怒ってるのは俺だけじゃない!この国各地で同じく攘夷を唱える奴等は多い!!」

「...なら他を当たれ。刀を差していても私は戦ったことはないし、日の本の先に憂いを持てるほど出来た人間じゃない」

 

 真っ直ぐにぶつけてくる熱を込めた視線を遮るように、彼女は笠を下げ踵を返し歩き始める。

 

「だが!アンタは少なくとも思いを馳せた!この場所から目を逸らすでもなく、あるべきかつての姿を!」

「それだけだろう..私には」

「それができない奴が大勢居たからこの町はこのザマなんだ!頼む!」

 

「俺には、俺たちにはそれが出来たアンタが..絶対必要なんだ!!」

 

 場所も人目も憚らず膝をついて額を地に伏せる男の言葉、彼女にとってそれは青天の霹靂だった。

 今必要だと言ったのか。今まで疎まれ気味悪がられてきただけの鬼子の私を。

 

「...何を出鱈目を。互いに何も知らんだろうに」

「ならこれから知っていけば良い。今俺に分かるのはこの国を守るのにアンタの力が必要だということだ」

 

 笠の下に隠れる目から晒さず、真っ直ぐ見据えてくる男にたじろいだ。

 

 何故だ。何故コイツはここまで私に拘る。

 

 何故こんなにもこの言葉に揺さぶられる。

 

「..はぁ。話を聞くだけだぞ」

「本当か!?」

「放っておけばお前はまた大義を言い訳に盗みを働きそうだからな。近くで手綱を握っていたほうが良さそうだ」

「────..恩にきる!!」

 

 この出会いが。この男の手を取った瞬間が。

 彼女の人生を大きく変える分岐点となることを、彼女はまだ知らない。

 

 

 

「それじゃ、何をするにしてもまず互いを知らにゃ始まらねぇ。俺は勘十郎、姓はない。アンタは?」

「...名乗る名はない」

「ひっでぇ!?協力してくれんじゃねぇのかよ!?」

 

 突然のあまりの言い草に驚愕を隠せない、が当然彼女の言葉はそういう意味ではない。

 

「名前も故郷も全部無くしてきた。名無しの権兵衛さ」

「ああ..そういうことかい。しかしこれから呼ぶのに名無しなのは困るな...なぁ、俺が名前を考えても良いか?」

「別に権兵衛でも良いだろう」

「アンタの顔が権兵衛って感じじゃねえんだよ。つぅかアンタ男か?笠に隠れてるが女みたいな顔にも見える」

 

「男ではない。だが女であることは故郷を無くした時に捨てた」

「ふぅん。まぁこのご時世訳ありってのも珍しくない。深くは聞かねえよ」

 

 バツが悪そうにする彼女の様子に深追いする事なく、名前を考えるのに良いきっかけが無いか辺りを見回していく。

 

「お..そうだ」

「?」

「紅葉。緒方紅葉(おがたこうよう)ってのはどうだ?」

「...紅葉というのはどうせ遠くに見えた山を見て思いついたんだろうが、緒方はなんだ?」

「俺の故郷の名さ」

 

 何故故郷の地名を姓に。

 

「故郷を捨てたんじゃなくて無くしちまったなら、今度からそこを故郷にすりゃ良い。いちいち故郷を無くしたなんて言ってたら暗くなっちまうだろーよ」

「私はそこに行ったことはおろか今初めて存在を知ったのにか?」

「行ったことのない場所を故郷にしちゃいけないなんて決まりはないだろ?」

「普通はそんなこと考えない」

 

 滅茶苦茶な言い分を振り回す勘十郎に溜息を吐いて呆れる。だが、彼の言う通り名無しのまま生きていくのはこの先面倒になることもあるだろう。

 ならばせっかく考えてくれたのだ貰えるものはもらうことにしようと、彼女もとい紅葉は心を改めた。

 

「分かったよ勘十郎。緒方紅葉、今日からその名を名乗らせてもらうよ」

「おうこれからよろしくな!紅葉!」

 

 

 こうして紅葉、勘十郎はこの日を境に共に行動をするようになっていった。

 未だこの街に慣れないうちは彼の後をついていくように。

 

「江戸の町の中でも俺が好きなのはかぶき町だな。物騒ではあるが大人の娯楽が沢山あって良いぜ?」

「私はまだ十五だ。それにお前もまだ子供だろう」

「俺はもう十八だっつーの...え、ていうか十五?マジで?」

 

