VRMMOで【食屍姫】になった無職だけど、現代ダンジョンでも化け物扱いされ始めて嬉しいです!      作:ちんこ良い肉

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第36話

 

 

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『――分体群の捕食結果を還元します』

『――【存在捕食】による恒久ステータス上昇を確認』

『――STR上昇』

『――VIT上昇』

『――AGI上昇』

『――耐性情報を蓄積』

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『――【捕食抵抗 LV10(MAX)】に到達しました』

『――【捕食活性 LV10(MAX)】に到達しました』

『――【断界歯牙 LV10(MAX)】に到達しました』

『――【如何物食い LV10(MAX)】に到達しました』

『――【存在捕食 LV10(MAX)】に到達しました』

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「……は?」

 

 

 だって、意味が分からないじゃない。

 

 ほんの少し目を離した隙に――いえ、正確にはログアウトして現実へ戻っていただけなのだけれど――私の中核スキル群が、まとめて最大値へ叩き込まれているのだもの。

 レベルアップというより、もう事故よね。システム表示のバグを疑うレベルだわ。

 

 けれど、ウィンドウは容赦なく現実を突きつけてくる。

 

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『――ログアウト中、分体群は活動を継続していました』

『――分体群の捕食成果を本体へ還元』

『――熟練度、捕食情報、耐性情報、恒久強化値を同期』

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「…………」

 

 私はしばらく黙った。

 

 それから、ゆっくりと、ものすごく嫌な予感へ気づいたのよね。

 

「……子紬たち、ログアウト中も食ってたの?」

 

 問いかけたところで、システムが答えるわけではない。

 でも、その沈黙が、逆に何より雄弁だった。

 

 食っていたのだ。

 私が現実で、ペタマックスだの風呂キャンだの、お菓子買ってと駄々をこねるだの、そういういつも通りの日常をやっている間。

 あの子たちはゲームの中で、ずっと、せっせと、もぐもぐ、ばくばく、食い荒らしていたのである。

 

「……あの子たち、勤勉すぎないかしら」

 

 思わず、遠い目になった。

 

 いや、勤勉というか、ただの食欲の権化なのだけれど。

 でも結果として、私が寝ていようが風呂をサボっていようが、勝手に狩りをして、勝手に食って、勝手に熟練度を積み、勝手に恒久成長の材料まで本体へ送り込んでくれていたわけでしょう。

 

 えらい。

 いや、怖い。

 でも、えらい。

 やっぱり怖い。

 

 私は頬を引きつらせながら、改めてステータス欄を開いた。

 

 数字が、違う。

 はっきり分かるくらい違う。

 

 筋力の張り。

 骨の芯の重さ。

 皮膚の下を流れる、妙に落ち着いた力の密度。

 派手なバフとは違う、じわりとした、でも確実な“地力の増加”が、四肢の隅々へ行き渡っているのが分かる。

 

 これが【存在捕食】。

 食ったものを、ただ回復や一時強化へ変えるだけではなく、ちゃんと“私そのもの”へ積み上げていく、あの嫌らしくて最高なスキル。

 

 それを、私が知らないところで、子紬たちが勝手に稼いでくれていたのだ。

 

「……うわぁ」

 

 声が漏れた。

 

 嬉しい。

 かなり嬉しい。

 でも同時に、だいぶ駄目な気もするわ。

 

 だってこれ、私が寝ている間も、現実でだらだらしている間も、ゲーム内では“私の食欲”だけが増殖して、世界のどこかを食い続けているってことでしょう?

 

 文明の敵かしら。

 ……いえ、たぶんそうね。

 

 ただ、その文明の敵っぽさを差し引いても、得られた成果があまりにも魅力的すぎた。

 

 私はスキル一覧を開いた。

 そこへ並んだ文字列を見て、思わず喉が鳴る。

 

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【現在主要スキル】

 

【噛みつき LV10(MAX)】

【捕食 LV10(MAX)】

【存在捕食 LV10(MAX)】

【悪食 LV10(MAX)】

【如何物食い LV10(MAX)】

【濃縮食毒 LV10(MAX)】

【捕食抵抗 LV10(MAX)】

【捕食活性 LV10(MAX)】

【断界歯牙 LV10(MAX)】

【過剰代謝 LV1】

【嗅覚増強 LV1】

【身体操作 LV10(MAX)】

【身体変性 LV1】

【偽装経典 LV1】

 

【――スキル総計レベル104】

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「……すごいじゃない」

 

 私は小さく呟いた。

 そして、その声へ自分で少し驚いた。

 

 怯えより先に、感動が来ていたのだ。

 

 だって、しょうがないじゃない。

 私は努力しても努力しても、人間社会へはうまく噛み合わない空回りする歯車だったのに。

 食うことに関してだけは、こうやって目に見える形で、世界がちゃんと答えを返してくれるのだもの。

 

 私は順番に説明文へ目を滑らせていった。

 

