VRMMOで【食屍姫】になった無職だけど、現代ダンジョンでも化け物扱いされ始めて嬉しいです!      作:ちんこ良い肉

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2章です。今後とも紬をよろしくお願いします。
ここ好き、評価、お気に入り、誤字報告、感想いつもありがとうごさいます。


大嫌い、私の■■■■■
第23話


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 日本の心臓部――総理大臣官邸、地下深くの特別防空壕に設けられた極秘会議室。

 分厚い防音扉に閉ざされたその空間には、重苦しく、ひりつくような沈黙と紫煙が立ち込めていた。

 

 円卓を囲むのは、内閣総理大臣をはじめ、防衛大臣、警察庁警備局長、そして内閣情報調査室のトップなど、この国の裏と表を握るごく一握りの最高権力者たちである。

 彼らの視線の先、モニターに映し出されているのは、中国の某所――人跡未踏の深く古い遺跡から発掘されたとされる、古びた一冊の書物の画像だった。

 

 その名は【接続新書】。

 

 ファンタジーやSFといったフィクションの概念が、七つの段階を経て現実世界を侵食し、やがて世界そのものを根本から改変していく過程を記した予言書である。

 発見当初、各国の情報機関はそれを、カルト教団の与太話か、質の悪い偽造文書だと一笑に付していた。だが、その認識は、ほどなくして覆された。

 

 読むだけで人間の脳髄の構造を書き換え、物理法則を無視した『魔術』を習得させる【魔典】の実在が確認されたからだ。

 

 これを野放しにすれば、国家秩序は遠からず崩壊する。

 そう悟った各国の指導者たちは、水面下でかつてない規模の極秘協調体制を結び、以後、【接続現象】と呼ばれる超常の顕現を、武力と情報統制によって徹底的に封じ込めてきた。

 

 理由は単純だった。

 パニックの回避。

 神秘の軍事転用競争の防止。

 宗教、経済、市場、国家そのものの基盤崩壊の抑止。

 そして何より、誰か一国が“先に神秘を握った”と誤認された瞬間、人類社会そのものが別の意味で終わると分かっていたからだ。

 

 現在に至るまで、人類は多大な犠牲を払いながら、第四段階までの接続現象を秘密裏に処理してきた。

 

「――これまでの推移を再確認する」

 

 内閣情報調査室の室長が、乾いた声で報告を始めた。

 

「第一接続、【魔典】。読むだけで致死的魔術を習得させる危険書物群。これは各国特殊部隊によって回収・焼却・物理的隠滅を完了」 「第二接続、【童話】。精神と現実の境界を曖昧にし、空間そのものへ狂気を撒き散らす特異領域。これは国際協調の下、島ごと海底へ沈降処理」 「第三接続、【海歌】。有機物・無機物を問わず捕食し、環境へ無限適応しながら増殖する深海性怪物群。初動段階でアメリカ軍が超小型戦術核を投入し、適応完了前に焼却殲滅」 「第四接続、【魔王】。近代兵器の一切を無効化する不可視の力場を持った怪物群。我々の武力では対処不能でしたが、突如覚醒した単一の規格外個体――通称【勇者】の単独介入によって殲滅を確認」

 

 そこまで語って、室長は重い息を吐いた。

 第一から第四まで、どれ一つ表の歴史へ漏らせば世界中が発狂しかねない“神秘”の顕現である。

 

「問題は、その次です」

 

 室長の声音が、さらに低くなる。

 

「第五接続【羽化】。予言書には、簡潔に『人が変化する』とだけ記されている。我々は、現在世界中で爆発的な広がりを見せているフルダイブ型VRMMOの【特別テスター】と呼ばれる一部プレイヤー群が、その前兆を示している可能性が極めて高いと分析しています」

 

 モニターへ、いくつかの機密映像が並ぶ。

 指先へ発火現象を起こした青年。

 説明のつかない自然治癒を見せた女。

 夜間にもかかわらず、数キロ先の臭気へ反応したとされる観測記録。

 どれも単独なら気のせい、偶然、あるいは捏造で片付けられる程度の異常だ。だが、それが世界各地で、特別テスターという共通点を持って重なり始めている。

 

