VRMMOで【食屍姫】になった無職だけど、現代ダンジョンでも化け物扱いされ始めて嬉しいです! 作:ちんこ良い肉
「さて、と……まずは進化ね」
私は手慣れた動作でメニューウィンドウを開き、光る通知欄へ指を滑らせた。
優先すべきは、もちろん【捕食】の進化だわ。
今の私にとって、食べることは回復であり、強化であり、快楽であり、存在理由そのものでもある。
ならば、ここをどう伸ばすかが、今後の全部を決めるに決まっている。
淡く発光する選択肢が二つ、目の前へ展開された。
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【スキル進化候補:捕食LV10】
■【捕食活性】
捕食行為に応じて、一時的な身体活性化バフを得る。
捕食量・捕食対象の質・鮮度に応じて、STR / VIT / AGI / 回復力へ補正。
戦闘中の捕食と極めて高相性。
※バフは時間経過により減衰・消失します。
■【存在捕食】
捕食行為に応じて、ごく微量の恒久的な自己強化を得る。
捕食対象の質・格・特性に応じて、基礎能力・耐性・存在情報の一部を永続的に蓄積。
効果量は極小ですが、原則として消失しません。
※一度取り込んだ変質は、通常の手段では除去されません。
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「……そうよねぇ」
私は顎へ指先を当て、小さく息を吐いた。
【捕食活性】。
これはこれで、実に強い。戦いながら食べれば食べるほど、その場でどんどん強くなっていくわけだもの。今の私の戦い方とはよく噛み合っているし、分かりやすく便利だわ。
でも。
「すぐ消える“食べるメリット”なんて、美味しいとか、お腹が満たされるとか、その程度で十分なのよね」
私は静かに呟いた。
どうせなら一口ごとに確実に、二度と失われない何かを積み上げていく方がいいに決まっている。
現実の私に必要なのは、瞬間火力ではない。
継続。蓄積。逃げない強さ。
この先もずっと、私を裏切らずに残り続けるものだわ。
「こちらね」
私は迷うことなく、後者――【存在捕食】のパネルへ触れた。
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『――スキル【存在捕食】を獲得しました』
『――以後、捕食対象の一部が恒久的な自己強化として蓄積されます』
『――当スキルは極めて緩慢に成長します』
『――ただし、一度獲得した変質は原則として失われません』
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胸の奥へ、熱とも冷たさともつかない感覚が、静かに沈んでいく。
派手ではない。けれど確かに、今の私は、さっきまでの私とほんの少し違う。
「ええ、そういうのでいいのよ」
私は満足げに笑って、次の通知へ視線を移した。
いよいよ、存在進化。
こちらが本命だわ。
選択画面が展開されると、そこにはこれまでよりもずっと多い情報量を伴った進化候補が並んでいた。どうやら今回は、単なる上位互換の分岐ではないらしい。生態そのものの再定義に近いのだろう。どれも、今後の生き方を決定づける進路に見えた。
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【存在進化候補一覧】
個体名:ノア
現種族:【ハイグール】
進化段階:第二位階到達
総合スキル値・捕食適性・変質率・対人格接触履歴を参照し、進化候補を提示します。
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■【グールロード】
【系統】不死・喰屍王統
【進化傾向】均衡型 / 支配型 / 近接万能型
【概要】
グール種の王統進化。
身体性能、再生能力、耐久力、統率力を高水準で引き上げる、もっとも安定した上位進化先。
下位の屍食種や墓域系モンスターへ威圧補正を持ち、群れの主として振る舞いやすくなります。
【主な特徴】
・総合性能が高く、継戦能力に優れる
・単独でも群れ運用でも強い
・死地や汚染地帯への適応力が高い
・人間社会への擬態性は限定的
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「ふむ……」
私は小さく頷いた。
これはたしかに、とてもバランスがいい。王道の強さ、という感じだわね。何をするにも安定しているし、単純にハズレがない。
でも、私は別に王様になりたいわけではないのよね。もっとこう……現実の社会へも、何かしら応用の利く方向が欲しいのだわ。
次へ指を滑らせる。
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■【屍餐魔導妃】
【系統】屍食・魔導・召喚統
【進化傾向】後衛型 / 眷属運用型 / 汚染増殖型
【概要】
捕食で得た死体情報や素材情報を、術式や眷属へ再構築する魔導型進化先。
自分で食べるだけでなく、“配下に食べさせる”ことでも自己強化が成立する、戦略的な分岐です。
【主な特徴】
・眷属経由の間接捕食還元が可能
・探索、拠点戦、消耗戦に強い
・配下の運用で危険地帯への適応力が高い
