「…………つまらないわね」
「気遣わなくても、いつでも帰っていいんだよ。その手伝いもするから」
「…………それは勿論──近いうちにそうするつもりだけれど」
独り言に返事があるのは久し振りで、少々気まずい。台所から聞こえる作業音が掻き消してくれたら良かったのに。
暇な時間を潰せるようにと、彼は立ち上げたノートパソコンを放置したまま料理を作っている。
──幼い頃なら、彼の献身に対して何とも思わなかっただろう。それが当然だったから。
今は、その異常性が分かる。彼の無防備さと、見返りへの執着の無さ。明らかに、一般的な人間のそれよりも狂っている。正直に言えば、身体を求められても仕方がないくらいには思っていた。そうしてくれないから、ここを出ていく理由が自分の中に見つからない。
無菌室にいる気分だ。無償で無性に提供される不愉快の無さは、あとは天国に行かねば見つからない感覚なのだろう。
そんな人間がいなければ生活が行き届かない私は、きっとやはり弱い。
腕の無い生活は、正直に言うと悪くは無かった。
それがどれほど精巧なものであっても、既に私の生涯の内半分以上は腕の無い状態で過ごす時間だったから、やはり義肢の存在は私にとって邪魔だったのだ。今更になって気が付いた。
……それでも何も不自由がないということには感謝するべきなのだろう。なのだろうけれど、どうしてだろう。あまりそういったものが心底からは湧いてこない。私は性格が悪い。
「パスタ、もう茹でちゃっていい?」
「いいわよ」
ボロネーゼのスパゲティ。既製品を使わず自作。独り暮らしにしては、凝ったものを作るものだ。
こういうところで自立している人間のことは、どうしても羨ましい。彼は特にそうだ。仲の良い人間がいないということはつまり、誰にも援助を求めることができないという意味。
五人姉妹の長女であり、過保護で面倒な母親がいて、一応友人らしき存在もいる身ではある。だから、申し訳ない事に、理解ができなかった。あんなに広い場所で、あんなに人間がいて、あんなに人間が喋っていて、それでも一人で歩き続ける彼が。誰にも挨拶を交わさず、私がいなければ誰にも注目されなかったであろう彼が。派手ではないなりに目立つ格好をしていることも、一切関係ないまま。
──どうしても、目の前で繰り広げられるつまらない動画よりも、忙しなく働く彼の方に意識が行く。
どう考えても、今はそっちの方に興味があった。面白いとは思わないけれど、それでも。
無言で立ち上がり、足を使って、クローゼットを開ける。
大学生らしいのかどうなのか、大量の衣服と、行き場を喪ってしまったらしい大量の本が雑多に並んでいた。まるで遺棄場所だった。墓標のよう。
ここにある本を全て読んでみたのなら、彼のような思考回路になるのだろうか。
そう思ってしまった瞬間、反射的に舌打ちが出た。全て燃やしてあげたかった。現実を変えるような力を全く持たない、ただのインクと紙の束。こんなものに囚われている彼の脆さに腹が立った。それで彼が泣くのなら、その時に初めてこの胸のつかえは取れるのだろうと思った。
まあ。
腕が無いから、できないのだけれど。
腕が無いから、そう思うのだろうけれど。
それでも、開かれないと意味を持たないものに、一体どんな価値があるというのだろうか。やっぱり、私には分からなかった。分かろうとしていないだけかもしれなかった。
▲▼▲
──彼女を連れて大学に向かうのにも、慣れてきた頃だった。
地上の電車を使って、帰路に就いていた。車窓から流れて行く景色を、少女は流し目で、物憂げに眺めている。
その瞳の中を、金魚鉢の中を優雅に出目金が泳ぐように、光の束が横切ってゆく。次から次へと。
「ねえ」
囁くような声が聞こえて、ふと我に返る。
