VRMMOで【食屍姫】になった無職だけど、現代ダンジョンでも化け物扱いされ始めて嬉しいです!      作:ちんこ良い肉

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ここまで読んでいただけた事にただただ感謝を


最終話…?

 

 

 龍帝は、本当に強かった。

 

 強い、なんて言葉では足りない。格闘も、剣術も、耐久も、速度も、火力も、魔術も、吐息も、全部が私の上位互換だった。私が一ヶ月、世界中から飯と魔石と怪物と核廃棄物と神話生物の切れ端まで突っ込まれて、胃袋を戦略拠点にされながら育ったというのに、それでもなお、あいつは私の少し先にいた。

 

 特に、捕食能力。

 

 そこだけは、もう笑うしかなかったわね。

 

 私があいつの肉を齧る。血を啜る。鱗を砕く。魔力を呑む。すると、私の奥で【■■■■】による能力ラーニングが走る。龍帝の身体構造、災厄の吐息、魔術式、因果を噛み砕く顎、そういうものが私の中へ流れ込み、ほんの少しだけ私を金剛龍帝に近づける。

 

 けれど、あいつも同じことをする。

 

 それどころか、私より速い。

 

 私が一口で覚えたものを、あいつはひと舐めで奪った。私が胃袋へ落とし、消化し、やっと自分のものにする性質を、あいつは噛んだ瞬間に取り込んでいた。私の【喰界領域】を覚え、【子紬精製】を盗み、【捕食抵抗】の癖を読み、【偽装経典】の薄皮さえ味見しようとしてきた。

 

 最悪だったわ。

 

 食われる側に回ると、こんなにも気持ち悪いのね。

 

 私は龍帝の肩へ噛みつき、その肉を引き裂いた。うまい。悔しいくらいうまい。生まれてから食べた何より濃く、硬く、深く、噛めば噛むほど飢餓そのものみたいな旨味が滲む。だから余計に腹が立った。こんなものを食えるところまで来たのに、まだ足りないのだ。

 

 龍帝は、私の腕を食った。

 

 肘から先が消えた。

 

「いっ……だぁあああああああああああああああっ!?」

 

 痛い。普通に痛い。世界最終決戦の真っ最中だろうが、宇宙規模の怪物と殴り合っていようが、痛いものは痛いのだわ。腕を食われたら悲鳴くらい上げる。社会の歯車にも痛覚はあるのよ。

 

 でも、泣いている暇はない。

 

 私は自分の肩口へ噛みつき、残った肉を追加で食って再生を加速させる。食えば治る。治ればまた戦える。戦えば腹が減る。腹が減ればまた食う。なんて分かりやすくて、なんて最低な循環なのかしら。

 

 龍帝のブレスが来た。

 

 直撃すれば、概念ごと死ぬ吐息だった。魂とか肉体とか、そういう区別ではない。玉織紬という存在が、最初からいなかったことにされる。そんな種類の破滅が、宇宙の暗闇を白く裂いて飛んでくる。

 

 私は死ななかった。

 

 いや、あいつが殺さなかったのだ。

 

 私を食うために。

 

 肉体ごと、存在ごと、全部吹き飛ばしてしまえば食えない。だから龍帝は、私を消し飛ばすのではなく、ギリギリ形を残す出力で吐息を撃った。その優しさのような合理性が、心底気持ち悪かった。あいつに情はない。あるのは、食事効率だけ。

 

 私は半身を焼かれ、肺の片方を失い、脳の一部を煮られながら、それでも龍帝の喉元へ爪を立てた。

 

「食われる前に……食ってやるわよ……!」

 

 そう吐き捨てた私の前で、龍帝が揺らいだ。

 

 輪郭が変わる。

 

 黒い鱗が溶け、角が消え、髪が伸び、柔らかい笑顔がそこに浮かんだ。

 

 澪だった。

 

「紬さん」

 

 その声だけで、胃袋の奥が凍った。

 

 河村澪の声。私を気持ち悪いくらい真っ直ぐに見て、私が自分を好きになれる日が来ると信じて、泥団子の横で手を握ってきた女の声。私が大嫌いで、妬ましくて、でも最後の平日に一緒に遊べてよかったと思ってしまった、あの女の声。

 

 偽物だと分かっていた。

 

 分かっていたのよ。

 

 なのに、一瞬、止まった。

 

 その一瞬で、私は食われた。

 

 腹を裂かれ、胸を抉られ、心臓の一つを噛み砕かれた。龍帝の顎が、澪の顔のまま笑う。気持ち悪い。吐きそう。吐いた胃液すら、あいつに食われる。

 

