VRMMOで【食屍姫】になった無職だけど、現代ダンジョンでも化け物扱いされ始めて嬉しいです!      作:ちんこ良い肉

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第65話

柚姉は、私の胃袋と世界の終わりを同じ資料に並べて、たいへん自然な顔で言った。

 

「じゃあ、やることは飯の確保だね。迷宮、迷宮外へ漏れた魔物、各国のゴミ、各国の食糧支援、その全部へつむちゃんが即座にアクセスできるようにしておく」

 

「飯の確保、で世界終末対策をまとめないでほしいのだけれど」

 

「でも、つむちゃんの場合は事実だろう?」

 

 否定できないのが、ほんとうに嫌だった。

 

 私は金剛龍帝を食うために強くならなければいけない。そのためには食わなければいけない。食って、食って、食いまくって、迷宮も、怪異も、神話生物も、怪獣も、ゴミも、危険物も、食べられるものは全部食って、燃費の悪化をさらに上から踏み潰すくらいの勢いで補給し続けなければならない。

 

 つまり、世界を救うためには、世界規模の食事インフラが必要だった。

 

 言葉にすると最低ね。

 

 柚姉は端末を操作しながら、軽い調子で続けた。

 

「各国にはカンパを募るよ。金剛龍帝の脅威を説明して、つむちゃんの補給体制と海外迷宮への緊急アクセス権を要求する。もちろん、もう下準備はしてある」

 

「下準備?」

 

 嫌な予感がした。

 

 柚姉が笑う。

 

「AIで、金剛龍帝が都市を破壊するシミュレーション映像を各国語版で流してる。サクラコメントも作ってあるし、つむちゃんが悲壮な決意を固めて世界のために戦おうとしているインタビュー動画も配信済みだ」

 

「は?」

 

「あと、ロボットにAIを載せて偽装難民を作り、各国へ送り込んでいる。不安を煽り、救世主待望論を形成するためだね」

 

「は???」

 

 私は画面を見た。

 

 そこには、私に似た何かが映っていた。黒髪で、青みがかった目で、黒いパーカーを着ている。見た目だけなら、まあ、私に寄せている。けれど問題は中身だった。

 

『私は、世界のために戦います。たとえこの身が砕けても、人々の未来を守りたい』

 

「誰よ、こいつ」

 

「つむちゃんAI」

 

「私からかけ離れすぎでしょうが!」

 

 何なのよ、その清楚で悲壮な女。私はもっと、飯とか布団とか職歴とか朔への怨念とかで動いている女なのよ。世界のために戦います、ではない。世界を救うのはまあやぶさかではないけれど、動機の三割くらいは金剛龍帝が美味そうだからで、四割は飯が食えるからで、残りは社会の歯車になれそうだからなのだわ。

 

 画面の中の私が、あまりにも立派に喋っている。

 

 吐きそう。

 

「うん……私が持ち帰ったAI、早速悪用しているわね……」

 

「活用だよ」

 

「悪用よ」

 

 思えば柚姉は昔からそうだった。カルテル排除のために偽犯罪動画を作り、カルテルボスが各国指導者の家族を侮辱するフェイク映像をばら撒き、フェイクエロ動画で稼いだ金で動画サイトの大株主になり、フェイクダンジョン配信で世論を誘導し、とても言えないような動画で各国指導者を脅す。

 

 人間のクズである。

 

 ただし、結果だけ見るとかなり善寄りなのが腹立たしい。

 

「柚姉、あなた本当にカスね」

 

「私には心がないからねえ。加点方式ならゼロ点だ」

 

「自覚あるのが余計に嫌だわ」

 

「おばあちゃんは八十点。龍兄は百点」

 

「龍兄が百は納得いかないわ。下半身でマイナス五億点くらい入るでしょう」

 

「つむちゃんは、加点方式なら〇・〇八点」

 

「低っっっ」

 

「ま、あれだね。自分の持っていないものに憧れて苦労するのは、姉妹みんなそうだ」

 

 柚姉は、まるで他人事のように笑った。

 

 実際、他人事ではないのだろう。柚姉は心に憧れ、朔は穏やかさに憧れ、私は社会性に憧れた。誰も彼も、自分にないものへ手を伸ばして、届かないから変な方向へ伸びていく。

 

 玉織家、だいぶ終わっているわね。

 

     ◇

 

 何はともあれ、最初の救世主活動配信として、私は怪獣大決戦へ乱入することになった。

 

 場所は海外沿岸部。

 

 海から上がってきた巨大怪獣と、空から降ってきた三つ首の黄金竜めいた怪物が、都市の外縁部で衝突していた。そこへさらに、光の巨人めいた偽物が現れ、何かスペシウム光線もどきみたいなものを撃ち始める。絵面だけなら特撮映画だった。人類の娯楽の中にあったものが、現実へ雑に放り込まれたような光景。