つい数秒前まで視界の中にいた筈なのに、いつの間にやら付近に寄りすぎていて、大幅にフレームアウトしていた少女の全体像。他に乗客のいない車内ではそこまで声を抑える必要も無い筈なのだが、やはり長らく培われた常識の力によって
いい香りがする。……馬鹿げた値段がするボディソープを使っているので、当たり前なのだが。
「どうしたの」
「あそこに、神社が見えたの。鳥居が」
「行ってみたい? 少し歩くかもしれないけど」
「私、歩くのは好きよ」
行きましょ。
そんなふうに彼女は言った。言い切って、あとは視線を逸らして、律儀な姿勢で隣に座っていた。
「私ね」
「うん」
「好きなのよ。神様がいる場所」
そのまま、呟くように、彼女は言った。
普段のざらついた加害性の声とは大きく異なった音色。
「そっか。じゃあ、行こう」
「そうね」
ただそれだけのことが、嬉しかった。
彼女が何かを好きであるということが。それが、諧謔の為に用いられる言葉ではなくて、純粋な想いで発露した事象であるという事実が。
電撃のような強さではなかった。
ただ澄んでいた。
──彼女が発したその文字列が、この世界に滞留して残っているだけで、幸せな気がしてしまった。
随分と、長い山道を登ってゆく。
二十代に突入したばかりの男の肉体ならまだしも、彼女の痩身では大変だろうと思っていた。
「置いてくわよ。情けないのね、貴方」
「まだまだ……まだまだ大丈夫…………」
随分と体力がある。しかも足が速い。平地と変わらない速度で歩いている。それも例のハイヒールで。
まず間違いなく、自身が情けないのではない。彼女が少しばかり──いや大分──本当に──強靭すぎるだけである。これがこの年齢の女の子の平均であってたまるか。
「……ノートパソコンが邪魔なんだよね。充電器と合わせるとほんとに重たいんだよ」
「女々しいわね」
それは、本当に、そう。
「……それにしても、気分が良いわね」
「そうだね。一応インドア派ではあるんだけど、運動するのは楽しい。同感だよ」
「いえ、あまりに標高が高いから。色んな人間を見下せるでしょう?」
「……うーん。素直に肯定できないかも。というかお姫様は何処であれ誰であれ見下してるでしょうに」
「それはそれ。喜べるときに喜んでおいた方が良いんじゃなくって? 特に貴方は背が低いのだから」
「その所為で腰と自己肯定感も低くてね」
「対人能力の間違いでしょう?」
「あ、そこを右だって」
「はいはい」
そうして歩くこと数十分。
取り留めなのないことばかり語った。喋った。
少女はいつも平坦だった。彼女は常に自分の瞳に映るものについて語っていた。
男は柔軟だった。ありとあらゆる手段を用いて少女からの毒を最大限に受け入れていた。同時に、自分の脳髄が感知することばかり語っていた。
「流石に石段は危なくない?」
「そうかしら」
「角度が一定じゃないし、万が一踏み外した時に手摺掴めないでしょ。貴方が器用とかそうじゃないとか以前の問題でさ。そんなハイヒールじゃ流石に危険すぎる」
そんな風にして、ぽつぽつと並ぶ住宅街を区切るように境内に繋がる石段が鎮座する場所に到達した。
そうまで特筆して高いというほどでも無いが、そもそも神社の石段というものは平均して見上げる程に高いものだ。その例に漏れない石段は、長い山道を踏破した後に待ち受けていて、酷く辟易とさせられる。
「それこそ、見下すとまでは行かないけれど、威光を見せるためにはやはりある程度の高度が必要なのかもしれないわね」
「少しだけニュアンスが違う解釈を提示すると、参拝するときにわざわざ登って行かないといけないっていう状況そのものが大切なのかもしれないって思ってる。一苦労かけて、自分の意志で、参らされている。それも、見上げる程高い場所に。──敬意っていうのはそういうものに抱かれるのかもしれない」
