コズミックイラのマチュ ~ロリニュータイプの日本再興記~ 作:アキ山
次は本編を書かないと……
ザフトによる二度目のヘリオポリス襲撃、その狙いは二つに分けられた。
「A班、ミゲル、アスランはGの残り一機の鹵獲及び撃破! B班イザーク、ディアッカ、二コルはヘリオポリスに駐留しているオーブ軍の撃破だ!! 各員、絶対に油断するなよ!!」
「「「「「了解!!」」」」」
アデスの指示のもと、応急処置の痕が痛々しいヴェサリウスとガモフから4機のGAT-Xシリーズの機体とジンが飛び立つ。
「本当にこれでよかったのですか、アデス艦長」
その様子を見ていたアデスに艦長専用の秘匿回線で問いかけてきたのは、ガモフを預かるゼルマン艦長だった。
「……わかりませんよ」
アデスは艦長席のサブモニターに映るゼルマンに向けて苦い顔で呟く。
何故なら今回の出撃は軍人の常識に照らし合わせれば失策もいいところだからだ。
自分達がやっているのは戦争、命のやり取りである。
相手を殺すこともあれば、殺されるのも当然。
軍人ならそういった損耗も計算に入れて動かねばならない。
それを思えばクルーゼという指揮官を失った時点で、自分達は即時撤退を選ぶべきだった。
「今回の作戦、責任を取るべき隊長を失ったのは痛いですな」
「不名誉除隊……で済めば御の字ですかね」
同じく渋面を張り付けたゼルマンの言葉にアデスは同意する。
ただでさえ自分達は現場の判断で中立国へ攻撃を行ったのだ。
実行犯のメンツに最高評議会議員の子息がいる事を計算に入れても、鹵獲した敵の試作機を手土産にして功罪的に投獄を免れるか否か危うい所だ。
最悪の場合、オーブとの戦争の引き金を引いた責任を取らされて処刑なんて事もあり得る。
だというのに、仇討ちでもう一度オーブ軍に攻撃を加えるなど愚行でしかない。
さらに言えば、それに試作機を持ち出すなどアデスからすれば狂気の沙汰だ。
それでもアデスは赤服達の暴走を止められなかった。
Gを鹵獲した功績もあるが、クルーゼの仇討ちという大義名分が他のクルーの支持を集めたからだ。
こういった感情で動く部分を改善しない限り、ザフトは民兵崩れという誹りを免れない。
そしてこの判断がどんな結果を生むのか、正直アデスは胃が痛かった。
一方、長門は再度襲撃を掛けてきたザフトを怒りを以て迎え撃とうとしていた。
「陛下の捜索が終わらんというのに……! メビウス、夜刀神は全機出撃! 奴等をヘリオポリスに近づけるなよ!!」
クソ忙しい時に厚顔無恥にも再侵攻を仕掛けてきた無法者、それが事の元凶とくれば田上一佐を始め大和会がブチキレるのも当然だ。
彼等は今度こそ母艦もМSも宇宙の藻屑にする気満々だった。
しかし憤怒に歪む馬場一尉の顔は、敵機をモニターで確認した瞬間に驚愕に歪むことになる。
「あれは連合の試作機!?」
「奴等、奪った機体をもう投入してきたのか!」
これには田上一佐の表情も強張った。
GAT-XシリーズにはPS装甲が標準装備されている。
これはメビウスの武器が役に立たないのと同義だ。
「うろたえるな! 相手がPS装甲持ちだとしてもやりようはある! メビウス各機、鳳仙花スタンバイ!!」
「まずは奴等の足を止める! 鳳仙花、てぇっ!!」
田上一佐の檄を受けて、馬場をはじめとするメビウス隊がミサイルを放つ。
「馬鹿め! そんな物が通用する……なにっ!?」
PS装甲の防御を盾に乗機であるデュエルを突撃させようとしていたイザークは、次の瞬間に目を見開くことになる。
何故ならメビウスから放たれたミサイルが弾け、彼等の行く手を阻むように散弾の壁を形成したからだ。
「ちぃぃっ!?」
「なんだよ、これは!?」
「マシュー達を撃墜した武器ですよ! なんでログを見てないんですか!?」
鳳仙花をモロに受けたのは、クルーゼの仇討ちを担当していたB班の3機だった。
幸い、PS装甲のお陰で彼等のGには目立った外傷はない。
しかし代償が無いわけではなかった。
「マジかよ!? こんなにエネルギーが減るのか!!」
「装甲にも軽微だけどダメージが!? あの散弾、フェイズシフトが使われている!!」
「おのれぇ! 中立国の腰抜け共が!!」
驚愕と焦り、そして憤怒。
イザーク、ディアッカ、二コルが三者三様の反応を示す中、彼等の機体の後ろから二機のМSが飛び出す。
「俺達は予定通りヘリオポリスに入る。ここは任せるぞ、イザーク」
「アスラン、貴様! 俺達を盾に!!」
「お前らと違って、俺の機体にはフェイズシフトが無いんでね。その辺は勘弁してくれや」
「チッ! あとで何か奢れよ、ミゲル!」
アスラン・ザラの乗るイージス、そしてミゲルが乗るジンは長門と艦載機を無視してヘリオポリスへ直進する。
「おのれ……くっ!?」
「アスランの邪魔はさせません!」
それに気づいた夜刀神の一機が立ち塞がろうとするが、それは試作機の一体であるブリッツが放つ緑色の光弾によって阻止された。
「田上一佐!?」
「やむを得ん! 今背中を見せてはこちらが討たれるだけだ! まずは眼前の三機を速やかに駆逐する!! 全砲門一斉掃射! 弾切れやエネルギーの事は考えるなよ!!」
搭載された火器を撃ちまくる長門の弾雨を合図に、ザフトと大和会の第二ラウンドの火蓋は切って落とされたのだ。
◆
コロニーの中心付近までジャンプすると、遠心力の軛から解放されたオーロラの操作感覚は宇宙に近くなる。
そして長門を救うべくヘリオポリスを出ようとした私は、行く手に二つの気配が近づいてくるのを感じた。
この感じ……一つはアス兄か。
こんな時に面倒な……!