 まだ子供の彼等は江戸での仕事がなかなか見つからず食事に困った。

 

「おい!それは私の沢庵だぞ!!」

「へへーん!早い者勝ちだよーん!ておい!俺の米!」

「ふぁふぁふぃほほはい」

「何つってんのかわかんねぇよ!」

 

 攘夷運動するならば必要だと剣の稽古もした。

 

「がぁー!今日も勝てねぇ!やっぱ強ぇな!」

「いやまだまだだ。どうしても剣を振るうのが力任せになってしまう。このままでは戦いの最中に直ぐに刀が折れるのがオチだ」

「そうか..俺には強いぐらいしか分かんねえや」

「強くもないさ。実際に戦ったこともないんだ」

「だからいいんだよ。手を汚さないでいられるならそれが1番さ」

「そんなものか..?」

「そんなもんさ」

 

 あるときは共に攘夷運動する為の下積み活動を。

 

「紅葉!!今日は俺たちに協力してくれるって奴らを二人見つけたんだ!」

「良い調子じゃないか。それでこの町でお前と攘夷運動する仲間はどれだけいるんだ?今まで顔合わせたことがないが」

「ん?俺の仲間はお前と今日追加の二人だけだぞ?」

「は?」

 

 またあるときは上手くいかない現実に嫌気がさして愚痴をこぼすことも。

 

「クッソが..天人の奴らまた土地を強引に占領しやがったらしい。その癖周りの奴らは陰で幕府に文句を言うだけで一緒に戦う気もねぇ腰抜けばかりだ..」

「そう腐るな。あれからお前についていく人間も増えただろう..。お前はよく頑張っている」

「過激派の奴等は勿論だが俺たち以外の穏健派も段々と我慢できなくなってきた..このままじゃいずれ大きな戦になる。戦になっちまえば技術力で圧倒的に劣っている俺たちが不利だ」

「ならば戦以外で追い返す方法を考えなければな。過激派のように刀を取ることを選ばないお前だからこそ出来ることがあるはずだ」

「本当にそう思うか紅葉..戦無しで奴等を追い返す方法が」

「少なくとも私達はそう信じてる。だからお前についていくんだよ。たとえ世間に後ろ指を刺されようとも。だからもう呑むのをやめろ」

「やぁだぁ!まだのむぅ!」

 

 そんな生活が二年ほど続いた。

 劇的に勢力が伸びた、なんてことはなく勘十郎の掲げる戦という災禍を無しに天人を追い出すという理想は子供の戯言と嘲笑われることが殆どだった。

 

 それでも彼と過ごしたこの二年は今まで生きてきた彼女の十七年の人生の中で初めて生きて楽しいと感じれた。

 不思議と気が合う彼との生活は裕福とは言えない、困ることもたくさんあったけれどそれ以上に楽しかったのだ。

 

 だけどそれはいとも容易く音を立てて崩れ落ちる。

 

「緒方さん!!」

 

 それは、勘十郎が過激派と称されている攘夷一派との話し合いから帰ってくるのを待っている時だった。

 読み書きができるということで担当していた書類仕事をこなしていた紅葉の元へやってきたのは、天人達による十を超える戦艦の襲来の報せだった。

 

 そこで意識が暗転したのもその報せと同時だった。

 

 

 

 朦朧としながらも目を覚ました彼女は痛みを訴えてくる額に手を当てれば、掌にはべっとりと血がこびり付いた。

 

 覆い被さっていた瓦礫の山を持ち前の怪力で押しのけ、痛みを訴え続ける身体に鞭を打って起き上がればそこには

 

────地獄が広がっていた。

 

 江戸の町中そこかしこから激しく上がる火の手、瓦礫の山と化した居住区。

 

 親を探して泣き喚く子供の声。

 失った身体の部位を抑え痛いと呻き続ける大人の男。

 瓦礫の下敷きとなった伴侶の死体を狂乱して引っ張り出そうとする女。

 足元には散り散りとなった同じ一派の死体の破片。

 

 空を仰げば、無数に上がる黒煙の隙間から数々の艦。

 

 地獄だ。いつの日か聞いた地獄の光景がそこにあった。

 

「───オェ..!」

 

 胸の奥から迫り上がる物に耐えきれず吐き出した。剣術の稽古は欠かさず続けてきた、しかし人を斬ることなく過ごしてきた彼女にとってその凄惨な光景は耐え切れるものではなかった。

