コズミックイラのマチュ ~ロリニュータイプの日本再興記~   作:アキ山

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ここまではアホの子に載せていた分です

次からは新作にござりまする。


ヘリオポリス襲撃と知り合いのやらかしに悩むマチュ殿下

「くそっ! ヘリオポリスが!?」

 

「なんという事だ! あそこには陛下と親王殿下がいるんだぞ!!」

 

「おのれ、ザフトめ! 艦隊攻撃は陽動か!」

 

 ザフト軍のヘリオポリス侵攻の中、その迎撃に当たっていたオーブ宇宙軍艦の一隻、イズモ級『長門』。

 

 クルーゼ隊の隊員がコロニーへ潜入する為に防衛隊の目を釘付けにしていたナスカ級戦艦『ヴェサリウス』と僚艦を相手に砲火を交えながら、ブリッジにいる艦長やクルーは宇宙港から覗くコロニー内で起こったであろう爆炎に憤怒の形相を浮かべる。

 

 この長門に搭乗するクルーはオーブに多数存在する日本からの移民の子孫、通称『大和会』のメンバーのみで構成されている。

 

 彼等が軍上層部へ掛け合って自分達と長門をへリオポリス防衛にねじ込んだのは、ここに守るべき貴人がいる事を知っているからだ。

 

 だというのにザフトの策略にハマり、ヘリオポリスへ被害を出してしまった。

 

 それは他のオーブ駐留軍やコロニーに現れた地球連合の部隊がジンに蹴散らされる中、唯一彼等だけが戦線を維持していても大和会の面々に取っては恥でしかない。

 

「あのクソッたれの改造人間どもがぁ!!」

 

「あの方々のお命は、お前らコーディ全員の首を差し出しても全く足りねえんだぞ!! ボケェ!!」

 

 それ故に彼等は怒髪天を衝いた。

 

 長門のブリッジでは共通語ではなく日本語で罵詈雑言が飛び交い、その怒りはヘルダート・対空防御ミサイルとゴットフリート・高エネルギー収束火線砲の集中砲火へと変わってザフトを襲う。

 

 エネルギー配分のへったくれも無い猛攻は強烈で、避けきれなかったクルーゼ隊所属のローラシア級艦『ガモフ』は船体から次々に爆炎を吐き出す。

 

「メビウス各員に通達! 『鳳仙花』の使用を認める! 一刻も早く腐れコーディ共を叩き潰すぞ! 『夜刀神』も出撃準備だ!!」

 

 ブリッジで怒声を上げる田上一佐の言葉でコロニーの防衛を主眼に置いていたメビウス達の動きが変わる。

 

「総員、鳳仙花準備!!」

 

 いざという時の為に生み出した秘密兵器の解禁、その指示を受けた馬場一尉を始めとするパイロット達の眼の色が変わる。

 

 それは艦直衛を担っていたメビウス達の動きにも表れた。

 

 長門の対空砲火を利用してジンを近づけさせないように動いていた彼等は、今までが嘘のように機敏な動きで横一列に並び始めたのだ。

 

「なんだ?」

 

「中立国の雑魚共が! おてて繋いでラインダンスでも踊るつもりかよ!?」

 

 もちろん、今まで戦況を優勢に進めていたジンのパイロット達は彼等の動きを脅威とは思わない。

 

 これがコーディネーターの悪癖の一つだ。

 

 ザフトという軍は民兵組織を前身に持つが故に通常の軍より規則や階級が甘い。

 

それに加えてコーディネーター特有の個人主義と能力至上の考えが噛み合ったことで、軍の命と言うべき連携が軽視されるきらいがある。

 

 これが原因となって個人プレイが横行し、優秀な者は更に増長して敵味方問わず他者を見下すようになる。

 

 それを戦場にまで持ち込むのだから、まともな軍人からすれば呆れるほかない。

 

 そんな彼等の間で今まで母艦が吐き出す弾雨を隠れ蓑に、チョコマカと逃げ回っていたメビウスが一カ所に集まったのだ。

 