・即効性のある近接制圧力はやや低い
・人目に付きやすく、秘匿性に難あり
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「これは……なかなか嫌らしくて良いわね」
私は目を細めた。
配下へ食べさせて、その成果を自分へ還元。
実に合理的だし、ずる賢い。私の嫌いじゃない発想だわ。
けれど、やや外回りなのよね。
私はそこまで可愛い使い魔ときゃっきゃしたいわけでもないし、何より自分の口で美味しく食べたい。食べたという実感が欲しいのだわ。配下任せでは、少し味気ない。
さらに次。
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■【暴喰巨妖】
【系統】暴食・怪力・肉塊統
【進化傾向】前衛特化 / 物理制圧 / 飢餓肥大型
【概要】
大喰らいとしての性質を最大限へ押し広げた、パワー&食欲特化型進化。
捕食量に比例して体格・筋力・消化力・再生速度が増大し、戦闘と捕食の境界が曖昧になります。
【主な特徴】
・単純戦闘能力が非常に高い
・捕食と回復と破壊が直結
・雑魚掃討、物量制圧に強い
・擬態性、秘匿性、潜伏性が低い
・空腹時の精神負荷が増大しやすい
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「……ええ、これも分かりやすく強いのだけれど」
私は小さく肩を竦めた。
私とも好相性で、単純に強くなるならたしかに魅力的だわ。
でも、駄目ね。これは駄目。あまりにも“怪物寄り”すぎる。
私は現実で生きなければいけないのだもの。
ただ巨大で強いだけの怪物になったところで、結局は山へ捨てられる未来しか見えない。私が欲しいのは、もっと現実で役に立つ力だわ。怪力だけでは足りない。人間社会へ食い込むための、擬態性や浸透力まで含めた強さが欲しいのよ。
そう。前三つは、どれも強い。
でもどれも、決定的に足りない。
【グールロード】は王だとしても、社会へは入れない。
【屍餐魔導妃】は合理的だけれど、自分の口で食べる悦びが遠い。
【暴喰巨妖】は強いけれど、あまりにも露骨すぎて、現実の私が終わる。
私が欲しいのは、もっと現実へ効く力。
会話が終わっていても、気が利かなくても、反応が遅くても、それでも社会の中へ潜り込めるような何か。
強いだけではなく、馴染めること。
あるいは、馴染んでいるように見せられること。
そう思って、指を離しかけた、その時だった。
候補一覧の最下段。
さっきまでは存在しなかったはずの空欄へ、ノイズみたいな黒い線が走った。
びしっ。
びし、びしびしっ。
画面そのものが内側から汚染されていくみたいに、表示領域がじわじわ黒ずんでいく。通常の青白いシステム表示とは明らかに違う。
まるで、正規の候補一覧へ、何か別のものが割り込んできたみたいだった。
私は思わず息を止めた。
「……何、これ」
警告じみている。
でも、それ以上に甘く、ねっとりとして、嫌に私の指先を引く感じがあった。
そして。
最後の候補が、ゆっくりと表示された。
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■■■ 隠し進化候補を検出しました ■■■
■【食屍姫】
【系統】暴食・擬態・汚染王権統
【進化傾向】捕食特化 / 社会浸潤型 / 高汚染性個体
【概要】
世界を食い尽くした暴食の捕食性生物【喰界屍妃】。
その幼体(ラルヴァ)に相当する、極めて危険な隠し進化先。
当個体は、捕食・擬態・汚染・社会浸潤を一体化した“文明寄生型の捕食王種”です。
飢餓を満たすためだけに、
喰らうために社会性を学び、
喰らうために他者へ好かれ、
喰らうために言葉を使い、
喰らうために人間社会へ適応する。
暴食と社会性を併せ持つこと。
それこそが、この系統の本質です。
【発現要因】
・高度な捕食適性
・対人格捕食の実行記録
・現実社会への適応欲求
・擬態性と飢餓性の異常な両立
・【存在捕食】取得による恒久変質傾向
上記条件の複合により、通常候補外から当進化先が検出されました。
【生態】
本種は、孤立した怪物として森や墓場に留まりません。
むしろ都市、集団、共同体、家族、組織、ネットワークなど、“人間が密集している場”ほど高い適性を示します。
無害そうに微笑み、
哀れさを見せ、
善意を引き出し、
庇護と油断と依存を誘いながら、
もっとも効率的な捕食環境を構築します。
高位成長個体【喰界屍妃】は、単に対象を喰うのではなく、倫理・関係性・価値観・秩序を汚染しながら、世界を“喰いやすい形”へ変質させることが確認されています。
【特徴】
・【暴喰巨妖】系統を凌ぐ大喰らい
・【グールロード】系統を上回る対人浸透性
・狡智、演技、交渉、依存誘導を捕食の道具として使用
・肉体だけでなく、心理・関係・社会構造そのものを“食う”方向へ成長
・現実社会、都市環境、人間関係への適応性能が極めて高い
【備考】
当進化先は高度な汚染性を有します。
通常進化先と比較して、倫理・精神・存在構造への影響が強く発生する可能性があります。
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