「……ッ、クソが……!」

 

 食いだめしておいてよかった。

 

 本当に、それだけだった。世界中から送られた飯。魔物。怪獣。核廃棄物。ブラックホール。魔王。白米。肉。怪魚。あらゆるものを詰め込んでいなければ、今ので終わっていた。私は地球の兵站と、補給班と、米農家と、畜産業と、世界中の胃痛に生かされている。

 

 その上で、龍帝はさらにふざけた。

 

 私から【子紬精製】をラーニングしたのだ。

 

 宇宙の闇が裂ける。

 

 三体。

 

 金剛龍帝本体と、ほとんど同じ戦闘力を持つ分体。

 

【金剛騎士】

 

 そう呼ぶしかない三つの終末が、私の周囲に現れた。

 

「……は?」

 

 声が出た。

 

 いや、出るでしょう。おかしいでしょう。子紬は「ごはん」とか「まま」とか言いながら床を齧るちびっ子なのよ。そこから本体級戦力を三体出すのは、さすがにチートとかそういう次元ではない。ゲームバランスが泣いている。運営を呼びなさい。いや、運営はたぶん、これを見て笑っている側ね。ならあとで食うわ。

 

 金剛騎士の一体が剣を振る。

 

 私は爪で受けた。

 

 腕が砕ける。

 

 二体目の吐息が来る。

 

 私は【喰界領域】で軌道を歪め、無理やり飲み込んだ。胃袋の中で災厄が暴れ、内臓がいくつか死ぬ。三体目が、私の背後から首を狙う。私は自分の首を一度切り離し、胴体だけを反転させて蹴った。

 

 めちゃくちゃだわ。

 

 こっちも、向こうも。

 

 でも、まだ足りない。

 

 龍帝本体が、ゆっくりと口を開いた。

 

 狙いは私ではない。

 

 地球だった。

 

 遠くへ逃がしたはずの地球。私が最後に人間ごっこをした星。黒パーカーで肉まんを噛み取った公園。泥団子を渡したガキ共。澪ハウス。玉織家。朔の誕生日会。おばあちゃんの鍋。ママの飯。パパの書類。龍兄の気持ち悪い善性。柚姉の嘘。俊くんの困った顔。

 

 全部が、あの先にある。

 

 龍帝は、わざとゆっくり吐息を溜めていた。

 

 私が庇わざるを得ないように。

 

「……やっぱ、こうなるのね」

 

 私は笑った。

 

 乾いた笑いだった。

 

 最初に見た時から、たぶん、こいつにはこの手でしか勝てないと思っていた。どこかの別世界へ行くとか、龍帝を食って地球から離れるとか、そういうのは全部、私の誤魔化しだったのだわ。だって、今の私がこのまま生き残ったところで、どこに行けばいいのよ。

 

 世界中が補給しても追いつかない燃費。

 

 地球規模の食卓でも足りなくなった胃袋。

 

 怪物も迷宮も怪異も食い尽くした後の、私という災害。

 

 龍帝を食えるところまで育った玉織紬が、そのまま別世界へ行けば、次の世界にとって私は金剛龍帝と大差ないでしょう。食べる理由を「仕事」と呼べる場所がなければ、私はきっと、ただの終末になる。

 

 だったら。

 

 どっちにしろ、死ななければならなかったのだわ。

 

 澪に遺書を渡しておいてよかった。

 

 家族に「もうこの世界から去らないといけない」なんて、わざわざ言わなくてよかった。みんな、普通に帰ってくると思っている。燃費問題から少し目を逸らしながら、それでも、私が誕生日会へ来ると思っていた。職に就き、社会の役に立ち始めた私を、少しだけ見直してくれた。

 

 それで十分。

 

 あの人たちの中の私は、最後まで、黒パーカーで、食い意地が張っていて、風呂水を飲んでママに怒鳴られ、朔にビビり、プリンを持って帰ろうとしていた馬鹿女のままでいい。

 

 その方がいい。

 

 泣かれるより、きっと少しだけマシだから。

 

 私は、子紬たちを呼んだ。

 

 七つの影が、私の足元から這い出してくる。小さな角。小さな翼。青い目。大きすぎる食欲。私の一部で、私の子で、私が現実で持ってはいけないと分かっていながら、何度も戦場へ連れ出してしまった小さな怪物たち。

 

「ごはん?」 「まま?」 「たべる?」 「おなかへった」 「こわい?」 「まま、けが」 「プリン、たべる?」

 