 

 そして私は、配信ドローンを背負って、現場上空から突っ込んだ。

 

「ゴジラうんめえ!」

 

 第一声が、それだった。

 

 自分でもどうかと思う。

 

 けれど、仕方ないじゃない。本当に美味かったのだもの。

 

 怪獣の肉は、想像よりずっと濃かった。熱い。硬い。鱗の下に詰まった筋肉が、噛むたびに災害みたいな旨味を出す。放射性の熱が舌を焼き、骨の奥から海と原子炉と太古の獣みたいな風味が立ち上がる。普通の生物なら、食った瞬間に死ぬのでしょうね。でも私にとっては、ただ刺激が強くて美味いだけだった。

 

「う……うめえ……」

 

 私は怪獣の肩へ噛みつきながら、米の出る寸胴を取り出した。

 

 無限白米アーティファクト。

 

 こいつがまた偉いのよ。怪獣肉と白米。あまりにも強い。焼肉と米が人類の到達点の一つなら、怪獣と米は文明崩壊後の到達点かもしれない。熱線で炙られた肉をちぎって、ほかほかの白米へ乗せて、そのまま口へ入れる。

 

「うまっ、うまっ……!」

 

 なんか、テスターになってから美味いとしか言っていない気がする。

 

 いや、イギリス料理とシュールストレミングのセンブリ茶漬けはアレだったけれど。

 

 それ以外は本当に美味いのよ。魔物たちとか、もはや食われるために生まれてきたんじゃないかしらってくらい、うんめえ。生態系とか倫理とか、そういう言葉が白米と肉汁の前でどんどん弱くなっていく。危ないわね。でも美味い。

 

 白米アーティファクトは、しばらくしてから小さく震えた。

 

【供給限界です】 【これ以上の白米生成は不可能です】

 

「舐めたこと言うじゃない」

 

 私は制裁として、そのアーティファクトも食べた。

 

 ぱり、と割れて、米の香りが濃縮されたような味がした。まあまあ美味い。けれど、白米無限供給装置としては二流ね。根性が足りないのよ。

 

 そのまま私は、巨大怪獣を完食した。

 

================== 【放射熱線】をラーニングしました。 ==================

 

「やったじゃない」

 

 次は三つ首の黄金竜だった。

 

 あれはあれで美味かった。鱗がぱりぱりで、肉に電気みたいな刺激があって、首ごとに味が少し違う。右は酸味、左は苦み、真ん中は妙に甘い。焼き鳥で部位ごとに違う味を楽しむ感覚に近いかもしれない。まあ、三つ首黄金竜を焼き鳥扱いする女は私くらいでしょうけれど。

 

 翼をもぎ、首を齧り、尾を啜り、内臓を飲み込む。

 

================== 【重力操作】をラーニングしました。 ==================

 

「げふっ」

 

 さすがに怪獣二匹を食うと、腹が膨れてきた。

 

 お腹のあたりが少し丸くなる。

 

 食べた分が熱になり、肉になり、骨になり、鱗になり、内臓の奥で新しい炉みたいなものへ変わっていく。食えば食うほど強くなる。強くなるほど、より美味いものへ届く。美味いものへ届くほど、さらに燃費が悪くなる。最高で、最低の循環ね。

 

 その時、空から不意打ち気味に偽ウルトラマンみたいな光の巨人が、こちらへ手を構えた。

 

 胸の宝石が光る。

 

 腕が十字に組まれる。

 

 ああ、あれね。澪に昔、特撮を見せられたから分かる。興味はろくになかったけれど、あの女は「この回のスーツアクターの動きが美しいんですよぉ」とか言いながら、私を深夜まで拘束したのだわ。だから、こういう光線の構えくらいは分かる。

 

 光線が飛んできた。

 

 うまっ。

 

 いや、食べ物ではないのだけれど、私の身体が勝手に食った。皮膚に触れた光が、熱と粒子と神秘の味になって、呼吸するように吸収されていく。少し眩しくて、少し甘い。子どもの頃に俊くんが持っていたヒーローフィギュアを、空腹に耐えかねて齧った時よりずっと美味い。

 

「偽物でも、ちゃんと味はするのね」

 

 私は【過剰代謝】で体内炉を燃やした。

 

 ブレス力を無理やり跳ね上げる。カロリーが足りない。なら内臓を燃やす。肝臓を少し、腸を少し、肺の端を少し。痛い。痛いけれど、背に腹は代えられない。いや、腹のために背どころか内臓まで代えているのだから、ことわざとしてはだいぶ破綻しているわね。

 

 喉の奥に熱が集まる。

 

「はい、こっちの番」

 

 ドラゴンブレスを吐いた。

 

 光の巨人の頭が消し飛んだ。

 