「いいぜ! 片っ端からブッ壊してやるよ!!」

 

 鴨撃ち同然と撃墜数を稼げる機会を逃すはずがない。

 

 互いを競い合うライバルとでも思っているのか、3機のジンは陣形を組むことも無くバラバラに襲い掛かる。

 

「鳳仙花、てぇっ!!」

 

 そんなジンに照準を合わせると隊を率いる馬場一尉の号令で、メビウス達は腹に抱えたミサイルを一斉に発射する。

 

 しかしメビウスが持つ有線誘導式対艦ミサイルは、今大戦がはじまってから何度もザフトに対して使用されてきた陳腐化したものだ。

 

 ジンを駆るザフトのパイロット達は、それを何度も潜り抜けてきている。

 

「はっ! そんなトロ臭いモンが当たるかよ!!」

 

 当然今回も彼等は襲い来るミサイルの射線から機体を外してみせる。

 

 今までならこれで難を逃れたのだろうが、今回は違った。 

 

「なっ!?」

 

 何故なら放たれた数十発のミサイルはジンの前で弾け、中から無数の散弾を吐き出したからだ。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「ぎゃあああああああっ!?」

 

 突然の面による制圧攻撃、それを相手を舐めて掛かっていたパイロット達が躱せるはずがない。

 

 三菱重工が開発した小型バッテリーを仕込んだ散弾は、弾けると同時に弾殻へフェイズシフト装甲を展開する。

 

 それ故に小口径ながらもジンの装甲を容易く食い破り、機体をズタズタに引き裂いて爆散させた。

 

「敵、ジン三機の撃墜確認!」

 

「よし! 夜刀神を出せ! 皇族の方々救出の邪魔にならんように、鬱陶しい艦を沈めてやれ!!」

 

 田上一佐の怒声と共に長門から飛び出したのは異形のメビウスだった。

 

 黒塗りの前面装甲は通常のモノより厚く、そして機首には太く長い一本の角が生えている。

 

 母艦から飛び出した五機の夜刀神はガモフとヴェサリウスへ襲い掛かる。

 

「隊長! オロール、マシュー、ラコーニ機が撃墜されました!」 

 

「まさか、オーブ軍があんな秘密兵器を持っているとはな。これは遊んでいる場合ではないか」

 

 通信で部下の死を知り、4基あった有線式ガンバレルが残り一つにまで追い込まれたメビウス・ゼロから狙いを外したのは、ヘリオポリス襲撃犯たるクルーゼ隊の隊長ラウ・ル・クルーゼだ。

 

 因縁のライバルたるムウ・ラ・フラガをあと一歩まで追いつめたところで水を差された彼は、内心で舌打ちをしつつ愛機であるシグーを母艦であるヴェサリウスの防衛に付ける。

 

 そんなクルーゼを襲ったのは先ほど3機のジンを葬った弾雨の群れ。

 

 夜刀神が放った散弾ミサイル『鳳仙花』だった。 

 

「チッ! 厄介な……!!」

 

 口径は小さいとはいえ、精密機器の塊である関節部やセンサー類に食らえば破壊されかねない。

 

 加えて戦艦の装甲なら散弾程度弾けるだろうと考えたクルーゼは弾雨を避けるべく上へ回避行動をとる。

 

 しかし、彼はすぐに仮面の奥で目を見開くことになる。

 

「なんだと!?」

 

 何故なら自らバラ撒いた散弾の中を突き抜けて、漆黒の機体が眼前に現れたからだ。

 

(あの散弾は見せ札! なら本命はリニアガンの一撃か!?) 