 最後の子が、潰れたプリン箱を見てそう言った。

 

 私は、少しだけ笑った。

 

「これはね、ごはんじゃないの」

 

「ごはんじゃない?」

 

「ごはんだけど、違うの。これは、食べないで持って帰るためのものだったのよ」

 

「なんで?」

 

「……私にも、よく分からないわ」

 

 本当は分かっている。

 

 我慢だった。

 

 手間だった。

 

 私が家族へ返せるかもしれなかった、小さな善性だった。

 

 命を捨てるより、よほど難しかったこと。

 

 私は子紬たちの頭を、一匹ずつ撫でた。わしわしと。少し乱暴に。昔、ママにそうされて嬉しかったことを、私は今、ようやく誰かへ返している。

 

 最後だけは、ちゃんとできている。

 

 たぶん。

 

「あなたたちは逃げなさい」

 

「ままは?」

 

「ママは残業」

 

「ざんぎょう?」

 

「社会の歯車には、たまにあるのよ。とても嫌な制度ね」

 

 子紬たちは、よく分かっていない顔で私を見ていた。

 

 私は笑って、もう一度頭を撫でた。

 

「ばいばい。またね」

 

 また、なんて言葉を、また言ってしまった。

 

 でも、言えたならそれでいい。

 

 子紬たちは、私の領域から外へ逃げた。地球の方へ。誰かに保護されるか、怒られるか、食費で泣かれるか、まあ、そこは人間たちに任せるしかない。案の定、最後の最後で育児放棄をかましたわね、このクズ。そう思ったけれど、今さら自分へ失望するのも面倒だった。

 

 私は龍帝を見た。

 

 金剛騎士三体が迫る。

 

 地球へ向けた吐息が、限界まで膨れ上がる。

 

 私は深く息を吸った。

 

【過剰代謝】

 

 まず、肉体を燃やした。

 

 骨を燃やす。血を燃やす。筋肉を燃やす。胃袋を燃やす。七つの心臓を燃やし、五つの脳を燃やし、羽を、角を、爪を、鱗を、内臓を、私という生き物を構成するすべてを、喉の奥の炉へくべていく。

 

 次に、スキルを燃やした。

 

【喰界領域】も、【転移魔術】も、【界滅爪牙】も、【屍龍喰息】も、【暴食活性】も、【捕食抵抗】も、【重力操作】も、【放射熱線】も、【狂気放出】も、【嫉妬の魔王】も、私が食って、盗んで、奪って、仕事として積み上げた全部を、吐息の強化へ回した。

 

 それから、魂を燃やした。

 

 存在を燃やした。

 

 最後に、【偽装経典】を燃やした。

 

 あれほど欲しかった社会性の薄皮。

 

 私が、私ではないまともな何かに見えるための皮。

 

 政府会議で吐かないために、コンビニで挙動不審にならないために、家族へありがとうを言うために、誰かと普通に話すために、ずっと欲しくて、ずっと届かなかったもの。

 

 それすら、燃やした。

 

 私には最後まで、本物の社会性は手に入らなかった。コミュ力も、まあ、うん。ひどかったわね。世界の救世主だなんだと担がれても、偉い人の前では胃液を吐くし、子供相手にお山の大将を気取り、澪に嫉妬して吐き、プリン一つまともに渡せない。

 

 でも、それでいい。

 

 人間やめて、怪物になれてよかった。

 

 あのまま人間として生きていたら、私はきっと、どこにも噛み合わない不協和音を垂れ流しながら、畳の染みみたいな結末へ少しずつ近づくだけだった。働けず、話せず、妬み、逃げ、食べ、謝り、また逃げる。そういう人生だったでしょう。

 

 それを損切りして、最高の気分で死ねる。

 

 澪どころか、龍兄どころか、おばあちゃんどころか、家族どころか、世界に惜しまれながら逝ける。世界中が、私のために飯を送ってくれた。怖がりながら、笑いながら、胃を痛めながら、それでも私を補給してくれた。

 

 私が食べている間だけ、世界は少しだけ明日を信じてくれた。

 

 なんて贅沢。

 

 なんて、私にはもったいない結末。

 

 人間の価値観では、これはバッドエンドかもしれない。

 

 でも、怪物の価値観ではハッピーエンドだ。

 

 決戦前に、お腹いっぱい食べられた。

 

 泥なりに、社会の歯車にもなれた。

 

 私を苦しめてきた客観視の視点から見ても、私は立派な歯車になっている。少なくとも、働いた。食べた。納めた。処理した。守った。契約も、記録も、職歴もある。

 

