VRMMOで【食屍姫】になった無職だけど、現代ダンジョンでも化け物扱いされ始めて嬉しいです!      作:ちんこ良い肉

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第40話

 

 

 王都近郊。

 配信者たちが集まり、撮る、喋る、稼ぐ、煽る、媚びる、燃やす――そういう、人間の承認欲求と娯楽根性をぐつぐつ煮詰めて、そのまま街にしたみたいな場所があった。

 

 私は、そこを襲うと予告した。

 

 別に、深い理由があったわけではないのよね。

 

 あの後も私は、何度か大食い配信を続けた。

 登録者は一万を超えた。

 コメント欄では、とっくに私が玉織紬であり、暴食さんであり、ノアであることまで、ほぼ確定事項として扱われていた。

 

 だったら、もう隠す意味もないでしょう。

 

 どうせバレているなら、自分から名乗ってしまった方がまだ潔い。

 そう思ったのと。

 せっかくなら“次”は、ちゃんと数字が跳ねる絵面にしたかったのと。

 あとまあ、率直に言えば――王都前の景気づけとして、だいぶちょうどよさそうだったのよね。

 

 それで私は、黒いパーカーのフードを目深にかぶり、配信画面の向こうへ向けて、にこやかに宣言した。

 

「はい、というわけで。次はこの足で、王都近くの配信者の街を丸ごと食べに行こうと思います」

 

 コメント欄は、その瞬間、本当に見事なくらい綺麗に二つへ割れた。

 

【来るな】

【きたあああああああ!】

【やめろ】

【やれ】

【王都の手前で止めろ】

【配信者の街なら自業自得では?】

【自業自得で食われていいわけないだろ】

【でも見たい】

【いや来るな】

【楽しみだけど来るな】

 

 大変に人間らしくて、よろしい反応だわ。

 

 もちろん、向こうだって馬鹿ではない。

 私が本気で襲撃予告を出した以上、防衛くらい用意するでしょう。

 でも、それでいいのだ。

 

 むしろ、そこで防衛へ出てきた“ちゃんと強い連中”ごと食えれば、私としてはだいぶ美味しい。

 配信的にも映えるし、経験値的にも偉い。

 要するに、供給と需要がたいへん綺麗に噛み合っていたわけね。

 

 結果から言うと。

 

 圧勝だったわ。

 

     ◇

 

 街へ着いた時には、すでに防衛線が敷かれていた。

 

 前衛、中衛、後衛。

 城壁上の遠距離職。

 通路封鎖用の罠。

 支援職の後方待機。

 実況配信用の【電脳領域】まで、きっちり展開済み。

 

 ああ、なるほど。

 配信者の街らしいわね。

 死ぬ時まで、ちゃんと絵を作るつもりなのだわ。

 

 城門前には、私を止める気まんまんのプレイヤーたちが、ずらりと並んでいた。

 気合いの入った鎧。

 気合いの入った演説。

 気合いの入った構図。

 サムネ映えしそうな配置まで意識しているのが透けて見える。

 

 実に結構。

 

 でも、相手が悪かったわね。

 

「……随分と気合いの入ったお出迎えね。でも、自分たちで作った絵がこれなの?」

 

 私は思わず笑ってしまった。

 

 誰も彼もが、いかにも“ここが見せ場です”と言いたげな顔をしている。

 でもね。

 見せ場というのは、作ろうとして作るものではないのよ。

 食い破る側が勝手に作るものなのだわ。

 

「それじゃあ、遠慮なく……いただきます」

 

 私はそこで、【身体変性】を起動した。

 

 腕の内側が、ぬるりと裂ける。

 指先が開く。

 そこから血が、どろり、と溢れ出した。

 

 ただの血ではない。

 血そのものへ、細かな捕食器官をびっしり編み込んだ、食屍姫式の“増殖する食欲”だ。

 

 私はそれを、左右へ大きく振り撒いた。

 

 ばしゃっ、と赤が飛ぶ。

 霧みたいに散る。

 地面へ落ちる前に、その一滴一滴が小さな口へ変わる。

 