 

 開戦から数々の修羅場をくぐったクルーゼはメビウスの武装を熟知している。

 

 ミサイル以外にМSを打倒できる装備は対装甲リニアガンくらいだ。

 

 散弾で動きを誘導しての至近射撃、奇を衒っているものも理に適った戦術だ。

 

「だが、詰めが甘いな! こちらの反撃を予想していないとは!!」

 

 一瞬前に背筋を通った冷たさを誤魔化すべく、嘲りの声と共に76mm重突撃機銃を放つクルーゼ。

 

 火線を描きながら宇宙を駆ける弾丸は狙いたがわずに夜刀神へと食らいつく。

 

 しかし祟り神の名を冠する漆黒の機体は彼の予想の上を行った。

 

「ば…馬鹿な!?」

 

 クルーゼが驚愕の声を上げたのも無理はない。

 

 本来МSの武装に耐えられないはずの黒きメビウスの改造機が、その弾丸を弾きながら更なる加速を掛けたのだから。

 

「くっ…くおおっ!!」 

 

 第六感でヤバいと考えたクルーゼは反射的に逃げようとする。

 

 その動きは神がかっていた。

 

 夜刀神の狙いがリニアガンであるなら、四肢のどれかを犠牲に躱すこともできただろう。

 

 ザフトが誇る仮面の英雄の誤算は二つ。

 

 一つは敵機の目的が射撃と見誤ったこと。

 

 その代償はシグーの下腹部に突き刺さった黒い衝角の一撃だった。

 

「ぐおおおおおおおっ!?」

 

 コクピットへの直撃は避けたモノの一撃が齎した衝撃はすさまじく、アラームと緊急事態を知らせる赤色灯が内部を赤く照らす中でクルーゼの身体は前後左右にガクガクと揺れる。

 

「おっ…おのれぇ……!」

 

 半ば飛びそうになった意識を必死に繋ぎとめて窮地を脱しようとするクルーゼ。

 

「吹き飛べ、阿呆が!!」

 

 そんな彼に浴びせられたのは、接触回線で通信機が吐き出した冷徹ながら内にマグマのような怒りを宿した言葉だった。

 

 同時に夜刀神の角の付け根に備わったリボルバーが回転し、撃鉄が信管を叩く。

 

 それによって夜刀神の角は破城槌に化けた。

 

 大型パイルバンカー、それこそが漆黒の角の正体なのだ。

 

「馬鹿な…私がこんなところで……!?」

 

 ゼロ距離から致命となる一打を撃ち込まれたシグーは、その衝撃によってパイロットごとバラバラとなった。

 

「殿下を窮地に追いやるなど万死に値する。地獄の底で己が行いを悔いるがいい」 

 

 モニターに映るシグーの残骸を睨みつけながら吐き捨てる若きパイロット。

 

 この男こそがクルーゼが己を死に追いやった二つ目の誤算。

 

 大鳥獅子吼。

 

 大和会屈指のエースパイロットにして、少々特別な生まれを持つコーディネーターだ。

 

 仮に襲ってきた夜刀神のパイロットがナチュラルなら、クルーゼにも回避の目が有っただろう。

 

 しかし、獅子吼はシグーに衝角を叩き込むまでの僅かな間にクルーゼの回避を察知して合わせてみせた。

 

 それこそがザフトの英雄が討たれる大きな原因だったのだ。

 

「こちら大鳥。敵首魁と思われる機体を撃墜」

 

「よくやった、二尉! 貴様のお陰で敵の士気はガタ落ちだ! あとは我々だけで何とかなる! 二尉は陛下達の救出に回れ!」

 

「了解!」

 

 田上一佐の指示を受けてヘリオポリスへと進路を変える大鳥機。

 

「真理華殿下、すぐに参ります。どうかご無事で!!」 

 

 焦燥で砂を噛む思いを胸に、獅子吼はスロットルを全開にするのだった。

 

 

◆ 

 

  

 とんでもねえ状況の中、知り合いとカチあった私。

 

 しかも相手は私達の住んでいる場所を襲った犯人ときた。

 

 チクショウ! 懐かしさなんて微塵も感じねえよ!!

