BLEACH the immortality anguish   作:髑髏大帝

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episode002 「虚ろなる刻」

 私が、私と言う命がこの世から失われて何日かが経過した。電信柱の前に倒れていた私の身体は取り除かれ、飛び散っていた血液の海もいつの間にかどこかに消えて無くなってしまった。あれから5時間後、私の身体で死後硬直が始まった時になってやっと人が通りがかり、私の死体を見つけてくれたのだ。

救急車が呼ばれ、近所の人々が野次馬に現れ警察も駆けつけるという大騒ぎになったが、いくら犯人を捜査しようとも、いくら私の事を可哀想だと同情しても……もう私が生き返る事は無いのだから。

出来る事なら、電柱へと花束を供えるのを止めてほしかった。私は別に電柱で死んだわけではないし、テレビを通じて私を知っただけの見ず知らずの他人から向けられた心のこもっていない弔いなんか正直煩わしいことこの上ない。

死んだ人には花を供えればいいだろうという、テンプレートな考えが魂だけとなった私にはダイレクトに伝わってくるのだ。皆、表面上は私の事を残念だと言っているが、心の中では特段別に気にしていない。

「ああ、あいつ死んだのか」とか「子供が死んだんだな」ぐらいにしか感じていない。浅い気持ちで墓参りに来られる死者の気持ちが良く分かった、本当に気持ち悪い。

好奇の目に晒されることが、これほどまでに吐き気を催す事なのか…

マスコミの報道官が現れ、この場所をカメラに撮りながら神妙な顔で話しているのを見ていると、私はそれほど凄惨な殺され方をしたのかと冷静に客観的な判断をしてしまう。犯人に対する怒りも、憎しみも、もう何もわいてこなかった。

いや、それは少し違うのかもしれない。本当は恨んでいるのかもしれない、自分を殺した相手を地獄の果てまで追い詰めると考えていたのかもしれない。

だが、今の私には…それを考えるだけの余裕が無かった。ほら、また始まった。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 喉が、焼けるように熱い。胸の中心が焼け爛れたかのような激痛を発し、身が裂けるような頭痛が頭を支配する。発作が来たのだ、電柱に縛り付けられたその日から時間が流れる毎に少しずつ、少しずつ周期が短くなっていく激痛の発作。

それは胸を抉る様な鈍痛から始まり、身体が捻じ曲がる様な鋭い痛みに変わっていく。たまらずに私は叫んでしまう、そうすることで少しでもこの痛みから解放されようと。渇き果てた喉から絞り出すように大きな悲鳴を吐き出すのだ。苦しい…これは何と言う罰なのだろう。

閻魔さまは私にどういう罪があって、こんな苦痛を与えてくるのだろう。私はただ通り魔に殺された運が悪かっただけの被害者ではなかったのか。私が何か恨みを買うような悪事に身を染めていて、殺されてしまうだけの事をしたからと言うのか。

いい加減にしてほしかった、私は恵まれていなさすぎだ。

神と言うモノが本当に存在するのだとして、私はきっとその全知全能の掌からこぼれ出てしまった可哀想な人間なのだ。そうでも思わなければやっていけない。この激痛の中、ちょっとでも自分が壊れてしまったら…その瞬間私は私では無くなる気がする。

それだけは、絶対に避けなければならない事だ。

どれほど長い時間、私がこの責め苦を味わい続けるのかは分からなかったが、いつか、何時の日かこの鬱陶しい無機質な鎖から解放される時が訪れるはず。その日まで私は耐え続けなければならない。この苦しみを受けて一重に狂わずに居られるのは私の中に、まだ自分を守りたいという気持ちが残っているからだろう。

この世界に生きていたかったという未練が、皮肉にも私の魂の崩壊をつなぎとめていたのだ。しかし、いっそこの場で狂ってしまった方が私としても、この先に待ち受けるより大きい苦痛の事を考えればよかったのかもしれない。

 

「ああああああああああああああああああ……?」

 

ただ叫ぶだけで日が過ぎる、そんな日常を繰り返している私はとうとう頭が可笑しくなってしまったのだろうか。狂ってしまったのは願ってもない事だが、妄想や虚実だとしては嫌に目につく……人影の姿があった。

たまに道すがら通り過ぎていくモブキャラのような特徴のない人では無い、誰が見てもその全員が振り返る様な、他とは違う異質な気配。そして何より、気配の主はまるで魂その物である私が見えているかのようにその場にとどまり、私をじっと見つめていたのだ。

別に私の背後にいる何かを凝視していたのではなく、謎の人物はしっかりと私自身をその目線に捉えていたのだ。試しに少し身体を動かしてみると、視線もそれに合わせて小さく揺らめいたからだ。