 そのままブレスは宇宙まで伸び、何か小さな宇宙船らしきものを巻き込んで爆ぜた。まあ、流れ弾ね。仕方ないわ。こっちは今、救世主活動配信中なのだから、多少の巻き込みは許容してほしい。許容できないなら後で請求して。ママ管理の口座に。

 

 頭を失った偽ウルトラマンの首から下が、よろめいた。

 

 私は手をかざす。

 

【重力操作】

 

 巨体がぎゅう、と縮んだ。

 

 骨も肉も光も装甲も、全部まとめて圧縮されていく。悲鳴も出ない。圧縮、圧縮、圧縮。最終的には、飴玉くらいの大きさになった。

 

 私はそれを摘まんで、口へ放り込んだ。

 

「うまっ。偽ウルトラマンうんめえ!」

 

 濃縮ヒーロー味だった。

 

 小学生の時、空腹に耐えかねて食った俊くんの持っていたフィギュアより、五百億倍は美味い。フィギュアはプラスチックと塗料の味が強かったけれど、こっちは光と正義っぽい風味と、偽物特有のうさんくささが混じっている。かなり良い。偽物ならではの味というものがあるのね。

 

 特撮怪獣たちは、元ネタより遥かに弱い。

 

 そのくらいは分かる。もし本物の概念的怪獣なら、もっと味も強さも濃いはずだもの。けれど、それでも核の二、三発は必要そうだし、近代兵器への耐性も持っている。普通の軍隊では、かなり面倒な相手だったでしょうね。

 

 朔が一歳の時よりは強い。

 

 哺乳瓶を強奪しようとして受けたビンタから察するに、だいたいそのくらい。

 

 思えば、あの時の朔は優しかったわね。私物窃盗二百回目あたりまでは、グーパン一発で済ませてくれていた。今は首が飛ぶ。溶鉱炉にも沈められる。拷問室も出てくる。

 

 思えば、遠くまで来たものね……。

 

 しみじみしていると、空から火花を散らしながら、さっき撃墜したらしい宇宙船が落ちてきた。

 

 中から、鋏を持った宇宙人めいた連中がぞろぞろ出てくる。

 

 私は、じゅるりと涎を垂らした。

 

「内臓を補うために、カロリーが降ってきた……!」

 

 こんなに幸せでいいのかしら。

 

 だいたい、そう思うとろくなことにならない。人生経験上、私はそれを嫌というほど知っている。けれど、目の前に食べ物が降ってきた時、人は慎重ではいられないのだわ。少なくとも私はそう。

 

 私は翼を広げた。

 

「いただきます!」

 

     ◇

 

 配信のコメント欄は、後で見たら地獄だった。

 

『ゴジラうんめえ!じゃねえよ』 『救世主活動配信の第一声がそれでいいのか』 『インタビューの悲壮な決意どこ行った』 『本体が全部台無しにしてる』 『怪獣ストレートマッチポンプ説』 『この珍獣、怪獣食いたいから呼び寄せたんじゃねえだろうな』 『白米アーティファクト食うな』 『米の供給装置にまで制裁すんな』 『偽光の巨人を飴玉にして食うの普通に怖い』 『美味そうに食うな』 『朔が一歳の時より強いとかいう意味不明な基準好き』 『朔ちゃん大学で清楚なイメージあるんだから身内の話やめろ』 『清楚な妹の姉が公共珍獣なのかわいそう』 『世界の救世主が食レポしかしてない』 『でも実際、怪獣三体と宇宙人群れ処理してるの偉すぎる』 『国益兼国辱』 『信徒になります』 『信徒になるな』

 

 私はコメント欄を閉じた。

 

 うるさいのよ、人類。

 

 私はちゃんと働いた。怪獣を食い、被害を抑え、ラーニングで強くなり、金剛龍帝へ近づいた。配信としても盛り上がったでしょうし、柚姉のプロパガンダにも貢献した。社会の歯車としては、かなり回った方ではないかしら。

 

 ただ、少し問題もあった。

 

 腹が減った。

 

 怪獣を食ったのに。

 

 宇宙人も食ったのに。

 

 光の巨人も食ったのに。

 

 それでも、もう次の空腹が来ている。食うほど強くなり、食うほどより飯が食いやすくなり、食うほど燃費が悪くなる。私は口元を拭いながら、遠くの空を見た。

 

 金剛龍帝。

 

 あの最悪の捕食者。

 

 あいつを食うためには、まだ足りない。

 

 朔より強くなる。龍兄へ制裁できるほど強くなる。神話生物も、怪獣も、運命も、全部まとめて噛み砕けるほど強くなる。

 

 滅びの運命が待っているなら。

 

 運命ごと、うんめぇしてやるわ。

 

「おかわり!!」

 

 私は次のダンジョン、そこで待つ魔王へと向かって、そう叫んだ。

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