 

『マチュ、ここは危険だ! 俺達と一緒に来るんだ!!』

 

「……えぇ?」

 

 通信機は吐き出したアス兄の言葉に私は思わず妙な声を上げてしまった。

 

 いやいや、何言ってんの。

 

「ちょっと待って。一緒にって、プラントに来いってこと?」

 

『そうだ!』

 

「いや、私ナチュラルなんだけど」

 

 人種どうこうを口にするのは嫌だけど、流石に今は言わざるを得ない。

 

 聞いた話だとプラントの住人ってほとんどがコーディネーターで、ナチュラルは第一世代の親という爺さん婆さんが少ししかしかいないらしい。

 

 そんな所に行ったら、流石に肩身が狭すぎるわ。

 

『アスラン! 貴様何を言っている!? 今は作戦行動中だぞ!!』

 

『そうだぜ。知り合いだからってガキを拾っていくのは無理がありすぎんだろ』

 

 アス兄の言葉を聞き咎めたのだろう、銀髪おかっぱのお兄さんとチャーハン作ってそうな褐色のお兄さんが抗議の声を上げる。

 

『マチュ……あの子は中立国の民間人。戦場で発見したのなら人道的見地で保護するのが義務だ。それに彼女を連れて行けば、もう一機連合の機体を鹵獲できる』

 

 そんな二人に私と話す時とは打って変わって、冷静な声音で反論するアス兄。

 

『えっと…本当に彼女はオーブ国民なんですか?』

 

 モビルスーツを動かしていたのもあるのだろう、通信ウインドウが4つ目の窓を開くと、そこに映っている緑の髪の大人しそうなお兄さんが戸惑いがちにアス兄に問いかける。

 

『マチュは俺がコペルニクスに疎開していた時の幼馴染だ。あの子の事は生まれた時から知っているし、何ならおしめを替えたこともある。見間違えるはずがない』

 

「デリカシーの無い事言うの禁止!!」

 

 さらっとトンデモねえ事をブチまけるアス兄に、私は思わず抗議の声を上げる。

 

 緑のお兄さんは私がМSに乗ってるから確認しただけで、今の話全然関係ないじゃん!!

 

『……アイツはアホなのか?』

 

『子供とはいえ、女の子の前で本人のおしめ替えたとかナイワー』

 

 見ろ! 他の三人がドン引きしてるじゃないか!!

 

 まあ、アス兄の失言はともかくとして、残念ながら彼の誘いを受けるわけにはいかない。

 

「ごめんね、アス兄。一緒には行けないや」

 

『何故だ!?』

 

「だって、これからオーブとプラントは戦争になるんだもん。お父さん達を置いて敵国には行けないよ」

 

 そう答えると通信ウインドウに映る4人の顔が強張った。

 

『オーブが……プラントの敵になる?』

 

『ちょっと待てよ! お前らは中立国だろ! どうして俺達と戦争になるんだよ!?』

 

 ショックを受けたように呟く緑髪のお兄さんに、こっちに噛みついてくる褐色のお兄さん。

 

「だって、お兄さん達ヘリオポリス攻撃したじゃん。他国の領土を攻撃したら戦争になるのは当然だよ」

 

 これって常識だよね。

 

 そのあり得ない的なリアクションは何なの?

 

『俺達が攻撃したのは連合のモビルスーツ開発を阻止するためだ! オーブが連合のМS開発に手を貸さなければ、こんな事はしなかった!!』

 

 動揺しながらも怒鳴るように正当性を主張するアス兄。

 

「えっ!? マジで?」

 

『ああ! 俺達が乗っているのは連合から奪った機体だ。君が乗っているのも、おそらくはそうだろう』

 

 モルゲンレーテが連合と組んでМSを造っていた事は知っているけど、ここは敢えてシラを切っておく。

 

 こんなの民間人が持っている情報じゃないからね。

 

「だとしても、いきなり攻撃はダメだよ」

 

『なら、お前は中立国は敵と手を結んでいるのを、指を咥えて見ていろというのか!?』

 

 アス兄にこう返すと、今度は銀髪おかっぱさんが噛みついてきた。

 

「そっちの言う通りだったら確かにオーブが悪い。それでも相手はプラントに宣戦布告もしていない中立国。だったら、まずは外交ルートを通して抗議するのが筋でしょ?」 

 