 ただ善性への擬態をしたいという利己性だけで、それでも命を賭して世界を救う。

 

 偽善で、張りぼてで、本物ではなかったけれど。

 

 それすらなかった私にとっては、十分すぎる。

 

 ただ、勘違いしてはいけないのだわ。

 

 命を捧げることなんて、大したことではない。

 

 よくいるでしょう。命を賭けたから尊いとか、死んだから善だとか、そういう雑なことを言うアホが。違う。そんなものを善性の最高位みたいに扱う人間は、たぶん、継続的に誰かのために手間をかける苦しさを知らないのよ。

 

 本当の善は、もっと地味で、もっと面倒で、もっと長い。

 

 働くこと。

 

 社会の中でもがくこと。

 

 得たものを、他者の幸福のために受け渡し続けること。

 

 毎日、毎日、毎日、誰かのために手間を惜しまないこと。

 

 プリンを食べずに持って帰ること。

 

 ありがとうをちゃんと言うこと。

 

 相手の顔を見て、相手のために言葉を選ぶこと。

 

 そういう、私には最後まで難しかったものこそが、愛で、善性で、私がずっと欲しかったものだった。

 

 私はそれが欲しかった。

 

 何を犠牲にしても欲しかった。

 

 食事を犠牲にしても。

 

 コミュニケーション能力を犠牲にしても。

 

 社会性を犠牲にしても。

 

 命を犠牲にしても。

 

 それでも欲しかった。

 

 けれど、私は最後まで、プリンすら渡せなかった。

 

 結局、命を捧げる程度のことしかできなかった。

 

 世界を救うより、製氷工場で働き続ける方が、私にはずっと難しかった。誰かと普通に話す方が難しかった。プリンを買うためにおやつを我慢して、三日徹夜で「どうすれば一番おいしくできるか」の注文書を書いて、それを食べずに家まで持って帰る方が、よほど難しかった。

 

 でも。

 

 今だけは、自分への嫌悪が静かだった。

 

 過剰な自己中心性に反した、ほんの一瞬の利他性。偽物でも、張りぼてでも、私の中から出てきたもの。誰かのために、世界のために、家族のために、そして何より、私が私を少しだけ許すために選んだ結末。

 

 龍帝の弱点。

 

 唯一の私の勝機。

 

 それは、あいつが食うことに特化しすぎていることだった。

 

 あいつは、生存を度外視した行動を取れない。命を燃やして次へ繋ぐなんて、食事に関係ない以上、非合理的だから。死んだら何も食えない。だから、どこまで行っても、あいつは自分を食材にできない。

 

 飢えの怪物。

 

 私の鏡映し。

 

 どこか違う世界で、私はこうなっていた気がする。ただ、二匹の化け物を分けたものがあるとすれば、それは嫉妬だったのだわ。

 

 龍帝には、社会への渇望がない。

 

 あいつは社会性に適応できる。擬態もできる。交渉もできる。必要なら愛すら真似るでしょう。でも、それは捕食の最適解だからやるだけだ。

 

 私は、社会に適応できなかった。

 

 でも、社会へ憧れた。

 

 普通に話せる人間が妬ましかった。普通に働ける人間が妬ましかった。善意を出して、相手へ届かせられる人間が妬ましかった。誕生日会でプリンを渡せる人間が、どうしようもなく妬ましかった。

 

 だから、食べるだけの怪物になりたくなかった。

 

 だから、まだ戦える。

 

 私は、全部を吐息へ回した。

 

 肉体が消える。

 

 スキルが消える。

 

 魂が消える。

 

 存在が消える。

 

 玉織紬という情報そのものが、喉の奥で光になる。

 

 その中で、ふと考えた。

 

 自分と友達になれるか。

 

 そんな質問に、私はずっとNOと答える。絶対に。だって、私は私みたいな女と友達になりたくない。食うし、盗むし、逃げるし、嫉妬するし、会話が下手で、褒められると気持ち悪く笑う。そんな女、面倒くさすぎるでしょう。

 

 でも。

 

 この瞬間の私に対してだけは、少し迷う。

 

 友達になれるかもしれない。

 

 いや、友達とまではいかなくても。

 

 ちょっとくらい、隣へ座ってもいいかもしれない。

 

 そんなふうに思えた。

 

 世界に惜しまれながら逝ける。

 

 みんなに惜しまれながら逝ける。

 

 自分に惜しまれながら逝ける。

 

 なんて贅沢。

 