 

 なんだこれは。ついさっきまでいつもと同じ日常を過ごしていたじゃないか。

 今日だって、どうせ上手くあしらわれるだけの話し合いから帰ってきたら勘十郎をどうやって宥めようか考えていたのに。

 

「────勘十郎...!」

 

 そこでようやく紅葉は意識がはっきりと取り戻し、勘十郎を探すべくよろめきながら歩き出す。

 瓦礫が散らばる道を裸足で、時折鋭利な物を踏みながら、それでも前に進む。

 

 どれだけ歩いただろうか。遠くから何度も響く爆発音に生きた心地がせず、ただこちらへ来ないことだけを祈ることしか出来なかった。

 そうしてようやく辿り着いた、勘十郎が過激派の一派と話し合いしていたはずの宿だった瓦礫の山に。

 

「勘十郎!!どこだ!」

 

 直ぐに飛びつき瓦礫の山をどかして、唯一の友を探す。

 

 死んでない。絶対生きているはずだ。

 名前をくれた。

 居場所をくれた。

 抜け殻のように生きていた私に生きる理由をくれた。

 アイツは生きて、天人を戦もなしに追い返して歴史に江戸を救った偉人として名を残すような男なんだ。

 こんなところで、こんな意味のわからないまま死ぬはずがない。

 

「...勘..十郎..?」

 

 ただ、現実は非情で。

 

 彼は潰れた蛙のような姿で瓦礫に埋もれていた。

 

「う..うそだ。あ、あぁ...」

 

 信じたくない、受け入れられない現実を目にした彼女は膝から崩れ落ちる。

 

 なんだこれは。

 こんな..こんな最期があるか。

 悪夢なら早く覚めてくれ。

 

 そう願うばかりの彼女だが、裸足で歩いてきた所為で血まみれとなった足裏から感じる痛みが冷酷にも現実だと突きつけてくる。

 

 漸く手にした居場所と平和の崩れる音が、その時はっきりと聞こえた。

 

 

 

 

 天人による江戸の急襲砲撃。その戦火は極めて広範囲で幕府中枢である江戸城にも及んだ。

 この一件を境に幕府は彼等の圧倒的な武力を恐れ、数々の不平等条約を結ばされることとなる。

 

 幕府の弱腰な外交に痺れを切らし、危機感を覚えた侍達は攘夷の思想の元に集い次々と刀をとり始めた。

 そして、倒幕及び天人の排除を目指し圧倒的な技術力差に屈することなく蜂起したのだ。

 

 やがて両陣営の予想に反して泥沼化していくこの戦を後の世では、攘夷戦争と称されることになる。

 

 

 

 

 

 暗く、重く垂れ込む曇天。

 硝煙と血の匂いが辺りに蔓延している。

 焼け野原のだだっ広い土地には無数の死体。人間と天人の死体が入り乱れ、足の踏み場がない。

 

 死屍累々という言葉が似合うその戦場の真ん中、無数の死体の山の中で紅葉は目覚めた。

 何やらひどく懐かしい夢を見ていた。走馬灯とでもいうのだろうか、平和だった..気を安らげたあの時の夢を見るなんて。

 

 覆い被さっていた死体を押しのけ、疲労感と痛みで限界の身体を無理矢理に立ち上がらせる。

 この凄惨な攘夷戦争に参加して一年(ひととせ)が経った。

 天人の砲撃によって地獄を見た。大事な人を失った。居場所を失った。だが刀はある。有り余る膂力も。

 彼女が復讐心を抱くのは致し方ない事だろう。たとえそれがかつての友人の描いていた理想に反していても。

 

 初めて刀で天人を殺した時、手に伝わる生々しい感触と命を奪ったという事実が重くのしかかる。

 だがそれよりも死んでいった天人の姿を見た時、彼女の心は軽くなった。それを自覚した時にはもうあの頃には戻れないと悟った。

 

 しかし、圧倒的な技術差というものは戦局へと大きく影響を及ぼすもの。攘夷を唱え刀をとり方々から集った猛者達で構成された侍達は天人の兵器を前に大幅に劣勢を強いられていた。

 数々の名だたる猛者が何も為せずに大勢死んだ。勝つ戦は片手で数えるほどで負け戦が殆ど、侍達の士気は当初と比べみるみると落ちていく。

 