 歯を持ち、

 舌を持ち、

 食うことだけへ特化した、生きた飢えへ。

 

「――さあ、残さず奪いなさい」

 

 次の瞬間。

 

 赤い霧が、私を中心とした半径二百メートルを覆い尽くした。

 

 配信者の街の前衛へ並んでいた低レベル帯のプレイヤーも、

 その足元へ置かれていた食料も、

 防衛用に積み上げられていた保存食も、

 屋台の材料も、

 ペットも、

 召喚獣も、

 そこらを飛んでいた鳥まで。

 

 レベル三十以下の“食えるもの”が、まとめて、ごっそり持っていかれた。

 

 悲鳴が上がる。

 混乱が広がる。

 コメント欄が爆流する。

 

【なにそれ】

【なにそれ!?】

【えっ食材まで消えた!?】

【低レベごと消えたぞ】

【防衛線の下半分が蒸発した】

【いま何が起きた】

【説明しろ】

【されたくない】

 

 私の全身へ、ぶわっと熱が走る。

 

 【捕食活性】が跳ね上がる。

 【存在捕食】が、ぞくり、と芯へ積み上がる。

 筋肉が張る。

 骨が鳴る。

 視界が澄む。

 呼吸一つで、世界の輪郭が研ぎ澄まされる。

 

「うふふふっ……ああ、これ、最高に良い気分だわ」

 

 私はうっとりと息を吐いた。

 

 雑魚と食料をまとめて奪い、

 開幕で一気に仕上げる。

 

 実に合理的だわ。

 こういう、仕様の穴を突くみたいなやり方、嫌いじゃないのよね。

 

 それから先は、蹂躙だった。

 

     ◇

 

 もっとも。

 

 今回、一番勘違いしていたのは、私の方だったのよね。

 

 私は、澪の【勇者】というクラスを、てっきり“多対一へ強いクラス”だと思っていた。

 掲示板で前に見た勇者評も、だいたいそういう扱いだったし。

 

 でも、実際は違った。

 

 【勇者】は、多対一へ強い職ではない。

 縛りを自分へ課す代わりに、その制約のぶんだけ異常な強化を得る――そういう、頭のおかしい設計の職だったのだわ。

 

 その真価が、一番分かりやすく現れたのが、あのスキルだった。

 

【雷鳴一閃】

 

 事前に定めた二十四フレームの動きしかできない、という縛り。

 けれど、その二十四フレームの中に限れば、超精度、超速度、超火力の居合を成立させるという、どう考えても正気ではない暴力。

 

 実際、頭がおかしかった。

 

 澪は戦場のど真ん中へ立ちながら、まるでそこだけ時間ごと切り取られたみたいに、決められた動きだけをなぞる。

 

 踏み込み。

 抜刀。

 斬撃。

 納刀。

 

 たったそれだけ。

 それだけのはずなのに、その一連の動作が終わるたびに、重騎士の上位【暗黒騎士】が、魔術師の上位職【魔道士】が、後衛ラインが、まとめてずるりと崩れていくのだ。

 

 構えた瞬間には、まだ立っていたはずの連中が、気づけば胴と脚の接続を失っている。

 魔法の詠唱を始めた女の口元が、最後の音を作る前に血で途切れる。

 盾役が一歩踏み出した、その踏み込みごと斬線へ飲み込まれて消える。

 

「……ちょっと、あの女、本当に何なのよ」

 

 私が引き気味に呟くと、隣のレイが呆然としたように小さく答えた。

 

「なんだか……まるでおとぎ話の、本物の【勇者】みたいですね」

 

 いや、たぶん、そういう次元じゃないのよね。

 あれはもう、ゲームのシステムを利用しているというより、システムの方が澪へ合わせている感じだった。

 

 怖い。

 すごく怖い。

 でも、味方として見る分にはだいぶ頼もしい。

 複雑だわ。

 

     ◇

 

 とはいえ、主役は私だけではなかった。

 

 レイ――侍の彼も、かなりろくでもない進化をしていたのよね。

 