 私の意見におかっぱのお兄さんは鼻白む。

 

 あの人の言うように、中立国が自分達の敵国と一緒に兵器造ってたら見過ごせないのは分かる。

 

 どんな建前を付けても、兵器を共同開発していたら軍事同盟を結んでいると思われても仕方ないし。

 

 オーブの上層部がそれを承知で協力に踏み切ったのは、おそらく自国の防衛力強化の為にモビルスーツの開発ノウハウを欲しがったからだろう。

 

 今のところМSはプラントの専売特許で、戦争をしていないオーブは連合みたいに敵機を鹵獲して研究も出来ないからね。

 

 ここまで考えるとオーブがアウトなのは明らかなんだけど、それでも問答無用で武力行使は野蛮を通り越して無謀だ。

 

 普通は国際社会へ自分達の正当性と相手の非を主張して、他の国や世論を味方につけた上で宣戦布告するものだよね。

 

 オーブだって外交で兵器の共同開発の事を責められたら、戦争回避の為に賠償金や輸出入の関税緩和とか詫びの一つもいれざるを得ない。

 

 けど、いきなり殴りかかったら、それも全部パー。

 

 中立国にとって、周りの国に舐められるのは致命的だ。

 

 殴られたら絶対に殴り返さないと、他の国から有形無形の圧力を掛けられて中立を張っていられなくなる。

 

 そしてオーブがプラントと戦端を開けば、地球連合はここぞとばかりに乗ってくるだろう。

 

 ムルタのおっちゃんなんか、ノリノリで色々やってくるのは目に見えてるし。

 

 それってプラントにとって滅茶苦茶痛手になるんじゃなかろうか。 

 

 というか、将来の為に外交とかをチョコッと勉強した私でもここまで読めるのだ。

 

 プラントの上層部にいる外交のプロなら一発で分かりそうなものなんだけど。

 

 そのリスクを押してヘリオポリスを攻撃する事を選んだのかな?

 

 ……まさか、国に通さずに現場の独断でやったとかないよね。

 

「とにかく、私はコロニーに戻るね。お父さんやキラ兄の事が心配だし」

 

 ここにいると有らぬ疑いを掛けられる可能性もある。

 

 コロニー襲撃犯の一味として攻撃されては堪らない。

 

『俺達の事は放っておいていいのかよ?』

 

「私、民間人。何をどうしろっていうのさ」

 

「ディアッカ! この馬鹿者!!」

 

 軽口のつもりだったのか、オーロラを動かそうとすると声をかけてきた褐色のお兄さんは、おかっぱさんに怒られて肩をすくめる。

 

 そんなやり取りを横目にコロニーへ進路を取ろうとした時だ。

 

 今まで大人しかったアムロが口を開いた。

 

『マチュ、味方ダ! 味方ガキタ!!』

 

「味方?」

 

 私の問いかけにアムロが操作したのだろう、コクピットの内側を覆う形で設置されたモニターの背面の様子がサブウインドウに拡大映像で表示される。

 

 そこに映るのはこっちへ向かってくる漆黒のメビウス。

 

「夜刀神……」

 

 それは大和会が対ザフト製МS用として開発したメビウスの改造機にして、世界初のフェイズシフト装甲の実用機でもある夜刀神だ。

 

 そして夜刀神から感じる気配には憶えがあった。

 

『メビウス!』

 

『来る前に叩いた地球連合の生き残りかよ!』

 

 夜刀神に気づいてアス兄達が警戒を強める中、灰色と濃紺のカラーリングをした連合からの鹵獲機の一体が手にしたライフルを構える。

 

「獅子吼!」

 

 その銃口から翡翠色の光弾が放たれるのと、私が夜刀神を庇うのは同時だった。

 

 嫌な予感の通り、鹵獲機が持っていたのはビーム兵器。

 

 アンチ・ビームコートが施されていたお陰で、光弾はオーロラの盾に弾かれて被害を出す事は無かった。

 

「獅子吼、無事!?」

 

『殿下!? それに乗っていらっしゃるのは殿下なのですか!』

 

 大和会が使う秘匿回線で呼びかけると、獅子吼の驚く声が返ってくる。

 

『貴様! なんのつもりだ!?』 

 

 そして獅子吼に対応していると、今度はビームをぶっ放した機体のパイロットであるおかっぱさんから抗議の声が!!