 それでも頭角を表す者はいた。

 泥水次郎長。

 寺田辰五郎。

 西郷特盛。

 

 彼等を筆頭に侍達はより激しさを増す天人の攻撃にギリギリ持ち堪えていた。

 だが勝つ事は出来ない。今も天人による急襲を受け本隊は苦しくも撤退を余儀なくされ、紅葉の所属する部隊が殿として捨てがまりを行っていたところだ。

 

 激戦の中で気を失ってからどれだけ経った。

 他に生きているものは。

 

 死を覚悟した...いや覚悟ではない。諦めに近い感情だった。

 最早この世に居場所も無い、帰る場所もない。ただただ目の前の天人共とそれに与する幕府の犬共を切り捨てるだけの生き方に彼女は心底疲れていた。

 しかし、悪運だけは強いようで此度も何故か1人だけ生き残ったようだ。

 ならば戦おうこの命が尽きるまで。この戦が終わったとて行き場所は地獄だ。

 ならば1人でも多く道連れにしてやる。そう考えて辺りを見渡す。

 

 刀はどこだ。

 

 父が最初で最後にくれた、たった一つの贈り物。

 勘十郎が諸手を挙げて褒めてくれた物。

 刀を振るっている時だけが、誰もが私を見てくれた。刀だけが私の誉れを、侍の魂を形作る。

 

「...何処だ。刀は...」

 

 死体を押しのけ探す。

 いつの日だったか、戦場で遭った白ふんと名高い西郷に言われたことがある。

 お前に刀は似合わない。

 この戦場で刀に拘って己の生まれ持った膂力を持て余していていつか死ぬことになると。

 

 そんなこと分かっていた。この戦の中で力を入れすぎて刀が折れかけたことなど数えきれない。

 それでも、この刀だけが己の侍としての誉れを形作るんだ。たとえ死ぬことになってもそれは変わらない筈なんだ。

 刀を振う時だけが己の────

 

「動くな!この野蛮な猿が!!」

 

 聞こえてきたその怒鳴り声に身を固めてしまう。しかし、それは己に向けられたものではないようだ。

 身を低く、死体に紛れるようにして隠れながらその声のしたところを探せば、己と同じ血と泥に塗れた生き残りの侍が天人の集団に銃口を突きつけられていた。

 

「おい殺すなよ。幸運にも生き残ったコイツから本隊の居所を聞き出す」

「手っ取り早く済ませりゃいい。口さえ開けば何処を撃ち抜いたって変らねぇさ」

「や..やめろ!!」

 

 天人の考えることに侍は顔を青ざめていく。幸いにもこちらには気づいていないようだ。

 だが、刀で全てを斬り伏せるには数が多すぎる、必ず途中で使い物にならなくなり殺されるだけだ。

 

「くそっ!テメェら天人が居るから!!江戸はおかしくなったんだ!!何もかも奪いやがって!!」

 

 ああ..そうだ。コイツらが来たからだ。

 コイツらが居るから、何もかもを奪われた。勘十郎が何もなかった私にくれたもの全てを。

 どうせ、この戦が終わっても帰る場所はない。生き残ったとて野垂れ死ぬだけ。刀は、誉れは本当に必要か?

 

「全く見苦しい..さっさとこの戦を終わらせて星に帰りたいのだ俺たちは」

 

 何もかも無くしてしまうのなら、

 

 何もかもこぼれ落ちて行くだけなら。

 

 何もかも捨ててしまえ。

 

 

 

 

 大きな音と共に生々しい肉の潰れた音が辺りに響いた。

 

 銃を構えていた1人の天人が背後から急襲されたと気づくまでに少し、その隙に更に振るわれた長い鉄の塊が更に2人の天人を巻き込んで肉塊へと変える。

 

「何だ貴様!?」

 

 予想外の接敵、即座に銃を構えて四尺にも届きそうな長い鉄の塊を握る地球人へと向けて発砲。

 しかし地球人は肉塊へと変わった仲間の死体を盾にこちらへと距離を強引に詰めてくる。

 

「おのれ────

 

 弾の補充の隙を突かれ、握られていた鉄の塊が仲間の顔へ投げつけられ、顔もろとも地面へと突き刺さった。

 何だ、この怪力は。

 他の侍達が握っていた刀とは違うその鉄の塊、それを死体を片手に容易く投げつけるなど地球人とはとても思えない。

 

「撃て!撃てぇ!!」

 