 なんて、私にはもったいない結末。

 

 だからこれは、紛うことなきハッピーエンドなのだわ。

 

 どんな物語でも、化け物は最後に討たれるものなのでしょう。

 

 でも、これは誰のためでもない。

 

 私が、私のために。

 

 化け物共を滅ぼすのだ。

 

 私は龍帝を見た。

 

 金剛龍帝も、私を見ていた。

 

 あいつは、初めて少しだけ迷ったように見えた。生き残るために逃げるか。食うために踏み込むか。龍帝にとっての合理が、一瞬だけ分裂する。その一瞬が、私の全部だった。

 

「あぁ、いいなぁ」

 

 声が漏れた。

 

 私は、この世界に生まれてきて、幸せだった。

 

 泥だらけで、腹が減って、社会性がなくて、嫉妬深くて、どうしようもない女だったけれど、それでも幸せだったのだわ。

 

 私の物語は、これでおしまい。

 

 主人公でいられる時間なんて、あっという間に過ぎてしまうけれど。

 

 結末は、ハッピーだった。

 

 ずっと満たされなかった心の飢餓も、今だけは消えている。

 

 私の時計が止まるまでの一瞬で、その幸せを抱きしめて死んでいこう。

 

 玉織紬の、泥の歯車の物語はおしまい。

 

 これが私の化け物ライフ。

 

 ハッピーエンド。

 

 皆様、どうか喝采を。

 

 泥の歯車が、最後に回る音を。

 

 どうか、少しだけ覚えていて。

 

 私が食べて、働いて、嫉妬して、妬んで、褒められて、気持ち悪く笑って、それでも足掻いて、プリンを食べずに持って帰ろうとしたことを。

 

 世界を救うなんて大きなことより。

 

 そっちを、ほんの少しだけ。

 

 覚えていて。

 

 最後に消えたそれは、■■■だった。

 

 私は、私の全部を吐いた。

 

 宇宙が白く焼けた。

 

 災厄龍星が消える。金剛騎士が消える。金剛龍帝の吐息が消える。龍帝の鱗が剥がれ、肉が裂け、顎が砕け、飢餓そのものみたいな存在が、私の吐息に呑まれていく。

 

 龍帝が食おうとした。

 

 最後まで、食おうとした。

 

 でも、私はもう食材ではなかった。

 

 私は、燃料だった。

 

 私自身を、私の全部を、世界のためではなく、私が私を少しだけ好きになるために燃やした、最後の泥の歯車だった。

 

 だから、届いた。

 

 金剛龍帝が、消える。

 

 私も、消える。

 

 その瞬間、なぜか潰れたプリンの匂いがした気がした。

 

 甘くて、苦くて、冷たくて、渡せなかった手間の味。

 

 ああ。

 

 食べたかったわね。

 

 でも、食べなかった。

 

 偉い。

 

 私、最後の最後で、ちょっとだけ偉かったのではなくて?

 

 そう思えたから、もう十分だった。

 

「……ごちそうさまでした」

 

 めでたし。

 

 めでたし。




ここまで読んでいただき本当にありがとうございました!

参考にさせていただいた作品 
化け物になろうオンライン~暴食吸血姫の食レポ日記~
https://ncode.syosetu.com/n1383hb/
↑主人公が紬のベース。ただしこちらは陽キャかつ社会適合者。百合強め。後半VRMMO無関係になっていくのも一緒。


人を喰らう、味方も喰らう。両方やらなくちゃならないのが屍人喰いの辛いところだね
https://ncode.syosetu.com/n0811lw/
↑ゲームパートを参考にさせていただいた作品。これから始まったお話。最初みたいにずっとまじめにゲームしているのでVRMMOまじめにやったルートみたいなら見ていただければ嬉しいです。

人造人間100
↑多分ジャンプ打ち切り漫画で一番面白い奴。紬の善性はほぼここから取りました。何を犠牲にしても欲しかった筆頭に読んでいただければここからパクったんだなってのがすぐ分かると思います。

タタリ
↑サンデー打ち切りで一番面白い奴
人造人間100と同じくどうしようも無い邪悪が善性に死ぬ程焦がれて邪悪なりに善たろうとするお話

参考にできなかった作品

賢者の石を手に入れた在宅ワーカーだけど、神様って呼ばれてるっぽい

https://syosetu.org/novel/389053/
地球にファンタジー要素が入った世界での世界の混乱を箱庭のように楽しむ作品。筆の速さばかり言われるけど継続UAの高さも異常。後半で真似ようとしたけれどできませんでした。
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