VRMMOで【食屍姫】になった無職だけど、現代ダンジョンでも化け物扱いされ始めて嬉しいです! 作:ちんこ良い肉
「ガキモツうんめえ!」
私は上機嫌で、残る三人分の死体から切り分けた肉を頬張っていた。
ついでに、さっき連中のインベントリから奪った料理も、ちゃっかり横へ並べてある。
香草の利いたロースト。
まだ温かいシチュー。
果実のソースがかかった肉料理。
焼きたてらしいパン。
そこへ、血の温もりがかすかに残る人肉を合わせる。
「……あら、これ、すごくいいじゃない」
まずは柔らかい腿肉へ塩気の強いソースを絡めて一口。
次に、脂の乗った部位を焼き菓子みたいに甘いパンへ挟む。
合間へ、酸味の効いた果実酒を流し込む。
さらにシチューのとろみで口の中を繋いで、また赤い肉へ戻る。
うん。
とても良いわ。実に良い。
人肉単体でも十分に美味しいのだけれど、奪った料理と合わせると味の輪郭がぐっと立つのよね。
生々しい旨味へ、ちゃんと人間の文明が追いついてくる感じ。
野蛮と洗練のマリアージュ、とでも言えばいいのかしら。
「うふふっ。いいわねぇ、これ。すごく好きだわ。
生で食べても美味しいし、ちゃんと調理したものを合わせると、さらに品が出るじゃない」
私は肉を咀嚼しながら、上機嫌で頷いた。
頬の内側へ広がる血の甘さ。
そこへ香辛料とバターの香りが重なって、妙に幸福な層ができていく。
文明って偉いわね。
人は愚かで弱くてすぐ泣くけれど、料理だけは本当に立派だわ。
食卓の上へ手間と知恵を積み上げる才能に関してだけは、かなり信用しているのよね、私。
まあ、問題があるとすれば一つだけ。
「あらら。食事シーンへモザイクかかってるじゃない」
配信ホログラムの隅を見れば、どうやら肝心なところへ気を利かせたつもりらしい半透明のボカシが入っていた。
いらない配慮ね。
せっかくの美食を、そんな雑な隠し方で誤魔化されても困るのだけれど。
【そこ隠すの草】
【いや隠さなかったらBANだろ】
【むしろ今でも十分アウト】
【食レポだけ妙に丁寧なのやめろ】
【暴食さん、今日も元気そうでなにより】
【何が“なにより”なんだよ】
「んむっ、むぐ……ごくん」
私は最後の一切れを飲み込み、それから奪ったスープを一息に飲み干した。
じんわり温かい。
実に締めへ向いた味だわ。
ちゃんと胃袋の底へ落ちていって、さっきまでの血生臭さを優しく撫でてくれる。
ああ、こういう“終わり方の綺麗な一皿”って大事なのよねぇ。
『僧侶完食!』
『魔術師完食!』
『狩人完食!』
「ふぅ……ごちそうさまでした」
綺麗に平らげた皿と、骨と、鎧の残骸だけが、私の周囲へ静かに散っていた。
なかなか満足度の高い食事だったわね。
血と肉と料理の比率も悪くなかったし、後味まできっちり整っている。
やっぱり、良い食事って全体の流れがあるのよ。
「完食! イェイ!」
私は血と脂でべたつく手のまま、にこにことダブルピースを決めた。
配信ホログラムの向こうで、コメント欄がまた滝みたいに流れていく。
【イェイじゃないんだよ】
【食後だけ妙に無邪気で腹立つw】
【完食報告たすかる】
【死体を食後の達成感で締めるな】
【暴食さん、ブレなさすぎる】
【礼儀正しいのに全部終わってる】
その直後。
視界の端へ、小さな通知が浮かんだ。
「……ん?」
食われて現実送りになった配信者の一人から、ダイレクトメッセージ。
私は少しだけ眉を上げて、それを開いた。
『最高でした。人間領への通行証と偽装身分証、食べ放題チケット、スキル解放石はメール欄へ送っておきます。現実行って五分で三万再生まで伸びたので感謝しかないです。……まあ、それはそれとして普通にトラウマになったので、今日は寝込みます』
「……うへへ」
悪くないわね。
報酬としては、ほとんど満点じゃないの。
しかも向こうは勝手に感謝している。トラウマは負っているみたいだけれど、それはそれ。私の知ったことではないわ。