 丸腰となった地球人へと引き金を引くが、それより速く動き回られてしまい当てられない。

 

「ば、化け物か!?」

 

 驚き慄く1人の仲間の顔を、豪速で飛んできた拳大の石が貫いた。

 いつの間にか拾われた鉄の塊で更に2人、3人を次々と肉塊へと変えられる。

 

「うああああああ!!」

 

 動転して接近戦を仕掛ける仲間を地球人は巧みに関節を極めて投げる。流れるように倒された仲間はそのまま踏み潰されて死んだ。

 

 気がつけば残るは己1人。

 

 女のような顔付きな化け物に、切れ長な眼で見据えられ身体が竦む。同時に脳裏によぎったかつての記憶と故郷の星に残した家族。

 

「ま、まて!?待ってくれ!俺には故郷に家族が

「先に奪ったのはお前達だろう」

 

 命乞いに聞く耳持たず、化け物はその大きな鉄の塊、金砕棒を思いっきり振り下ろし地を揺らした。

 

 

 

 刀を捨てるなど侍ではない。だがより多くを殺せた。

 背中から襲うなど臆病者のような真似、誉れがない。だが有効だった。

 

 西郷に言われた通り、もう拘る必要はない。私にはもう誰も居ないのだから。

 誉れも、魂も、足枷になるのならば全て捨ててしまえ。どうせ何もかも零れ落ちるのだから。

 

 いつか死ぬその日まで、多くの敵に死を振り撒いてやろう。たとえ化け物となろうとも。

 

 

 

 攘夷戦争初期、圧倒的な技術差により当初侍達は一方的に劣勢を強いられていた。

 だが、初期後半に差し掛かる頃侍達の戦い方に変化が起きる。

 誉れや武士道を重んじた正直な戦い方から、闇夜に乗じた奇襲、待ち伏せ、破壊工作などゲリラ戦を主な戦い方を展開。大方の予想に反して戦争は膠着状態へと陥り始めたのだ。

 

 中でも特に闇討、毒、騙し討ちなど戦局を優位に運ぶ為ならばと手段を選ばない者が新たに頭角を表し始めた。

 四尺にも届く金砕棒片手に誉れ無き戦いへと自ら身を投じ、戦場ではその恐るべき怪力にて敵を屠る。

 その恐ろしい姿、容赦のない戦法、常人とはかけ離れた力に体格。やがてその者はかつての御伽話の化け物に準えた呼び名で味方からも敵からも恐れられるようになった。

 

────鬼緒方と。

 

 

 

 泥沼化し長期化していく戦争により天人と幕府の軍は疲弊していく。しかしそれ以上に攘夷側は徐々に追い詰められていく。

 寺田辰五郎戦死の一報。

 長期に渡る戦にて数々の武士の戦死及び戦線離脱。

 

 志を共にする新兵も参入してくるがそれよりも失われていく数の方が多い。大暴れしていた西郷に次郎長もやがて怪我や歳により戦線離脱を余儀なくされる。

 

 だが離脱せずに戦い続ける者も多い。鬼緒方もとい緒方紅葉もその一人だ。

 八年も続く戦の最前線で戦い続ける彼女はもう二十六になった。伸び続けていた背丈は六尺を越えたところで成長を止め、身体には多くの傷が刻まれる。

 まさしく歴戦の戦士という風貌だ。

 

「緒方さん聞きましたか?最近激戦地の姉古原の方じゃ新進気鋭の四人が名をあげ始めた噂」

「あぁ、最近志士の間だけでなく捕らえた天人達からもよく聞くようになった」

「狂乱の貴公子、鬼兵隊に白夜叉。それに声のデカい人、頼りになる後輩が出てきたもんですなぁ」

「いつ聞いても思うが、やっぱりおかしくないか?声がデカい人っておかしくないか?」

「そりゃあ恐ろしいくらいに声がでかいんでしょうよ」

「やっぱりおかしいって」

 

 いったいどれだけ声がでかいというのだ。

 後に桂浜の龍という別の呼び名も聞いたがそれよりも声のデカい人のほうがインパクト大きく胸に刻まれてしまった。

 戦場が違う為実際に聞くことが出来ないのが少し残念というどうでも良い思いは彼女の胸の奥の奥にしまい込んだ。

 

 そして彼女は空を仰いだ。

 相も変わらずどんよりと分厚い鉛色の雲が空を覆っている。

 