「すでに、一般社会へ漏洩寸前だった案件も複数あります。各国とも、事故・薬物・精神障害・編集映像として処理していますが、隠蔽の余地は急速に狭まっています」

 

 総理が、苦々しく眉を寄せた。

 

「……そして、第六接続【迷宮】か」

 

「はい」

 

 室長は頷く。

 

「異空間資源の宝庫であり、国家に莫大なメリットをもたらす反面、これが出現した時点で、もはや“神秘”の隠蔽は不可能になります。第七接続【黄昏】の詳細が不明である以上、我々は第六段階に備え、そろそろ神秘の存在そのものを全世界へどう軟着陸させるか、視野に入れなければなりません」

 

 会議室の空気が一段と重くなる。

 

 彼らの最大の懸念材料。

 それは、現在世界中で運用されている『フルダイブ型VRMMO』のシステムそのものだった。

 

 脳波を完全に仮想空間へ接続し、五感を完璧に再現する夢の技術。

 だが、その根本的なアーキテクチャも、基幹技術を開発した人間の正体も、実のところ世界の誰ひとり把握してすらいないのである。現代科学の延長線上へ絶対に存在し得ない、明白なオーパーツ。

 世界中のVRMMOの大手企業は、それをただ『そういう便利なもの』として割り切り、ブラックボックスのまま利用しているにすぎなかった。

 

 彼らの金の流れは正常。

 運営母体も明確。

 商業展開も真っ当。

 不審な点は、少なくとも表向きには存在しない。

 

「――ただ一つ、【エリュシオンオンライン】というイレギュラーを除いては、な」

 

 警察庁警備局長が、手元の分厚いファイルをテーブルへ放り投げた。

 モニターへ、エリュシオンオンラインのタイトルロゴが映し出される。

 

「このインディーゲームの運営会社、公開情報は全てダミーだ。サーバーの物理的所在地すら偽装されており、誰が、どこで、何の目的でこの高度な世界を構築し、運営しているのか、全く分からない。にもかかわらず、システムは完璧に稼働し、一部プレイヤーへ『特別テスター』という不穏な権限を付与している」

 

 警備局長はモニターを指先で叩いた。

 

「大手タイトルは、ブラックボックスを利用しているだけだ。だが、こいつは違う。利用しているんじゃない。“中身そのものが、何かを選別し、何かを起こそうとしている”ように見える」

 

 誰の目にも明らかな、巨大な異常。

 このゲームの背後にいる存在こそが、第五接続【羽化】を意図的に引き起こそうとしている黒幕である可能性が極めて高かった。

 

「これを封じ込めてサーバーごと破壊するにせよ、いずれ明かさねばならない神秘の先駆けとして利用するにせよ、まずは内部からの徹底的な情報収集と、システムそのものの掌握が必要不可欠です」 「すでに手は打ってあるのだろうな?」

 

 総理の鋭い視線に、警備局長は深く頷いた。

 

「ええ。この異常事態の深淵を探るため、我が国の公安警察から、選りすぐりの精鋭を何人か“プレイヤー”として内部へ送り込んでいます。単なる情報収集ではありません。必要とあらば、システム内部から運営の目論見を物理的、あるいは論理的に破壊するための特務部隊です」

 

 モニターの画面が切り替わり、一人の青年の顔写真と経歴が表示された。

 

 鋭い眼光。

 怜悧な顔立ち。

 対異能対策格闘術、諜報戦、暗号解読、要人保護、現場即応判断、全てにおいて歴代最高水準。

 表沙汰にならない“神秘案件”の現場でも、一度として任務を取りこぼしたことのない、公安の最高傑作。

 

「部隊を牽引する筆頭は、彼です」

 

 警備局長が、その名を重々しく口にした。

 