「どうだか。運動不足の酸欠状態で頭が朦朧としているから、その所為で過度に信仰心を抱くようになっているんじゃなくって? 何かに入れ込んで信仰するなんて、基本的にまともな精神状態・肉体状態で行われる行為ではないのだし」
顎で誰かを指し示しながら、少女はそんなことを言った。余裕の表情。息が上がっている様子もない。
一方でそこそこ体力を持って行かれた話し相手の男は、特に反論できることも残念ながら無いので、というかそんな体力も無いので、曖昧に微笑んでお茶を濁す。そんな態度が気に食わなかったのか、彼女はまた踵で自身の彼の指先を踏み潰す。毎度毎度的確に痛い。
「じゃあ、おぶりなさいな。私はどちらでも構わないのだし。貴方の好きにさせてあげるわ」
「それは嬉しいね、本当に──お姫様抱っこと背中に背負われるの、どっちがいい?」
「拘りはないわ」
そんな訳で、男は少女の軽い身体を自身の胸元まで抱き上げた。
普通なら首の裏側に掌が回る筈の姿勢だが、彼女は生憎それができない。だから、その代わりに彼の方へと身を寄せて、甲虫の幼虫のように身を丸めた。
胸元に、当たる感触があった。
彼女の右肩。閉じられた肉の蓋。中途半端に突き出そうとして盛り上がっている中央部。カルシウムと髄でできた、人体の内部に安置されているべき塊。
「……醜いでしょう?」
「どうかな。俺は、凄く可愛いと思うよ。貴方のこと」
必死に避けていた視線を今だけは合わせて、そう言った。彼女に見上げられるのは久し振りだった。
心臓が跳ねている。電流が迸っている。臓腑が感電して焼け付くような気分がする。どきどきする、びりびりする。
痛い。
致命に至る程に痛い。
「……ふふ」
一歩ずつ、踏み締めるように歩き出した。けれど、前なんて見なかった。ただ、必死にその蒼を眺めている。深海に似ている。陳腐な形容になるけれど、マリアナ海溝に似ている。古代魚が泳いでいるのだろうか。沈んだ鯨が食われているのだろうか。彼女の瞳の奥にある脳髄の中では、今どんな音が鳴っていて、どんな生態系が作り上げられていて、どんな海流が捻れて流れているのだろう。涙という美しい碧を湛えて揺れる少女の瞳孔に浮かぶ電気信号は、見上げた世界を映し出して、それを解釈する為にぱちぱちと弾けている。海の中からエディアカラ生物群が生まれたときの反応は、きっとこんな風だったのだろう。彼女が生み出すガラパゴスは、セフィロトの樹よりも激しく多く枝分かれを作って、その棘が今、このちっぽけで無価値な男の心臓に幾つも突き刺さって、返しが食い込んで、引き抜けず、血塗れになって、いっそ血管の一部に成り代わって──。
「着いてるわよ」
──いつの間にか、鳥居の足元で立ち止まって、ただただ彼女を見下ろしていた。
「……ごめん。夢中だった。貴方の瞳の生物多様性が」
「何を言ってるのかさっぱり。……あんな話をした直後なのに、何も思わず石段を登るなんて。真ん中を闊歩したわけでもないのに、一番に不敬よ貴方は、本当に……」
長い睫毛を揺らしてくつくつと屈託なく笑いながら、少女はその首を傾けて、額を彼の首筋に押しつけた。
──それが、自身からの視線から逃げようとしたからだと気付くのには数秒を要した。彼女の真っ白な頬が僅かに紅く染まっていなければ、きっと一生気が付かなかっただろう。
「ちょ、ちょっと。もう良いでしょう。降ろしなさい」
「あ、ごめん。……駄目だな。最近耄碌したのか分からないけど、明確に頭が悪くなった」
「そうなの。いつから?」
「そうだなあ。…………あ」
「何?」
「いや。……我ながら、随分と馬鹿なことを考えたものだなって思っただけ」
「……そうなの?」
「あんまり気にしないで」
そんな訳で、対して長くもない参道を踏破して、本殿の目の前まで到達した。