「もうすぐ夕立が来る...な」

「雨が来りゃ奇襲がやり易くなりますが...贅沢は言ってられんようで」

 

 男が首で指し示す方向、彼女らの立つ崖下に大量の天人達の軍団に兵器が行軍していた。

 事前に得ていた情報が出まかせでなかったことに一先ずの安堵をし、背負っていた無骨な金砕棒を抜く。

 振り返れば共に戦ってきた戦友達、その顔は誰もが死を覚悟している。

 

「...皆随分と傷ついてきたな。身体には癒えぬ傷を、心には消えない疵を。もう、疲れたろう」

 

 語る彼女の言葉に、皆静かに耳を傾ける。烏すら鳴き声ひとつ上がらないそこは優しげな声でもよく聞こえる。

 

「我々にはもはやかつて抱いた誉れはない。武勇も褒められたものではないだろう。ならば、奴等天人どもの首を一つでも多く上げてそれを我等の誉れとしよう!奴等を一人残らずこの国から叩き出す事で我等の疵は慰められる!!」

 

 天高く突き上げられた金砕棒。それに続き志士達も抜刀。

 

「奴等を一人とて姉古原へと行かせるな!!暴れている後輩共に目にモノ見せてやれ!!!」

「鬼緒方に続けェ!!!」

 

 先陣を切って崖を駆け降りる。ほぼ直角に近い崖の為駆け降りるというよりは飛び降りるに近いが、志士たちは誰一人恐れる事なく崖を下る。

 この時激戦地である姉古原への増援として行軍していた天人達は天から鬼が侍連れて降ってきたと錯覚した事だろう。

 

 

 

 互いに疲弊し切るほどに長く続いた攘夷戦争も徐々に終局へと移っていく。最後の最後まで抵抗していった攘夷志士達の軍事力が対抗できるものではなくなっていた。

 数年前に幕府主導で行われた寛政の大獄と廃刀令により攘夷側へ新たに出願してくる兵も激減。

 

 二年後、侍の敗北という形で十年にもわたる攘夷戦争の幕は閉じた。

 

 

 

 

 こうして10年前までは幅を利かせていた侍は衰退の一途を辿っていく。

 国を守る為に刀を取り闘い続けてきた攘夷志士達は戦争終結後国に仇なす逆賊として各地で大量に検挙、粛清される。

 戦時中、鬼緒方と恐れられた彼女も例外ではなくその波に抗えることはできない。

 

 追っ手から逃げ潜んでいたところを市民に見つかり通報、捕縛されてしまう。

 暴れることができないように四肢を鎖に繋がれ牢獄に収監、粛清されるまでの間他の仲間達の居場所を吐かせるための拷問が毎日繰り返された。

 

「くそ..なんて頑丈なんだこいつ。どんなに痛めつけてもこの程度の傷しかつかねぇ」

「鬼緒方..まさかあの悪名高い化け物が女だったとはな..。おい少し楽しむか?」

「冗談じゃねぇ。こんな化け物相手にしたらこっちが壊される..さっさと吐かせて粛清しちまえばいいんだよ」

「同感だ」

 

 繰り返される暴力の毎日に抵抗することなく、彼女はただ粛清されるその日を待っていた。

 しかし、彼女に来たのは粛清ではない。

 

「初めまして、鬼緒方殿。貴女の腕を見込み、貴女を買わさせていただいた」

「....誰だ」

「我々、煉獄関という闘技場の運営をしている者だ」

 

 地獄への招待状だった。

 

 

 

 

 見せ物の為に人を殺せというのか。

 冗談ではない。

 

 彼等のふざけた話を聞いた時、彼女は心の内から湧き出る怒りと共にそう思った。

 従う理由はない、殺すならば殺せば良い。そう考えていたが、そこで煉獄関の運営と名乗る男は一枚の写真を取り出した。

 

 そこに写っていたのは、見覚えのある恰幅の良い裕福な服装に身を包んだ男の姿。

 ────弟だ。随分と見た目が変わっているようだがそれでも弟だと分ゆかるのはやはり血が繋がっているからだろう。

 

 彼等は従わなければ弟を殺すと脅してきた。だがそんなもの何の脅しになる。とうの昔に勘当された身、彼とは最早何の関係もない。

 そう断ろうと口を開く。

 

 口を開き、

 

 彼らの脅しに屈し口車に乗った。

 