小さく舌打ちをしながら加速すると、モニターの前面に二機のМSの姿が見えた。
一機はジン、もう一機はやはりアス兄が乗っていた赤い試作機だ。
【あれは……! まさか、まだマチュが乗っているのか!?】
よっぽど焦っているのか、赤い機体から思念がビンビン伝わってくる。
というか頭の中、滅茶苦茶迷いだらけじゃん!
本当に大丈夫か、アス兄!?
そんな事を考えていた私の思考は、こちらに向けられた刺すような敵意で現実に戻された。
慌ててモニターへ目を向ければ、ジンが機関銃の銃口を向けているじゃないか。
『メビウスと一緒って事は、アイツも連合の試作機だろ!』
『待て、ミゲル! あれは……!?』
しかも非常事態で電波が混線しているのか、向こうの会話が通信機から流れてくるし!!
『周波数、解析シタ! オレ、エライ。オレ、エライ』
アンタの仕業か、アムロ!?
『リベンジ前の景気づけだ! 落ちろ!!』
コッチが心の中でツッコんでいる間に、吐き出される弾丸。
「チッ!」
小さな舌打ちと共に、私は襲い来る鉄火を左のサイドステップで回避する。
『殿下!』
「大丈夫です」
獅子吼へそう返しながらも、私の思考はカチリと切り替わる。
父上や烏丸の叔父様から護身の為と古武術を教わる際、私は一つの心得を叩き込まれた。
それは『有事の際は殺られる前に殺れ』というものだ。
皇血を絶やさぬという使命がある以上、私に死は許されない。
故に獅子吼をはじめ多くの人達が私を護る為に動いているし、実際に亡くなった方々もいらっしゃる。
だからこそ、いざとなれば私にも覚悟が必要となる。
再構成戦争で滅びゆく日本から脱出する際に、自ら何人もの敵兵の血で手を汚したひい御爺様のように。
私が肚を据えると、それに応じるようにコクピットのフレーム部分に光が灯る。
それは初めてオーロラを起動させた時とは違う、どこか血を思い起こさせる紅だ。
同時にロボゲーで培った経験は半ば反射という形でオーロラを操作する。
回避に間を置かず盾をジンへ投げ付け、それを目隠しにするように前へ突撃したのだ。
『チィッ!』
こちらの一手が予想外だったのか、回避ではなく左腕で投げた盾を弾き飛ばすジン。
しかし、それは大きな隙を生んだ。
シールドの真後ろに付ける形で間合いを詰めつつ、牽制に相手のモノアイへ頭部バルカンを叩き込みながら懐へ飛び込むオーロラ。
その右手には最低出力で起動させたビームサーベルが握られている。
そして相手を刃圏に捉えた瞬間、私は出力を最大に引き上げながらサーベルを一閃させる!