「――公安部特別事案対策班、玉織龍(たまおり・りゅう)。いかなる神秘や怪物が立ち塞がろうとも、必ずや特務を完遂する男です」

 

 会議室の空気が、わずかに変わった。

 その名には、この場にいる誰もが一定以上の信頼を置いているのだ。

 

 彼が現場へ入るなら、少なくとも最悪の裏切りは起こらない。

 たとえ相手が魔術であれ、怪物であれ、国家の理解を越える何かであれ、最後まで任務を優先する男。

 それが、この場における玉織龍への評価だった。

 

 もっとも。

 

 その男が、あの玉織紬と玉織朔という、規格外の狂気を宿した姉妹の長兄であり。

 しかも妹たちからは揃って「歩く一族の恥」と蔑まれている存在であることを、この場の首脳陣はまだ誰も知らない。

 

 国家の命運を賭けた極秘ミッションは、最も面倒で、最も混沌として、最も身内の情と地獄が絡みついた一族を、静かに巻き込み始めていた。

 

■■■■

 

「むぐむぐむぐむぐ!んぐんぐんぐ!ぷはっ!もぐもぐむぐむぐ!」

 

 私は【身体変性】で右腕の骨と肉を無理やり変形させて作り出した、生体の大剣を振るい、さっきまで空を飛んでいた大きなトカゲみたいな魔物――レッサーワイバーンを、綺麗なサイコロステーキになるよう切り分けていた。そして、それを手の口と顔の口の両方で、夢中になって頬張っているところだった。

 

「うまっ! これうまっ!」

 

 種族が【食屍姫】へ進化してから、リアルでもゲームでも、ただでさえ酷かった空腹がさらに一段階どうかしてしまっている。お腹が空いて空いて仕方がない。

 でも、空腹は最高のスパイスよ。泣きたくなるほど美味しいわ。

 

==================

『――レッサーワイバーン完食!』

==================

 

「あー! 幸せー!」

 

 顔中を血と脂でべたべたに汚したまま、私は両手を広げて森の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 

 今日は、私が人間を完全に辞めて、新しい【化け物】として生まれ変わった誕生日。

 つまり、今完食したワイバーンのお肉は、私にとってのハッピーバースデーケーキってわけね。最高の贅沢だわ。

 

「化け物ライフ、最高!」

 

 私は近くの茂みを通りかかった、丸々と太った森ネズミを尻尾ごとつまみ上げ、そのままぽいっと一口で丸呑みにした。

 

==================

『――森ネズミ完食!』

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「ごっくん。しっかし、ワイバーン、龍、ねえ……」

 

 龍と聞くと、どうしても長兄の龍兄さんを思い出す。

 

 私が言えた義理じゃないのだけれど、あの兄さんも大概どうかしているのよね。

 運動、勉強、芸術、何をやらせても完璧で、ごく一部の致命的な欠陥を除けば【何でもできる、何にでもなれる】超絶有能な男。特に純粋な戦闘力や暴力のセンスに関しては、あのゴリラでサディストの朔すら凌ぐ、正真正銘の【玉織家最強】の存在だわ。

 

 ただし、その“ごく一部の致命的な欠陥”が終わっている。

 

 兄さんは、美醜も老若も一切問わず、血の繋がった身内以外の【すべての女】へ欲情し、見境なく手を出そうとする、歩く性欲の権化みたいな男なのだ。

 

 直近のやらかしは、今でも玉織家の黒歴史として語り継がれている【ゲートボール事件】ね。

 おばあちゃんのゲートボール仲間である、平均年齢七十五歳オーバーの老婆たち、計五十名。

 そのご長寿の集団へ向けて、龍兄さんが何をどう間違えたのか、人生でもっとも要らない方向への博愛精神をフルスロットルで発揮して、大惨事を引き起こしたのよね。

 

 具体的に何をやったかと言うと、これ以上は私のささやかな倫理観が悲鳴を上げるから比喩へ留めるけれど。

 要するに、五十人の老婆のゲートへ向けて、兄さんが自分のスティックをホールインワンして回ったのだわ。

 