 最初はただ【空刃】を素直に連打しているだけだった。

 初心者らしく真面目で、出し得だから振る、という教本通りの立ち回り。

 それだけなら、まあ、善良で常識的な新人侍、という感じだったでしょう。

 

 でも、いつからか。

 たぶん、私――【食屍姫】と組んだせいでしょうね。

 

 あの男の斬撃は、戦闘中にどんどんスキルレベルを上げ、妙な方向へ育っていった。

 

【食毒空刃】

 

 風の刃そのものへ、毒と食欲を絡め取った変質スキル。

 浅く掠めただけでも、デバフがべったり残る。

 そこへさらに、新規習得の【多元抜刀】が重なる。

 

 範囲増加。

 手数増加。

 斬撃の多重展開。

 

 つまり、広範囲へまとめて切りつけながら、同時に即死級を含む状態異常を塗り広げる、非常に陰湿なデバッファーへなっていたわけだ。

 

「レイ、そこの後衛ライン。もう少し嫌らしく重ねてちょうだい」

 

「はい、分かりました」

 

 素直に返事をした次の瞬間、半透明の刃が何重にも重なって走る。

 

 斬る。

 裂く。

 掠める。

 毒が入る。

 鈍化する。

 視界が濁る。

 回復阻害まで乗る。

 即死効果がばらまかれる

 

 

 死ぬ程嫌らしい。

 戦っている側からしたら、「なんかよく分からないけど全部じわじわ終わっていく」最悪のタイプだわ。

 

【新しく出てきた侍くん何か変じゃね?】

【だいぶ陰湿だぞ】

【暴食さんの隣にいるせいでは?】

【食毒空刃ってなんだよ】

【まともそうなのに】

【まともそう“だった”】

 

 うふふ。

 影響されているわねぇ。

 いい傾向だわ。

 

 それに、本人はまだ“自分は補助役です”みたいな顔をしているのが、また実に味わい深い。

 陰湿なのに、善良さが抜け切っていない。

 大変よろしい成長だと思うわ。

 

     ◇

 

 そして向こうも、当然、切り札を切ってきた。

 

 【召喚士】が、長い詠唱の果てに呼び出したのは――

 

【ボスモンスター】

 

 巨大な大蜘蛛。

 十メートル級。

 黒々とした脚。

 飢えた腹。

 配信映えだけは抜群の、実に嫌な見た目の怪物。

 

「……あらら」

 

 私は少しだけ目を見開いた。

 

「あれは……ウンゴリアント、ですか」

 

 レイが低く呟く。

 

 暴食の大蜘蛛【ウンゴリアント】。

 名前からして、だいぶ食欲の権化みたいな奴だったわね。

 

 でも、残念。

 

 その程度で、今の私たちを止められると思われても困るのだわ。

 

「図体ばかり大きくて邪魔ね。まずは風穴を開けてあげるわ」

 

 私は新しく習得したばかりのスキルを起動した。

 

【飢餓咆哮】

 

 カロリーを燃やす。

 胃の中の幸福を、暴力へ変える。

 それを口腔の奥へ一点集中させて、まとめて撃ち出す。

 

 白でも黒でもない。

 濁った、飢餓そのものみたいな光。

 

 どォッ、と放たれたそれが、大蜘蛛の腹を正面から撃ち抜いた。

 

 風穴が開く。

 内部が露出する。

 ぐちゃり、と粘液が垂れる。

 

 その瞬間、私のお腹が鳴った。

 

 ぐううううううううう。

 

 ああ、ええ。

 分かっているわ。

 こういうのは、だいたい今から食べる合図なのよね。

 

「さあ、お腹いっぱい食べてきなさい」

 

 私はそこへ、羽と口を生やした子紬たちを投入した。

 

 ぴゃい。

 ぴゃっ。

 きゅううううっ。

 

 可愛らしい鳴き声とは裏腹に、やっていることは最悪だった。

 子紬たちは大蜘蛛の腹の中へもぐり込み、内側から、ばくばく、がつがつ、めちゃくちゃに食い荒らし始めたのだ。

 