『な…うわぁぁぁぁぁっ……!?』
居合に近い形で振り抜かれた光刃はジンの胴を両断し、上と下が泣き別れた躯は私が後ろへ飛びのくのに合わせるように爆散した。
『ミゲルゥゥゥゥゥッ!?』
通信機が吐き出すアス兄の慟哭。
それに心を痛めながらも小さく息を付こうとした時だ。
「うっ!?」
突然、頭と胸を締め付けるような気持ち悪さが襲ってきた。
「マチュ! 余計ナモノ、感ジルナ! 壊レル! 壊レル!!」
「アム…ロ……」
アムロの言葉で理解できた。
これはさっき倒したジンのパイロットが残した無念や悔恨といった残留思念。
つまり、これが人を殺めた私の罪・穢れなのだ。
「コォォォォォォ……」
それを自覚した私は大きく息を吸い込んで肚に溜めると、お腹をへこませるようにゆっくりと吐き出した。
これは『
へその下にある丹田に氣を集めて生命力を高め、天地自然の氣と身体を同化させることで心身を清め健康な長生き(息)を目指す。
私は大和会の熟練した神職の指導でこれを習った。
「
そして小さく唱えるのは『
あらゆるものの罪穢れを「祓い清め」ることができる言霊が宿る
すると頭と胸を締め付ける枷が消え、思考がクリアになっていく。
帝は古代より日本の象徴であると同時に、祭祀の中心として神事を司る祭祀王でもある。
だから神道の諸々を学ぶのは皇族としての教育の一つなんだけど、こんな形で役に立つとは思わなかった。
『くっ! よくもミゲルを……!!』
『殿下には指一本触れさせん!!』
改めて意識を外へ向けると、夜刀神がスピードを生かしてアス兄の機体をけん制してくれていた。
夜刀神は衝角による突撃がメインだから、機体の各所に姿勢制御用のアポジモーターが増設されている。
だから、通常のメビウスに比べて小回りがかなり効くのだ。
それでもGAT-Xの機体を相手にするのはキツいだろうに、時間を稼いでくれた獅子吼には本当に頭が下がる。
『くらえっ!』
『なにっ!? ぐぅぅっ!!』
そんな中、獅子吼はアス兄がライフルを構えるのに合わせて近距離で鳳仙花を発射した。
まさか射撃にミサイルでカウンターを合わせると思ってなかったのだろう、ビームを撃つより一瞬早く弾けた鳳仙花の散弾はアス兄の赤い機体に次々と叩き込まれる。
「今だ!」
そして私はその隙を逃さなかった。
小口径とはいえPS弾殻の弾で全身を打ち据えられ、体勢が崩れた赤い試作機の懐に入ると同時に攻撃できないように両腕を押さえた。
「アス兄! 退いて!!」
そう私が声をかけると、接触通信で繋がった通信機越しに相手の息を呑む音が聞こえた。
『マチュ! やっぱりお前が乗っていたのか! 何故だ!? 何故ミゲルを……!!』
一拍子置いて通信機から吐き出されるアス兄の声。
そこには困惑と怒り、そして悲しみの感情があった。
「アス兄こそ、どうして戻ってきたのさ!? あの時ヘリオポリスから離れたのは仕事が終わったからじゃなかったの? 今度こそココを潰せって命令でも出た?」
『っ!? そ、それは……』
「さっき何故って聞いたけど、そんなの相手が先に撃ってきたからに決まってるじゃん! アス兄は事情を知ってるから止めてくれると思ったのに、こっちだって殺されかけて必死だったんだったの! それに、ここのシェルターには
『小父さんと小母さんが…死ぬ……?』
相手が怯んだところで更に畳みかけると、アス兄はショックを受けたように言葉を絞り出す。
「あと、ここの軍事工場にはキラ兄だっているんだ! キラ兄はザフトの攻撃から避難しようとして、偶然連合のモビルスーツ見ちゃったから機密保持とかで捕まっちゃったの!!」
『そんな……!?』
「知り合いの軍人さんが保護しようとしたけど、キラ兄は身を護る為にМSを操縦したとかで返してくれなかった! アス兄がそのМSを狙ったら、今度はキラ兄と戦う事になる! だって、連合の軍人さんは機体を動かせないって言ってたもん! またキラ兄に乗れっていうに決まってる!」
『だったら……! キラを説得して、機体と一緒にザフトで保護すれば……!』
「そんなことしたら連合どころかオーブからもスパイ扱いされて、キラ兄が二度と国に戻れなくなるよ!」
『ならどうしろというんだ!?』
「だから、さっきから退いてって言ってるじゃん! 連合だって何時までも中立国の子供を逮捕し続けるなんてできないだろうし、父様は政府のお偉いさんに知り合いがいるって言ってた! その人に頼んで早く返してもらうようにするから!」
『……わかった。その代わり、君はすぐにそのМSを降りるんだ!!』
「分かってる」
アス兄の言葉に試作機の腕を放すと、アス兄はこちらを何度か振り返りながらコロニーの出口へ飛んでいった。
『殿下』
「すみません。あの機体を墜とせぬのは私の弱さです」
こちらを気遣う獅子吼に私は苦いモノを呑み込みながら言葉を返す。
大和会の武門を束ねる者、
故に相対する者が肉親でも容赦するなとも。
私が背負う大業を思えば、懐へ入った時に説得せずアス兄を斬り捨てるのが正解だった。
それを選べなかったのは、私情に傾いた己の弱さだ。
「大丈夫。次は同じ愚を犯しはしません」
自分に言い聞かせるように呟くと、低重力によって宙を漂っているシールドを回収した私はコロニーの出口へ向かってオーロラを飛ばす。
この大戦で世界は大きく変わるだろう。
それは私達日本人の悲願を達成する好機。
私は何時までも『マリ・ヤマト』ではいられない。
モラトリアムの終わりは、すぐそこなのだから。
次回・アデスの胃、死す!!