「…………」

 

 思い出すだけで、お腹の底が冷える。

 社会の粗大ゴミである私の口から人のことを言えた義理じゃないけれど、さすがにあれは引いたわ。人間の業の深さを底まで覗き込んだ気分よ。

 

 そういう生々しい下半身の事情へまったく耐性のない末っ子の朔なんて、事件の概要を聞いただけでその場で胃液を吐いていたもの。あのサディスト妹、毎回保健体育の授業をバックレ続けていたせいで、大学生になるまで【赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくる】と本気で信じていたくらいだし、純粋培養の格が違うのよね。

 

 最終的に龍兄さんは、例によってブチ切れた朔により玉織家最終拷問イナズマ椅子の刑へ処され、そのままICUへ直行させられたわ。

 

「まあ、私は……兄さんのこと嫌いなのだけれど」

 

 私は小さく鼻を鳴らすと、目の前へ現れたオークの首根っこを掴み、そのまま頭を引きちぎった。

 

 ぶちぃっ! と鮮血が噴き出す。

 そのまま、もぐもぐと咀嚼。

 

「うんうん、【捕食活性】のおかげで、だいぶパワーが上がっているのを感じるわ」

 

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『――オーク完食!』

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 完食メッセージとともに、ほんの僅かだけれど、じんわりと恒久的な栄養――ステータスが、四肢の隅々へ行き渡っていくのを感じる。

 これが【存在捕食】の効果ね。偉いわ。本当に偉い。

 

「食べるだけで成長できるなんて……やっと、この世界が私のポテンシャルに追いついたのね」

 

 一人で悦へ入っていると、不意に【嗅覚増強】が、これまでとは違う匂いを捉えた。

 

「ん? この匂いは……」

 

 魔物の獣臭さや血の匂いじゃない。

 人間――プレイヤーの匂い。しかも複数人のパーティだわ。

 

「じゅるるるるっ……」

 

 反射的に涎が垂れた。

 人間の肉は、レベルも上がりやすいし、何より脂が乗っていて美味しいのよね。

 

 それじゃあ、不意をついて、ありがたく【イタダキマス】といきましょうか。

 

 私は気配を極限まで薄くし、樹上を音もなく跳び移りながら、ターゲットたちの頭上へ回り込んだ。今の私なら、足音も、呼吸音も、枝の軋む音すらほとんど消せる。【偽装経典】のスキルが、対人会話だけじゃなく、身体の振る舞いや重心移動にまで微妙な【自然に見える補正】を入れてくれているのだ。

 対人スキルって、ただ愛想よく喋るためだけのものじゃないのね。獲物へ忍び寄る時にまで最高に役立つなんて、便利だわ。

 

 眼下に見えるのは、いかにも仲良しグループっぽく統一された装備へ身を包んだ、男女混合のパーティ。

 さて、どこから食いちぎろうかしら――と狙いを定めた、その時だった。

 

 ぴぃんっ、と。

 空気が微かに鳴るような感覚があった。

 

 あれは……向こうのパーティにいる【斥候(スカウト)】クラスが使った【反響定位(エコーロケーション)】ね。前に攻略掲示板で見たことがあるわ。音と振動の跳ね返りを拾って、周囲の位置関係を立体的に把握し、隠れている敵を炙り出す厄介な索敵スキル。

 なるほど。嫌なものを持っているじゃない。

 

「あ……」

 

 下の斥候の男と、樹上の私。

 ばっちり目が合ってしまった。

 

 うへえ。

 バレた。気まずい。

 

 しかも、よく見れば見るほど、いかにもクラスの中の上で楽しそうに生きていそうな、真っ当な歯車どもの匂いがぷんぷんする。学生時代、私みたいな底辺とはお互い一ミリも接点のなかった、光の階層の連中だわ。

 

 どうしよう。

 何を喋ればいいの。

 いきなり飛びかかって脳味噌を啜ったら、さすがに第一印象が悪いかしら。

 