 そこへさらに、私が【過剰代謝】と【封式羅刹】を重ねる。

 

 速度が跳ねる。

 回避が極まる。

 近接火力が暴れる。

 

 全身へ口を開く。

 腕。

 胸。

 腹。

 脚。

 生やせるところ全部へ歯を生やし、【身体変性】でできた肉の触手で押さえ込み、【濃縮食毒】で麻痺毒を流し込み、私は大蜘蛛の頭へ真正面から噛みついた。

 

 ばりっ。

 ごりごりっ。

 ずぶずぶっ。

 

「うんまーい!これうまっ!んぐっんぐっ!うっめ!これならいくらでも食べられるわ!んぐんぐんぐんぐんぐ!とっっまんねえええええええええ!」

 

 外から私。

 内から子紬。

 上からは澪の斬撃。

 横からはレイの食毒空刃。

 

 ひどい。

 実にひどい。

 でも、効率は最高だった。

 

【うわあああああ】

【ウンゴリアントが可哀想になってきた】

【大蜘蛛に同情する日が来るとは】

【内側から食うな】

【外からも食うな】

【誰か倫理観呼んでこい】

【倫理観はログアウトしました】

 

 知らないわよ、そんなの。

 

 数十秒後には、すっかりお腹へ収まり、綺麗に消化されて私の栄養になっていた。

 

 食ったものが全身へ行き渡るこの感覚は、本当に気持ちがいい。

 熱と安心感と、確かな成長が、一緒になって肉の内側へ沈んでいくのだもの。

 

==================

『――【飢餓咆哮 LV3】を習得しました』

『――【過剰代謝 LV10】に上昇しました』

==================

 

「うん、ごちそうさま。なかなかに良いお味だったわね」

 

 私は口元を拭って、満足げに小さく笑った。

 

     ◇

 

 そこから先は、もう戦闘というより処理だった。

 

 厄介な奴は澪が斬る。

 逃げる奴はレイが削る。

 彼らは配信の“メイン”は私だと言わんばかりの顔で、きっちり私の引き立て役へ回ってくれる。

 

 キャリーする側が、いつの間にかされる側になっていたわ。

 

 ……まあ、臓物を両手へぶら下げて高笑いしている私も、だいぶノリノリだったのだけれど。

 

 あれは、家族で観た金曜ロードショーが悪いのよね。

 ホラー映画の悪役が、内臓を掲げて笑うシーン、あったでしょう。

 あれをなんとなく真似してみたの。

 配信的に映えるかしら、って。

 

 結果、めちゃくちゃ映えた。

 

【出た】

【金ローで見たやつ】

【やめろやめろやめろ】

【なんで臓物持って高笑いしてるのに画になるんだよ】

【暴食さんってほんとにそういうとこある】

【楽しそうなのが一番嫌】

 

 私としては、かなり満足だったわね。

 

 だって、せっかく配信するなら、ちゃんと見栄えも大事でしょう。

 ただ食うだけではなく、見せ方というものがあるのよ。

 見せ物としての自覚、とでも言うべきかしら。

 

 ……言っていてだいぶ嫌な単語だわね。

 

     ◇

 

 結局、防衛側は全滅した。

 

 街は半壊。

 配信は大盛況。

 コメント欄は阿鼻叫喚。

 私は上機嫌。

 

 戦いが終わってから、私は自分のチャンネルを開いた。

 同接が跳ねている。

 登録者も、コメントも、再生数も、ぜんぶ増えている。

 

「……うへへへっ」

 

 思わず笑いが漏れた。

 

「見てみなさいな、澪。こんなにたくさんの物好きたちが、わざわざ私を見世物として楽しんでくれているのよ。うへへ……」

 

 我ながら、だいぶ終わった喜び方だとは思う。

 でも、嬉しいものは嬉しいじゃない。

 

 澪は私の隣へ立って、スマホ画面を覗き込み、それから妙にやわらかい声で言った。

 

「……ええ。そうやって、紬さんなりに社会へ貢献しようとしていること。私は決して否定しませんよぉ」

 