 

「これはオーブ軍の機体! 乗ってるのは知り合い! 庇うのは当然でしょ!!」

 

『マチュ! どうしてお前がそんな事を知ってるんだ!?』 

 

「前に、その知り合いに見せてもらったの!」

 

 面倒くさいところにツッコミを入れてくれるな、アス兄!!

 

 そんな感じで色々と問題はあるけれど、戦闘だけは避けられた。

 

 そう思っていた時期も私にはありました。

 

『よくも……』

 

「ん?」

 

『よくも…殿下に俺を庇わせてくれたな……!』

 

 そう甘くないと思い知ったのは、秘匿回線からゾッとするような怨嗟に満ちた声が聞いた時だ。

 

 ヤバい! 獅子吼が完全にキレてる!!

 

 今にも飛び出しそうな夜刀神の機体に、私は大慌てでオーロラの手を当てる。

 

「獅子吼、落ち着いて! 相手はフェイズシフト装甲にビーム兵器を持ってる! 夜刀神じゃあ勝ち目がない!!」

 

『許さん! 絶対に許すものか!! この場で八つ裂きにしてくれる……!!』

 

 アッカーン! 全然聞く耳持ってねえ!!

 

 ええい! こうなったら仕方がない!!

 

「控えよ! 大鳥獅子吼!!」

 

 私はアス兄達と繋がっていた通常回線を切ってから獅子吼へ怒鳴る。

 

『……ッ!?』

 

 口調を変えた私の声に通信機越しでも獅子吼が息を呑むのが分かった。

 

「私が拾った其方の命は、こんな場所で捨てるほど安いものか! 我と共に神州奪還の大業を為すという、あの日の誓いは偽りであったのか!?」

 

『滅相もございません! あの日の誓いに噓偽りなし!! 我が身、我が命は真理華親王殿下の為に捧げております!!』 

 

 相変わらず覚悟が重ーい(白目)。

 

 とはいえ、これで暴走の心配はないかな。

 

「ならば、この場は耐え忍びなさい。今示した通り、動乱の世界に抗するための力は我が手にある。雪辱の機会もいずれ訪れましょう」

 

『はっ!』

 

 ……まったく、姫モードは苦手なんだけどなぁ。

 

 まあ、獅子吼が無事ならこのくらいは安いモノか。

 

「それじゃあ、私は行くからね」

 

『マチュ……』

 

「アス兄も気を付けて」

 

 私は再び通常回線でアス兄に別れを告げると彼等に背を向けた。

 

 父上たちの事も心配だしボロが出る前に退散すべし、だ。

 

 そうして先行する獅子吼の後ろについて、その場を後にしようとした時だ。

 

 オーロラの通信機はあるやり取りを拾っていた

 

『そこの銀髪の男、名は何という?』

 

 ギラ付くような殺気と共に銀髪おかっぱさんの名を訊ねる獅子吼

 

『イザーク。イザーク・ジュールだ』

 

 うん、無視すると思っていたら普通に答えるんだね。

 

 お兄さん達、機体強奪犯の自覚あるのかな?

 

『──その名、死んでも忘れん』

 

 そう言い残して夜刀神を加速させる獅子吼。

 

 これは滅茶苦茶根に持ってるなあ……。

 

 まあ、獅子吼は並の軍人や武士よりクッソ強い公家。

 

 『地獄のおじゃる丸』こと烏丸の叔父様に武人として鍛えられたからなぁ。

 

 主に庇われた事を恥と感じてるのかも。

 

 獅子吼の不機嫌さを見るに結構引きずりそうだし、これは手綱を握る大和会の皆は大変そうだ。

 

「そういえば、獅子吼。長門は大丈夫なの?」

 