 私が軽くパニックになりかけていると、下から声がかかった。

 

「見つけた! あの、ちょっといいですか?」 「……ふえ?」

 

 間抜けな声が漏れてしまった。

 敵意はない。むしろどこか、おずおずした、妙に緊張した声色だ。

 

「お願いが、あるんですけど……」 「ええと……あなた……もしかして、『暴食さん』で、いいですか? ネットで、めちゃくちゃ有名ですよ」

 

「……は?」

 

 暴食さん。

 私が。

 有名。

 

 私は樹上からふわりと飛び降りて、彼らの前へ立った。

 どういうことなのか、少し腹を割って話を聞いてみることにする。

 

 リアルだったら、こういう連中を前にしただけで「あっ……あっ、すみません……」としか言えないコミュ障の私なのに。今は違う。私が事前に用意していた【一時的な社会性の衣】と、スキルの【偽装経典】が奇跡みたいに噛み合っていて、驚くほど流暢に、対等なテンポで話ができている。

 

 そして、彼らの話を要約すると。

 

 前回、私が朔のパーティを半壊させ、死体を貪り食ったあの放送事故配信のあと。

 切り抜き動画がさらに爆発的に拡散され、私が【JDのガキモツうんめえ!】と叫びながら死体を食い散らかす姿が、ミームとしてネットのおもちゃになったらしい。

 

 その結果、私は現状の【エリュシオンオンライン】において、【もっとも有名で、もっともイカれたプレイヤー】――通称【暴食さん】として、ちょっとしたカルト的な人気を集めてしまっているのだという。

 

 なので、暴食さん探しがそれなりに流行っていて、このパーティはその一番乗り、というわけね。

 

 ……全然うれしくない。

 とても嫌だわ。

 でも、意味が分からないほど的外れでもないのが、さらに腹立たしい。

 

 その瞬間、不意に朔の声が脳裏をかすめた。

 

『あのさ、オマエって“遠くから見る分には面白い珍獣”枠としての好感度はあるんだよ。けどそれ、近づいてきた瞬間終わるやつだから』

 

「……こんな形でのバズりとか、一ミリも嬉しくないのだけれど」

 

 私は仮面の下で深くため息をついた。

 負の方向で有名になるのがどれだけ簡単で、どれだけ人生へ深刻なダメージを残すかなんて、玉織紬としての二十六年が嫌というほど証明しているのだから。

 

「それで? 私に何の用かしら」 「実は、自分たちもその……暴食さんの人気にあやかりたいんです」

 

 リーダー格らしい男が、気まずそうに頭を掻いた。

 

「俺は配信で一発当てたいんです。正直、今のままだと埋もれるんで」 「私は……その、暴食さんのファンです。前の切り抜き、全部見ました」 「僕は単純にレアアイテムが欲しいです。PVPイベントって、報酬乗ること多いので」 「私は、まあ……皆がやるなら付き合う感じで」 「俺はちょっと怖いですけど、でもここまで来たら見たいっす」

 

「温度差があるのに、よく一緒に来たわねぇ……」

 

 なるほど。

 全員が全員、同じ熱量で食われたがっているわけではないらしい。そこは少し安心した。全員が同じ方向へ壊れていたら、それはそれで気持ち悪いもの。

 

「少しでいいので、あなたにPVPで挑んで、ボコボコに食い殺されるところを配信させてほしいんです!」

 

「……承認欲求のために、自分から食われに来たのねぇ……」

 

「もちろん、タダとは言いません。報酬として、これを用意しました」

 

 リーダー格の男が、インベントリから一つの輝く石を取り出した。

 

「【開放結晶】。二者択一で選ばなかった方のスキル分岐を、あとから得られるレアアイテムです。これがあれば、暴食さんも別ルートのスキルが取れるはずです」

 

 ……うーん。

 

 喉から手が出るほど欲しい。

 悪食派生で取れなかった【捕食抵抗】の解放、かなり欲しい。

 