相変わらず冬という季節は気儘で、こちらの事情を汲み取ろうなんて発想すら最初から放棄しているみたいな冷たい風を押し付けようとしている。一方隣に立つ少女はというと、その身体の面積の小ささを利用して器用に自身を防壁にしていた。本当にしたたかな女である。
「賽銭、一緒に入れとくよ」
「ご勝手に」
がらんがらん、と、最古の形の呼び鈴を鳴らす。
礼、礼。
いそいそと手袋を外して、威勢よく柏手を鳴らす。
礼。
「信心深いのね」
「わざわざ来たのに無碍な態度を取るほど不信心って訳じゃないの。ただそれだけ」
「じゃあ神様は信じてないの?」
「さあ。人間の世界は所詮錯覚の世界だからね。最初から存在しないんだったら、今俺たちが神様って概念を知ってるってことが有り得ない。神様について論じている時点で、存在しない概念よりは存在してるんだと思うよ」
頭を深々と下げたまま、そんな会話をする。神前でするようなものでは無いのだろうが。
代わりに、脳内で簡素に挨拶を浮かべておく。きちんと住所から始めて、丁寧に、慇懃に。
「……私も、神様はいると思うわ」
「一緒だね」
「…………少し違うわ」
隣の少女のことを願っていると、当の彼女は気怠げに立ち竦んだまま、そんなことを言っていた。
頭を戻して隣を見遣る。
彼女は真正面を倦んだ瞳で眺めている。本殿の奥の奥を貫くように。
「私、昔、神様だった気がするの」
怒りを表明するような風が、二つの身体の間を真っ直ぐに突き抜けた。
何となく、少女の方へと一歩ずれる。腕一本分の隙間すら少しだけ超えて、彼女へ。
「腕があるとかないとか、顔が良いとか良くないとか、裕福だとかそうじゃないだとか──そんなものじゃなくて。私は、もっと強かった気がするの。もっと沢山のことができたような気がするの。もっと鋭く居られた気がして、……でも、私は本当はそんなことないの」
彼女は、ただ真っ直ぐに立っている。
「神様だったのよ。私。嘘じゃないわ」
「疑ってないよ。貴方がそう思うなら、そうなんだろうね」
「適当なことばかり言うのね、貴方。嫌いよ」
「俺は意味のある嘘は吐かない。本意じゃない阿諛追従に興味はない。お分かり?」
「……どうだか」
依護メルティは、ぼそぼそと、唇の先で噛み締めるような声で呟く。真っ直ぐ立っている。神体と向き合って立ち竦んでいる。
「根拠は?」
「だって。俺は今の貴方しか知らないけど、もしも貴方が神様だったなら、どれほど良いだろうって思う」
「嘘」
「嘘じゃないさ。だって、貴方が中心に世界が作られてるとするならば、俺はこの世界から嫌われていることにちゃんと理由があるって思える」
少しだけ瞳孔を動かして、見下げた。その先にいる男は屈託無く、照れたように、それでもなるべく無表情を崩さないように頑張っているみたいな顔で笑っていた。私だけが馬鹿みたいだった。
私はいつもいつも嫌になる。貴方ばかりがいつも汚れていないのが嫌になる。貴方に嫌うだけの瑕疵が無いことが嫌になる。
こんなに醜くて意地悪い女に、どうしてそんな態度でいられるのか。
認めよう。貴方に詰られたい。糾弾されたい。貴方に押し付けられたい。殴られても蹴られてもいい。私はみっともなく泣いてあげる。貴方の腕に抱かれてあげていい。酷い中傷をされてもいい。愛し合うみたいに口喧嘩をしよう。帰りの電車の中で、ごめんなさいって私から言ってあげてもいい。いっそのこと。……今なら貴方に犯されたって良い。私は腕が無いから、腕を広げる代わりにはしたなく足を開いて貴方を受け入れてあげてもいい。抵抗できないまま、貴方の首筋に噛み付いて、貴方に顔は見せてやらないの。
「貴方が神様だったなら、貴方が太陽も木星も月も振り回してくれるのなら、貴方が海を捻じるのなら、俺はそれで良い。貴方がそれほどの神様じゃなくたって良い。貴方が作為を以てこの世界にいるんだったら、それはどれだけ価値があって──そんな世界に生きられるだけで、俺は幸せだよ」