私は苦しみに叫ぶのを我慢してその気配に視線を向ける。興味が出てしまった、誰も私に見向きしなかったこの数日間、きっと私は人との繋がりに飢えていたのだろう。人間は何もない空間に閉じ込められると発狂してしまうと言うが、まさに私の今の状態がそうなのだ。誰の視線にとまる事のない私は、当然ながら話しかけられる事はない。

だからこそ、今の状況はこの気配に違和感を覚えても誰かとコミュニケーションを取らずにいられなかった。

久しぶりに誰かと話すことが出来る、そんな淡い期待にかられじくじくと痛む胸を押さえつけながら私は、その何か話すことは無いだろうかと、最近発売されたシングルレコードのタイトルを口に出そうと思った矢先。

ふとこちらに近づいてきた人物をまじまじと見つめ、驚愕した。

 

「なんやねん、ごっつい霊圧感じる思たら、虚に成りかけの魂魄やないかい」

 

 目の前に立っていた人物から繰り出された関西弁に私の口は止まってしまう。幼子のようなお河童頭を光り出しそうな金髪に染め上げ、全身を真っ黒な着物で身に纏った人物に、私の心は警報をならしていた。

ああ、きっとこれが俗にいうヤンキーという奴なのだ。大人になる階段を何処かで踏み外してしまった可哀想なツッパリ病、コンビニでたむろして公園で喧嘩に明け暮れる、挙句の果ては親や同級生から金を巻き上げる最低の人間代表……

ホロウ…コンパク、良くわからない単語が聞こえたが、これもきっとヤンキー御用達の「なめんじゃねえぞコラ」の変化形なのだろう。自分と言う存在をそうやって高圧的に出る事でしか表現できない輩に私は屈したりしない……

 

「ったく、あっちの情報もあてにならんなぁ、虚の気配もせえへん様になってしもたし……」

 

「あ、私…お金持ってないですよ?」

「は……何言うてんねや」

怖い…矢張りお金が無いという事を打ち明けたことが不味かったのだろうか。そういえば不良に絡まれた時、本当にお金を持っていないと腹いせに殴られたり……お、犯されたりすると聞いたことがあった。その時は私を怯えさせたい友人の冗談程度にしか思っていなかったのだが……この如何にも人を殺せそうな鋭い切れ長の目を見ているとあながち友人の言葉は間違っていなかったのかもしれない。

流石にリーゼントやアフロといった東京で流行りのヤンキーファッションと言うわけでは無いようだが、黒い着物に金髪と言う時点でもう不良確定のスタイルなので、私の運命は決まったも同然だろう。

そういえば私はもう死んでいたので今更死ぬという事は無いだろうが、こうして鎖やその他もろもろによって痛みを受けている実情、このヤンキーさんに殴られればきっとそれ相応に痛いのだろうことが推測できた……

死んでまで私はこんな苦痛を味わうのか…運命はきっと私を見離した、いやもう私が何のかかわりのない見ず知らずの人間に殺された瞬間から、神は―神と言うモノがいるのなら―私の事を見離したのだろう。死んだものとして、その大いなる手のひらから零れ落ちることを許容したのだ……何故…何故…何故!!

 

「あ…お、おい! くそ、もう虚に成るんかい、流石に早すぎやろどんだけ未練溜まっとったんや!?」

 

 これは恨みだろうか、憎しみかもしれない…私の身体から泉の様に湧き出してくるこれは、次第に大きな本流と化して私自身を包み込んでいった。理不尽な事が起こり続けた最近…このよくわからない現象に包まれていく今の現状が、どこか心地よくなっている自分が居た。普通に暮らしていた社会生活と言う規範の中で、ルールの中で抑え込まれていた感情のセーブが全て解放されていく爽快感とでもいうのだろうか。

何かに…お前は何をしても許されると言われている気がした。

ブツンと大きな音が聞こえ、私はのけぞった。それはまるで大きな肉が引きちぎれたかのような嫌に鈍い音。あれだけ身体に響いていた激痛が無くなったのを感じた私は、そっと胸元を見下ろすと、胸はぽっかりと大きな穴が開いていたのだ。だが私にはその現象が何かを考えている時間はなかった。

胃から何かがせり上がってくるような倦怠感を覚え、口を開けるとそこから粘土のような白い塊が溢れ、私の顔に張りついてきたのだ。

 

「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

私は、今日この時を持って人間を止めた。

 

 




どうだったでしょうか、些細な事でも何でも構いませんのでご意見ご感想お待ちしております。
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