 写っていたのが弟だけならば、もしかしたら捨てれたのかも知れない。されど共に写っていた女房と思わしき女とその胸に抱かれた赤子を見て、断ることができなかった。

 互いに幸せそうに笑うその写真、最早何の関係のない男だとしても、その笑みを崩すことは彼女にはできなかった。

 

「よろしい。鬼緒方殿...いやお主の字名は既に決めている。鬼の道を臆さず歩む武士よ。これからお主の名は"鬼道丸"だ」

 

 血と業にまみれた修羅の道を彼女は今、歩み始めた。

 

 

 鬼道丸は煉獄関にてその強さと容赦のなさを持って瞬く間に勝利を重ねていった。

 一度も敗けずにやがて頂点に立ち、煉獄関最強と称されるようになるのにさほど時間は掛からなかった。

 

 5年、鬼道丸として人殺しを続けて5年の歳月が経った。

 薄汚く汚れたこの身に彼女の心はすり減っていく。かつての友がくれた名前を名乗るは無くなり、代わりに道信という戒名を名乗りはじめる。

 

 それはきっと贖罪だったかもしれない。かつての友への。

 彼の想いとは裏腹に血と業に塗れてしまった己にその名を名乗る資格はない。だが、捨てようにも不思議と捨てることが出来ない。

 故に名前は胸の奥に閉じ込めた。もう名乗ることは決してなくとも、忘れないように。

 

 

 そんなある日、棲家としている廃寺の門にて彼女は小さな命を拾った。4歳ほどの幼子、頬はこけ手足は骨と皮しかないと思えるほどに細く飢えに喘いでいた。

 

 孤児だろうか近くに親はいない、放っておけば直ぐに死ぬ。

 しかしこの汚れた身で拾ったところで彼は不幸になるだけ、だから拾ったわけではない。

 すこしの間介抱をしただけだ。飯を食わせ水を飲ませ、健康とまでは言わなくとも子供はじきに歩けるようになった。放ってもすぐには死なないだろう、そう判断した彼女は幼子が眠るうちに、近くの村へと置いてきた。

 4歳ほどの幼子にとっては厳しいかもしれない。子どもを捨てるなど人でなしの所業だろう。

 それでも、子供がここで育つことは間違いなく不幸になる。だから良かったのだこれで。

 人の心など、とうの昔に捨てた。人の在り方など、とうの昔に捨てた。

 こんな化け物になど関わらない方が良いに決まっている。

 

 

 そう考えていたのに、1週間後その幼子は一人で帰ってきた。ボロボロになって、傷だらけになってこの化け物の棲家へと帰ってきた。

 

 何故だ。

 ここに来るな。お前は人の世で人らしく幸せに暮らせば良い。

 

 しかし子供は、決して離れまいと脚にひっつく。細い身体に似合わない力強さに驚いた。

 

 ごはんくれたのははじめてだった。

 あたまをなでてくれたのははじめてだった。

 おねがいです。ぼくのおかあさんになってください。

 どこにもいばしょがないんです。

 

 必死に、涙と鼻水を溢れさせながらぐずりつづける子供の言葉に身が硬直する。

 

 ああ、この子供も己と同じく居場所がないのだ。どこへ行くこともできない、ただただ死を待つだけだった。

 そんな子供に光を見せたのだ。たとえそれが鈍く薄汚くとも同情という無責任なものだとしても、この子供にとっては狭い世界を照らすものだったのだろう。

 ならば、その責任を取らねばならない。

 いずれ1人で生きていけるようになるまで、1人で居場所を見つけられるようになるまで。

 

 母にはならん。

 代わりに私のことは先生と呼ぶといい。1人で生きていけるようになるまではここに居させてやる。

 

 長くは居させない、己と居れば居るだけ不幸になるのだから。

 そう心に決め、彼女は大粒の涙をこぼし続ける幼子を廃寺へと連れて行くのだった。

 

 

 赤鬼を模した面を被り、人を殺し続ける鬼道丸。

 廃寺にて何故か集まってくる多くの孤児の子供を育てる道信。

 

 二つの顔を持ちながら、彼女は今宵も地獄にて人を屠り続ける。

 こうして、鬼子と忌み嫌われてきた彼女は修羅すら慄く、鬼へと至ったのだ。

 

 

*1
昔の財布





攘夷戦争辺りの時系列は結構あやふや。でも大体私は10年程度続いたという認識です。
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