「分かったわ。もう黙って」
「……嘘じゃないよ」
「分かってるわよ」
私は神様だった。
一人で構わないくらい美しくて強い神様だった。
私の我儘一つで幾らでも世界が動いた。
世界だって救えた。好きな男だって女だって虜にできた。
貴方に信仰されるのは、好きだった。
貴方を顎で使って、貴方が行動を汲んでくれて。貴方のソレは暖かくて良かった。私ははっきりと悦楽していた。私はそれに足る存在だから。
貴方がただの従僕じゃないことが嬉しかった。貴方の幻想が美しくて好きだった。どれほど現実に対して非力でも、私の心は満たされた。私の凍てついた魂には、それほどまでに無力で、それほどまでに滑稽で、それほどまでに潔癖な言葉でなくては駄目だった。
私は、それでも。
いつも貴方を疑っている。
貴方のことが気持ち悪い。
私は。
貴方のことが。
要するに、私は弱いのだ。
貴方が愛するほど強くないのだ。愛されるにも一定数の強さが無いといけないだなんて、知らなかった。
不愉快だった。心底。ほんっとうに。
貴方は──ねえ。貴方は愛されたことがあるの?
貴方は、愛されるほどの強さを持っているの?
「……お姫様は、参拝しないの?」
「私にどうしろって言うの。足踏みしろなんて、たまらなく不敬でしょ」
「じゃあ、俺が代わりに柏手打つからさ。お姫様はお願いだけしたら良いよ」
「…………良いのかしら」
「そのくらいは当たり前みたいに汲んでくれると思うよ。神様なんだから。神通力神通力」
ね。と、彼は少しだけ目尻を下げて言った。
その瞳は淀んでいた。膿んでいた。やはり、清潔に腐っている。乾いている。張り付いたブルーオニキス。機械的に一点を見つめて、それ以上は動かない。
「……そんなことを気にした訳じゃないわ。馬鹿ね」
もう、立っているのも不可能なくらいに朦朧としてしまっていた。
ぐらぐらとする。揺さぶられてる。存在の根源から。
前後不覚になって、意識が半分程度吹き飛んで、数秒経過。
ぱんぱんと二つの手拍子が鳴り響いて──その音で気付いた。私は貴方に身体を預けている。捥がれて凭れて縺れている。
「ほら。お願いしな」
神前で、私の代わりに手を叩く。なんて、──どんなに正気じゃない発想。神様がなんでも許してくれるほど寛容だと崇め切っているのか、それとも全く、これっぽっちも信じていないのか。
──貴方は本当に、自分を私の腕だと信じて止まないでいるのだろうか。私は本当に貴方が気持ち悪かった。嫌いだった。
「…………もしも、」
私は、神様の実在を信じている。だって私がそうだったから。
けれど、特定の神様を何か信仰しているだとか、他に神様がいるだとか、そんな気は全くしない。いるとするならば精々、月と、海と、川に女神がいる程度だろう。
もしも。
それでも。
目の前にソレがいるというのなら。
私のことを願う気にはなれなかった。そこまで恥知らずにはなれなかった。
ただ、貴方のことを願ってみた。
願わくば──。
私の知らないところで、勝手に幸せにしてあげて欲しい。この、救いようも無い無害性を。
悪い人なんかじゃないから、あまりに報われてなさすぎるから。きっと誰が見ても幸せになるだけの資格はある筈だから。
でも、私は性格が悪いから。
貴方が幸せそうに笑っている様なんて、直接、見たくなんてなかったのだった。
「……行きましょ」
「随分長くお願いしてたね」
「そうかしら。私からすれば、一瞬にも満たなかったわ」
「……そう」
彼は相変わらず、にこりと笑っていた。
貴方は何を願ったのだろうか。想像もできなかった。貴方が私のことなんか分からないのと同じで。
読了ありがとうございます。感想、評価をくださると幸いです。
貴重なFGO要素の回収です。
まだまだ続きますので、是非とも付き合ってください。