『ええ。あの程度の敵に後れを取るほど、皆は惰弱ではありません』

 

 獅子吼の答えに胸を撫で下ろした私は、緊急時の対処用に教えられたチャンネルを通信機に打ち込んで長門との連絡を取る。

 

「田上一佐、そしてクルーの皆様もご無事で何よりです」

 

『おお、殿下! ご無事でしたか!』

 

 通信に出た長門の艦長、田上一佐は私の顔にホッと息をつく。

 

 まあ、ヘリオポリスが攻撃されたと聞いては向こうも気が気じゃなかったんだろう。

 

『それで陛下はご一緒なのですか?』

 

「いえ。私の方も陛下の無事は確認ができていません」

 

 そこから私は現状とオーロラのこと、そして地下研究所に置いたままのガンダムについて説明した。

 

『まさか殿下がモビルスーツを乗りこなせるとは……』

 

「趣味が高じての事です。それよりも長門の皆様には陛下の捜索と並行して、地下研究所からガンダムを回収してほしいのです」

 

「研究所に打ち捨てられていたというモビルスーツをですか?」

 

「ええ。オーロラに乗って分かったのですが、あの機体には連合とモルゲンレーテが作ったGATシリーズとは異なる技術が使われているようです。それを研究すれば、我々にとっての大きな力となりましょう」

 

『なるほど。ですが、ヘリオポリスの地下に研究所を造っているのを考えれば、そのガンダムとやらを調べていたのは五大氏族の何れかの可能性がありますぞ』

 

「構いません。私が見つけた時はオーロラもガンダムも、打ち捨てられて久しいようでした。ならば、あのまま朽ちるよりも、我らの大業の一助とした方が意義がありましょう」

 

 そう答えると田上一佐は大きく頷いた。

 

『承知しました。研究所の座標をいただいてよろしいですかな?』

 

「わかりました。私は大鳥二尉と共に陛下の探索へ向かいます」

 

 そう断ると私は長門との通信を切る。

 

 これで気になっていた事は全部手を打てた。

 

 後は父上達を見つけるだけだ。 

 

 そうしてヘリオポリスの中に戻ってきた私達が見たもの。

 

 それは主砲で瓦礫をブチ壊しながら、発進する白亜の戦艦の姿だった。

 

 アイツ等、コロニーの中で何やってんだぁぁぁぁぁっ!?

 




・鳳仙花

大和会が三菱重工と住友グループの協力によって開発した対МS用モビルアーマー武装。

メビウスの有線誘導式対艦ミサイルを改造したもので、中には炸薬と共にフェイズシフト装甲を外殻に使用した散弾が無数に仕込まれている。

ミサイル発射の信号がメビウスから送られると、それを内部センサーで受信した散弾達はフェイズ装甲を展開。

ミサイルの炸薬を利用して広範囲に展開して対象に襲い掛かる。

その威力はジンやシグーの装甲に使用されている重合金を容易く破壊することが出来る。

後にこの武装は大西洋連邦にも輸出され、スピアヘッドなどの戦闘機がこれを使ってディンを多数撃墜。

ザフト地上軍に恐れられる事になる。

これには大西洋連邦のパイロットや政府高官もニッコリ


・夜刀神

大和会がメビウスを大幅改造したモノで、この世界における初のPS装甲実用機。

名前の由来は『常陸国風土記』に登場する、頭に角が生えた蛇の姿をした祟り神。

名前の元になった蛇神のとおり、機首に大型の衝角型パイルバンカーが付いていることが特徴。

フレーム、装甲、衝角がPS装甲になっており、40mmバルカン砲や鳳仙花などの弾幕で敵の動きを封じて格闘戦に持ち込む事を主眼としている。

その為、背部スラスターは通常のメビウスの2倍近い推力に強化されており、その突進力は並のコーディネーターとジンでは対応は困難とされている。

分かり易くコンセプトを説明するなら『メビウスでやるアルト・アイゼン』である。

この機体を見た大西洋連邦の技術士官のコメント『ク…クレイジー……』 
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