 私は目を瞬いた。

 

 なんだか、妙に真面目な声音だったから。

 

「実際、紬さんはただ生きているだけでも周囲の社会に甚大な迷惑をかけてしまうタイプの人間ですからねぇ。そうやって、ある種のギブアンドテイクを成立させようとするのが、紬さんなりの不器用な誠意なのでしょう」

 

「ちょっと待ちなさいよ。前半の言葉のナイフが鋭利すぎて、致命傷なんですけど?」

 

「でもね」

 

 澪は、そこで少しだけ笑った。

 

「私に対しては、そんな気遣い、一切しなくてもいいんですよ」

 

 その一言だけが、妙に静かで、妙にまっすぐだった。

 

「たとえ紬さんが私にとって何の利益にもならなくても。ただの迷惑でも。純粋な悪性でも。救いようのない人間のクズでも。遠くから見ている分には面白い珍獣でも。……哀れな怪物だったとしても」

 

 そこで澪は、ふっと目を細めた。

 

 そして、私の手を握った。

 

 ひやりとした指先。

 でも、力はやさしい。

 逃がさない、というより、ただそこにあるのを確かめるみたいな握り方だった。

 

「このクソみたいな不条理な世界で、必死に呼吸して、藻掻いて、泥臭く足掻いている尊い生物である以上、私はそんな貴方を心から愛しています。だって私……人間も、珍獣も、怪物も、生きとし生けるものは全部大好きですから」

 

 その瞬間。

 

 隣にいたレイの顔へ、ものすごく分かりやすい困惑が浮かんだ。

 

 あっ。

 これ、絶対に「この人たち、同性愛者か?」って思っている顔だわ。

 

 しかもそのあと、どう傷つけずに対応すればいいのか分からない、とでも言いたげな、非常に善良で、非常に気まずい表情まで追加されていた。

 

 やめなさい。

 その優しさ、誤解されるじゃないの。

 

「ふふっ、レイさんってば、本当に優しいですねぇ」

 

 澪が、くすくす笑いながら言う。

 

「でもご安心ください、私たちはそういう関係ではないですよぉ。私がここで言う“愛しています”は、あくまで“あなたの健やかな幸福を願っています”という、純粋な祈りの言い換えですから」

 

 そう言いながら、澪は何を思ったのか、いきなり私の胸を揉んだ。

 

「ひゃんっ!?」

 

 変な声が出た。

 

 何しやがるのよ、この女。

 

「……ほーらね」

 

 澪はまったく悪びれずに、ふに、ともう一度確かめるみたいに触った。

 

「こうやっていきなり触ってみても、この程度しか色気のある反応を返してこない程度には、そういう関係じゃないんですよぉ」

 

「いや、ちょっと待ちなさいよ! 今のは普通に物理的な驚きで変な声が出ただけだわ!」

 

「あ、一応びっくりはするんですねぇ」

「当たり前でしょうが!? 人の胸を何だと思っているのよ、この変態!」

「紬さんの、加工胸ですけど?」

「答えが純粋かつ正しすぎて、逆に殺意が湧くわね!」

 

 レイは、視線の置き場を完全に失っていた。

 

「その……お二人は本当に、そういう意味合いのご関係ではないんですね……?」

「ええ、まったく違いますよぉ」

「天地がひっくり返っても違うわよ」

「よ、よかった……んですかね……?」

 

 最後の語尾が疑問形なのが、なんとも彼らしかった。

 

 私はため息をついた。

 澪は満足げに笑っていた。

 レイはまだ少し気まずそうだった。

 

 王都は、もう目の前だった。

 

 この時の私は、まだ知らなかったのだ。

 今日ここで、ゲームどころか現実の歴史そのものを揺るがす大事件が起きることに。

 この先の景色が、もう二度と“ただの攻略の続き”では済まなくなることに。

 

 もちろん、その時の私はそんなことには気づいていなかった。

 

 だって私は、その瞬間までわりと本気で、

 王都で何を食べようかしか考えていなかったのだから。

 

 ……本当に、ろくでもないわね。




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