むしろ、ちゃんと数字まで取れているあたり、お互いに得をしていると言えなくもない。
食われて得をする経験なんて、人生でもそうそう無いでしょうし、そこは誇っていいと思うのよね。たぶん。
配信も、コメント欄も、そこで一旦切れた。
さっきまでわあわあ騒いでいた空中ホログラムが静かに消えていって、森へ静寂が戻る。
私はその場へしゃがみ込み、頬杖をついて、ひとりでにやにやした。
今回、私は本性をかなりフルに出した。
遠慮なく食って、遠慮なく笑って、遠慮なく楽しんだ。
そのうえで、配信という形とはいえ、一応は“受け入れられた”のだ。
リアルで同じことをやれば、八割方、イナズマ椅子か豚箱か、深いため息か、ご飯抜きで終わる。
最悪、全部乗せだわ。
しかも、その全部乗せのあとで「少しは反省しなさい」と真顔で言われるまでがワンセットなのよね。人生って本当に面倒だわ。
でも、今回は違った。
「ちゃんと受け入れられたのよねぇ……」
私はぽつりと呟いた。
もちろん、真っ当な意味ではない。
尊敬でも理解でも、更生への期待でもないでしょう。
たぶん、見世物。珍獣。化け物。そういう方向の人気だわ。
……それでも。
リアルの私も、結局はずっと見世物だったのよね。
笑われて、面白がられて、引かれて、距離を取られて。
何の歯車にもなれないよりはマシだと思って、道化としてでも社会へ接続できることを、どこかで本気で喜んでいた時期すらあった。
笑われたズレをメモして。
家へ帰って。
それを何度も血を吐く思いで再演して練習して。
次こそはもう少しマシに笑われようとして。
でも結局、練習したズレよりも、新しく漏れ出た素のズレの方が、よほど綺麗に笑われた。
「でもねぇ」
少なくとも今の私は、笑われるために笑っているんじゃない。
食って、奪って、踏み荒らして、その結果として勝手に騒がれている。
その違いは、私にとって結構大きかった。
「ちゃんと接続されたのよねぇ……」
私はぽつりと呟いた。
真っ当な形ではない。
でも、ゼロではない。
嫌われても、怖がられても、面白がられても、とにかく私は“存在しているもの”として認識されたのだ。
それが少し嬉しいこと自体、どうしようもなく悲しいのだけれど。
……でも、やっぱりゼロよりはずっといい。
私は小さく笑った。
けれど、今は少し違う。
今の私は、ただの道化じゃない。
ヴィランだ。
……まあ、割と道化の延長かもしれないけれど、それでも前よりはずっとマシだわ。
せめて、自分の意思で暴れて、自分の意思で食って、その上で騒がれる側へ回れたのだから、それはもう立派な進歩でしょう。
「うへへ……」
喉の奥で笑ってから、私は足元へ転がっていた騎士の鎧を拾い上げた。
ぼりっ。
ごりごり。
がりっ。
興味本位で鎧を齧ってみた。
あまり美味しいものではない。
でも、歯ごたえは悪くないし、食後の暇つぶしとミネラル補給にはちょうどいい。
考え事をしながら、固いものを齧るのは嫌いじゃないのよね。
顎へ負荷がかかる感じも、妙に落ち着くわ。
「……あっ、そうだ」
鎧を齧りながら、私はふと思いついた。
【身体変性】について、新しい使い方。
かなりろくでもない。
でも、ものすごく有望でもある。
さすが私だわ。
食後にろくでもない発想をする才能だけは、一流なのよね。
空腹時だと視野が狭まるし、満腹時だと倫理が緩む。つまり、今の私は発想の黄金時間ということになる。だいぶ嫌な黄金時間だけれど。
私は鎧の欠片を噛み砕きながら、ゆっくり口元を歪めた。
出産しよう。
紬さんは
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ポジティブモードの方が面白い
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ネガティブモードの方が面白い
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ミックスの方が面白い