 【捕食抵抗】が最大。

 悪影響や、呪い、デバフ、特殊能力めいた“悪いもの”に対する耐性が、身体の芯で静かに育っているのを感じる。

 毒も、呪いも、理不尽も、全部「消化する側」へ寄っていく感覚。実にいいわね。

 

 【捕食活性】も最大。

 食えば食うほど、その場で戦闘力が跳ね上がる。

 つまり、戦闘中の“ながら食い”が、ますます正義になるのだわ。

 終わってるでしょう、この設計。

 

 【断界歯牙】も最大。

 もう鉄も鎧も骨も、ほとんど障害物として成立しない。

 硬いものは噛み砕けばいい、という脳筋じみた回答が、ますます完成に近づいている。

 

 【如何物食い】も最大。

 魔法だろうが毒だろうが機械だろうが、だいたい食える。

 食える上に、味まで分かる。

 これ、本当に人間やめたわねぇ……。

 

 そして【存在捕食】。

 これはもう、説明不要だった。

 食べたものの質も、格も、特性も、全部じわじわと私の中へ沈殿していく。

 その蓄積がついに最大。

 “食えば積み上がる”が、完全に保証されたということだわ。

 

「……子紬たち、あとでちゃんと褒めてあげないといけないわね……」

 

 まあ、本人たちへ何を言っても、たぶん「ごはん」「もっと」「たりない」くらいしか返ってこないのでしょうけれど。

 でも、それで十分なのかもしれない。

 

 余計な感情も、余計な空気読みも、余計な社会性もなく、ただ食欲へ忠実に働いた結果が、こうして私を強くしている。

 それって、なんだかすごく、正しいじゃない。

 

 私は唇の端を吊り上げた。

 

「うふふっ……」

 

 胸の奥が、ぞくぞくする。

 嬉しい。

 怖い。

 嬉しい。

 やっぱりちょっと怖い。

 

 でも、今は恐怖より先に、次の行動が浮かんでいた。

 

「――王都へ向かいましょうか」

 

 食べ放題チケット。

 人族領。

 まともな料理。

 文明の味。

 どう考えても、行かない理由が一つもない。

 

 私はそう決めて、子紬たちを収納しようとした。

 

「さあ、行くわよ。あなたたち、いったんお腹へ戻りなさい。順番に、ゆっくり――」

 

 最後まで言い切る前に、腹へ衝撃が走った。

 

「ぶふっ」

 

 風穴が開いた。

 文字通り、お腹へ穴が開いた。

 

 いや、敵襲ではない。

 子紬である。

 

 一匹が私のお腹へ頭から突っ込んできて、収納用に開きかけていた腹部の口へ、全力の頭突きをかましていたのだ。

 

「ちょっ――!」

 

 その後ろから、二匹目。

 三匹目。

 四匹目。

 

 ぴゃい。

 ぴゃ。

 きゅう。

 ぴゃい。

 ぴゃ。

 きゅう。

 

 収まる、というより、突っ込んでくる。

 秩序もへったくれもない。

 あの子たち、整理整頓という概念を母胎へ置いてきたのかしら。

 

「だから、順番に入りなさいって――あっ、ちょっと! 今のは肋骨にクリーンヒットしたわよ!」

 

 ぴゃいっ!

 きゅっ!

 ごはん!

 たりない!

 ぴゃあ!

 

 もう収容というより、飢えた雛が巣穴へ雪崩れ込んでいる絵面だった。

 私はお腹に顔を突っ込んでくる子紬の頭をぺしぺし叩きながら、半泣きで整理を試みた。

 

「一匹ずつ! 一匹ずつ入りなさい! 押すんじゃないわよ、せめてお腹に帰る時くらい上品に振る舞いなさい!」

 

 けれど、私の分身に上品さを求めるのは、さすがに酷というものだわね。

 次の一匹は私の腹へ頭から刺さり、さらに次の一匹はその上から無理やり乗り上げてきた。

 

「ちょっ、待ちなさい、だから今のは脇腹! 脇腹はやめなさいって――!…ぎゃああああそこはマジでダメ!」

 

 ぴゃっ。

 ぴゃぴゃっ。

 きゅうう。

 

 結局、最後は私が半ば諦めて、お腹側を大きく開いてまとめて収納するしかなかった。

 ぞろぞろと、いや、ぎゅうぎゅうと。

 押し込まれるみたいにして、ようやく全員収納が終わる。

 

「……はぁ」

 

 私はお腹をさすりながら、大きく息を吐いた。

 

「収納ひとつでこの騒ぎって、先が思いやられるわねぇ……」

 

 でも、腹の内側でまだきゅうきゅう鳴いている気配が、妙に可笑しくて、少しだけ笑ってしまった。

 よく働いたわね、あの子たち。

 食欲しか無いくせに、本当にえらい。

 

 さて、改めて王都へ――と、私は森の一歩目を踏み出しかけた。

 

 その時だった。

 

 ――キィンッ!