 でも、さすがに【全世界に向けて再び死体食いフェチの変態として顔を売る】リスクに見合うかと言われると、それだけだと少し弱い気がするわね。

 いや、正確にはかなり嫌だ。とても嫌。もうこれ以上、変な呼ばれ方でネットの玩具になるのは勘弁してほしい。

 けれど――。

 

「……それに、あとこれも付けます」

 

 男が、もう一枚のチケットを取り出した。

 

「人族連盟領の王都にある、高級レストラン【万膳楼】の『一週間連続・食べ放題チケット』です。王都へ入る時の通行証と身分保証もこっちで用意します。うちのパーティに王都側のコネ持ちがいるので」

 

「やるやるやるやるやるやるやるやる!!」

 

 私は食い気味に、残像が見えるほどの速度で首を縦に振っていた。

 

 そうじゃない。

 思い出した。

 それこそが、私がこのゲームを始めた当初の目的じゃない。

 

 美味しい架空のご飯を、心ゆくまで、お腹いっぱい食べること。

 人間領の街に入って、まともな料理を、ちゃんとした店で、好きなだけ食べること。

 血生臭い森の中で腐肉や魔物ばかり齧るんじゃなくて、湯気の立つスープを飲んで、焼きたての肉料理を切って、デザートまできっちり平らげること。

 

 しかも王都の高級レストラン。

 一週間連続。

 食べ放題。

 

 夢?

 いえ、ほとんど建国神話でしょう、そんなもの。

 

 しかも今の私は違う。

 【偽装経典】で整えられた淑女の振る舞いがある。この姿と所作なら、人間領の街へ入っても、少なくとも第一印象で【珍獣】扱いされて門前払いされることはないはずだわ。通行証と身分保証まで付くなら、なおさら好都合でしかない。

 

 晒されるのは嫌。

 ものすごく嫌。

 でも一週間食べ放題は、それを天秤にかけるには重すぎた。圧倒的に、重かった。

 

「ありがとうございます! じゃあ、早速配信の準備を……」

 

 男が嬉しそうに【電脳領域(サイバースペース)】という魔法のアイテムを使った。空間が微かに歪み、私たちの周囲の空中へ、現実のインターネット配信コメントが、半透明のホログラムとしてずらりと展開されていく。

 配信用の視界共有補助アイテムね。現実側のコメント欄と連結して、配信空間へ直接流し込む形式らしい。便利ではあるのだろうけれど、今の私からするとただの精神汚染装置だわ。

 

【うおおおおお! マジで暴食さん見つけたのかよ!!】

【生暴食さんだあああああ!】

【JDのガキモツの人だ!】

【王都食べ放題チケットで釣れるの草】

【普通に喋ってるの逆に怖い】

【思ったより声きれい】

【俺も食われたい!】

【便器ストンピングの切り抜きから来ました】

【今日もちゃんと食ってくれ】

【近くにいたくはないけど見たい】

【暴食さん、思ったより上品で草】

【いや逆に怖いだろ】

 

 コメント欄は地獄だった。

 

 でも、そんなものはもうあまり目に入らない。

 王都の高級レストラン。一週間連続食べ放題。

 その言葉を聞いた瞬間から、私の胃袋はすでに次の食事へ向けて準備を始めてしまっている。

 

 ぐぅぅぅ……。

 

 腹の虫が鳴った。

 恥ずかしいくらい、素直な音だった。

 

 食べ放題の話をしたせいで、【食屍姫】の食欲が綺麗に刺激されてしまったのだわ。もう駄目。お腹が空いた。とても空いた。

 しかも折よく、食べてくれと自分から言い出す六つのご飯が、目の前に並んでいる。

 

 ……いいじゃない。

 向こうから頼んできたのだもの。

 これはもう、むしろ礼儀の範囲でしょう。

 

 私はゆっくりと舌なめずりをした。

 

「それじゃあ……お望みどおり、たっぷり美味しくいただいてあげるわね」

 




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主人公に求めるのは

  • 暴食
  • バトル
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  • 怪物ムーブ
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  • 大暴れ
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