 

 遠くから、甲高い金属音が響いた。

 

「……ん?」

 

 私はぴたりと足を止めた。

 

 もう一度。

 今度ははっきり聞こえた。

 

 ガギィンッ。

 ドッ、という衝撃音。

 短い叫び声。

 それから、何かが何かへ叩きつけられるような、いかにも物騒な連続音。

 

「……PVPの音?」

 

 私は小首を傾げた。

 この辺りは大樹海の外縁寄り。人族領への街道へ繋がるルートでもある。

 プレイヤー同士の接触自体は珍しくないけれど、今の音は“ちょっとした小競り合い”というより、明らかに本気の殺し合い寄りだった。

 

 風に乗って、血の匂いまで薄く流れてくる。

 人間の匂い。

 鉄の匂い。

 興奮と恐怖の匂い。

 

 私は舌先で唇をなぞった。

 

「……寄り道、していこうかしら」

 

 王都のご馳走は魅力的。

 けれど、目の前へ転がってきた“今すぐ食べられそうな情報”や“今すぐ食べられそうな何か”を見逃すのも、それはそれで惜しいのよね。

■■■■

 PVPの音を拾って、木々の隙間を縫うように近づいた時には、もう決着がつく瞬間だった。

 

 開けた街道脇の草地。

 そこで、最後まで踏ん張っていた【重騎士】が、あり得ない音を立てて砕け散ったのだ。

 

 文字通り、粉砕だった。

 

 分厚い塔盾ごと。

 全身を覆う重装鎧ごと。

 骨も肉も、まとめて内側から爆ぜたみたいにひしゃげて、地面へ転がる。

 

「…………は?」

 

 思わず、声が漏れた。

 

 やったのは、サキュバスだった。

 

 肌は白く、髪は艶やかで、角と翼は妙に品よくまとまっているくせに、胸だけが完全に常軌を逸していた。いわゆる“胸のバーを右に振り切った”みたいなやつね。キャラクリの段階で正気を置いてきたか、あるいは種族側が最初から狂っているかのどちらかだわ。

 

 しかも、それだけではない。

 

 サキュバスなんて、本来は戦闘向きの種族じゃない。魅了だの補助だの、そういう搦め手寄りのはずだ。

 なのに今の一撃は、以前戦った格闘家の【レイ】の比ではなかった。

 

 重い。

 速い。

 そして、雑だった。

 

 雑なのに、格が違う。

 私の現在レベルは104。

 それでも、あのサキュバスはたぶん120近い。あるいは、それ以上。

 

 ……嫌なものを見つけてしまったわねぇ。

 

 ついでに、その少し後ろへ、侍が一人立っていた。

 

 こちらは逆に、ひどく分かりやすかった。

 構えが浅い。

 重心がぶれている。

 刀の握りもおぼつかない。

 レベル表示をざっと見れば、3。

 

 明らかな初心者だった。

 というか、初心者がこの場へ連れてこられて棒立ちしている、という表現が一番しっくりくる。

 

「ボス、どうしてわざわざサキュバスなんか選んだんですか?」

 

 侍が、重騎士の残骸を見下ろしながら、半ば呆れたように言った。

 

 サキュバスは、血のついた指先をひらひら振ってから、あっけらかんと答えた。

 

「強いて言うなら性欲だね。僕は女体が大好きだから」

 

「それは現実(リアル)で嫌というほどテメエの尻拭いをしてきたから知ってますよ」

 

 侍は本気で嫌そうな顔をした。

 そのまま、ぺっと地面へ唾を吐く。

 

 サキュバスは悪びれもせず、にこやかに続けた。

 

「好きすぎて、そのうち女体になりたくなった」

 

「サイコパスだ……。というか、別にボスが直々に来なくても良かったんですよ。こういう接触任務は俺だけでも慣れてますから」

 

「いや、彼女はかなりクセが強いから、一応一緒に行く」

 

 その言い方が、妙に引っかかった。

 

 彼女。

 誰のことかしら、と一瞬だけ考えて――すぐ嫌な予感がした。

 

 私は反射的に、そっとその場を離れようとした。

 関わらないのが一番。

 強すぎる相手と、常識を持っていそうな男。この組み合わせ、私にとってろくなことにならないでしょう。

 

 けれど、その瞬間。

 

 サキュバスが、にやりと笑った。

 

 完全に、こっちへ気づいていた。

 

「そこのグールさん! 絶品のケーキとか、美味しいものをいっぱい用意してるんですけど、少しお話しませんかー!?」

 

「…………」

 

 逃げる足が、ぴたりと止まった。

 

 美味しいもの。

 ケーキ。

 その二語の破壊力、ちょっとどうかしているでしょう。

 

 私は抵抗した。

 ええ、本当よ。

 三秒くらいは。

 

     




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サキュバスの正体は

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